はじめに
高校数学の複素数平面という分野は、その他の様々な分野と融合されて出題されることが多い。したがって、複雑だが本質的な問題や原理原則、背景を理解していると素直に解ける問題が多い。このことから分かる通り、この分野では別解を主に3パターンも作成することができる。今回は、その3パターンを紹介する。また、最後におまけということでPythonによるシミュレーションも追加した。
問題
複素数$z$について$Real(z)=1$が成立している場合、以下の式で与えられる複素数$\omega$が複素数平面上でどのような軌跡を描くか述べよ。
\omega =\frac{1}{z}
ただし、$z\ne0$とする。
ちなみに答えは以下のような、原点を除く、$\frac{1}{2}$を中心とした直径1の円となる。
3種類の解き方
直交座標を用いた解析学的な解き方と極座標を用いた幾何学的な解き方と複素数の性質を用いた解き方の3種類を述べる。ただし、後ろに行くほどひらめきの難易度は高くなるので、入試では迷ったらできるだけ直交座標を用いた方法を用いることを推薦する。
直交座標を用いた解き方(解析学的)
まず、オーソドックスなのが、解析学的な解き方、つまり直交座標を用いる解き方である。ちなみに、直交座標はデカルトが発明したが、関数や微積などを扱う解析学(計算)と図形を扱う幾何学を橋渡しできるという意味で画期的だった。今回の場合は、$\omega =x+jy$とおけば、あとは、計算力勝負に持っていけるところである。これは、残り2つの方法と比較して計算量は多いがひらめき力はあまり要求されないいわば、秀才の解き方である。
とりあえず、$x,y$を以下のように定義する。
\omega =x+jy=\frac{1}{z}
ゆえに、$\omega \ne 0$より($\omega =0$なら、$z$は発散して存在しなくなる)$z$を$x,y$で表すと、
z=\frac{1}{x+jy}=\frac{x-jy}{x^2+y^2}=\frac{x}{x^2+y^2}-j\frac{y}{x^2+y^2}
となる。ここで、$\omega$の実部が1であることから、
\frac{x}{x^2+y^2}=1
これの分母を払って(分母は正より)整理すると以下のようになる。
x=x^2+y^2
したがって、
(x-\frac{1}{2})^2+y^2=(\frac{1}{2})^2
ゆえに、複素数平面上で$\omega$は$\frac{1}{2}$を中心として半径$\frac{1}{2}$の円を描く。(ただし、点0は除く)
極座標を用いた解き方
直交座標ときたら次は極座標である。
複素数$\omega=x+jy$とおいた場合、$r\ge0,0\le\theta\le2\pi$となる、実数$r,\theta$を用いて
\omega = r(cos\theta+jsin\theta)
と表すことができる。
したがって、ド・モアブルの定理より
z=\frac{1}{\omega}=\frac{1}{r}(\cos\theta-j\sin\theta)
ゆえに、$z$の実部は1なので、$r=\cos \theta$となる。
上図より、$\theta$の値にかかわらず、斜辺が1になる直角三角形ができる。したがって円周角の定理の逆より以下のことが分かる。
0,1を結ぶ線分を直径とした円を描く。(ただし点0を除く)
ここで、気を付けて欲しいのが、この解法では、円周角の定理の逆というひらめきみたいなものを使った。これは、入試問題のパターンといえばそれまでだが、覚えておくと役立つかもしれない。(特に、センター試験2Bの図形と方程式の最終問題で狙われていたので出題はされそう。)
複素数の性質を用いた解法
最後の解法は、複素数を複素数のまま解釈する方法なので、ある意味で一番抽象度が高く難しい。
以下の2つの公式を用いる(自明なので覚えるまでもない??)
複素数$\alpha$について以下の性質が成立する。
1つ目
\alpha \bar{\alpha}=|\alpha|^2
ただし、$|\alpha|^2$は必ず実数になる。
2つ目
\alpha+\bar{\alpha}=2a
ただし、$Real(\alpha)=a$とする。
さて、上の公式を用いて$Real(z)=1$を解析してみよう。
z=\frac{1}{\omega}=\frac{\bar{\omega}}{|\omega|^2}
より、
\bar{z}=\frac{\omega}{|\omega|^2}
となる。一方で、$Real(z)=1$より、
z+\bar{z}=2
なので、
\frac{\omega+\bar{\omega}}{|\omega|^2}=2
が成立する。$\omega \ne 0$より分母を払って、
\omega+\bar{\omega}=2|\omega|^2
となる。これからが難しいところなのだが、
\omega\bar{\omega}-\frac{1}{2}\omega-\frac{1}{2}\bar{\omega}=0
\omega\bar{\omega}-\frac{1}{2}\omega-\frac{1}{2}\bar{\omega}+\frac{1}{4}=\frac{1}{4}
と式変形する。どうしてこういう式変形をするのかというと、因数分解して整理するか円の方程式っぽいとあらかじめ見切りをつけていたからである。このように、高いレベルの数学は機械的に解くのではなくある程度の予想をしてそこから論理的に式展開をするというスキルが求められる。
こうすることで、
(\omega-\frac{1}{2})(\bar{\omega}-\frac{1}{2})=(\frac{1}{2})^2
(\omega-\frac{1}{2})\overline{(\omega-\frac{1}{2})}=(\frac{1}{2})^2
ゆえに、
\overline{|\omega-\frac{1}{2}|}^2=(\frac{1}{2})^2
\overline{|\omega-\frac{1}{2}|}=\frac{1}{2}
となる。したがって、$\omega\ne0$を考慮すると、
$\frac{1}{2}$を中心とする半径$\frac{1}{2}$の円を描写する。(ただし、点0は除く)
プログラム
一応念のためPythonでどのような軌跡を描くかシミュレートしてみる。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import math
L=100
n=10000
#z=1上を移動する点をnプロット作成する(-L<=y<=L)
y=np.linspace(-L,L,n)
#複素数wの計算結果を入れる空の配列
w=np.zeros(n,dtype=complex)
for k in range(n):
#複素数zの定義
z=1+1j*y[k]
#複素数wの定義
w[k]=1/z
#縦軸と横軸を等間隔にする
plt.axes().set_aspect("equal")
#補助線を引く
plt.grid()
#複素数wの実部と虚部をプロット
plt.plot(w.real,w.imag)
plt.xlabel('Re')
plt.ylabel('Im')
plt.savefig("complex_xy.png")
plt.show()
たしかに、円の軌跡を描くが原点は除かれるようである。このことから、解法は正しいといえる。
まとめ
今回は、複素数平面を題材にした入試問題の解法を3つ紹介した。特に、2,3は試験時間内で対処することが極めて難しい綺麗な解き方なので、迷ったら1を用いるのが無難である。さらにいえば、2,3はすでに軌跡が円であると目星を付けた解法なので、ある意味で"ずるい"ともいえる。したがって、数学的な知識や思考力の確認としては2,3の解法は有効だが実戦向けではないと思う