この記事は過去の自分に教えたい、ソフトウェア品質の心得を投稿しよう by QualityForward Advent Calendar 2024の17日目の記事です(空いていたので書いてみました)
ここ数年で「後工程テストの常識」から「シフトレフト」へと大きく移行が進んでいます。生成AIの活用による効率化が、テストとセキュリティ対策に新しい可能性をもたらしています。QAエンジニアには、ビジネスと技術の両面を理解した上流工程での活躍がますます求められるでしょう。この記事ではソフトウェアテストにおけるシフトレフト戦略のトレンドと生成AIの登場によりQAエンジニアが求められている役割の変化などについて書いていきます。
QAエンジニアをやっていてキャリア戦略について考えている皆様のお役に立てれば幸いです。
ウォーターフォール時代の「後工程テスト」の常識
ソフトウェア開発の現場では、かつて「テストはプロジェクトの最後にまとめて行うもの」という認識が当たり前でした。要件定義や設計をすべて済ませた後で、テストチームやQA担当が不具合を洗い出し、リリース直前になってようやく修正に取りかかる――そんな流れがウォーターフォール型の代表的なスタイルとして定着していたのです。
ところが、アジャイル開発やDevOpsが浸透し始めると、「それでは間に合わない場面が多い」という現実が見えてきました。市場や顧客のニーズが刻一刻と変化する中で、開発の後ろのほうにテストを固めてしまうと、手戻りが発生した場合にスケジュール全体を大幅に遅らせる可能性が高まるからです。
シフトレフトの台頭:上流工程からの品質管理
そこから注目されるようになったのが、早い段階からテストや品質管理に目を向けるシフトレフトの考え方でした。これは、開発の序盤、具体的には要件定義や設計のフェーズからテスターやセキュリティ担当、QAエンジニアが積極的に関わり、「ここで不具合が出そう」「この設計はパフォーマンス的に危険かもしれない」といった懸念をあらかじめリストアップしていく手法です。
実際、修正すべきポイントが初期段階で見つかれば、修正コストは格段に下がり、大きなリスクも回避しやすくなります。さらに、要件や仕様の段階で議論しておくことで、後になって「やっぱりこの機能はいらない」「セキュリティ要件が足りない」などとバタバタする事態も減らせるでしょう。
変化するQAエンジニアの役割
同じ流れの中で、QAエンジニアに求められる役割も大きく変化してきました。以前は、不具合を報告したり、テスト仕様書を作ったりするのがメインの仕事と思われがちだったかもしれません。ところがシフトレフトが進むにつれて、QAエンジニアが開発の全体設計に口をはさむケースが増え、「この機能は使われ方によってはセキュリティリスクが高いので別の仕組みを考えよう」とか、「ユーザー目線で見ると操作が複雑すぎるかも」といった、より上流工程の議論に加わるシーンが多くなったのです。
アジャイル開発では、とくに短いスプリント(開発サイクル)の中で次々と要件が追加されるので、そのタイミングごとにQA担当も巻き込むことで、不具合の芽を早期に摘むことが可能になります。
生成AIの活用:テスト効率の飛躍的向上をめざして
加えて近年話題になっているのが「生成AI(Generative AI)」の活用です。大規模言語モデルをはじめとするAI技術が、ソフトウェアテストの領域にも応用されてきています。これまでは、テスターが画面を操作しながらユーザーの動きを想定してテストケースを作っていましたが、AIが画面構成やログを解析して自動的にテストパターンを提案してくれるようなシステムが徐々に浸透しつつあります。
たとえば、大量のテストシナリオをAIが機械的に作成してくれれば、テスターが本当に注力すべきところに時間を割けるため、作業効率が大幅に上がるかもしれません。さらに、エラーログやアクセスログを学習して「このコードがエラーを起こす確率が高い」と予測したり、「負荷が集中するときに落ちやすいポイント」を教えてくれるような仕組みも登場しています。
AIがもたらす提案と人間の判断のバランス
ただし、生成AIは魔法の杖ではありません。AIが指摘してくれる不具合の背後にあるビジネスロジックやユーザー体験(UX)を理解し、「本当にここを直すべきなのか」「それは仕様上、想定内ではないか」という最終判断はやはり人間が担う必要があります。
もしAIが「バグかも」と言った箇所をすべて修正してしまうと、逆に本来の仕様を壊してしまう恐れもあるからです。
そういう意味では、QAエンジニアの作業がAIに取って代わられるわけではなく、「AIの出す提案を見極める能力」や「テスト全体の方針を設計する能力」がさらに重要になってくるでしょう。自動化と人間の判断をどうやってベストバランスで組み合わせるかが、これからのQAエンジニアに求められるポイントになりそうです。
セキュリティとシフトレフト:初期段階からのリスク対策
ソフトウェアの品質を語るうえで、セキュリティ面も無視できなくなってきました。インターネットにつながるアプリやクラウドサービスが当たり前の時代になり、もしセキュリティホールがあれば、たちまち大規模な情報漏洩や金銭的被害につながるリスクがあります。
大企業だけでなく、中小企業やスタートアップでも、サービスを始めてすぐ攻撃を受けてしまったという例は決して珍しくありません。そこで、シフトレフトの考え方をセキュリティ分野にも広げ、要件定義の段階でセキュリティ要件を検討したり、設計レビューで認証や暗号化の仕組みをチェックしたりする動きが加速しています。コードのコミットごとに脆弱性スキャンを回す仕組みも、多くの開発プロジェクトで導入が進んでいます。
進化するセキュリティ対策とAIの活用
この流れに乗って、セキュリティ関連でも生成AIが力を発揮するようになりました。たとえばネットワークを監視して異常な通信パターンを即時に検知し、管理者にアラートを送るといったリアルタイム防御をAIが担うケースがあります。
一方で、攻撃者もAIを使って高度な手法を開発しているため、攻防のイタチごっこはよりシビアになりました。QAやセキュリティ担当だけでなく、開発者や運用担当も常時セキュリティを意識しながらプロダクトを作る必要があるわけです。だからこそ、シフトレフトのアプローチを徹底し、できるだけ早いタイミングでリスクを洗い出し、対策を打っておくことが欠かせない時代になっています。
変化に対応するQAエンジニアの新たなスキルセット
こうした変化を踏まえると、今後のQAエンジニアは技術力だけでなく、ビジネスやユーザー体験への理解、そしてチームビルディング能力に至るまで、多面的なスキルを求められるようになるでしょう。自動化やAIが担当する領域が増えれば、それだけ人間が本来持っている洞察力やコミュニケーション力が武器になってくると考えられます。
開発の初期段階から「これをやったらユーザーが本当に喜ぶだろうか」「この仕組みは脆弱性を生まないだろうか」といった視点で意見を言い、必要があればデザイナーやビジネス担当者、セキュリティ担当者と掛け合って解決策を提案できる人材は、どんな会社でも重宝されるはずです。
シフトレフトと生成AIの導入に伴う課題と対処法
実際にシフトレフトと生成AIを導入するとなると、最初は「本当に効果があるのか」「現場が混乱しないか」といった不安があるかもしれません。特にアジャイルやDevOpsの文化が根付いていない組織や、ウォーターフォール型がまだメインのプロジェクトなどでは、QAの役割そのものに大きな変化が必要です。最初から完璧を目指すよりも、小さなステップで導入して成功体験を積み重ねると良いとよく言われます。
例えば、ある機能だけを対象にAIを使ったテスト自動化を試してみる、セキュリティ診断の一部をパイプラインに組み込んでみる、要件定義の際にQAメンバーを参加させてみる――そうした小規模な実験がうまくいけば、シフトレフトやAI活用の価値が社内でも共有されやすくなるのです。
AI導入時のリスクとゴール設定の重要性
とはいえ、自動化ツールやAIを導入したところで、その使い方が定まっていなかったり、目的が曖昧なままだと逆に混乱を招く可能性もあります。頻繁に誤検知が上がってきて開発者が疲弊したり、データセットの偏りが原因でAIが誤った指摘を連発したりして、結局「人間が一つひとつ手作業でチェックしたほうが早い」となってしまうケースも考えられます。
こうしたリスクを回避するには、シフトレフトやAI導入の「ゴール」を明確に定め、そこへ向かうためのロードマップや評価指標を整えておくことが重要です。QAエンジニアが中心になり、ステークホルダーと話し合いながら「どういう価値を目指すのか」を言語化しておけば、余計な混乱を減らせるでしょう。
シフトレフトと生成AIがもたらす大きな可能性
これらの動向を総合すると、いま注目されるシフトレフトと生成AIの組み合わせは、ソフトウェア品質を根本から変え得る大きな可能性を秘めています。後工程で慌ててテストや修正をするのではなく、開発の序盤から品質を作り込み、AIによる自動化や分析を賢く利用して不具合やセキュリティリスクを発見する。その姿勢が定着すれば、チーム全体の生産性や製品のクオリティが格段に向上するかもしれません。
一方で、そのためにはエンジニアやQA担当、ビジネス担当などが横断的に協力し合う環境づくりが不可欠です。プロセス改革や組織文化の変革を伴うだけに、一朝一夕には進まないことも多いでしょうが、だからこそ長期的な視野で取り組む意味があります。
小さな実験から始めるシフトレフトとAI活用
アドベントカレンダーのシーズンは、みんなが知識を共有し合い、来年に向けてどんな新しいことを試そうか盛り上がる時期でもあります。もしチームや会社でまだシフトレフトに挑戦していない、あるいは生成AIを活用していないのであれば、まずは小さな実験から始めてみてはいかがでしょうか。
たとえば、テスト駆動開発の一部をもう少し真剣にやってみたり、セキュリティレビューを早期から組み込んだり。あるいはAIツールのトライアル版を使ってUIテストを少しだけ自動化してみる――どんなアプローチでも、きっと何らかの学びが得られるはずです。その積み重ねが、新しいQAスタイルの定着につながるのではないでしょうか。
品質はチーム全体の仕事:文化づくりが成功の鍵
ソフトウェア品質は今や、ビジネスの競争力やユーザーの信頼を左右する大きな要素です。「品質はテスターだけの仕事ではない」と言われるようになって久しいですが、シフトレフトやAIという新たな潮流が広がることで、それがますます現実になってきています。
開発者やデザイナー、運用担当、セキュリティ担当など、多くの専門家が手を取り合って「良い製品を作ろう」という文化を根付かせる。その土台の上でこそ、AIがもたらす効率化や自動化も本当の力を発揮するのだと思います。
年末のこのタイミングに、ぜひ自分のチームやプロジェクトを見直して、より良いQAの仕組みづくりに一歩踏み出してみてください。来年の今頃は、きっと今とはまた違った視点からQAの話題を語れるようになっているはずです。
まとめ:品質向上への次の一歩
シフトレフト戦略や生成AIの活用は、ソフトウェア開発における品質保証の新たな潮流です。開発の初期段階から品質を作り込み、AIを活用して効率化を図ることで、プロジェクト全体の生産性を高めることができます。ただし、その成功にはチーム全体の協力と適切なツール選びが不可欠です。
例えば、QualityForwardのようなツールは、これらの新しいアプローチを実現するための強力なパートナーとなり得ます。直感的な操作性でチーム全体のテスト管理を効率化し、リアルタイムでの進捗把握や手動・自動テストの一括管理を可能にするため、シフトレフトの取り組みをスムーズに進めることができます。また、BTS連携やレビュー機能といった実用的なサポートにより、チーム全体で品質向上を目指せる環境を提供します。
小さな実験から始めてシフトレフトや生成AIの価値を確認する中で、適切なツールを組み合わせて使うことが鍵となります。このような取り組みを通じて、チームの生産性と製品の品質を飛躍的に向上させることができるでしょう。
今後の取り組みを成功させるために、まずは現状の課題を整理し、改善の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。品質は単なる成果物ではなく、チーム全体で育てていくプロセスです。その歩みを支える最適なツールを見つけることが、成功への鍵となるはずです。