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第10章 名前設計 ―あるべき構造を見破る名前―

ソフトウェア開発において、設計や実装の中核を担う「名前」に対するアプローチとして、「目的駆動名前設計」という考え方が本章では提示されている。これは単なる命名ではなく、名前を設計し、ソフトウェアの構造や意図を明確に表現することを目的とする。

特にビジネス目的に根ざした名前を与えることが、密結合の防止やロジックのカプセル化、可読性の向上に寄与する。UIやDBから逆算して設計を考えるようなアプローチでは、こうした「目的」が入り込む余地がなくなり、設計の柔軟性や拡張性を損なうこともある。


悪魔を呼び寄せる名前

抽象的で曖昧な名前は、あらゆるロジックを吸い寄せる「目的不明オブジェクト」になりやすい。たとえば、「商品」という言葉に様々な意味を詰め込んでしまうと、実際の業務で必要な「注文品」や「在庫品」といった違いが曖昧になる。関心事ごとにクラスを分離し、それぞれにふさわしい名前を設計することで、影響範囲を限定し、変更にも強くなる。

このアプローチをとるには、開発フェーズにおけるドメイン理解の深さが問われる。特に、ウォーターフォール型のプロジェクトであっても、新しい概念が登場した際には柔軟に名前と構造を見直すべきであり、データベースのリファクタも視野に入れる必要があるだろう。


名前を設計する ―目的駆動名前設計

プログラミングにおける名前の役割は可読性の確保だけではない。目的に特化した名前によって、疎結合高凝集な設計が可能になる。設計とは「課題を解決するための構造を考えること」であり、名前もその一部として重要な設計要素である。

名前設計の原則

  • 具体的かつ意味範囲の狭い名前を選ぶ
    「金額」よりも「請求金額」「消費税額」といった特化した名前が適している。こうすることで、ロジックの分離や仕様変更への対応がしやすくなる。

  • 存在ベースより目的ベースで考える
    「ユーザー」や「人」といった存在ベースの名前ではなく、「注文者」「受取人」のような目的に基づいた命名が望ましい。

  • 関心事の分析と会話による言語化
    チームでの会話の中で意図や目的を擦り合わせることが、自然と分析につながる。実際、プロジェクト初期にこうした議論がなされないまま開発が進むと、仕様の解釈にずれが生じ、曖昧な名前が蔓延することになる。

  • ユビキタス言語の活用
    ドメインエキスパートと開発者が共通の言葉を持ち、それをコード・会話・ドキュメントで一貫して使用することが重要。とはいえ、これを維持・運用していくにはかなりの労力が必要である。

  • 利用規約の言葉を参考にする
    サービスのルールを正確に記述する利用規約は、ビジネス目的に即した名称の宝庫である。普段見逃しがちだが、一度目を通しておくと、設計にも役立つヒントが得られる。

  • 類語や表現の検討を怠らない
    意味を狭める言い換えができないか常に検討し、「なんとなく」つけた名前が妥当かどうかを問い直す姿勢が求められる。

  • 疎結合高凝集の観点から点検する
    名前が広義になって結合度が高まっていないか。関連するクラスが増えていないか。これらは設計のメンテナンス性に大きく影響する。


設計時に注意すべきリスク

  • 命名に無頓着にならない
    チーム開発において、名前の精度は全体の設計品質に直結する。命名とロジックの対応付けが曖昧になると、保守性も一気に下がる。

  • 仕様変更による意味範囲の変化
    名前の意味が変更と共に変化したら、名前自体を見直す必要がある。見直しを怠ると、異なる概念が混入し、バグの温床となる。

  • 会話に出るのにコードに存在しない名前
    重要なドメイン概念が名前として登場しないと、コードを読むだけでは理解できなくなり、属人性が高くなる。名前が存在しないロジックはクラスやメソッドに構造化するべき。

  • 形容詞で区別する状況は設計の見直しポイント
    たとえば「仮の」「確定した」など、口頭で形容詞を使って区別しているなら、それらを個別のクラスとして分けるチャンス。単なる bool やプリミティブでの管理を避け、構造で違いを表現することで理解しやすくなる。

過去に悩んだ命名の問題も、本章の考え方を知ることで解像度が上がり、言語の選び方に新たな指針が見えた。特に「形容詞を避け、構造で表現する」という点は、今後の設計判断に活かしていけそうである。


意図がわからない名前のリスク

「tmp」や「cache」といった技術駆動の命名は、意図が読み取れず混乱を招く可能性がある。ただし、目的が明確に技術寄りであれば、技術的語彙も適切に活用してよい。たとえば「productListCache」など、用途と文脈が伝わる名前であれば問題ない。

また、shouldXxx() のような命名は、英語的な曖昧さに注意しつつも、意図を明確に伝える良い手段となる。文脈と一貫性を保った命名が重要だ。


まとめ

第10章は、命名に対する意識を「単なる名前付け」から「構造を支える設計行為」へとシフトさせることの重要性を強く訴えていた。名前は可読性のためだけでなく、ソフトウェアの構造や責務、ドメイン知識そのものを表現するものである。

命名をおろそかにすると、密結合やロジックの分散を招き、変更に弱いコードとなってしまう。逆に、ビジネス目的に即した具体的で特化された名前を設計することで、疎結合高凝集を実現し、開発の見通しを大きく改善できる。

現場で起きがちな「曖昧な命名」や「形容詞での説明」などにも明確な改善策が示されており、実務に直結する知見が満載だった。ドメインの深い理解とチームでの対話を通じて、名前を「設計」する文化を育てていくことが、より良い開発体験と成果につながると確信できる内容だった。


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