はじめに
変圧器のタップ切替時において電圧が不安定になる現象がある。これは、ノーズカーブと負荷曲線の交点である運転点がどのように推移するかで説明することができる。そこで今回は、平成27年の電験一種過去問電力・管理問3をもとにして、二次側の電圧が不安定になる現象について説明する。
問題設定
導入
以下のような回路設定で電圧不安定現象について説明する。ただし、細かい問題設定などは電験王様を参照されたい。
まず、等価回路を単純化するために二次側のパラメータをすべて一次側に変換する。(ある意味でココが一番難しい。しっかりと自分がどこを基準にしていて何を算出しようとしているかなどを考えないといけない。また、ここでミスると試験の場合は下記の考察ができなく0点になってしまう!!)
負荷に流れる電流$I_1=I'_2$は以下のように表すことができる。
\dot{I_1}=\frac{E}{\frac{R}{n^2}+jX}
これにより、二次電圧$V_2$は以下のように表すことができる。
\dot{V_2}=n\dot{V_1}=n(\frac{R}{n^2}I'_2)=n(\frac{R}{n^2}\dot{I_1})
したがって、負荷に供給される電力$\dot{S}$は以下のように表すことができる。
\dot{S}=\dot{V_2}\bar{I_1}
解法
さて、上記の数式を変形していくことを考える。
ただし、最大値・最小値を求める方法として微分積分ではなく相加・相乗平均の公式を用いた。
相加・相乗平均の公式については、以下の記事を参考にして欲しい。
二次電圧と巻数比率の関係
二次電圧と巻線比の関係は以下のように表すことができる。
V_2=\frac{R}{\sqrt{(\frac{R}{n})^2+(nX)^2}}E\le \frac{R}{\sqrt{2(\frac{R}{n})^2(nX)^2}}E=\frac{E}{\sqrt{2}X}
ただし、等号成立は、$\frac{R}{n}=nX$である。つまり、$n=\sqrt{\frac{R}{X}}$である。
ところで、
0<n<\sqrt{\frac{R}{X}}
を満たすときは、$V_2$は単調に増加するが、
n>\sqrt{\frac{R}{X}}
を満たすときは単調に減少する。ただし、$n$以外のパラメータは不変とする。
したがって、本問では、『巻数比は負荷電圧調整器によって二次電圧$V_2$が低くなると$n$を上げようとする自動制御』つまり、一般的かつ常識的な制御方法が用いられている。(普通に考えれば$n$が上がればそれに比例して二次電圧が上がりそうである。)
しかし、それが不幸にも、$n>\sqrt{\frac{R}{X}}$を満たしてしまうときは、$n$を上げてしまうと、更に$V_2$が低下してしまう。なので、また$n$を上げるという自動制御が働いて、、、、というような$V_2$を低下させてしまうような負のスパイラル(正のフィードバック)が生じてしまう。これが、電圧不安定現象の正体である。
負荷の消費電力と巻数比率の関係
さて、次は負荷の消費電力$P$と二次電圧$V_2$の関係性について考察する。
P=(\frac{R}{n^2})I'_2=\frac{R}{n^2}(\frac{E}{\sqrt{(\frac{R}{n^2})^2+X^2}})^2=\frac{RE^2}{\frac{R^2}{n^2}+n^2X^2}\le\frac{RE^2}{\frac{R^2}{n^2}\times n^2X^2}=\frac{E^2}{2X}
ただし、等号成立は$(\frac{R}{n^2})^2=n^2X^2$のときである。
つまり、電圧不安定現象の説明で用いた境界点
n=\sqrt{\frac{R}{X}}
のときである。
プログラム
さて、以上のことをプログラムを用いて図示してみよう。
二次電圧と巻数比率の関係
以下のようなプログラムを書いた。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import math
m=3000
n=np.linspace(1.0*10**-5,200,m)
R=np.linspace(0,1000,m)
n,R=np.meshgrid(n,R)
#系統のパラメータ
E=1.0
X=0.1
#ノーズカーブの計算
I_1_dot=E/(R/n**2+1j*X)
V_2_dot=((R/n**2)*I_1_dot)*n
S_dot=V_2_dot*np.conj(I_1_dot)
P=S_dot.real
plt.title("巻数比と二次電圧")
plt.contourf(n,abs(V_2_dot),(R/X)**0.5)
plt.xlabel("n")
plt.ylabel("V_2")
plt.colorbar(label="(R/X)^0.5")
plt.savefig("巻数比と二次電圧の関係.png")
plt.show()
さて、上図のように、$n$が増加するに従い、はじめは単調に$V_2$は増加するが、$n=\sqrt{\frac{R}{X}}$を$n$が超えた瞬間、今度は単調に減少してしまうということが分かる。これは、$\sqrt{\frac{R}{X}}$が大きいほど顕著な傾向にある。
負荷の消費電力と巻数比率の関係
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import math
m=3000
n=np.linspace(1.0*10**-5,10,m)
R=np.linspace(0,1000,m)
n,R=np.meshgrid(n,R)
#系統のパラメータ
E=1.0
X=0.1
#ノーズカーブの計算
I_1_dot=E/(R/n**2+1j*X)
V_2_dot=((R/n**2)*I_1_dot)*n
S_dot=V_2_dot*np.conj(I_1_dot)
P=S_dot.real
plt.title("ノーズカーブと巻線比")
plt.contourf(P,abs(V_2_dot),n)
plt.xlabel("P")
plt.ylabel("V_2")
plt.colorbar(label="n")
plt.savefig("ノーズカーブと巻線比の関係.png")
plt.show()
このように、$n$が上昇すれば概ね、$P,V_2$が上昇していくというノーズカーブを作図することができる。ただし、ノーズカーブの下半分の区間(電圧不安定領域)においては、$n$が大きくなるに従って$V_2$が低下してしまうようである。
まとめ
今回は、電験1種の問題を参考にして、変圧器のタップ切替時の電圧不安定現象について数式と数値解析を用いて説明した。これは、ノーズカーブに起因し、二次電圧の境界点と負荷の消費電力の境界点の条件は一致するということが分かった。このように、ノーズカーブや電圧不安定現象は電験の試験で論説・計算問わず出題される傾向があるので対策しておくと良いだろう。また、グラフを眺めることで現象に対するイメージを深めておくとなお良いと思う。