第14章 リファクタリング ―既存コードを成長に導く技―
この章では、既存コードの可読性や保守性を向上させるためのリファクタリング手法と、それを安全に行うためのユニットテストの重要性、さらには仕様があやふやな場合の対処法まで、実践的かつ丁寧に解説されている。個人的には、単なる「コードの書き換え」ではないリファクタリングの本質が伝わってきて、非常に納得感があった。
14.1 リファクタリングの流れ
リファクタリングとは、「外から見た挙動を変えずに、コードの内部構造を整理すること」である。その目的は、読みやすさや保守性の向上にある。
主な手法
-
ネストの解消:条件を反転させて早期
return
などで処理を終了し、ネストを浅くする。 - ロジックの単位化:条件チェックと値の代入を分離し、それぞれを意味のあるまとまりにする。
-
条件の可読性向上:
!
を避け、肯定的なメソッドに置き換える(例:!isEnabled()
→isDisabled()
)。 - 目的を表すメソッドへの抽出:生の条件式を、意図が伝わるメソッド名に置き換える。
こうしたリファクタリングは、可読性やチーム内の共有理解を高めるうえで非常に効果的だと実感した。特に「否定形を避ける」工夫は、コードレビューの負担を減らす観点でも重要だ。
14.2 ユニットテストでリファクタリングのミスを防ぐ
ユニットテストは、コードを安全にリファクタリングするために欠かせない。特に「リファクタリングにはユニットテストが必須」という強調には共感する。
リファクタリングの流れ(TDD的アプローチ)
- 構造のひな形クラスを用意
- 仕様に基づいたテストコードを書く
- テストの失敗を確認する
- 最小限のコードでテストを通す
- 既存ロジックを組み込みつつ構造改善
- 少しずつリファクタリングしてテストを通す
この手順は、「壊しては直す」の繰り返しで、安全かつ段階的に構造を改善していける点が非常に良い。特に既存コードの改修時に使えるパターンだと感じた。
14.3 あやふやな仕様を理解するための分析方法
リファクタリング以前に「仕様が不明」なケースも多い。そうした場合の分析方法として以下の2つが紹介されている。
仕様化テスト
- 適当な引数で挙動を確認
- テストを調整して仕様を類推
- 様々なパターンで挙動を観察し、仕様を可視化
試行リファクタリング
- 一時的にリファクタして可読性を上げ、仕様を推定
- メソッドやクラスの切り出しを試す
- デッドコードや不要仕様を発見
この2つの方法は、特にレガシーコードと向き合うときに有効だと感じた。特に「テストなしの試行リファクタリング」は、新人時代に直感的にやっていた方法であり、言語化されたことで自信を持てた。
14.4 IDE のリファクタリング機能
IDEのリファクタリング機能も有用で、ミスを防ぎつつ機械的な変更ができる。
主な機能
- リネーム:クラス・メソッド・変数名を一括変更
- メソッド抽出:長い処理を意味のある単位に切り出す
日々の開発でもよく使う機能だが、「テストコードを書ける単位に分離する目的」での活用は新たな視点だった。
14.5 リファクタリングで注意すべきこと
機能追加とリファクタリングは同時に行わない
- 「2つの帽子」(機能追加・リファクタリング)を明確に分けることで、作業の目的と結果をはっきりさせる。
スモールステップで実施する
- コミット単位を細かく保つことで、レビュー・原因特定が容易になる。
- 変更が多くなる前にPRを出すことで、コンフリクトのリスクを減らせる。
無駄な仕様の棚卸し
- バグを含む仕様や、他と競合する仕様は削除対象とする。
このあたりの指針は、リファクタリングだけでなく、チーム開発全体に通じる重要な考え方だと感じた。「何のために変更しているのか」を明確にすることが、最終的なコード品質に直結する。
Rails アプリのリファクタリング
Ruby / Ruby on Rails のような動的型付け言語では、リファクタリングの難易度が高くなる。そのため、以下のような工夫が必要となる。
- 型判定の箇所はリスコフの置換原則を意識し、適切に抽象化
- クラス・メソッドはユニークな名前にして検索ノイズを減らす
- ビジネスロジックを疎結合に分離し、フレームワーク機能はカプセル化
Rails 開発経験がある身として、このアドバイスは非常にリアルだった。特に「名前の衝突を避ける」工夫や、フレームワークとの境界設計は、プロジェクトの長寿命化に直結する。
まとめ
第14章を通して、リファクタリングは単なる構文の書き換えではなく、設計の見直し・仕様の再確認・チーム開発における共通理解を深めるためのプロセスであることが伝わってきた。
個人的には、**「壊さないように整える」**という考え方が、日々の開発においてもっと意識されるべきだと感じた。単に美しく整えるだけでなく、意図を明確に、テストとセットで進めることで、コードベース全体がより健全に育っていくのだと思う。
この章は、実践的なリファクタリングの指針として、繰り返し読み返したくなる内容だった。