はじめに
誘導機は、三相交流系統において安価で構造が単純であるということから多用される。しかし、滑りという系統の回転速度と機械的回転速度がずれるという特色がある。したがってそれについて考慮しなければならないため興味深い現象が多数存在する。そこで、今回は誘導機の等価回路を用いてこれらの性質や現象について考察する。
滑りの定義
滑り$s$とは、実際の機械的回転速度$N$について電気的回転速度$N_s$との相対速度を$N_s$で除したものであり、以下の式で定義される。
s=\frac{N_s-N}{N_s}
しかし、この式では扱いづらいので以下のように変形する。
N=(1-s)N_s
これにより、回転速度の関係が分かりやすくなった。また、以下に示すように回転速度によって制動機、電動機、発電機と分類することができる。
制動機 | 電動機 | 発電機 |
---|---|---|
$-N_s<N<0$ | $0<N<N_s$ | $N_s<N$ |
$2>s>1$ | $1>s>1$ | $0>s>-1$ |
等価回路
まず、二次側の等価回路は以下のように表すことができる。
二次側に出力される電圧は$s$に比例することに注意する。$s=1$のとき変圧器と同等の性質を示すことから類推できる。
ここで、オームの法則より、sで除すると以下のような等価回路になる。
これを用いることにより、1次2次含めた精度の良いT型等価回路は以下のようになる。
この等価回路のメリットは、電圧降下をより正確に表すことができるという点であるが、計算が複雑になることから、以下のL型等価回路がよく用いられる。
二次電流について
それでは、二次電流についての導出とグラフ化を試みる。
\dot{I_2}=\frac{\dot{E_1}}{(r_1+r_2/s)+j(x_1+x_2)}
I_2=\frac{E_1}{\sqrt{(r_1+r_2/s)^2+(x_1+x_2)^2}}
これを描写するプログラムは以下の通りである。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import math
p=4
f=50
E_1=100.0
r_1=1.0
x_1=1.0
r_2=1.0
x_2=10.0
#滑りの範囲の指定
s = np.arange(-1.0, 2.0, 0.02)
N_s=120*f/p
N=(1-s)*N_s
omega_s=2*math.pi*N_s
omega=2*math.pi*N
I2_dot=E_1/((r_1+r_2/s)+1j*(x_1+x_2))
I_2=abs(I2_dot)
P_2= (r_2/s)*I_2**2
T=P_2/omega_s
fig, ax = plt.subplots()
# x 軸のラベルを設定する。
ax.set_xlabel("滑りs", fontname="MS Gothic")
# y 軸のラベルを設定する。
ax.set_ylabel("2次電流", fontname="MS Gothic")
# タイトルを設定する。
ax.set_title("2次電流と滑りの関連式", fontname="MS Gothic")
#x軸の反転
ax.invert_xaxis()
ax.plot(s, I_2)
ax.grid()
plt.show()
このグラフを見て分かるとおり、$N_s=N$となる$s=0$のときつまり、同期速度と同じ速度で回転しているとき系統から電力を供給しなくてもいいので(摩擦がない理論的には)二次電流は0となる。
トルクについて
トルクについては、出力と角速度を用いて表すことができる。
T=\frac{(1-s)P_2}{(1-s)\omega_s}=\frac{P_2}{\omega_s}
ここで、二次入力$P_2$は以下の様に表すことができる。
P_2=(r_2/s)I_2^2
ゆえにトルク$T$は以下のように表すことができる。
T=\frac{P_2}{\omega_s}=\frac{E^2_1 (\frac{r_2}{s})}{2\pi f((r_1+\frac{r_2}{s})^2+(x_1+x_2)^2)}
これを用いて誘導機のトルクと滑りの関係をグラフ化すると以下のような有名な曲線になる。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import math
p=4
f=50
E_1=100.0
r_1=1.0
x_1=1.0
r_2=1.0
x_2=10.0
#滑りの範囲の指定
s = np.arange(-1.0, 2.0, 0.02)
N_s=120*f/p
N=(1-s)*N_s
omega_s=2*math.pi*N_s
omega=2*math.pi*N
I2_dot=E_1/((r_1+r_2/s)+1j*(x_1+x_2))
I_2=abs(I2_dot)
P_2= (r_2/s)*I_2**2
T=P_2/omega_s
fig, ax = plt.subplots()
# x 軸のラベルを設定する。
ax.set_xlabel("滑りs", fontname="MS Gothic")
# y 軸のラベルを設定する。
ax.set_ylabel("トルクT", fontname="MS Gothic")
# タイトルを設定する。
ax.set_title("トルクと滑りの関連式", fontname="MS Gothic")
#x軸の反転
ax.invert_xaxis()
ax.plot(s, T)
ax.grid()
plt.show()
比例推移
2次電流$I_2$,トルク$T$は$\frac{r_2}{s}$に依存する。これを比例推移という。
I_2=\frac{E_1}{\sqrt{(r_1+r_2/s)^2+(x_1+x_2)^2}}
T=\frac{P_2}{\omega_s}=\frac{E^2_1 (\frac{r_2}{s})}{2\pi f((r_1+\frac{r_2}{s})^2+(x_1+x_2)^2)}
例えば、滑りを2倍にしたいとき、$r_2$も2倍すれば$T$と$I_2$を一定にするという条件の下で変更することができる。これが誘導機のメリットの一つである。
V/f制御
最後に、V/f制御について説明する。まず、$T$の最大値を求めてみる。
T=\frac{P_2}{\omega_s}=\frac{E^2_1 (\frac{r_2}{s})}{2\pi f((r_1+\frac{r_2}{s})^2+(x_1+x_2)^2)}= \frac{E^2_1 r_2}{2\pi f(r_1^2+(x_1+x_2)^2)s+\frac{r^2_2}{s}+2r_1 r_2}\le \frac{E_1^2 r_2}{2\pi f (2r_2\sqrt{(r_1^2+(x_1+x_2)^2) }+2r_1r_2)}(=T_{max})
ここで、抵抗成分はインダクタンス成分と比較して十分に小さいと仮定すると、
T_{max}=\frac{E_1^2 r_2}{2\pi f 2r_2 (x_1+x_2)}=\frac{E_1^2 r_2}{2\pi f 2r_2 (2\pi f L_1 +2\pi f L_2)}=\frac{E_1^2 }{8\pi^2 f^2 (L_1+L_2)}\propto (\frac{E_1^2}{f^2})
ただし、$x_1,x_2=2\pi f L_1,2\pi f L_2$とする。
このように、トルクの大きさが$\frac{E_1^2}{f^2}$によっておおよそ変化することを利用した制御をV/f制御という。これは、ベクトル制御よりも単純な方法として多用されている。
まとめ
今回は誘導機の二次電流とトルクと滑りの関係についてPythonを用いて描写した。
具体的には、等価回路を用いることで、それらの特性を導出した。後半では実際に式を導出することで、比例推移、V/f制御の原理を等価回路から導出した。