ケーリー・ハルミトンの定理とは
固有多項式$f_A(\lambda)=0$に対し固有多項式を考えた元の行列を代入すると
$$
f_A(A)=O
$$
が成立する($O$は零行列)
かなりシンプルな定理なので覚えるのは簡単です
※証明は省略します
二次の正方行列での例
A=\begin{pmatrix}
1 & 2 \cr
4 & 3
\end{pmatrix}
Aに対する固有多項式$f_A(\lambda)$は
$$
f_A(\lambda)=|A-\lambda E|=\lambda ^2 -4 \lambda - 5
$$
ケーリー・ハルミトンの定理より
$$
f_A(A)=A^2-4A-5E=O
$$
が成立する。
注意点として、定数項をそのままにしてしまうと行列とスカラーの和になってしまい計算することができないので、単位行列$E$をくっつけてあげましょう。
使いどき
次数下げに使用します
例1:$A=\begin{pmatrix}
1 & 2 \cr
4 & 3
\end{pmatrix}$のとき$A^3$を計算せよ
もちろん普通に計算することもできますが、ケーリー・ハルミトンの定理を使ってみましょう。
ケーリー・ハルミトンの定理を用いると、先ほど求めた式より$A^2=4A+5$(*1)
次に$A^3$を考えると
$$
\begin{eqnarray*}
A^3&=&A^2A \cr
&=& (4A+5E)A\cr
&=& 4A^2+5A\cr
&=& 4(4A+5E)+5A \cr
&=& 21A+20E
\end{eqnarray*}
$$
あとは数字を入れて足し算するだけです。行列の積は大変なので和に落とせるのは嬉しいですよね。こんな感じで、$A^n$を計算することができます。
※実はよく見ると*1の時点で$A^2$が$A$の一次式でかけてるので次数が落ちてます
例2 : $A=\begin{pmatrix}
1 & 2 \cr
4 & 3
\end{pmatrix}$のとき$A^4-3A^3+A+E$を計算せよ
これを普通に計算しようとするとかなり大変です。ですが、こんなときもケーリー・ハルミトンを使うことで楽に求めることができます。さっきのように$A^4$,$A^3$それぞれに$A^2$を作ってあげて次数下げをしていってもいいですが、今回は多項式の割り算を使いましょう
まずケーリー・ハルミトンの定理より、$A^2-4A-5E=O$とわかるので与式をこの式で割ってあげましょう。
$$
\begin{eqnarray*}
A^4-3A^3+A+E&=& (A^2-4A-5E)(A^2+A+9E)+42A+46E \cr
&=& 42A+46E \ \ \ (\because A^2-4A-5E=O)
\end{eqnarray*}
$$
これも簡単な$A$の一次式の形で書くことができました
※一般的な行列の多項式では可換性(掛け算の順序を入れ替えても良い)が成り立っていないことが多いため、因数分解や割り算を行えるかはわかりませんが、今回は$A,E$ の二つの行列だけの多項式で、$AE=EA$であるため割り算を行えます。
因数分解を行えない例を以下に示します。
例)$BA\ne AB$のとき
$$
\begin{eqnarray*}
A^2+4AB+4B^2\ne (A+2B)^2 \ \ \ (\because (A+2B)^2=A^2+2AB+2BA+4B^2)
\end{eqnarray*}
$$
まとめ
次数下げに使えるのがケーリー・ハルミトンの定理です。他にも逆行列を求めるのに使えたりします。他にも逆行列を求める時もケーリー・ハルミトンの定理が使えたりします(逆行列を求めるためにはあんまりつかいません)
例1であげたやり方と例2にあげたやり方どちらでも使えるようになりましょう!