TEAMZ Web3/AI Summit 2025 :日本のWeb3の現在地と未来展望
2025年4月16・17日に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された「TEAMZ Web3/AI Summit 2025」では、日本のWeb3・AI業界の最前線で活躍する企業や政策立案者が一堂に会し、様々な視点から日本のデジタル経済の未来について議論が交わされました。本記事では、各セッションのハイライトをまとめながら、日本のWeb3の現状と今後の展望について感想を踏まえながらまとめます。
🔰 そもそも「Web3」とは?
• Web1:読み取るだけのインターネット(例:HTMLホームページ)
• Web2:SNSやECなど「参加型」のインターネット(例:Facebook, Amazon)
• Web3:ブロックチェーンで「所有・報酬・分散」が可能な新しいインターネット(例:仮想通貨、NFT)
💡初心者へのワード集(用語解説)
• NFT(非代替性トークン):デジタルに唯一性を持たせる技術
• ウォレット:仮想通貨やNFTを管理するデジタル財布
• トークン:ブロックチェーン上で発行される資産的価値
• ステーブルコイン:法定通貨と連動して価格が安定した仮想通貨
Web3に関する基礎知識:理解を深めるための用語解説
バリデーター(Validator)
ブロックチェーンの取引やブロックの正当性を検証・承認するノード(コンピューター)のこと。PoS(Proof of Stake)型チェーンで使われ、大量のステーキング(担保)をしてネットワークに貢献します。トークンの「委任(Delegation)」を受けることもあります。
セキュリティトークン(ST)
法的に有価証券と位置づけられるデジタルトークン。日本では証券会社を通じた販売が必要です。不動産STは物件単位での投資が可能で、J-REITとは異なる投資機会を提供します。
DeFi(分散型金融)
仲介者を必要としない金融サービスをブロックチェーン上で実現する仕組み。現在は高利回りの運用や暗号資産担保のローンなどが主流です。
DAO(分散型自律組織)
中央集権的な意思決定者を持たず、コード化されたルールとメンバーの投票によって運営される組織形態。政治参加や地方自治への応用が期待されています。
ここからはサミットの内容を軽くご紹介します。
1. EXPO2025デジタルウォレットが拓くWeb3の未来
大阪・関西万博は「未来社会の実験場」というコンセプトのもと、Web3技術の社会実装の重要な契機となっています。HashPort代表の吉田氏が紹介したEXPO2025デジタルウォレットは、以下の特徴を持っています:
- NFTの取得や支払いで「経験値」が蓄積される設計
- 経験値に応じてパビリオン抽選の当選確率が上昇
- 「EXPOトークン」の導入(1トークン=1円)
- SBI提供のチャージ拠点を通じてVisa加盟店でも利用可能
これは万博史上初の全面キャッシュレス化を実現し、行政とフィンテック企業の連携モデルとして注目されています。
2. Web3・AIがもたらす新しい経済圏と政策の動向
自民党のホワイトペーパーを中心に、暗号資産に関する日本の政策動向が議論されました。暗号資産を新たなアセットクラスとして位置づけ、以下の政策転換が進んでいます:
- 現行の雑所得課税(最大55%)から分離課税(約20%)への移行
- 暗号資産のレバレッジ規制の緩和(2倍→10倍程度)
- 暗号資産ETFの国内解禁
bitFlyer、Coincheck、Sonyなど国内主要プレイヤーも参加したこのセッションでは、日本の暗号資産市場がかつて世界シェアの50%を占めていたが、現在は1%程度まで縮小した現状が指摘されました。この流れを変えるためには、迅速な制度改革と実効性のある施行が不可欠だというコンセンサスが形成されています。
3. RWA(実物資産)のトークン化とセキュリティトークンの展開
実物資産のトークン化市場は約3,100億円規模まで拡大しており、そのうち約7割を不動産が占めています。セキュリティトークン(ST)のユースケースとして:
- KDXは国内初の不動産STを発行、投資商品としての信頼性や体験的価値を重視
- TOYOTA FINANCE SERVICESは車両をST化し、投資家と自社顧客を直接つなぐ試み
- 不動産STは一物件単位での投資が可能(従来のJ-REITとの差別化)
- 車両所有権のトークン管理でメーター改ざん防止、メンテナンス履歴の可視化
セキュリティトークンは証券に位置づけられており、証券会社経由での販売が必要ですが、年内には日本初のステーブルコインが発行される見通しです。
4. 大手企業のWeb3戦略と課題
ソニー銀行、KDDI、楽天ウォレット、グリーなど大手企業のWeb3戦略が議論されました:
- ソニー銀行:IP活用による感性価値の創出、アーティストや映画作品とのNFTコラボ
- KDDI:「αU」ブランドでNFTマーケット・クリエイター支援・地方創生型NFTを展開
- 楽天ウォレット:楽天会員向けWeb3ウォレット提供、ポイントによるトークン購入
- グリー:シンガポール法人を通じたトークン投資、バリデーター事業に注力
共通の課題として、UXの障壁を下げること、既存事業との連携、法務・会計部門との調整が挙げられました。特に「バリデーター」(ブロックチェーンの取引・ブロックを検証・承認するノード)事業が安定収益モデルとして注目されています。
5. 日本におけるステーブルコインの展望
2023年の改正資金決済法を契機に、日本は「ステーブルコイン元年」を迎えました。SBIがUSDCを国内で初めて取り扱い始めましたが、以下の課題が残されています:
- 金融庁との認識のすり合わせやシステム設計に時間と労力を要する
- 100万円送金制限など実運用上の制約がある
- 流通構造が「ステーブルトークン→証券会社→ユーザー」と複雑
一方、ステーブルコインの優位性として:
- 店舗側にとっての低手数料
- インバウンド決済への適応
- DeFi市場での高利回り運用
- 国際送金の迅速化・低コスト化
今後はBTCを担保としたステーブルコイン発行など、新たな展開も見込まれています。
6. Web3・AIと地政学的インパクト
Web3技術の政治・行政への応用可能性も議論されました:
- ブロックチェーンによる政治資金の透明化
- スマートコントラクトを活用した補助金や意思決定の自動化
- 分散型自律組織(DAO)による地方自治の再構築
- トークンによる新しい政治参加・経済政策の可能性
元大阪市長の橋下徹氏はエスクロー業務や議会の代替などへのWeb3実装可能性を指摘し、川崎政務官は自民党のWeb3プロジェクトチームでの制度改革進捗を紹介しました。
まとめ:日本のWeb3の未来
TEAMZ Web3/AI Summit 2025から見えてきた日本のWeb3の未来について個人的な見解:
1. 税制改革による国内市場の活性化
暗号資産の分離課税導入は、かつて世界シェアの50%を占めていた日本市場を復活させる起爆剤となるでしょう。現在の最大55%の税率から20%程度への引き下げは、国内投資家の活動を促進するだけでなく、海外に流出した資金・人材の還流も期待できます。この改革により、日本は再びグローバル暗号資産市場の主要プレイヤーに返り咲く可能性があります。
2. 大手企業参入によるユーザー体験の向上
ソニー、KDDI、楽天などの大手企業が既存のユーザーベース(数千万人規模)を活用してWeb3サービスを展開することで、一般ユーザーにとって使いやすいUXが実現されつつあります。特に楽天ポイントとの連携や、ソニーのIPを活用したNFT展開は、Web3技術の裾野を大きく広げるでしょう。これにより「知らないうちにWeb3を使っている」状態が実現し、技術的ハードルを感じさせない普及が進むと期待できます。
3. 実物資産トークン化による投資機会の民主化
不動産セキュリティトークンによって、従来は億単位の資金が必要だった不動産投資が小口化され、一般投資家にも開かれます。また、トヨタによる車両のトークン化は、所有権の明確化やメンテナンス履歴の透明化を実現し、中古車市場の信頼性向上にも寄与するでしょう。これらは投資機会の民主化と実物資産市場の効率化という二重の恩恵をもたらします。
4. 2025大阪・関西万博でのWeb3体験の社会実装
万博でのEXPOデジタルウォレットは、多くの日本人が初めて本格的なWeb3技術に触れる機会となります。経験値の蓄積やトークン活用によるインセンティブ設計は、Web3の実用的なメリットを体感させる絶好の機会です。この実証実験が成功すれば、他の大規模イベントや都市インフラへのWeb3技術導入も加速するでしょう。
5. バリデーター事業による安定収益モデルの確立
グリーなどが先行するバリデーター事業は、Web3ビジネスにおける安定収益モデルとして注目されています。この分野は技術力のある日本企業が国際競争力を発揮できる領域であり、長期的にはブロックチェーンインフラの信頼性向上と日本企業の収益基盤確立という二つのメリットをもたらすでしょう。