はじめに
この記事は、ブログや技術同人誌などのまとまった文章をはじめて執筆したい方に向けて、文章校正でおさえるべきポイントをまとめています。
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格助詞
格助詞は、日本語のなかでもっとも複雑な仕組みの1つでしょう。
「てにをは」という俗称が使われますが、その他にも格助詞はいくつかあります。
これらを正しく使えなくとも文章の意味は通じますが、正しく読みやすい文章を目指すのであればスマートに使いこなしたいですね。
格助詞の種類
- が:「日本酒が飲みたい」
- の:「日本酒の魅力」
- を:「日本酒を買う」
- に:「旅に出る」
- へ:「北へ進む」
- と:「日本酒と肴」
- から:「朝から呑む」
- より:「ビールより日本酒」
- で:「おちょこで呑む」
格助詞の使い分け例
文章の強弱がかわる
あなたが自身の好物を説明するとき、次のどちらを使うでしょう。
- 日本酒は好き
- 日本酒が好き
「は」より「が」の方がより断定的で、強く感じますよね。
主体性がかわる
ある夫婦の会話を想像してください。
- そうめんでいい
- そうめんがいい
「で」より「が」の方がより主体的な印象を受けますよね。
「そうめんでいい」なんて言うと、喧嘩の火種になるかもしれません。
距離感がかわる
次の2つはどちらが遠い印象を受けるでしょう。
- 母に頼る
- 母を頼る
「に」は近く、「を」は遠く、をイメージするのではないでしょうか。
到達点がかわる
あなたが池袋まで遊びにいく際、どのように説明するのが適切でしょうか。
- 池袋に行く
- 池袋へ行く
「に」は目的地そのものを表すので、目的地が池袋だと強調されますね。
「へ」はより広い地点を表すので、池袋方面に向かい、そのあとどこかに立ち寄るのかもしれません。
その他の助詞
接続助詞「が」
接続助詞「が」は、順接/逆接の意味を持ちます。
- 逆接:内容が逆の文章を繋ぐ「今日は晴れですが、明日は雨でしょう」
- 順接:内容が同じ文章を繋ぐ「今日は晴れですが、明日も晴れでしょう」
いずれも使い方として誤っていませんが、読者の誤認識を避けるには逆接のみで使うのがよいでしょう。
係助詞「も」
係助詞「も」は、並列した2つ以上の要素を接続します。
つまり、要素が複数繋がるべきであり、一方を省略しないよう注意しましょう。
- 誤:今日の飲み会は、日本酒も出る
- 正:今日の飲み会は、日本酒もビールも出る
格助詞「の」
格助詞「の」は、動作の主体を表しますので、対象が不明にならないよう注意しましょう。
次の文章はどういう意味をもつでしょうか。
「ここに父の手紙がある」
- 父(宛)の手紙
- 父の(書いた)手紙
このように、「の」を使う際に主体が省略されると、誤解をまねく可能性があります。
その他の注意点
同じ助詞が文の中に複数入らないよう、注意しましょう。
- 「私が買った日本酒が一番おいしい」→「私の買った日本酒が一番おいしい」
- 「私は日本酒は好きだ」→「私は日本酒が好きだ」
とくに、「は」と「が」は多用される傾向にあります。
「が」は新しい情報につき、「は」は古い情報につく、という原則がありますので、困った際の判断基準にしてください。
ほかにも、「の」を繰り返されることが多いため、注意しましょう。
次の例では、「私の」を省略しても意味が通じます。
- 「私の彼女の実家にいく」→「彼女の実家に行く」
文節
文節のつなげ方
文節をつなげる際は、次のポイントをおさえておくとよいでしょう。
- 大きなものから小さなものへ
- 重要なものから重要でないものへ
- 時間は場所よりも前へ
- 長い修飾子は先、短い修飾子は後へ
次に、悪い文章の例を挙げます。
「都営三田線の上下線で、朝8時から、人身事故の影響で、運転を見合わせている。」
順番が整理されていないと、内容が理解しづらいですよね。
場所→時間、重要→些細の原則をもちいて、文章を次のように改善します。
「人身事故の影響により、朝8時から、都営三田線の上下線で、運転を見合わせている。」
こうすることで、重要な内容がすんなり入ってくるはずです。
修飾語と被修飾語を離さない
修飾語と被修飾語が離れると、何を修飾しているのか理解しづらくなります。
次の例では、「新潟の」は何をあらわしているでしょうか。
「新潟のおいしい米で作られた日本酒」
- 新潟のおいしい米?
- 新潟の日本酒?
次のように改善すると、何を修飾しているか明確になります。
「おいしい米で作られた新潟の日本酒」
主述のねじれを防ぐ
主述のねじれとは、文章のなかから主語と述語のみを取り出したときに文章が成立しない状況をさします。
「私の趣味は、日本酒を飲むことが好きだ」
「私は、日本酒を飲むのが趣味です」
これらの文章はいずれも「趣味は~好きだ」「私は~趣味です」のように両者が対応していません。
次のような表現にかえることで、主述を一致させます。
「私の趣味は、日本酒を飲むことです」
その他にも、主語や述語が省略されることで、ねじれが発生します。
- 主語がない/「私が注文するとき、よく内容を間違える」→「私が注文するとき、店主はよく内容を間違える」
- 述語がない/「給料が出たら、家族と食事やゲームを買おう」→「給料が出たら、家族と外食したりゲームを買ったりしよう」
能動と受動を使い分ける
主述がねじれる原因のひとつに、受動・能動の混同があります。
- 「彼の作る日本酒は多くの人が呑んでいる」→「彼の作る日本酒は多くの人に呑まれている」
また、受動態で記述するのは、他者の業績や一般常識のみにしましょう。
受動態は第三者視点により記述されますので、自身の行いに対して使うのは不適切です。
否定表現を使わない
否定表現は強くするどい印象を与えるため、できる限り肯定表現にかえて読みやすくします。
- 否定表現:日本酒は焼酎よりもアルコール度数が高くない
- 肯定表現:日本酒は焼酎よりもアルコール度数が低い
また、二重否定表現をしないようにしましょう。
- 二重否定:バックアップを取らなければ、万が一に備えられない
- 肯定表現:バックアップを取ることで、万が一に備えられる
私を排除する
文章に「私は」という人称表現をつかうと言葉の力が薄れ、あいまいな印象になります。
次の例では、私を排除することで印象を強化しています。
- 「私は売り上げ予測について次のように考える」
- 「売り上げ予測について次のように考える」
- 「売り上げ予測について次のように考えられる」
言葉の切れ目をつくる
読点によって言葉を区切ることで、文章の読み間違えを防ぐことができます。
「妻は鼻血を流しながら逃げ出した私を追いかけた」
この例はなにやら物騒ですね。
鼻血を出しているのは、妻でしょうか?私でしょうか?
前後の文脈を読み解かなければ想像できないですよね。
次のように改善してみましょう。
- 「妻は、鼻血を流しながら逃げ出した私を追いかけた」
- 「妻は鼻血を流しながら、逃げ出した私を追いかけた」
一文一義にする
文章はできる限り短く区切り、一文で1つのことを説明するようにしましょう。
「カレーを作るには、にんじん・たまねぎ・じゃがいもを洗って食べやすい大きさに切り、鍋に油を熱し、肉と野菜をよく炒め、水を加え、沸騰したらあくを取ります。」
カレーを作る手順は理解できますが、長ったらしい印象を受けますよね。
文中に複数の主張が入ると、すべてを正しく理解しづらくなり、抜け落ちてしまいます。
「カレーの作り方は次の通りです。まずにんじん、たまねぎ、じゃがいもを洗います。食べやすい大きさに切ります。鍋に油を熱します。肉と野菜をよく炒めます。水を加えます。沸騰したらあくを取ります。」
1つの文章に1つの内容とすることで、次に何をすればよいかが明確になりましたね。
また、読点は一文あたり3つ程度までに抑えるのがよいとされています。
読点が4つ以上存在するようであれば、文章をわけるよう検討してください。
常体と敬体
文章をとおして、常体(だ・である調)と敬体(です・ます調)を統一するようにしましょう。
常体は力強く説得力があり、敬体は柔らかく丁寧な印象を与えます。
たとえば論文や雑誌などは常体が多く使われ、教科書や解説書などのほとんどは敬体が使われています。
多くの方は敬体を目にする機会が多く、迷う場合は敬体を使うとよいでしょう。
単語
漢字をひらく
一部の漢字をひらく(ひらがなにする)ことで、文章が格段に読みやすくなります。
次の例では、どちらが読みやすい文章でしょうか。
- 「殆どの場合、漢字を開く事で、読みやすい文章に出来る。」
- 「ほとんどの場合、漢字を開くことで、読みやすい文章にできる。」
ひらがなの方が優しい(易しい)雰囲気を受けますよね。
開くべきパターンはさほど多くありませんので、ひととおり覚えておくと便利です。
指示語をさける
指示語(いわゆる「こそあど言葉」)を避けることで、読みやすくなります。
改ページによって接続詞の効力を失わないような言葉選びが重要です。
- 「ここからわかるように~」→「図1で示したグラフからわかるように~」
- 「その事象については~」→「前項で説明した○○の事象については~」
重複語をさける
同じ内容の繰り返しを避けることで、簡潔な文章になります。
- 「今日は頭痛が痛い」→「今日は頭が痛い」
- 「退社時は電気を消灯してください」→「退社時は消灯してください」
- 「多くの利用者より、質問を多くうける」→「多くの利用者より、質問をうける」
前後関係をあらわす
本を書く際に、前後の文章を指す場合は「次」「前」という言葉を用います。
- 「以下に示します」→「次に示します」
- 「上述のとおり」→「前述のとおり」
本では改ページされる可能性がありますし、場合によっては縦書きも考慮しなければなりません。
このため、上下という言葉を避け、前次とするのが適切といわれています。
話し言葉に注意する
日本語には「話し言葉」と「書き言葉」があります。
文章は原則「書き言葉」を使うようにしましょう。
- 「やっぱり動かない」→「やはり動かない」
- 「全然問題ない」→「まったく問題ない」
- 「いっぱい稼ぐ」→「たくさん稼ぐ」
表記ゆれに注意する
次のような表記ゆれに注意しましょう。
- 漢字とひらがなの表記揺れ(例:時/とき、例えば/たとえば)
- 末尾にある長音の表記揺れ(例:コンピューター/コンピュータ、ユーザー/ユーザ)
- 3文字以上の場合は末尾の長音をトルのが一般的
- 送りがなの表記揺れ(例:行う/行なう)
- 名詞形と動詞形の送りがな(例:申し込む/申込、受け付ける/受付)
- 同音異義語を正しく使う(例:計る/測る、保証/保障)
- 同一接続詞を繰り返さない(例:末尾の長音の表記揺れ)
- ら抜き言葉を使わない(例:見れる→見られる、食べれる→食べられる)
- さ入れ言葉を使わない(例:見させていただく→見せていただく)
- 常体と敬体を混在させない
まとめ
ここで紹介した内容は、いずれも「平易な文章」を実現するための手段です。
皆さんが文章を書く際の参考になれば幸いです。