はじめに
$t$などの媒介変数を用いて表される直線の通過領域を求める問題は大学受験で頻出である。このような問題の解き方として、順像法と逆像法が一般的には考えられる。そこで、今回はそれら2つの解法に1つ加えた、3つの解法を紹介する。具体的には、図形的なアプローチ(接線の性質)、順像法、逆像法をそれぞれ用いた場合について紹介する。
ただし、順像法は『1文字固定法』もしくは『ファクシミリの原理』と呼ばれる解法を紹介する。また、逆像法は受験界隈では、逆手流(大学への数学)もしくは存在条件(チャート式)と呼ばれる。
問題
$t$を任意の実数とするとき、以下の直線の方程式が通過する領域について求める。
y=2tx-t^2
これの答えとなる領域のイメージを図示すると以下のようになる。
解法
図形的なアプローチ
原理
これは、ある程度答えが分かっている上級者やひらめきが得意な方向けの解法ともいえる。似たような問題を解いたとき、答えとなる領域が上記のようになるというのをあらかじめ覚えておくという前提が必要になるかもしれない。
まず$y=2tx-t^2$が接線となるような曲線の方程式を求める。
そうすると、この直線はなんと$y=x^2$という$t$に依存しない関数の接線の方程式であるということが分かる。
y=2tx-t^2=2t(x-t)+t^2
ということは、以下のように、$t$をどんなに変化させたとしても$y=x^2$の外側(境界線を含む)しか通らないことが分かる。
この解法は、かなりレベルの高いエレガントな方法ともいえるが、計算量が3つの解法の中で最も少ないので、時間制限がきつい大学入試の場合はかなり有利になる。(早稲田、慶応、医学部など)
しかし、東大、京大、東工大などの数学の高い思考力が求められる大学の場合、上記のようにエレガントなひらめきで対応することが非常に難しい場合が多いので、以下の2つの解法を紹介する。
プログラム
参考にプログラムも載せておく。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import math
n=1000
L=3
t_max=100
t_ary=np.linspace(-t_max,t_max,n)
x=np.linspace(-L,L,n)
for i in range(n):
t=t_ary[i]
y=2*t*x-t**2
plt.plot(x,y,color="blue")
plt.ylim(-L,L)
plt.savefig("1次関数曲線の通過領域.png")
plt.show()
順像法
原理
この問題では、変数が$x,t,y$と3つもあり、以下のようなイメージの関係性を示している。
y=f(x,t)
これは、$y$は$x,t$のに変数関数という。つまり、入力$x,t$に対して出力$y$という関係性である。人間は、このような2つ以上の入力が独立的に変化する場合の関係性を想像することが苦手である。(数学オリンピックのメダル保持者や東大理3合格者などいわゆる天才の場合はできるのかもしれないが、少なくとも自分にはできない。)
そこで、まず観測対象としたい入力変数以外を固定する。
先ほど紹介した図形的なアプローチでは、$t$を固定して、そのときの直線の接線を持つ2次関数を求めてそのあとに、$t$を実数範囲内で動かして一般化したものといえる。
なので、今度は$x=k$($k$:定数)として固定して考える。
y(x=k)=2tk-k^2=-(t-k)^2+k^2
ここで、$k$は定数なので、このときの$y$は$t$の関数である。したがって$t$の2次関数となるため、$y$の範囲は、$y(x=k)\le k^2$となる。
このもとで、$k$を$x$の定義域である実数全体に動かすと
y\le x^2
となる。
ちなみに、イメージとしては以下のgifファイルのような動画になる。
プログラム
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import math
import matplotlib.animation as animation
fig = plt.figure()
im1=[]
ims = []
n=300
L=3
t_max=1
t_min=-3
t_ary=np.linspace(t_min,t_max,n)
x=np.linspace(-L,L,n)
for i in range(n):
k=x[i]
y=2*t_ary*k-t_ary**2
x_k=k*np.ones(n)
im=plt.plot(x_k,y,color="blue")
im1=im1+im
ims.append(im1)
plt.ylim(-L,L)
# 10枚のプロットを 100ms ごとに表示
ani = animation.ArtistAnimation(fig, ims, interval=100)
ani.save("ファクシミリの原理.gif")
plt.show()
逆像法
原理
逆像法は、視点の変更もしくは逆転の発想というニュアンスで考えると面白い。順像法では、変数を腕力で動かしていくため計算量が多くなりがちで、計算機が必要となる場合も多い。
そこで、そのような問題に対して逆像法が用いられる。
順像法では入力から出力という流れで処理する。一方で、逆像法では出力が題意を満たす入力の存在条件を調べる。
つまり今回の問題では、入力である$t$が実数範囲を動くためには、$x,y$はどのような領域内であればいいのかを考える。
なので、以下の式を$t$の方程式と考える。
y=2tx-t^2
つまり、以下のような$t$に関する2次方程式が実数解を持つ条件を考える。
t^2-2tx+y=0
なので、判別式$D/4$は以下のように表されるので、
D/4=x^2-y\ge 0
題意を満たす領域は以下のようになる。
y\le x^2
つまり、イメージとしては、以下のようになる。
ただし、本当は実数は連続なので、
となる。ただし境界線を含む。
まとめ
今回は、媒介変数で表される直線の通過領域の問題を扱った。この問題は有名な問題で定石と呼ばれる解法がいくつか存在する。
なので、見たことがある受験生も多いであろう。しかし、解法暗記だけしてどうしてそのような解法で良いのかを理解している人は大学の数学科の方でも少ないかもしれない。というのは、集合論という大学数学の考えの一部を用いているからである。
そこで今回は、そのような頻出ではあるが難しい問題をなるべく分かりやすくグラフや動画等を用いて説明した。やはり、このような問題が難関大学や最難関大学、医学部などでの合否を分ける場合も多い。
なので、解法暗記だけでなく、しっかりとイメージを膨らませて理解できるのが理想ではある。ただし、数学だけやっていれば良いわけではないので、別の科目の出来と相談ではあるが。
参考文献