はじめに
反比例を積分すると自然対数の底であるネイピア数$e$が何故か出現する。これは、高校数学の数学2と数学3で扱う積分の単元においてもっとも違いが現れる点である。しかし、何故ネイピア数$e$が現れるのかといった説明はあまりないようにみえる。そこで、今回は、$x$を被積分変数とおいたとき、$x^{-k}$という関数を積分し、$k$を1に近づけていった場合に、積分値がどのような値に収束するのかを調査することでなぜ、ネイピア数$e$が登場するのかを考察する。
前提条件
$1\le x\le 2$であるとき、以下の積分を考える。
S(k)=\int_{1}^2 x^{-k}=[\frac{1}{-k+1}x^{-k+1}]^2_1=-\frac{1}{k-1}(2^{-(k-1)}-1)
ただし、$k\ne 1$である。これは、高校数学2で扱う積分の公式を用いただけなので、何も特別なことではない。
一方で、数学3で扱う、問題の公式を用いて、
S(k=-1)=\int_{1}^2 x^{-1}=[log x]^2_1=log 2
となることが知られている。そこで、今回は、
\lim_{k\to 1} S(k)=\lim_{k\to 1} -\frac{1}{k-1}(2^{-(k-1)}-1)=log 2
となるかどうかを考察する。
考察
自然対数の底つまり、ネイピア数$e$は、以下のように定義される。
\lim_{n\to \infty}(1+\frac{1}{n})^n=e
すなわち、
\lim_{h\to 0}(1+h)^{\frac{1}{h}}=e
この式の両辺の対数を取ると以下のようになる。
\lim_{h\to 0}\frac{log(1+h)}{h}=1
この式の対数の底を$e$から$2$へと変換する。
\lim_{h\to 0}\frac{1}{h}\frac{log_2(1+h)}{log_2 e}=1
つまり、
\lim_{h\to 0}\frac{log_2(1+h)}{h}=log_2 e
ここで、$h=2^\alpha-1$とおくと、
\lim_{\alpha\to 0}\frac{\alpha}{2^{\alpha}-1}=log_2 e
したがって、分子と分母を反転して、
\lim_{\alpha\to 0}\frac{2^{\alpha}-1}{\alpha}=log2
ここで、話を元に戻して、$\alpha=-(k-1)$とすると、
\lim_{k\to 1} S(k)=\lim_{k\to 1} -\frac{1}{k-1}(2^{-(k-1)}-1)=\lim_{\alpha\to 0}\frac{2^{\alpha}-1}{\alpha}=log 2
となることから、題意を示すことができた。
プログラム
さて、上記の関数の極限をプログラムを使って図示してみる。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import math
n=100
delta=1.0e-10
n_ary=np.linspace(delta,1,n)
S_ary=[]
for i in range(n):
alpha=n_ary[i]
S=(1/(-(alpha)))*(2**(-(alpha))-1)
S_ary.append(S)
plt.plot(n_ary, S_ary, label='S', color='blue')
plt.axhline(y=np.log(2), color='red', linestyle='--', label='ln2')
plt.title(' 反比例の積分(区間1から2)の近似')
plt.xlabel('n')
plt.ylabel('S')
plt.legend()
plt.savefig('S_approximation.png')
plt.show()
このように、$\alpha$を0に近づけていくと、$log2$に収束していくことが分かる。
まとめ
今回は、反比例の積分において、何故ネイピア数という謎の数が姿を現すのかを調査した。結果、極限を飛ばすという作業においては、どうしてもネイピア数の存在を無視することはできなかった。また、後半では、そのことをPythonを用いて視覚的に図示することを試みた。