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立体パズルの製作

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遊びの中にある学び  立体パズルづくりの実践

1.はじめに
 私はここ25年ほど題材「立体パズル」を中学校の技術の授業で取り組んできました。長く続いたのは、生徒の作りたいという意欲が高いことです。意欲があれば、多少の困難も乗り越えてきます。さらに、情報の学習内容も含めた取り組みになっていきました。このレポートは「立体パズル」の魅力、学び、取り組みを紹介するものです。

2.立体パズルとは
 立体パズルとは図-1のように、いくつかの部品を組み合わせて、9cmの立方体にすれば完成です。材料は3cmの角材、1mです。ホームセンターで、130円ほどで購入できます。この角材を図-2のように、3cm、6cm、9cmの長さに切断し、これらを接合すると、さまざまな形の部品を作ることができます。部品の組み合わせは
多様で、どれひとつ同じ作品にはなりません。
大人が組み立てを断念するほどの難易度の高いものもありました。image.png
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3.パズル大会を使用場面に
何のために設計して、使用するのかを生徒自身のものとするために、パズル大会を設定しました。パズルを使用し評価する場面となります。パズル大会はクラス総当たり戦で行います。試合は、互いに相手のパズルをくみ上げる早さを競います。より組み立て困難な立体パズルを作る事、相手の立体パズルをより早く組み立てる事は立体パズルの使用目的や使用条件になります。「難しいパズルとは?どうすれば難しくるのか」は、設計時に全生徒の共通の課題になります。

大会のルール
・このエントリーシートは組み立て済立体パズルと構想図プリントと交換で手渡される。
・試合は申し込まれたら、拒否できない。試合中は例外とする。同じ相手と再試合はできない。
・大会中はエントリーシートとペン、パズルを持ち、対戦相手を見つけてたくさんの試合をする。
・試合中の先生の「終了」の合図があったら、その試合はノーカウントになる。
・相手のパズルを、組み上げて相手に差し出した時の音が早い方を勝ちとする。
・敗者は勝者に正解を示す権利がある。勝者は20秒以内に組み立てて正解を示すこと。
・正解を20秒以内に示せない場合は勝者と敗者は逆転する。
・5分以上勝敗が決まらない場合、両者合意の上、引き分け戦を行う。
・引き分け戦とは自分のパズルを早く組立てた方の勝ちとし、3点が与えられる。
・試合結果は両者立ち合いの下、勝者がエントリーシートに結果を記入する。

4.パズルの構想・設計
 オリエンテーションの時間にキャビネット図の書き方を練習します。私は30cm段ボールの立方体を5つ用い、これらを組み合わせて、図-1にあるパズルの部品を例にしてキャビネット図の書き方を指導します。手順としては①正面図を描く。②奥行き線を描く。③奥行き線同士をつなげて、不要な線を消して完成させるのが一般的ですが、図-1にある側の左の部品(ピラミッドのような形)は難易度が高くなります。問題解決の方法として「難しい時は分けて考える手法」を用います。この部品の場合は手前の立方体1コと後方のL型の部分に分けます。後方のL型の部分だけを先に描き、後から手前の立方体1コを描き加えるようにします。奥行き線は右上45°に引くだけでなく、左下に引くこともあることを知ります。

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 キャビネット図が描けるようになっても、立体パズルの構想図は描けません。それは、各部品は描けても、部品の組上がった状態を表現できないからです。そこで「難しい時は分けて考える手法」を用います。立体パズルを上段、中段、下段に分けて、表記するようにします。
立体パズルの最小部品は3cmの立方体です。この最小部品で積み木のように立体パズルを作ると27個必要となります。下段、中段、上段にそれぞれ9個ずつ入るので、その枠を示します。この枠に部品番号を示す数字を入れていきます。同じ数字が入った枠は1つの部品を意味します。図-1の立体パズルを例に構想図作りを説明します。図-4は枠に入れた部品番号と部品の位置関係を示しました。

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図-4 構想図で示す部品の形や位置   キャビネット図で示す部品の形や位置
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下段の左側に手前から奥に9cmの部品①が横たわっている
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中央部に下段から上段まで突き抜けるように9cmの部品②が立っている
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下段の右奥隅にL字型の部品③が横に寝ている
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正面の下段と中段に互い違いの部品④を配置した
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ピラミッド風の部品⑤を左奥の中段と上段に配置した。
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コの字型の部品⑥を上段の正面に配置する。
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最後の部品⑦を中段と上段の右隅に配置する。
すべての枠に数字が入り、パズルの部品組み合わせができた

5.難易度の高い立体パズルを構想する
「難しいパズルとは?どうすれば難しくるのか」はこの構想場面から考えなくてはいけません。まずは、いくつか構想図を描き、描き慣れることから始まります。図-5では構想図で表現できても、実際に作れない場合もあること。部品によっては部品の位置情報を伝えてしまうことを共に考えていきます。構想したパズルの難易度を質問する生徒もいるので、上中下を2つ組み合わせて9段階の評価で答えています。「中中」「下上」といった具合です。構想図で設計するように進めていますが、どうしても無理な場合にはアーテックブロックで実物を作り、その組み合わせを構想図にするようにします。この段階で生徒には説明しませんが、難しいパズルは各部品の形で難易度を評価できます。図-6は難しいパズル部品はどれかを比較しています。Bと思いがちですが、Cです。どのように倒しても高さがある部品の割合が高いと難解なパズルになります。
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6.仮対戦、設計変更
 立体パズルを構想すれば、どれくらい難易度があるのか、試したくなるものです。いくつかから選び出した構想図を基にしてアーテックブロックでパズルを組み立てます。さらにパズルで仮対戦を行い、自分のパズルの難易度をつかみ、対戦相手のパズルのよい点を自分の構想図に活かすようにします。設計変更です。構想図から部品の形をイメージするのは抽象操作となるので、イメージがつかみにくい生徒には、アーテックブロックで実物を作り、それを構想図にまとめるようにします。
製作する構想図が決まったら、もう一枚構想図を描いてもらい、こちらで保管します。構想図をなくしたり、忘れたりしたときのバックアップ用です。

7.部品表
 製作する構想図が決定したら、部品表に進みます。下表は図-1の立体パズルの部品表です。
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部品表にある「30mm材料に換算」とは、3cmの立方体でその部品を作ると何個分になるかを記入します。「30mm材料に換算」の数を合計すると27になることを確認します。
間違いや記入ミスがないかチェックするものです。部品番号6番は2通りの材料取りの方法あります。どちらとも間違いではありませんが、特徴があります。同様に図-8の場合、Aでは、労力が少なく早く製作できる反面、中心位置に部品を接合することが難しい。Bは材料の個数が多いので労力がかかり、時間もかかるが、部品を中心位置に揃えやすいことを知り、目的に沿って、どちらの方法を選ぶか決めます。
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8.けがき作業
 差し金でけがきをします。5㎜間隔で線を引き、ケガキの練習をします。テーブルごとの角材で、引いた線を並べて、正確に線が引けたか確認します。けがき作業が終わったら、3cmの立方体で27個分になるかチェックしてから材料の切断に入ります。切断線と仕上がり寸法線の間隔は1㎜程度としています。けがく順番は部品番号順の方が確認しやすいです。

9.切削作業
 3cmの角材をノコギリで切削して材料を取り出しますが、曲がって切削し、材料が無駄になることもあり、まっすぐ切削できるようにノコギリ引き評価装置を開発し、使用しています。授業では、この装置を組み立てる事から始めます。つまり、材料と加工で立体パズルを作るのに、情報の技術である「コンピュータの構成」を機器を接続しながら学びます。この装置は正しいノコギリ引きの操作方法を知った上で、それにどれたけ近づいたかを評価します。2人一組になり、一人がノコギリを操作し、一人がモニターを見て評価し助言します。動作原理は下図に示します。ノコギリに加速度センサーを取り付け、傾き具合をアナログ信号で取り出し、この信号
をなのぼーどでデジタル信号に変換し、ラズベリーパイパソコンに取り入れます。傾き信号でモニター上の仮想ノコギリをリアルタイムで振れるようにScratchソフトでプログラミングしました。傾き具合を評価しやすいように、ノコギリの傾き具合の軌跡(青色)が残るようにしました。使用場面では、ノコギリ操作者が、引き始めに「今の傾きは?」と聞くとアドバイザー役は「少し右に傾いてるよ」と答えるといった具合です。
生徒の感覚としては、ノコギリは引いたり押したりすればとりあえず切れるといった認識なので、生徒にはまっすぐに切ることを価値付けします。そして垂直に切ろうと思うのですが、自分がどれだけ目標に近づいたかが分かりづらい。この装置を使ったことで、自分の傾向や問題点が分からないことにより、ノコギリ引きの評価や対応手段を考えるといったフィードバックが効かないことが上達できない原因であることが分かりました。この装置を用いて材料を立たせた生徒が「ノコギリ引きをマスターした!」と言うので、その極意を聞くと「姿勢を安定させること」と答えました。野球部の生徒は「バットと同じ、体幹を安定させることだよね」と言っていました。生徒がノコギリ引き評価装置を用いて極意をつかんでいった過程に技術的な高まりを感じました。
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ノコギリ引き評価装置
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ノコギリ引き評価装置で練習
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練習の成果! 材料が立った!

10.仮組み立て
 ノコギリによる切削後に、材料を組み合わせて、仮組み立てを行います。ここでも、作業に間違えがなかったか、自分で確認するためです。

11.検査
 仮組み立て後に、部品検査を行い、木口面が直角に交わっているかサシガネで調べます。
生徒には、いい状態の断面を3つ選ばせて、ノコギリ引き評価装置で検査をしておきます。
垂直を意識したので、切断結果も確認するのです。この装置のセンサー部の木片を生徒の切断面に置くと、傾きが測定できます。

12.ベルトグラインダによる加工
 ベルトグラインダの受け口に木片をボンドで
垂直に接合しておきます。こうすると、材料を垂直に切削できます。受け口と木片をガイドにして、材料を仕上げ寸法まで切削します。材料の高さ確認は、余りの材料を重ねて、6cmと9cmの基準を作り、比較し確認します。安全上、長い9cmの材料から順に加工するとよいです。
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図-11 ベルトグラインダの工夫

13.ボンド接合
 ボンド接合では、間違えて接合しないようにするための工夫や正確に接合するための工夫、短くなってしまった材料でも誤差を最小限にする工夫を学びます。図-12では、接合前に仮組立てして、接合ミスを防ぐようにしています。乾いている間に構想図プリントにキャビネット図を書いていきます。(別紙プリント)
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図-12 接合ミスを減らす工夫
14.面取り
 面取りの意味は2つあります。安全上の理由と部品の組み合わせ時のがたつきを軽減することです。辺や角を鉄ヤスリで削り落とします。

15.木地研き
 平面部分は布やすりで研いて仕上げます。

16.表面仕上げ
 表面仕上げで着色する場合は、塗装の薄さがポイントになります。塗料の厚みで部品が組めない場合もあるからです。
ポアーステインは色も種類があり、速乾性なのでお勧めです。塗り重ねると発色がよくなります。木目を活かす仕上げとしには蜜ろうワックスを布につけて研く方法もお勧めです。乾かす手間が省けるとともに、研いた木目がきれいだからが着色しないが理由です。着色した場合は乾かしている時に部品を見ながら、プリントにキャビネット図を描いていきます。
製作時間は進度で適切に区切り、大会に進みます。組み上げることが出来ていれば、大会には参加できます。
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図-13  表面仕上げ

17.パズル大会
 まずは同じテーブルの生徒と競技し、その後はフリーで競技相手を探します。教室のあちこちで「勝負!」や20をカウントダウンする声が響きます。パズルを組み立てるノウハウも競技を重ねていく中で法則化していきます。ヒントは人は両手で2コしか部品を持てません。始めにどの部品をつかむかがポイントです。
男女を意識してしまう場合は、異性とだけの対戦時間を半分設けることです。また、このパズル大会で一位になると、クラス一位同士が対戦するブロック大会への出場権が生じるのです。ブロック大会は昼休みなどに教室で行います。たくさんのギャラリーが集まります。

18.製作1.5倍
 立体パズルづくりは一回しかできませんが、悔しい思いをしている生徒も多いのです。そこで、「これまでの経験値を活かして、最強のパズルを設計しよう!」と声をかけて
構想図のプリントに再度パズルを設計します。2回目の設計では、難易度が高まり、経験を基に、構想図によく表しているなと感心します。

19.この体験をデジタル作品・プログラム作品に

scratchソフトで立体パズルの組み立て正解の動画を紙芝居風に作成します。この作品に製作の工程や難しいパズルづくりのコツや組み立てのコツも紹介します。デジタル作品ではありますが、プログラムで上向きの矢印キーが押されたら、動画が進むようにすると、プログラム作品にもなります。これらも含めて1年間のパズルづくりは終了します。
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資料 競技結果を一覧にしたもの
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資料 設計図
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20.25年ほど題材「立体パズル」を実践して

1私が開発したであろう鉄板教材の1つ。「手に持つと組み立てが止まらない」誰にでも取り組みやすいが、極めれば深みのある教材
2生徒の変容を感じる教材 目的を追求する心 技術的な物の見方が定着する。必要な技術の発見、技術をつかみとる力 他者とかかわる力 
3 立体パズルが持つ魅力とは、一人では生み出せないもの。目標や価値を共にする集団だからこそ生み出すもの。互いに切磋琢磨でき、ストーリー性のある題材環境がもたらした劇場型ものづくり
4パズル大会は「使う場面」であった。使うために作る。目的のために作る。使用目的
  や使用条件がクラスで共有できる。ものづくりにおいて、使う場面の重要さの再認識した。製作場面でも教え合い、高めあいができる。
5若いころはすぐに終了する小物の題材を多数作ろうとしていた。家庭科の調理実習が目標だった。2時間で完結する題材を探していた。製作進度差や仕切り直しの必要を感じていたから、生徒がのめり込んでくる勢いが引き出せなかったからか・・・
  立体パズルはその魅力に引き付けられるように他の内容も取り込んでいった。仕切り直しはもったいないと感じるようになった。いかに絡め手でいくかを考えるようになった。情報に関する技術、エネルギー変換に関する技術との複合化となっていった。
6立体パズルは設計重視。作るものを構想し製図し、製図したものを作る。空間立体の認知力を高める。(作品を設計するという当たり前のことも今は製作体験に終わっているケースがあるのでは)新指導要領ではキャビネット図が触れられなくったのは残念。立体パズルは等角図では表しにくい。製作物によって使用する製図法を選ぶことが大切。
7生活に使えるものとは レジャーも生活
8創意・工夫がいたるところに
9製作精度があらわになる教材
10製作1.5倍ができる教材(リベンジ設計ができる)
11長年1つの教材製作を実践し続けて、進化した。
12生徒の実態に応じて、設計製作の難易度を調整できる。ダミー部品も入れていくこともできる。
13基本材料が3cm、6cm、9cmの3つ。モジュール化した題材。
14時間があれば、接着剤以外の接合もできる。釘打ち、木ネジ、組継ぎなど、ステンシルもOK 
15130円で一年間もつ超廉価な題材
16収納スペースが小さい
17中学校技術の授業の作品は生活に使えるものでなくてはいけないという呪縛がありますが、製図は教え
るけれど、作品の設計図は描かない。製作するけれど、使用するか分からない。このような連続性のないものづくりが問題かと思います

今後の課題
・キャドによる設計
・パズルの収納ケース作り

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