この記事はクラウドセキュリティ最前線!SASE、SSEなどのトレンドを語ろう by Netskope Advent Calendar 2024の4日目の記事です。
最近クラウドセキュリティと生成AIを組み合わせた手法など最新トレンドについて調査を行っています。一般ユーザーから見るとセキュリティは守られて当然と思われていますが、システムの開発や運用をしている我々のようなエンジニアにとっては切っても切り離せない重要なトピックです。知り合いの凄腕エンジニアの方は次々とセキュリティ専門の会社やスタートアップに入社していたり、ここ2年くらいで明らかにクラウドセキュリティに対する世の中の目線が変わってきていると日々感じています。
はじめに
クラウドの利活用が加速度的に広がり、生成AIが社会各所で注目を浴びるようになってきました。セキュリティ領域においても、新たな潮流が生まれています。従来は境界型防御が主流でしたが、クラウドファーストの潮流によってより柔軟で高精度なアプローチが求められ、それを実現するためにSASE(Secure Access Service Edge)やSSE(Security Service Edge)といった枠組みが次々に登場しました。
しかし、こうした最先端ソリューションにも、生成AIによって高度化された攻撃を完全に抑止するのは容易ではありません。本記事では、クラウドセキュリティと生成AIの交点にある最前線の動向を深く掘り下げながら、攻撃者が生成AIをどのように活用し、守る側がどう対抗すべきかを考察します。SASEとSSEがクラウド環境に与えるインパクトから、ゼロトラストの考え方、さらに人間の心理的抵抗力を高める教育の重要性まで踏み込み、今後のセキュリティ戦略を探っていきます。
1. 生成AIがもたらす攻撃手法の高度化
1.1 自動化と汎用化による攻撃コストの低減
生成AIの出現により、従来の攻撃コード作成やフィッシングメール作成などに必要だった高度なスキルや手間が大幅に削減されました。自然言語処理モデルを活用すれば、リアルな言い回しや多様な文体のフィッシングメールが短時間で大量に生成でき、テンプレートを応用するだけでも様々なパターンを生み出せるのです。
結果として、攻撃の敷居が下がり、これまで本格的な攻撃を実行できなかった層にも“手軽な攻撃手段”が広がっています。特にSNS上のメッセージや偽サイトの文言をターゲットに合わせてパーソナライズする手法が急増し、従来のフィルタリング技術をすり抜けるケースが増えています。
1.2 AIを活用した脆弱性探索とエクスプロイトの最適化
攻撃者がAIを活用するのはメールの文面作成だけではありません。自動化された脆弱性スキャンツールとAIを組み合わせ、ゼロデイ攻撃を効率よく探し出す事例が増えています。マイクロサービスやサーバレスのようにクラウドで日々更新される環境は複雑で、管理が行き届いていない部分があれば容易に狙われます。
さらに、マルウェアの難読化や動的な振る舞い変更にも生成AIが活用され、シグネチャベースの検知では追いつけなくなる可能性が高まっています。このように、クラウド時代の複雑なサービス群を相手にした攻撃は、AIによって質量ともに強化されているのです。
2. SASEやSSEが目指す新時代のセキュリティアーキテクチャ
2.1 SASEとSSEが登場した背景
クラウド上のリソースを安全に利用するためには、従来のオンプレ中心の境界型防御だけでは不十分です。多拠点やリモートワークの急増によって、業務に必要なアプリケーションやデータにどこからでもアクセスする要望が高まった結果、ネットワークとセキュリティを一体化する新たなアプローチが求められました。
SASE(Secure Access Service Edge)は、WANの最適化やセキュアなアクセス技術、ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)などをクラウドプラットフォーム上で一元的に提供するフレームワークです。SSE(Security Service Edge)はSASEのセキュリティ機能に特化した位置づけで、CASB(Cloud Access Security Broker)やSWG(Secure Web Gateway)、ZTNAといった重要機能をまとめて管理しやすくするというメリットがあります。
2.2 SASE/SSEによるメリットと課題
SASEやSSEを導入することで、すべてのユーザとデバイス、そしてクラウド上のリソースに対して一元的な可視化と制御を行いやすくなります。アクセス状況をリアルタイムに監視し、ポリシー違反や不審な挙動が見つかった時点で自動的に遮断できるため、攻撃の被害を最小限にとどめる設計が可能です。
とはいえ、生成AIを用いて攻撃が高度化している現状では、SASEやSSEの導入が“ゴール”ではなく“スタート”に近い点に注意が必要です。ゼロトラストの思想を社内文化として根付かせるには、組織全体の継続的な運用体制とアップデートが必須となります。
3. 生成AIによる攻撃に組織はどう立ち向かうべきか
3.1 AI同士の攻防:守る側のAI活用
大量のログやトラフィックをリアルタイムにモニタリングするには、もはや人間のリソースだけでは追いつけません。そこで、防御側もAIを導入し、脅威インテリジェンスとあらゆるログデータを組み合わせて高度な振る舞い検知を行う動きが出ています。SASEやSSE環境下で取得されるデータを解析し、通常と異なるアクセスや通信内容を自動で判別し、必要に応じてアクセス遮断まで自動化するケースも少なくありません。
さらに、フォレンジック(事後調査)でもAIを活用することで、攻撃の痕跡を時系列で明確にし、どの脆弱性がどのタイミングで突かれたかを迅速に特定できるようになりつつあります。こうしたAI同士の攻防の中で、どれだけ早く攻撃を検知し、被害範囲を限定できるかが、企業のセキュリティレジリエンスを大きく左右するようになっているのです。
3.2 人間の心理的弱点とソーシャルエンジニアリングの高度化
生成AIは技術面だけでなく、ソーシャルエンジニアリングの巧妙化にも寄与しています。SNSやプレスリリースなどの情報を学習し、ターゲット個人の嗜好や行動特性に合ったアプローチを自動的に生成できるため、人間が読んでも不自然さがほとんど感じられないフィッシングメールやメッセージが作られます。
こうした攻撃を未然に防ぐには、社員教育の徹底や、AIを活用したコンテンツフィルタリングなど多方面からの対策が必要です。特に「どのような内容が送られてきたら危険なのか」というポイントを理解しておくことが重要で、たとえ高度なAIを備えたセキュリティアーキテクチャを導入していても、最終的には人間の注意力や判断力が頼みの綱となるケースも多々あります。
4. ゼロトラストとSASE/SSEの連携による防御強化
4.1 境界を前提にしない継続的検証の重要性
従来型の境界防御が通用しにくくなっている現代において、ゼロトラストの考え方は欠かせません。すべてのアクセスは常に検証され、悪意のある通信や振る舞いを素早く見分ける必要があります。クラウド環境では、ネットワーク境界というものがますます曖昧になっており、リソースがどこに配置されているかも動的に変化します。
SASEやSSEが提供する統合的な監視・制御基盤にゼロトラストのポリシー管理を組み合わせることで、複雑なクラウド環境下でも一貫性のあるセキュリティ施策が実行できるようになります。たとえ侵入を許しても、その後の横展開を最小限に留める仕組みを構築しておくことが、日々進化する攻撃に対して大きな強みとなるでしょう。
4.2 サプライチェーン全体での対策と運用プロセスの見直し
クラウドサービスやインフラを複数のベンダーと連携しながら利用するケースでは、サプライチェーン全体を通じてセキュリティリスクがないかを常に確認する必要があります。攻撃者は脆弱な部分を狙い撃ちするため、一部のベンダーのセキュリティ意識が低ければ、そこから侵入されるリスクが高まります。
SASEやSSEは、クラウド上で一元管理する特徴があるため、ベンダーを含めたさまざまな接続経路を俯瞰しやすくなります。しかし、ツールやプラットフォームだけに頼るのではなく、契約段階の精査やコントロール手順の細部まで見直し、常にアップデートし続ける姿勢が大切です。
5. 今後の展望と企業の取るべきアクション
5.1 攻撃と防御の「いたちごっこ」はさらに加速する
今後、攻撃者が生成AIを活用してより巧妙な手口を生み出してくることはほぼ間違いありません。マルウェア生成や難読化、ゼロデイの探索だけでなく、ランサムウェアの交渉戦略をAIが担うシナリオすら想定されます。攻撃者は常に新しい脆弱性や社会工学的な手法を探り、守る側のセキュリティ対策に挑み続けるでしょう。
しかし、守る側もAIを使って高度な分析を行い、脅威をリアルタイムで可視化し、迅速に対応する仕組みを強化できます。SASEやSSEは、その基盤となる包括的な監視・制御プラットフォームを提供し、ゼロトラストの考え方と相まって、クラウド環境を堅牢に保つ手段として存在感を増していくと考えられます。
5.2 組織文化と教育が成否を分ける
生成AIが社会的エンジニアリングを大幅に進化させている点を踏まえると、テクノロジーだけでは防ぎきれない人間の心理的弱点が今後の焦点となります。社員や取引先のリテラシーが低いと、どれだけ最新のツールを導入していても攻撃が成功しやすくなります。
したがって、クラウド環境におけるセキュリティ戦略の中に「教育」と「意識改革」が組み込まれているかどうかが極めて重要です。SASEやSSEのような技術的ソリューションと並行して、継続的なトレーニングや周知活動を行い、人間的な脆弱性を組織全体で最小化していく取り組みこそが、これからの時代の“鍵”となるでしょう。