『データ分析失敗事例集』
自社の失敗事例は具体的に担当者が浮かんでしまい、悪者探しになりがちですね。『データ分析失敗事例集』は非常に素晴らしく、他社の失敗事例を知ることができます。
『データ分析失敗事例集』で挙げられている失敗パターンは下記の5つ
- 失敗パターン①:分析結果に対する想像力の欠如
- 失敗パターン②:根拠のない過剰な期待
- 失敗パターン③:難しすぎる課題
- 失敗パターン④:分析実効性の確認不足
- 失敗パターン⑤:手段の目的化
であり、それを避けるための心得として下記の2つ
- 失敗を避けるための心得①:課題を蔑ろにしない
- 解こうとする課題を正確に、深く掘り下げて認識する
- データ分析は、それ単体では価値を生まない
- 具体性に欠けた題目からプロジェクトを開始することは絶対にしてはならない
- 失敗を避けるための心得②:お互いの専門性から逃げない
- コミュニケーションコストを惜しんで分業による効率化を目指してはならない
- プロジェクト内部の透明性を高めるべき
が挙げられています。全くこの通りなのですが、
- 「課題」とは何か
- 「具体性のある題目」とは何か
- 何を「コミュニケーション」すれば良いのか
- 「透明性」とは何か
までは述べられておらず、他書で知る必要があります。
『データドリブン思考』
こうすべき、の方は類書が多数ありますが、綺麗事を言い過ぎでしたり、俺はこうやったの自慢話のみになりがちですね。本書は大阪ガスで現場で格闘され、滋賀大の教授になられるまで方法論を体系化された河本先生の著書なので現場目線でわかりやすいですね。
まず、ほとんどの人がごっちゃにしている「問題」と「課題」ですが、
- 1章 データ分析をビジネスの成功につなげる
- 1.1 問題発見と課題設定を意識する
「問題」とは、目標と現状との間にあるギャップのこと
「課題」とは、目標と現状とのギャップを埋めるためにやるべきこと、すなわち、「問題」を解消するためにやるべきこと。
本書で挙げられている例としては、
-
-
- ケース1
- 問題:主力商品のシェアが低下し向上する必要がある
- 課題:認知率、購買意欲、配下率、価格競争力の向上等の課題候補を吟味する必要がある
- 失敗例:主力商品のシェアが低下→課題の吟味をせずに「シェア向上」を課題とおいて、テレビ視聴データやWebアクセスログからどのチェネルにどれだけの予算を投入すべきか決めた→そもそもそれでシェアが上がるのかは吟味していない
- ケース1
-
-
-
- ケース2
- 状況:コピー機のリースと5年経過後の中古販売事業。返却時の履歴データから残存寿命を計算できないか
- 問題:そもそもの問題は「利益を増やすこと」だが、何が問題であるか吟味せず
- 課題:「リース寿命を伸ばす」に飛びついている
- 失敗例:レンタル寿命を7年に伸ばすことに成功したが、中古販売が大幅に減少し会社としてマイナスに
- ケース2
-
-
- 1.2 ビジネス課題を意思決定プロセスの課題と捉え直す
組織とは判断と決定を生産する工場である
-
- 1.3 データ分析をビジネスの成功につなげるフレームワーク
意思決定とは、「ある目標を達成するために、複数の選択可能な代替的手段の中から最適なものを選ぶこと」(大辞林)という行為を思い出してください。これに従えば、多くの場合、「意思決定プロセスの課題」は、以下の形式で記述できるでしょう。
意思決定プロセスの課題の記述形式
「***という選択肢の中で***なものを選ぶプロセスに関する***という課題」
- 2章 データドリブン思考を身につける
そして意思決定を6つに類型化できるとしています。
意思決定の種類 | 例 | データ分析の役割 |
---|---|---|
A 反復選択型 |
|
選択肢を採用した場合における帰結の予測 |
B 体制選択型 |
|
合理的な選択を行うための判断材料 |
C 原因特定型 |
|
原因の候補と結果の関連性 |
D 計画策定型 |
|
最適な計画の発見 |
E 仮説思考型 |
|
購買する顧客増の仮説発見と検証 |
F 経営判断型 |
|
経営者の思考バイアスの低減 |
- 3章 データドリブンな企業に変革する
最後に、データドリブンで意思決定する企業に変革することを阻む6つの壁と解決策を述べています -
- 企業の変革を阻む3つの壁
- 人材の壁:データ分析をビジネスに活用する社員が育たない
- 部門の壁:部門横断のデータ活用が進まない
- 経営の壁:データ分析が経営判断に生かせない
- 社員の心理的な抵抗を行動から変える
- 心理的な壁①:「データ分析=専門力」という固定観念
- 心理的な壁②:現状維持バイアス
- 心理的な壁③:組織人としての損得勘定
- 企業の変革を阻む3つの壁
ということで冒頭私が疑問としてもった
- 「課題」とは何か
- 「具体性のある題目」とは何か
- 何を「コミュニケーション」すれば良いのか
- 「透明性」とは何か
についてある程度まで答えが出せていると思います。
となると、データ分析における失敗はほぼ
「意思決定のためにデータ分析を手段として用いる」ということを意識していないか、意識していても共有されていなことによる
に尽きるかなと思います。
失敗の原因は先ほどの一文に表せると思います。
ただ、両方の著作とも良書でありながら、やや曖昧な点もあるかなと思います。それをあぶり出す1例として、『データ分析失敗事例集』の失敗事例を、『データ・ドリブン思考』の壁に当てはめてみようかと思います。それぞれ複数の壁にまたがるものもあると思いますが主な点かなというところでまとめてみます。
整理しきれないところ(本記事著者青木の誤解をまず疑うべきですが)にまだ改善点があるかと。そして、本記事読者の事例に近しいところがあれば事例と壁の対比から得られるところがあるかと思います。
人材の壁 | 部門の壁 | 経営の壁 | |
---|---|---|---|
心理的な壁①: 「データ分析=専門力」という固定観念 |
|
|
|
心理的な壁②: 現状維持バイアス |
|
|
(ここはそもそもデータ分析PJが走らないか?) |
心理的な壁③: 組織人としての損得勘定 |
|
|
|
『データ分析失敗事例集』はPJベースでの失敗事例、『データドリブン思考』はPJベースでの例示もありますが、「壁」は組織としての面が強く、経営の壁、部門の壁では、「AIやれの号令のもの誰も動かず、そもそもデータ分析が行われず失敗事例以前の状態」も多数あると思われます。
『データドリブン思考』で明示されている、
意思決定のための分析
意思決定のために問題と課題を明らかにする
が意識されていないことが「問題」ですけれどこれらをどのように関係者で共有認識を持つかは大きな「課題」ですね。
そこで気になるのですが、事例集の中でよく出てくる「想像力の欠如」です。新しいビジネス創出であれば想像力でも良いでしょうが、意思決定のために想像力を持ち出してはいけないのではないか。問題と課題の共通認識のためにはロジカルに進めるべきではないか、が私の次の論点として残りました。