はじめに
ラプラス変換は、制御工学において線形な微分方程式を解くことに使用される。これによって複雑な微分方程式を単純な代数方程式に変換できるというメリットがあるので、微分方程式を簡単に解くことができる。しかし、一般にラプラス変換の定義は積分となり複雑なので、個々の関数をあらかじめラプラス変換した結果の集まりであるラプラス変換表を覚えておくことが、電験の試験などでは重要である。そこで、今回はラプラス変換表の個々の関数の結果の演算結果について調査することだけでなく、複数のアプローチを用いることでラプラス変換の計算手法を理解することを目的とする。
定義
ラプラス変換の定義は以下のように$t$の関数を$s$の関数にすることである。
F(s)=\mathcal{L}[f(t)]=\int_{0}^{\infty} f(t)e^{-st}dt
線形性
これは、積分関数なので、以下に示すように線形性が成立する。
定数倍
aF(s)=a\mathcal{L}[f(t)]=a\int_{0}^{\infty} f(t)e^{-st}dt=\int_{0}^{\infty} (af(t))e^{-st}dt=\mathcal{L}[af(t)]
ただし、$a$は定数とする。
和算
F(s)+G(s)=\mathcal{L}[f(t)]+\mathcal{L}[g(t)]=\int_{0}^{\infty} f(t)e^{-st}dt+\int_{0}^{\infty} g(t)e^{-st}dt=\int_{0}^{\infty} (f(t)+g(t))e^{-st}dt=\mathcal{L}[f(t)+g(t)]
微分積分
一方で微分積分については以下のことが成立する。
微分
\mathcal{L}[f'(t)]=\int_{0}^{\infty} f'(t)e^{-st}dt=[f(t)e^{-st}]^{\infty}_0-\int_{0}^{\infty} f(t)(e^{-st})'dt=-f(0)-\int_{0}^{\infty} f(t)(e^{-st})'dt=f(0)-(-s)\int_{0}^{\infty} f(t)e^{-st}dt=sF(s)-f(0)
積分
\mathcal{L}[\int_{0}^{t} f(t)dt ]=\int_{0}^{\infty} (\int_{0}^{t} f(t)dt)e^{-st}dt=\int_{0}^{\infty} (\int_{0}^{t} f(t)dt)(-\frac{1}{s}e^{-st})'dt=[\int_{0}^{t} f(t)dt (-\frac{1}{s}e^{-st}) ]_0^{\infty}-\int_{0}^{\infty} f(t)(-\frac{1}{s})e^{-st}dt =(0-0)+\frac{F(s)}{s}=\frac{F(s)}{s}
ラプラス変換において初期条件を0と考えると、微分は$s$を掛ける操作で積分は$s$で除する操作に対応する。したがって、このことにより線形微分方程式が単純な代数方程式に置き換えることができる理由である。
ラプラス変換表
それでは、多項式・指数関数・三角関数などのラプラス変換について見てみよう。証明は複数載せた。
多項式
$t^n$のラプラス変換は、積分公式を用いて次数を上げていくか、部分積分の繰り返しを行い次数を上げていくかの2つの方法のいずれかで証明することができる。
1のとき
\mathcal{L}[1]=\int_{0}^{\infty} e^{-st}dt=[-\frac{1}{s}e^{-st}]^\infty_0=\frac{1}{s}
tのとき
\mathcal{L}[t]=\int_{0}^{\infty}t e^{-st}dt=\int_{0}^{\infty}t (-\frac{1}{s}e^{-st})'dt=[t (-\frac{1}{s}e^{-st})]^\infty_0-\int_{0}^{\infty}t' (-\frac{1}{s}e^{-st})dt=\frac{1}{s^2}
tのn乗のとき
積分公式を用いると以下のようになる。
\mathcal{L}[t^n]=\frac{n}{s}\mathcal{L}[t^{n-1}]
したがって、帰納的に考えて、
\mathcal{L}[t^n]=\frac{n!}{s^{n+1}}
指数関数
王道
定義式に代入するだけ。
\mathcal{L}[e^{at}]=\int_{0}^{\infty} e^{-(s-a)t}dt=[-\frac{1}{s}e^{-(s-a)t}]^\infty_0=\frac{1}{s-a}
テイラー展開
ところで、テイラー展開によって、
e^{at}=1+at+\frac{a^2}{2!}t^2+\cdot\cdot\cdot \frac{a^n}{n!}t^k=\sum_{k=0}^\infty \frac{a^k}{k!}t^k
これと多項式の公式を用いることで、
\mathcal{L}[e^{at}]=\mathcal{L}[\sum_{k=0}^\infty \frac{a^k}{k!}t^k]=\mathcal{L}[\sum_{k=0}^\infty\frac{a^k}{s^{k+1}}]=\frac{1}{s}\frac{1}{1-a/s}=\frac{1}{s-a}
ただし、等比数列の和の公式を用いた。
三角関数
三角関数のラプラス変換は、オイラーの公式を用いて証明する方法とテイラー展開を用いて証明する方法の2パターン存在する。
$sin(\omega t),cos(\omega t)$ともに、同じ方法での証明のため、今回は$sin(\omega t)$の場合のみを証明する。
オイラーの公式
オイラーの公式から、以下のことが分かる。
sin(\omega t)= \frac{e^{j\omega t}-e^{-j\omega t}}{2j}
したがって、この式と指数関数の公式を用いることで、
\mathcal{L}[sin(\omega t)]=\frac{\omega}{s^2+\omega^2}
となることが分かる。
テイラー展開
三角関数のテイラー展開は、
sin(x)=\sum_{k=0}^\infty (-1)^k \frac{x^{2k+1}}{(2k+1)!}
と表すことができるため、
sin(\omega t)=\sum_{k=0}^\infty (-1)^k \frac{(\omega t)^{2k+1}}{(2k+1)!}
となる。したがって、
\mathcal{L}[sin(\omega t)]=\mathcal{L}[\sum_{k=0}^\infty (-1)^k\frac{(\omega t)^{2k+1}}{(2k+1)!}]=\mathcal{L}[\frac{1}{\omega}\sum_{k=0}^\infty(-\frac{\omega^2}{s^2})^k]=\frac{1}{\omega}\frac{1}{1-(-\frac{\omega^2}{s^2})}=\frac{\omega}{s^2+\omega^2}
まとめ
今回は、ラプラス変換について定義から、線形性と微積分の式が成立することを示した。この原理より、微分方程式を代数方程式に変換することができることがラプラス変換のメリットである。また、多項式、指数関数、三角関数についてのラプラス変換の公式についても示した。