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双曲線関数で表される関数の積分について

Last updated at Posted at 2025-07-05

はじめに

『僕のヒーローアカデミア』という人気アニメがある。自分はまだオープニング曲くらいしか知らない。だが、そのアニメでヒーロを目指す高校1年の主人公が通う高校(ヒーロー育成校?)の数学の授業で、大学数学レベルのあり得ないくらい難しい定積分の問題が出題された。具体的には、背景に双曲線関数という三角関数の対になる関数が題材になっている問題である。そこで、今回はその問題が高校1年生にとって如何に酷かを紹介するとともに、自分が高校生ならどうやって解くかを考察した。

問題

以下の定積分を求めたい。

I:=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} (\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3(\frac{e^x+e^{-x}}{2})^{11}dx

解法

方針1 (展開によるごり押し)

まず、考えられる解法は、被積分関数$(\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3(\frac{e^x+e^{-x}}{2})^{11}$を愚直に展開し計算する方法である。
なぜなら、積分はその性質上、被積分関数、加算や減算の計算は比較的容易であるが、被積分関数の積算、除算は場合によっては凄く難しいからだ。

しかし、見てわかる通り2項定理を仮に使って展開したとしても計算は信じられない程難しく膨大な手数を使用することがイメージできよう。

寄り道

次に、何となく$x$の積分範囲は$0$から$ \ln(1+\sqrt{2})$であることに注目する。
被積分関数においてとりわけ目を引くのは、$e^x,e^{-x}$である。
なので、こいつらの動く範囲を調べてみたい。

$x$がこの範囲を動くとき、$e^x$の取りうる値の範囲は$e^0$から$e^{\ln(1+\sqrt{2})}$までである。

つまり、$1$から$1+\sqrt{2}$までであり何故か極めてシンプルになる。

同様に、$e^{-x}$の取りうる値の範囲は$1$から$\sqrt{2}-1$となりこれもまたシンプルになる。

したがって、以下のことが分かる。

$\frac{e^x-e^{-x}}{2}$の動く範囲はまだ分からないが、
$\frac{e^x+e^{-x}}{2}$の動く範囲は$1$から$\sqrt{2}$である。

なので、

f(x)=\frac{e^x+e^{-x}}{2}

と置き換えてみた方がよさそうである。

方針2(部分積分?)

求めたい積分の被積分関数は積の形をしているので、以下の式で表される数列を考える。

I(n,m)=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} (\frac{e^x-e^{-x}}{2})^n(\frac{e^x+e^{-x}}{2})^{m}dx

この式に対して部分積分を駆使することで漸化式を立てたい。しかし、仮に漸化式が求まったとしても、初項である$I(0,n+m)$の値が求まらなければ意味がなさそうである。

方針3(置換積分?)

今までの議論を参考にして、

f(x)=\frac{e^x+e^{-x}}{2}

とするとき、題意の定積分関数を変形する。

I:=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} (\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3(\frac{e^x+e^{-x}}{2})^{11}dx=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} (\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3\{f(x)\}^{11}dx

何となく、被積分関数の一部である$(\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3$が邪魔である。

そこで、


g(x)=\frac{e^x-e^{-x}}{2}

と置き換えると、$f(x),g(x)$の形は恐ろしいほど似ていてまるで姉妹のようである。

そこで、置換積分が出来そうと考え、$f'(x)=g(x)$の関係性に気が付くのがこの問題の一番のポイントである。

以下、置換積分について簡単におさらいする。

置換積分について

ここで、以下のような置換積分の公式を考える。

\int_{t_a}^{t_b} h(z(t))\frac{dz(t)}{dt}dt=\int_{z_a}^{z_b}{h(z)}dz

ただし、$z_a=z(t_a),z_b=z(t_b)$とし、$h(z)$は$z$の関数とし、$z(t)$は$t$の関数とする。

この公式の左辺を見ればわかるように、$h(z(t))$と$\frac{dz(t)}{dt}$の関係を見つけると右辺のように変形できる。

方針3(置換積分)

被積分関数の一部である$(\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3$を以下のように何とかする。

(\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3=(\frac{e^x-e^{-x}}{2})^2 g(x)=\{(\frac{e^x+e^{-x}}{2})^2-1\}g(x)=\{f(x)^2-1\}f'(x)

ゆえに、題意の定積分は以下のように表すことができる。

I:=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} (\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3(\frac{e^x+e^{-x}}{2})^{11}dx=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} (\frac{e^x-e^{-x}}{2})^3\{f(x)\}^{11}dx=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} \{(f(x))^2-1\}f'(x)\{f(x)\}^{11}dx=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} \{(f(x))^{13}-(f(x))^{11}\}f'(x)dx

つまり、


I=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} \{(f(x))^{13}-(f(x))^{11}\}f'(x)dx=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} \{f(x)^{13}-f(x)^{11}\}f'(x)dx

ここで、置換積分の公式より、


I=\int_{0}^{\ln(1+\sqrt{2})} \{f(x)^{13}-f(x)^{11}\}f'(x)dx=\int_{1}^{\sqrt{2}}{(f^{13}-f^{11})df}=[\frac{1}{14}f^{14}-\frac{1}{12}f^{12}]^{\sqrt{2}}_1=\frac{1}{14}(128-1)-\frac{1}{12}(64-1)=\frac{107}{28}

お分かりの通り、数3の積分の知識をフルに活用してもこれほど面倒である。

なので、恐らく最難関大学の入試もしくは大学レベルと呼ばれる数学検定1級とかで出てきそうなレベルだと思う。

まとめ

今回の定積分の問題は高校1年のヒロアカの主人公は暗算で$\frac{107}{14}$とかなり惜しいところまで計算している。(恐らくだが、f(x)の計算の時に2で割り忘れたとかだと思う。)
これは実際にやれたらかなり凄いことで、数オリでメダルを取れたり、東大理3に上位合格できるのではないかと思う。なので、このアニメはフィクションだといえ、ヒロアカ作者もしくはその周辺には大学数学レベルまで理解している方がいると考えられる。

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