第15章 設計の意義と設計への向き合い方
この章では、ソフトウェア設計の本質的な価値と、それにどう向き合うべきかが丁寧に語られています。特に、設計がソフトウェアの成長性に与える影響、さらにはエンジニア自身の成長性にまで波及するという視点は、深く胸に刻まれるものでした。
設計とは何か
設計とは、課題を効率的に解決するための「仕組みづくり」であり、ソフトウェア設計とは品質特性の向上を目的としたその仕組みづくりです。本書では「変更容易性」に焦点を当て、保守性を高めるための設計手法にフォーカスしていることが明記されています。
パフォーマンスや信頼性といった特性の影に、つい見過ごしがちな「変更容易性」が、開発生産性を根底から支えていることに改めて気付かされました。
設計を怠ると生産性が落ちる
設計を行わずに突き進んだ結果、レガシーコードが生まれ、技術的負債が積み重なります。バグの埋め込みやすさ、可読性の低下、そして設計する時間すら失われていく「木こりのジレンマ」。
まさに「頑張っているのに成果が出ない」状態を引き起こしてしまう構造。経験の中で、設計の大切さに気づいたときには、もう手遅れだった場面が幾度も思い出されました。
設計は未来への投資
ソフトウェアだけでなく、エンジニア自身の成長性までもがレガシーコードに縛られる。これは、特に胸に刺さるポイントでした。新しく入ったメンバーは、既存のコードをお手本にする傾向があるため、レガシーな書き方が連鎖し、悪循環が続くのです。
「気づかぬうちに自分のコードがレガシー化しているかもしれない」という自戒は、読みながら何度も頭をよぎりました。
課題を知覚するために必要なもの
技術的負債は目に見えづらく、プログラミング知識があってもその構造を理解できなければ知覚できません。課題とは「理想」と「現実」のギャップであり、理想を知らなければギャップも感じられません。
現場では「動いているから大丈夫」と流されてしまうことも多いですが、見えない部分にこそ目を向けられる設計者でありたいと強く思わされました。
コードの良し悪しを測るには
行数、複雑度、凝集度、結合度などのメトリクスを使ってコードの構造的な質を数値化する。中でも「マジカルナンバー4」は興味深く、人間の短期記憶の限界に配慮して設計するという考え方は、非常に実践的です。
また、分割したクラスが読みにくいと感じる理由が「そのクラスを信頼していないから」だという指摘は、設計者としての未熟さを突きつけられたような気がしました。
分析ツールで設計を可視化する
Code Climate や Understand、Visual Studio など、さまざまなコード分析ツールが紹介されています。更新頻度の高いコードと技術的負債の重なりを見つけて改善するというアプローチは、まさに実務で活かせる知見。
Code Climate は以前試したことがありましたが、きちんと活用すれば十分に元が取れる投資であると再認識しました。
設計対象の選定と費用対効果
時間もコストも限られる中で、どこに設計コストをかけるべきか。その判断に必要なのはビジネス知識であり、ドメインエキスパートとの協業が重要になります。
コアドメインに集中する設計は、設計者の理想と現実がぶつかり合う場所。エンジニアだからと技術だけを見ていてはダメで、サービスそのものの本質に迫る視点が必要だという提言に、静かな衝撃を受けました。
設計で時間を操る
設計によって未来の時間を節約することは、まるで「時間を操る」能力。レガシーコードに時間を奪われる日々から抜け出し、生産性の高い開発へと移行するには、設計という武器を磨くしかありません。
その一歩を踏み出す覚悟を、静かに、しかし力強く促してくれる章の締めくくりでした。
総括
設計とは「未来の時間をつくること」。その意義と向き合い方を、これ以上ないほど明確に教えてくれる章でした。今の自分の設計力に自信があるわけではありません。でも、「より良い設計とは何か?」と問い続ける姿勢こそが、レガシーを断ち切る第一歩なのだと、読み終えた今、そう感じています。