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回帰非連続デザインが熱い『因果推論の計量経済学』

Last updated at Posted at 2024-10-06

因果推論の計量経済学 のレビューです

出版社サイト

レビュー企画用献本御礼
日本評論社様の企画での記事です。献本はいただきましたが一技術者として良心のもと記載しています。

私は正規の経済学教育を受けておらず独学(趣味でミクロ:神取、計量経済学:有斐閣NLA、浅野・中村、アングリスト、山本勲、計量時系列:沖本、エンダース、VAR実証:村尾、実証分析:森田、経済セミナー増刊を読んでいる変わり者)で学んでいるだけの者ですので、そこら辺は差し引いてください。データサイエンティストとして必要な経済学をフォローしており、その観点では参考になる点もあると思いレビューいたしました。後述の通りデータサーエンティストとして「共通語」の統計的因果推論との橋渡し的なことを記載しています。

他書と異なる推奨ポイント

回帰非連続デザインが熱い

  • 本書は「経済学訛りの強い」因果推論と紹介されています。
    統計学と経済学での因果推論の違いはなんだろうと考えた時に基礎的な概念や記法などもありますが、適用分野の違いなどもあるのかと思います。
    残念ながら直接経済学では見つけられず政治学になりますが『民主主義の経済学』では因果推論の四天王として

    • 1.ランダム化比較実験(RCT)
    • 2.回帰不連続デザイン(RDD)
    • 3.操作変数法(IV)
    • 4.差の差法(DID)

    を挙げています。

  • 一方、因果推論の共通語の統計学分野での統計的因果推論のテキストでは傾向スコア・マッチングを扱うことが多いと思います。そして回帰非連続(回帰不連続)デザインはさらっと触れられるだけの場合もありますね。

私はアカデミアの人間ではないので憶測も入ってしまいますが

  • 統計学では理論を精緻にする傾向があり、理論的に詰めやすい傾向スコア・マッチングの比重が多くなりがち
  • 経済学・政治学などの社会科学実証系の分野では、以下理由から傾向スコア・マッチングよりも回帰非連続デザインの比重が高くなりがち
    • 社会を対象にしているので未観測の交絡を潰すことが困難→傾向スコア・マッチングではかなり厳しい
    • カットオフ値周辺での因果効果に限られるが比較的未観測の交絡にロバスト かつ 社会施策の実証では年収や年齢などでのカットオフ前後で試作効果を議論することが多い
       →回帰非連続デザインの比重が高まる

と言うことかと考えております。
長くなりましたが、とのことで回帰非連続デザインを深く知る必要がありますが、最近の研究まで追いここまで深く丁寧な議論をしている和書は本書のみ(最近必要があり因果推論の本を網羅的に読みました。後述の通りバイブル的な本の多くは統計学共通語であり、計量経済学での因果推論の代表選手『「ほとんど無害な」計量経済学』の回帰非連続デザインに触れているものの少なめです)です。

「合成マルクス」がおもろい

  • 同様に社会施策を対象にした場合は合成コントロールも比重が高まりますね。
    合成コントロールもアイデアはシンプル(似たやつで処置を受けてないと比較すればいい)なので他書ではサラッと触れられることも多いかと思います。
  • ただ、「似たやつ」をどう決めるかは大きな問題です。他書では喫煙の例やバスク地方の観光の例などがありますが、これ似てるけどちょっと違くね、これすごく似てるからいいな、みたいなキビのところが今ひとつ伝わらないんですよね。
  • そこで(本書がテキストと指定されるレベルの大学で)経済学を学んでいればマルクスや同時代の研究者がどれくらい似ていて違うかの機微がわかりやすいのかと思います。

まとめ

本書は理論をしっかり解説するだけではなくそういうキャッチーさまでカバーしている稀有な本と思います。


データサイエンティストとして「共通語」の統計的因果推論を学んでいる立場から補足

「潜在結果モデル」で統一して解説について

本書では「潜在結果モデル」で統一して解説としていますが、計量経済学と統計学において似た言葉があるため整理します。

  • 計量経済学での実証研究
    • 構造推定
      • 経済モデルにデータを当てはめ、パラメータを推定する。
    • 誘導型推定
      • データから因果関係を直接推定する。
  • 統計学での統計的因果推論
    • 構造的因果モデル
      • 因果関係の構造をモデル化する。
    • 潜在結果モデル
      • 反事実(起こらなかった可能性)を扱う。

「構造推定」は「構造的因果モデル」に、「誘導型推定」は「潜在結果モデル」に近い概念だが、背景や対象が異なるため注意が必要です。

では共通語である統計的因果推論を学んでみようとすると構造型因果モデルに基づく本と潜在結果モデルに基づく本で書いてあることが全然違い面食らいます。最近の本は両方の立場から説明していることが多いですが、前書きや目次からわかるので要確認です。ちなみにPearl派が構造的因果モデルでRubin派が潜在結果モデルです(共通語にも方言があります)。

上記を図にすると概ねこんなところです。

c.f.

「共通語」の統計学による統計的因果推論の本との比較を

本書と関連書の関係性

本書の次の本の推奨

計量経済学の面では本書の参考文献や他の方の推奨をご参考ください。統計的因果推論の方を学ぼうという方向けです。

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