この記事の概要
2023/09/03に
PMI Agile Certified Practitioner (PMI-ACP)®
を受験したので、その時の記録
試験の概要
PMIとは
PMI(Project Management Institute/PM協会)は1969年にアメリカで設立された、プロジェクトマネジメントに関するグローバルな非営利組織で、PMBOKなどのプロジェクトマネジメントの標準の策定や、PMPなどのプロジェクトマネジメントの資格認定などを行っています。
PMI-ACP(PMIアジャイル認定実務者)とは
PMI-ACPはPMIが提供する資格の一つで、アジャイル開発の実践的経験とスキルを認定する資格です。
「Agile practitioner(アジャイル実務者)」とはアジャイルリーダーやスクラムマスターを指します。
2023/04にPMI日本支部より公開されたレポートによると、2022年の日本国内におけるPMI-ACP保有者数は374名となっています。
PMI日本支部 アニュアル レポート2022より
受験に際しては下記の前提条件を満たす必要があります。
■ 前提条件
条件 | 基準 |
---|---|
学歴 | 中等教育(高校卒業または同等資格)以上の副学位 |
一般的な プロジェクト経験 |
過去5年間で12か月以上、かつ2,000時間以上の一般プロジェクトの経験 ※以前は「プロジェクト"管理"の経験」だったようですが、 現在はマネジメント以外のロールでも対象に変更されています。 ※現在のPMP®またはPgMP®はこの要件を満たしますが、 PMI-ACPを申請する必要はありません。 |
アジャイル プロジェクト経験 |
過去3年以内で8か月以上、かつ1,500時間以上のアジャイルプロジェクトの経験 |
アジャイル プラクティス研修 |
アジャイルプラクティスに関する21時間のトレーニング受講(PMIにより認定された講座) |
◼︎ 試験要項
受験方式:CBT方式(テストセンターまたは自宅受験)
問題数 :120問 (うち20問は採点対象外)
試験時間:3時間
受験料 :
・会員: $435.00
・非会員: $495.00
合格ライン:非公開(70%程度らしい)
◼︎ 出題範囲
分野 | 試験の項目の比率 |
---|---|
分野 I.アジャイルの原則と考え方 | 16% |
分野 II.価値主導のデリバリー | 20% |
分野 III.ステークホルダーの関与 | 17% |
分野 IV.チームのパフォーマンス | 16% |
分野 V.適応型計画 | 12% |
分野 VI.問題検出と解決 | 10% |
分野 VII.継続的改善(製品、プロセス、人材) | 9% |
■ 更新
アジャイルプロジェクトマネジメントのトピックにおいて3年ごとに30のPDU取得
公式試験ガイド
ページ中程のセレクトボックスで「Japanese」を選択すると日本語版ガイドがダウンロードできます
上記の試験要項は2023/07時点のものなので、今後改定の可能性もあるので、受験時は上記公式のガイドでの確認をおすすめします。
勉強開始前の状態
スクラムマスター経験が3年ほど
受験までの流れ
- PMIのアカウントを作成
- 受験の前提条件を満たす「アジャイルプラクティストレーニング」を受講
- 受験のための事前申請を行う(ここでプロジェクト経験や受講したトレーニングなどについて入力する)
- 上記の申請が通ったら、試験の申し込みを行う
- 会場で受験する
1.PMIのアカウントを作成
PMIのサイトにアクセスし、右上の「Register」から作成できます。
氏名、メールアドレス、キャリアに関する簡単なアンケートに答えるだけなので、数分で終わります。
2.トレーニング受講
アジャイルプラクティスに関するトレーニングを受講します。
PMI-ACPより対象トレーニングとして認められているものを受講する必要があります。
Udemyで検索するといくつかヒットしますが、日本語の講座はないようです(2023/07時点)
今回は日本語の講座の中で比較的受講しやすそうな「E-PROJECT」の提供するEラーニングを利用しました。
その他、会場での集合研修もあるようです。
受講費用は高いですが、時間とお金(会社の経費で受講できるなど)の調整が可能であれば、こういったものを選択するのもありかもしれません。
3.本を読む
Eラーニングの内容はわりと早足で、テキストも難しい言葉で分かりづらい部分が多かったので、書籍も2冊購入。
トレーニングの受講と並行でより深く知りたい部分を探して読んでいきます。
1冊目「アジャイル型プロジェクトマネジメント」
Amazonのレビューでも何人か書いているが、PMBOKをもとにしたプロジェクトマネジメントの話が主で一部アジャイルについて触れているといった内容でした。
2冊目「アジャイル グローバル資格対応 PMI-ACP試験パーフェクトマスター」
日本語の試験対策本としてはこの1冊しかなさそうだったので購入(2023/08時点)。Eラーニングと同様のカリキュラムでより詳しく説明したような内容でわかりやすかったです。アジャイルのアクティビティやプラクティスなどについて体系的に書かれており個人的にはおすすめです。
4.事前申請(Application作成)
PMIのサイトにログインし、PMI-ACPのページから、「Apply for ~」のボタンから申し込みに進みます。
申し込みは1項目ごとに保存可能で、途中で終了してあとで再開することもできます。
※必須項目の入力欄は記載されていないと途中保存できず、ログインセッションが切れると保存操作時にログイン画面に戻されて入力内容が消えてしまうので、プロジェクト経験など書くのに時間がかかる部分はエディターなど別の場所で作文してからC&Pすることを推奨します。
自身のダッシュボードから「Certifications」を開くと作成途中(In Progress)の申し込み(Application)が見られます。
申し込み情報を送信すると「Status」が「Submitted」になり、内容の審査待ちになります。この審査には最大5日間かかると書いてあります。
プロジェクト経験などの記載内容は以下の記事を参考に、自身の経験を思い出しながら機械翻訳ツールを利用し、記入しました。
無事審査が通るとStatusが「Submit Payment」になります。私の場合、送信から丸5日間かかりました。「Pay for Exam」から受験料の支払いができます。
5.試験申し込み
受験料の支払いを行うとすぐに試験予約ができるようになります。「Schedule Exam」ボタンを押すと、ピアソンVUEの予約画面へ遷移します。
ピアソンVUEでテストセンターと日時を選び予約完了すると、予定されている試験日程が表示されるようになります。あとは当日テストセンターに行って受験するだけです。
6.受験
予約時間を過ぎてしまうとキャンセルになってしまうので、当日は予約時間の30分前を基準にテストセンターに向かいましょう。今回は35分前に受付してそのまま受験開始できました。
勉強時間
Eラーニングや模試など勉強にかけた時間が30時間程度、申請の文書作成に5時間程度かかりました。
Eラーニングの動画は1.5倍速で見たので、動画視聴時間は14時間程度です。
受験後
結果は合格。しっかり見直しして30分程残して終了。
提出直後に画面上で結果が表示される形でした。
内容は仕事でスクラムマスターなどアジャイル開発を実践している人からしたらそれほど難しくはないと思いますが、PMI独特の用語や怪しい日本語、文章が短すぎて説明が足りていない問題文(「この言い方だと正解になりそうなの2つあるんだけどな〜」とか)もわりと出てくるので、少しもやもやしながらの提出でした。
少ししたらWebでスコアレポートも見られるようになります。スコアレポートでは、点数ではなくおおよその正答割合だけが表示されます。
「継続的改善(製品、プロセス、人材)」だけは「Above Target(目標を超えた)」になりませんでしたが、この分野は一番出題率が低く、1問間違えるだけで正答率が大きく落ちるので気にしないことにします。
更新について
PMIのダッシュボードでは保有資格の有効期限までの日数とPDUの取得状況が確認できます。
PMI-ACPの場合、取得の3年後までに30PDU相当の「Education(Eラーニングなどによる学習)」または「Giving Back(PM実務)」を申請した上で更新費用を払う必要があります。
※受験前のトレーニングが21PDUでしたが、この21PDUは更新に必須な30PDUに含めることはできません。
Udemyの講座でPDUを取得できるものがセールになったときに買っておくのがよさそうです。
勉強になったことメモ
試験のために勉強したことで、今後どこかで使えそうなことを忘れないようにメモ
アジャイル/スクラムに関してはある程度の経験と事前知識がある状態だったので、この試験対策で覚えた用語や概念など書き出していく。
用語 | 説明 |
---|---|
情報ラジエーター | チームの情報を見える化するもの、カンバンボードやバーンダウンチャートなどを指す。チーム間の信頼を高め、透明性を促進する。(お互い何をやっているか常に見えると信用できる) |
適応型 | ウォーターフォールは予測型、アジャイル開発は適応型で、漸進型と反復型の要素も含んでいる。 |
アジャイル実務者 | スクラムでいうところのスクラムマスター。アジャイルプロダクトマネージャーやアジャイルリーダーとも言う。 |
コロケーション (Co-location) |
英単語の意味は「設備などを共用すること。また、そのために同じ所に配置すること。」アジャイルではチームを1つの作業場所に集めることを指す。(動名詞、「コロケーションする(される)」という使い方) |
浸透性コミュニケーション | アジャイルの創始者の一人であるAlistair Cockburn氏の造語。同じ場所にいることでメンバー間の会話が無意識に耳に入り、浸透するように頭に入る。結果、チーム全体の情報共有になるという考え方。 |
ジャストインタイム | トヨタ生産方式で登場する「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ」供給して無駄をなくす考え方。 |
ハイタッチ | 人間的に触れ合うこと、ハイタッチなツール=コミュニケーションを重視したツール、付箋やボード、カードなど |
累積フロー図 | 作業の進行を視覚化したもの。ボトルネックの検出に向いている。 |
ROI (Return On Investment) |
投資収益率。高いほど費用対効果が高いと言える。 |
ハーズバーグの二要因理論 | 仕事への満足度は「動機付け要因」(満足をもたらす要因)と「衛生要因」(不満のもたらす要因)解消の両方が満たされることで成り立つ、という理論。 |
ブルームの期待理論 | 「それをすることで得られる結果への期待値」と「その行為によって得られる報酬の魅力」によってモチベーションが決まる、という理論。 |
ピグマリオン効果とゴーレム効果 | 他者から期待されることで期待に応えるようにパフォーマンスが向上することをピグマリオン効果という、逆に期待されないことでパフォーマンスが低下することをゴーレム効果という。 |
差異分析 | 予測と実績を比較し、その差異の原因分析を行うこと。 |
管理図 (コントロールチャート) |
PBIのサイクル時間を視覚化する。PBIたちのサイクル時間が一貫していればSPの予測が外れていないことがわかる。サイクル時間がばらついている場合、同じSPでもデリバリーにばらつきが出ていることになる。 |
リスクバーンダウンチャート | プロジェクトがどれぐらいリスクを残しているかを視覚化したもの。プロジェクトにおいて考えられるリスクを書き出し、その発生確率と発生時に失う時間をかけたものをバーンダウンチャートの形にする。イテレーションが進み、リスクが解消された場合、解消されたリスクの時間を合計から引いた数字をプロットしていく。 |
プレモータム (事前分析) |
障害発生時に将来への学びにつなげるためのポストモータム(事後分析)に対し、事前に失敗を予測し、失敗が起こる原因を分析するのがプレモータム。 |
類推見積もり/類推法 | 同様のプロジェクトの実績など過去の情報から相対的に見積もる。 |
スコープクリープ (Scope creep) |
プロジェクトの途中で徐々に要件が変形/拡大すること。「要件クリープ」や「機能クリープ」とも言う。アジャイルにおいては、ニーズに合わせてスコープが変化することは健全だが、プロダクトバックログ等で正しく管理されるべきである。 |
計測/分析
ビジネス価値の評価
アジャイルの手法ではないが、アジャイルプロジェクトマネジメントでも一般的な価値評価の技法や指標を利用できる。
技法/指標 | 説明 |
---|---|
ROI(Return On Investment/投資対効果) | 投資に対する利益の割合。 ROI=利益/投資 |
PP(Payback Period/回収期間) | 投資金額を回収する期間、短いほどよい。PBP(Pay Back Period)とも言う。 |
DCF(Discounted Cash Flow) | 将来価値を利率によって算出する、あるいは期待する将来価値から現在価値を逆算する手法。 |
NPV(Net Present Value/正味現在価値) | 現在価値から初期投資を引いた額。 |
IRR(Internal Rate of Return/内部収益率) | NPV=0としたときの利率。 |
EVM(Earned Value Management)
アーンド・バリュー・マネジメント(英: Earned Value Management, EVM)とは、予算および予定の観点からプロジェクトがどのように遂行されつつあるかを定量的に評価し、コスト効率と進捗率を一度に把握するためのプロジェクト管理の技法である。
Wikipediaより
会議の進行
会議の進行はアジャイルに限ったことではないが、アジャイルリーダー/スクラムマスターは会議で有意義でスムーズなコミュニケーションを促進する必要がある。
- 明確なゴール(目標)を設定する
- 進め方のルールを決める。例えば、質問がある時は手を挙げる、同意の場合サムズアップなど。
- タイムボックスを設定し、厳守する。
- 参加者に目を配り、、何も言わない人や何か言いたげで言わない人を見つける。全員を参加(いるだけではなく、議論に参加)させる。
アジャイルの意思決定
アジャイルにおいて意思決定は誰か一人が行うのではなく、開発チーム、ステークホルダー、プロダクトオーナー相互の合意の元行われる。
自己組織化
スクラムマスターはチームの自己組織化を支援する。「自己組織化」は具体的にどういった状態を指すのか。
- 開発チームは目標を達成(PBIをDone)するための手段を検討し、自分達で仕事を割り当てる(タスクにサインアップする)
- タスクに対する具体的な見積もりと、ストーリーDoneまでの計画を行える
- 自ら定期的に情報ラジエーターを更新する
- それぞれが状況に応じて複数の領域のタスクにサインアップできる
- アジャイルプロセス、アジャイルプラクティスを理解し、実践できる
- 受入テストを含む全工程を実施できる
- インクリメントについて定期的なデモを行える
- ドキュメントから情報を取得し必要に応じて追加のヒアリングを行うなど、プル型のコミュニケーションができる
問題の早期検知
アジャイルにおいて問題(ゴール達成ができなくなる可能性)を早期に検知するためには「差異分析」を行う。
(差異分析=予測と実績の差)
「バーンダウンチャート」はイテレーション内のデリバリー速度の予測と実績である。
「管理図(コントロールチャート)」はプロジェクト全体のPBIがDoneになるまでの時間の予測と実績である。
この予測と実績に乖離が発生したとき、なにか問題が起きてないか検査する必要がある。
コンフリクト・マネジメント
チームメンバー間のコンフリクト(対立)が発生した場合には適切な対処が必要となる。
コンフリクトのレベルは5段階あるとされる。
PBIを小さくスライスするとなにが嬉しいのか?
いくつかのメリットがある
- 段階的にデリバリーすることで利用者はより早くその恩恵を受けはじめることができる
- 早期にレビューすることでスコープを最小限にする(早めに見せれば「これだけでいいじゃん」になるかも)
- 早期にレビューすることで変更や追加が必要な箇所に気づく(たくさん作ってからレビューすると作りすぎ/手戻りの無駄が発生する)
- レビュー頻度を増やすことで顧客の理想を引き出し、早期に反映する
- レビュー頻度を増やすことで適切に進捗していることの見える化ができる
- レビュー頻度を増やすことでPOとの関係を強化できる
PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)
プロジェクトマネジメントの標準化や改善をするためのチーム。
アジャイルにおいてはチームのコーチングや組織の教育など組織全体でのアジャイルへの対応促進を担う。
SME(Subject Matter Expert)
SMEとは「特定領域の専門家」を指す。プロジェクトに関連するドメインの知識を持っている人物であり、要求を明確にしたり、チームに対しインプットをするためにSMEとのコミュニケーションの機会を作ることは有効である。
コーチング
ティーチング(教育)は一方通行で何かを教えること。
トレーニング(訓練)は知識/スキルなどを磨き鍛えること。
コーチング(指導)は質問や傾聴など双方向的なコミュニケーションをとることで、相手に何かを気づいてもらうこと。
スクラムマスターはチームに対し、コーチングを行う責任がある。
スクラムマスターの心得
この学習で改めてスクラムマスターのあるべき姿を考え直した。
今後も忘れないように書き出しておく。
- スクラムマスターが最も重要視するべきことは、開発チーム・POの全員がプロジェクトの目標に対する共通認識を持ってもらうこと
- スクラムマスターはチームに必要な資源を提供し、割込みや外部からの妨害から保護する
- 支援はしても指示/命令はしない(アドバイスにとどめる)
- インクリメントの作成以外の割込みに対しては、チームのかわりをしてでもチームを保護する
- コーチングは相手の気づきによる成長を促すこと、一方的に教えてバイアスを掛けるべきではない
- ファシリテーションの基本を意識する
- 全員に参加させる
- 発言のないメンバーに話を振る
- イエス/ノーなどの答えやすい質問をする
- 全員参加できる方法(投票など)を活用する
- MTGのゴールを設定する
- タイムボックスを守る
- 議論に参加しない
- 議事をとる
- 全員に参加させる