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ブログ執筆からAWS SAA資格対策本を出版するまでの道のり

Last updated at Posted at 2019-12-28

はじめに

これまで何冊かの書籍執筆したことがあるのですが、すべて所属する企業や業界団体からの依頼でした。今回は技術マネジメントを行う立場の活動をブログでパブリックにしていたことをきっかけにこれまで伝手のなかったKADOKAWAさんから声がかかって執筆に至りました。これは私にとって驚きでした。出版に至るまでの過程や何をしてきたかを振り返ってみたいと思います。

執筆した書籍

この1冊で合格! AWS認定ソリューションアーキテクト - アソシエイト テキスト&問題集

最初に書いてみたら発売時のページ数の1.7倍くらいになってしまいました。2500円近辺の書籍は240ページ前後にページ数を抑えなくてはなりません。そのため、相当なコンパクト化を行なっています。その結果、重要な部分のみに絞った内容となりました。また、模擬試験の回答はWebからダウンロードとして分けることで、本文のページ数を稼いでいます。

仕事内容

アクセンチュア デジタル(アクセンチュア アプライド インテリジェンス)に所属。データ、AI、クラウドの領域の業務に従事しています。AWSの他、AzureやGCPの仕事もしています。
一応、AWSによってアクセンチュアから4名選定されたAWS Top Engineerの一人です。
アクセンチュアに入社する前はAWSの日本法人のプロフェッショナルサービス本部に3年強、その前はマイクロソフトのコンサルティング部門とR&Dに15年ほど在籍していました。

執筆のきっかけはブログ

私はプロジェクト業務の他、社内でAWS技術者の育成をしているのですが、そのノウハウを何回か会社のブログで公開しています。執筆のきっかけはその会社のブログを見たKADOKAWAさんからの打診です。すでに育成のマテリアルがあれば、執筆も早いと言う判断だったそうです。

クラウド人材育成 組織のAWSケイパビリティをカスケード式に拡大する(2) 開始から11ヶ月で有資格者が加速度的に増加

なぜ出版社はブログを書いている人を選ぶのか

文章を書ける人と言うのがそもそもほとんどいません。いや、実際には当然たくさんいるのですが、言葉を変えると出版社の方の視野には入っていないのです。そのため、需要のある領域の書籍を出版しようとする際に、その分野のブログを書いている人、もしくはその分野の本を出している人たちを常に探しています。

執筆をする人で計画通りに作業がいる人は実はほとんどいません。出版が想定よりも2,3か月遅れるのはざらです(出版社は当然その遅れも計画に見込んでいます)。しかし、常にブログを書いている人は文章が比較的早く書ける人と見受けられ、これは出版社の方にとっては魅力的です。また、書籍にはわかりやすさが必要です。その品質も出版社の方が著者候補のブログを見ることによって確認ができます。

読まれるブログを書くのは難しいのか

多くの人が読みたいと思うテーマをどうやって見つけるのでしょうか。その答えはあなたやあなたの所属する組織にあります。例えばある技術マネジメントに関わる課題があなたの組織にあれば、それはどこの組織にも起こりうる課題なのです。身近な課題をとらえ、課題を解決する仕組みを構築し、それを実際に組織で展開する。執筆のきっかけとなったブログはいわば、「AWS技術者の育成という課題を解決する低コストオペレーションのソリューションの仕組化」といった内容ですが、このブログが掲載されている「アクセンチュア・クラウド・ダイアリーズ」の中でも当時、アクセス数上位のブログでした。また、特定の技術に対するブログを書くにしても、何が多くの組織で課題となりうるか、という観点で書くとよいでしょう。常に課題意識を持ち、どうやって解決していくかを考え、その解決までの過程をブログに書くだけでも価値のあるアウトプットとなります。それは出版社だけではなく、転職先候補の企業の目にも留まるかもしれません。

文章を書くハードル

執筆メンバーの中には技術知識はあっても、量的、質的に書くのに苦労してる人もいました。これは慣れしかありません。毎日15分でもいいので書いていくことをしておけば直に慣れていくと思います。いきなり長い文章は書けません。だから書ける分だけを少しずつ毎日書いていきます。それがまとまれば1つの文章になります。目の前に10ページ書けというタスクがある場合、書いたことのない人にとっては絶望でしかありません。

しかし、品質の点で、ある程度は方法論を持って文章をわかりやすく書くことも可能です。私はシカゴスタイルを使っています。シカゴスタイルは前職のAWSでも同僚の間で流行っていました。AWSでは四半期に一度、QBR(Quarterly Business Review)というチームで開催する会議があります。QBRでは各自が2Pagerと呼ばれる2ページの紙に自らのビジネスの状況、教訓、示唆をまとめます。2Pagerはすべて文章であり図表は一切含みません。図表はAppendixとして2Pagerの後ろに任意の枚数追加します。ビジネスの状況を2ページ以内に論理的かつ網羅的かつ深い内容で記述する必要があり、新入社員は最初の数回は上司によって修正指示が来るときがあります。それで以下のシカゴスタイルの本がよいのではないかということで同僚の間で読まれはじめました。私もこれを読んで文章の書き方を学びました。以下に一つ伝わる文章を書くかが学べる本です。

シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術: 世界で通用する20の普遍的メソッド

社内トレーニング(AWSカスケード式トレーニング)の内容

アクセンチュアには多数の社員がいるので、すでにAWSの技術者は多いです。しかしながら市場の需要はそれ以上に多く、クラウド未経験の技術系社員のリスキリングを行ってクラウドのスキルを身に着けてもらう必要があります。

通常、社内トレーニングというと座学やハンズオンを行うと思いますが、我々は口頭試問形式で行います。座学の場合、講師が出来るレベルの人が多くの時間を教育のために割かなくてはなりません。本来はプロジェクトでその力を発揮すべきです。そのため、トレーニーはあらかじめ指定されたドキュメント(AWS BlackbeltとFAQ)を読み、1週間に2回(以前は1回30分、現在は1回20分)、トレーナーからの口頭試問を受けます。1つの学習チームは2名のトレーナーと5-7名のトレーニーで構成されます。トレーナーが2名いるのは交代で行い負荷を下げるためです。なお、トレーニングは昼休みに行われることが多いですが、メンバー間で決めて自由な時間で行っています。このトレーニングは2か月(8週)、つまり16回の口頭試問で終了します。

社内トレーニングとAWS SAA資格とのつながり

当初はSAA取得を志向したトレーニングではなく、AWSの技術コンサルが出来る人や、プロジェクトワークが出来る人を増やす、といった観点で最低限のレベルを目指したものでした。顧客先では技術について語れなくてはなりません。そのために口頭試問メインのトレーニングとしたのです。しかしながらトレーニング終了後にSAA資格を取得する人が多く、このトレーニングが資格取得にも有効であることがわかりました。

トレーナーは毎回変わります。トレーニーだった人がトレーナーをやります。そのため、カスケード式トレーニングと私が命名しました。同じ人がずっとトレーナーを行うのは負荷が高いです。トレーニーがトレーナーを行うことで知識も深まります。

トレーニーが予習に利用するドキュメントは、AWSのBlackbeltとFAQです。これらをトレーニーが事前に読んできます。つまり、我々は教材自体は作っていないのです。

そのかわりに口頭試問のQA集の作成に力を入れています。トレーナーはこれを見て質問をしますのでアドリブで質問を行うようなことにはなりません。このトレーニングを実施した当初はアドリブでやってましたので辛かった記憶があります。トレーニーがトレーナーになる際に、関連する最新の技術情報を参照してこのQA集を更新してもらいます。これも最新の知識を組織が保持する上で重要な活動です。

このQA集は我々がプロジェクトで経験した中で得た「何が間違いやすいか」、「何が顧客に聞かれやすいか」を主要サービス毎にまとめたものになっています。これがAWS資格対策本をまとめる際のポイントとして重要な働きをしました。

共著メンバーの選抜

口頭試問形式のトレーニングを行うと、人による差が顕著に出ます。きちんと予習をしてくる人、毎回ほぼ出席する人、回答が素晴らしい人。その逆の人たちもいます。KADOKAWAさんから執筆の話が来た際、私だけでも書けると思いましたが時間もかかってしまうので、AWSの知見をすでに十分持っている人に加え、トレーニング中のパフォーマンスが高い人かつトレーナーを実施したことがある人を選抜して執筆しました。

執筆にかかった期間

当初は執筆に不慣れなメンバーもいたので2018/12から始めて2か月たってもあまり進捗はありませんでした。その後、途中から根を詰めて2019年2月から2か月ほどで初校までたどり着きました。その2か月、主要メンバー(本の表紙に記載のある青柳、飯田さん、柿沼さん、門畑さん)は土日はなかったです。2か月で初校は早いと思いますが、QA集を軸に目次を決めてそこに解説を肉付けする方式を取ったので書籍の構成の構想に時間を取られることはなかったです。初校が終わった後は2回校正を行い3,4か月ほどで2019年7月の出版に至りました。

今後の執筆

すでに何冊か予定があります。先にも書いたように、一度執筆するとそのような話は増えていきます。最初に1冊をいかに出すか、そこが一番のハードルですが、書籍を書きたいと思ったら、まずは地道にブログを書くのがといいのかなと思います。いくら自分に能力があろうと誰にも認知をされなければ依頼も来ません。私の場合、書き始めてから1年くらいたってから依頼がいくつか来ましので日々の地道な活動が必要です。私がブログを書くモチベーションは自分の知識の定着化なのでつらくはありません。経験を形式知にすることで自分の中で血肉になります。それ自体がうれしいのです。

関連リンク

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書籍の活用

取引先への配布を行うとともに、我々のトレーニングのテキストとしても活用しています。従来、口頭試問の予習はBlackbeltとFAQのみでしたが、このテキストをトレーニーに配布し、まずはこれを読んでもらってからBlackbeltとFAQを読むようにしてもらっています。このテキストで学習の効率が大幅に向上したのは確かです。

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