はじめに
交流回路では、電源側の電圧の大きさよりも負荷側の電圧の大きさの方が大きくなるという不思議な現象であるフェランチ効果なる現象がある。これによって、負荷側の電圧が異常に高くなってしまうため装置の絶縁破壊が問題となる。一般に送電モデルにおいて、軽負荷の場合にこの現象が発生しやすくなる。今回は、どうして軽負荷のとき、この現象が発生するのかをPythonの複素数計算機能とベクトル描写機能を用いて説明する。
無負荷運転時
負荷側に、機器が接続されていない場合を考えて欲しい。送電線と地面は巨大なコンデンサとみなすことができる。また、3相での送電の場合、近くにも送電線が存在している。ゆえに、無負荷での運転時において常にコンデンサのようなものが接続されているのである。
まとめると、無負荷運転時の力率は”進み”になる。なので、軽負荷時も場合によっては進みの力率になる場合が多いと言える。特に長距離送電の場合、長くなるに従い静電容量は比例的に増えることから例え負荷が接続されていたとしても、結果的に進み力率になってしまう可能性が高くなる。
進み力率の弊害
以下の送電モデルで考える。ただし、電圧、電流は単位法として単純化する。
\dot{V_s}=V_r+(r+jx)\dot{I}
受電電圧と送電電圧のベクトル図は以下のように描くことができる。
ただし、受電端基準電圧を黒、送電端電圧をピンクとして、赤を電流とした。
これは、 力率角を遅れから進みに徐々に変化させていったときの送電端電圧の変化の様子を示してある。
プログラムはPythonを用いて行い、まず静止画を複数作成してそれをgif化した。
図を見て分かる通り、力率を進みにするに従って、送電端電圧の大きさが受電端電圧と比較して徐々に小さくなってしまうことが分かる。これがフェランチ効果と呼ばれていて軽負荷時の異常電圧原因の一因となる。
プログラム
最後に、このベクトル図の静止画を描写するプログラムを示す。
ただし、送電電流を力率$\theta$を用いて以下のように表す。
\dot{I}=I(cos \theta - j sin \theta)
このように、虚部側の符号が負となるところに注意したい。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import math
# 5×5サイズのFigureを作成してAxesを追加
fig = plt.figure(figsize = (5, 5))
ax = fig.add_subplot(111)
# 格子点を表示
ax.grid()
# 軸ラベルの設定
ax.set_xlabel("実軸", fontsize = 16)
ax.set_ylabel("虚軸", fontsize = 16)
# 軸範囲の設定
ax.set_xlim(0,3)
ax.set_ylim(-3,3)
# x軸とy軸
ax.axhline(0, color = "gray")
ax.axvline(0, color = "gray")
# ベクトルを表示
# quiver(始点x,始点y,成分x,成分y)
I=1.0
#力率角
theta = math.radians(-60)
#複素電流
I_bar=I*(np.cos(theta)-1j*np.sin(theta))
#受電端電圧
V_r=1.0
#送電線の抵抗値
r=1
#送電線のインダクタンス
x=1
#送電端電圧
V_s=V_r+ (r+1j*x)*I_bar
#電流ベクトル
ax.quiver(0, 0, I_bar.real, I_bar.imag, color = "red",
angles = 'xy', scale_units = 'xy', scale = 1)
#受電電圧(位相の基準)
ax.quiver(0, 0, V_r.real, V_r.imag, color = "black",
angles = 'xy', scale_units = 'xy', scale = 1)
#抵抗にかかる電圧
ax.quiver(V_r, 0, (r*I_bar).real, (r*I_bar).imag, color = "blue",
angles = 'xy', scale_units = 'xy', scale = 1)
#インダクタンスにかかる電圧
ax.quiver((V_r+r*I_bar).real, (V_r+r*I_bar).imag, (1j*x*I_bar).real, (1j*x*I_bar).imag, color = "yellow",
angles = 'xy', scale_units = 'xy', scale = 1)
#送電端電圧ベクトル
ax.quiver(0,0, V_s.real, V_s.imag, color = "pink",
angles = 'xy', scale_units = 'xy', scale = 1)
plt.show()
これを実行すると以下のような画像が出力されるはずである。
まとめ
今回は、フェランチ効果の原因が進み力率であることについてPythonを用いたベクトル図を描写することで考察してみた。結果、確かに力率が進みになるにつれて、受電端電圧の方が送電端電圧よりも高くなる傾向があるということが分かった。これは、交流には大きさだけでなく、位相も重要になってくるからである。Pythonはこのような数式や複素数を上手く扱うことができるため、データサイエンスや統計学だけでなく、電気工学や電力工学にも適用が可能であると考えられる。