はじめに
高校数学で習うベクトル内積の公式は、三角比で扱った余弦定理がもとになっている。しかし、そのことについて理解していない受験生や大学1,2年生は多い。したがって、今回は、余弦定理を用いることで、内積の公式を導出していき、それに関連した外積の公式と点と直線の距離の公式を証明する。
内積の公式
$\Delta OAB$に対して、余弦定理より以下のことが成立する。
|\vec{AB}|^2=|\vec{OA}|^2+|\vec{OB}|^2-2|\vec{OA}||\vec{OB}|\cos \theta
ただし、$\angle AOB=\theta$とする。
ここで、直交座標より、A,Bの座標をそれぞれ、$(x_A,y_A),(x_B,y_B)$とすると、以下のことが成立する。
|\vec{AB}|^2=(x_B-x_A)^2+(y_B-y_A)^2,|\vec{OA}|^2=x_A^2+y_A^2,|\vec{OB}|^2=x_B^2+y_B^2
したがって、これらを余弦定理の式に代入して整理する。
(x_B-x_A)^2+(y_B-y_A)^2=(x_A^2+y_A^2)+(x_B^2+y_B^2)-2|\vec{OA}||\vec{OB}|\cos \theta
2|\vec{OA}||\vec{OB}|\cos \theta=(x_B-x_A)^2+(y_B-y_A)^2-(x_A^2+y_A^2)-(x_B^2+y_B^2)
|\vec{OA}||\vec{OB}|\cos \theta=x_Ax_B+y_Ay_B
したがって、$\vec{OA}\cdot\vec{OB}=x_Ax_B+y_Ay_B$と表記するといかのことが成立する。
|\vec{OA}||\vec{OB}|\cos \theta=\vec{OA}\cdot\vec{OB}(=x_Ax_B+y_Ay_B)
外積の公式
$\Delta OAB$の面積を$S$とおくと、外積の大きさ$|\vec{OA}\times\vec{OB}|$は$2S$と定義される。
まずは、$S$について考察する。三角形の面積の公式を用いて、
S=\frac{1}{2}|\vec{OA}||\vec{OB}|\sin \theta
これを余弦で書くと以下の通りである。($0<\theta<\pi$より)
S=\frac{1}{2}|\vec{OA}||\vec{OB}|\sqrt{1-\cos^2 \theta}
ここで、内積の公式より、
\cos \theta=\frac{\vec{OA}\cdot\vec{OB}}{|\vec{OA}||\vec{OB}|}
したがって、
S=\frac{1}{2}|\vec{OA}||\vec{OB}|\sqrt{1-\cos^2 \theta}=\frac{1}{2}|\vec{OA}||\vec{OB}|\sqrt{1-(\frac{\vec{OA}\cdot\vec{OB}}{|\vec{OA}||\vec{OB}|})^2}
となり、
S=\frac{1}{2}\sqrt{(|\vec{OA}||\vec{OB}|)^2-(\vec{OA}\cdot\vec{OB})^2}=\frac{1}{2}|x_Ay_B-x_By_A|
ただし、公式$\sqrt{p^2}=|p|$を用いた。
したがって、符号に関する議論は省略するが、$\vec{OA}\times\vec{OB}=x_Ay_B-x_By_A$と表すことができる。
点と直線の距離公式
さて、直線$AB$と原点$O$の距離$h$は、$\Delta OAB$の$AB$を底辺とみた、高さ$h$に対応するので、
\Delta OAB =\frac{1}{2}|\vec{AB}| h
と表すことができる。
h=\frac{2\Delta ABC}{ |\vec{AB}|}=\frac{|x_Ay_B-x_By_A|}{\sqrt{(x_B-x_A)^2+(y_B-y_A)^2}}
ここで、$\Delta OAB$ を$x$軸方向に、$x_1$、$y$軸方向に$y_1$だけ平行移動すると$\Delta O' A' B' $と重なる。ただし、$O'(x_1,y_1),A'(x_A+x_1,y_A+y_1),B'(x_B+x_1,y_B+y_1)$
となる。ここで、直線$AB$の一般形の方程式は、
-(y_B-y_A)x+(x_B-x_A)y+(-(y_B-y_A)(x_A+x_1)+(y_A+y_1)(x_B-x_A))=0
ここで、$a=-(y_B-y_A),b=(x_B-x_A)(x_B-x_A),c=-(y_B-y_A)(x_A+x_1)+(y_A+y_1)(x_B-x_A)$とおくと、天下り的ではあるが、
ax_1+bx_1+c=x_Ay_B-x_By_A
となることが分かる。したがって、
h=\frac{|ax_1+by_1+c|}{\sqrt{a^2+b^2}}
まとめ
今回は、三角比で習う三角形の余弦定理を用いることで、ベクトルの内積の公式を導出した。つぎに、その三角形の面積に対応する外積を導出した。最後に、それを底辺で除することで、点と直線の距離の公式を導出した。このことは、大学入試数学では頻出な事項なのでしっかりと理解しておきたい。