数論をしばらく勉強していなかったら完全に忘却してしまったので復習がてら記事を書きます. 高次冪剰余の相互法則というのは所謂平方剰余の相互法則と呼ばれる整数論の有名な定理の一般化で, この法則を解明するのが長い間整数論の発展の大きな動機となってきました. 今回は話を単純にするため, 本記事内では体の標数はすべて0とします.
#Kummer理論
まず初めにKummer理論という理論を紹介します. この理論は$n$冪根($\mathrm{char}K\nmid n$)の添加による拡大を調べる理論ですが, ここではKummer理論の一部のみに触れ, 標数0の局所体の指数$n$の最大Abel拡大のGalois群を調べるだけに留めます.
###Galoisコホモロジー
例によって例の如くここでもGaloisコホモロジーの理論の一部のみを紹介します. (というか実際のところ, 私自身Galoisコホモロジーの理論をほとんど知りません.)
$L/K$をGalois拡大とし, $G=\mathrm{Gal}(L/K)$とします. また$A$を$G$-加群, 即ち$G$が作用するAbel群とします.(ここでは演算は加法的に書くこととします.) このとき以下のように2つの群を定義します:
Z^1(L/K,M):= \{h:G\to M\mid \forall\sigma,\tau\in G, h(\sigma\tau)=h(\sigma)+\sigma(h(\tau))\}\\
B^1(L/K,M):= \{h:G\to M\mid \exists a\in M \,\text{s.t.}\forall\sigma\in G, h(\sigma)=\sigma(a)-a\}
$Z^1,B^1$の元のことをそれぞれ1-cocycle, 1-boundaryと呼びます. ここで, 以下の事実が簡単にわかります:
(1) $Z^1,B^1$は点ごとでの演算により群をなす.
(2) $B^1$は$Z^1$の部分群である.
証明.
(1) $h_1,h_2\in Z^1(L/K,M)$を取ると$\sigma,\tau\in G$に対して
\begin{align}
(h_1+h_2)(\sigma\tau)&=h_1(\sigma\tau)+h_2(\sigma\tau)\\
&=h_1(\sigma)+\sigma h_1(\tau)+h_2(\sigma)+\sigma h_2(\tau)\\
&=(h_1+h_2)(\sigma)+\sigma(h_1+h_2)(\tau)
\end{align}
$B^1$に対しても同様. Q.E.D.
(2) $B^1(L/K,M)\ni h:\sigma\mapsto \sigma a-a ,(a\in M)$とすると
\begin{align}
h(\sigma\tau)&=\sigma\tau a-a=\sigma\tau a-\sigma a+\sigma a-a\\
&=\sigma h(\tau)+ h(\sigma)
\end{align}
より$h$は1-cocycleである. Q.E.D.
ここで$M$の1次Galoisコホモロジー群 $\mathrm{H}^1(L/K,M)$を
\mathrm{H}^1(L/K,M):=Z^1(L/K,M)/B^1(L/K,M)
と定義します.
ここでここまでに定義したGaloisコホモロジー群の性質を見ていきます.
命題(コホモロジーの関手性)
$\varphi:A\to B$が$G$-加群の射であるとき$\varphi_\ast:\mathrm{H}^1(L/K,A)\to\mathrm{H}^1(L/K,B)$が自然に誘導される.
証明.
$h\in Z^1(L/K,A)$とすると$\psi:=\varphi\circ h:G\to B$は1-cocycleであることを示す. $\sigma,\tau\in G$に対して
\begin{align}
\psi(\sigma\tau)&=\varphi(h(\sigma\tau))\\
&=\varphi(\sigma h(\tau)+h(\sigma))\\
&=\sigma\psi(\tau)+\psi(\tau)
\end{align}
であるので$\psi$は1-cocycleである. これが群の射であることも容易にわかるので$\varphi':Z^1(L/K,A)\to Z^1(L/K,B)$が定義できる. $\varphi'(B^1(L/K,A))\subseteq B^1(L/K,B)$であることも同様に示せるので, $\varphi'$から射$\varphi_\ast:\mathrm{H}^1(L/K,A)\to\mathrm{H}^1(L/K,B)$がwell-definedに定まる. Q.E.D.
一般に$G$-加群$M$に対してその$G$-不変な部分加群を
M^G:= \{a\in M\mid \forall\sigma\in G, \sigma a=a\}
とすると, この関手は左完全であることがわかります.
命題
$$0\to A\overset{\varphi}{\to}B\overset{\psi}{\to} C\to 0$$が$G$-加群の完全列であるとき, 自然に誘導される射$\varphi_0,\psi_0$から構成される列$$0\to A^G\overset{\varphi_0}{\to}B^G\overset{\psi_0}{\to} C^G$$も完全列である.
証明.
$A^G$での完全性は$\varphi_0$の単射性と同値であり, これは$\varphi$の単射性より明らかである. $B^G$での完全性を示す. $\mathrm{Im}\varphi_0\subseteq\mathrm{Ker}\psi_0$は明らかなので逆の包含関係を示す. $b\in\mathrm{Ker}\psi_0$とすると$b\in\mathrm{Ker}\psi=\mathrm{Im}\varphi$より, ある$a\in A$が存在して$\varphi(a)=b$となる. $a\in A^G$が示されれば$b\in \mathrm{Im}\varphi_0$がわかるのでこれを示す. もし$a\notin A^G$であったと仮定すると, ある$\sigma\in G$が存在して$\sigma a\neq a$となる. $\varphi$は単射なので$$b=\varphi(a)\neq \varphi(\sigma a)=\sigma\varphi(a)=\sigma b$$となるがこれは$b\in B^G$に反する. Q.E.D.
命題
$G$-加群の完全列$$0\to A\overset{\varphi}{\to}B\overset{\psi}{\to} C\to 0$$が存在したとき, 標準的な射$\delta:C^G\to\mathrm{H}^1(L/K,A)$が存在する.
証明.
$\psi$の全射性より, 任意の$c\in C^G\subseteq C$に対して$\psi(b)=c$なる$b\in B$が存在する. ここで$\sigma\in G$に対して$\alpha_\sigma:=\sigma b-b$という$B$の元を考える. このとき$$\psi(\alpha_\sigma)=\sigma\psi(b)-\psi(b)=\sigma c-c=0$$より$\alpha_\sigma\in \mathrm{Ker}\psi=\mathrm{Im}\varphi$なので, ある$a_\sigma\in A$が存在して$\alpha_\sigma=\varphi(a_\sigma)$となる. ここで$a:G\to A;\sigma\mapsto a_\sigma$が1-cocycleとなっていることを示そう. $\sigma,\tau\in G$
に対して
\begin{align}
\varphi(a(\sigma\tau))&=\sigma\tau b-b\\
&=\sigma\tau b-\sigma b+\sigma b-b\\
&=\sigma(\tau b-b)+\sigma b- b\\
&=\sigma\varphi(a(\tau))+\varphi(a(\sigma))\\
&=\varphi(\sigma a(\tau)+a(\sigma))
\end{align}
となり, $\varphi$の単射性より$a$は1-cocycleであることがわかる. Q.E.D.
ここで非常に重要な次の定理を示せます:
定理
$G$-加群の完全列$$0\to A\overset{\varphi}{\to}B\overset{\psi}{\to} C\to 0$$が存在したとき, $$0\to A^G\overset{\varphi_0}{\to}B^G\overset{\psi_0}{\to} C^G\overset{\delta}{\to}\mathrm{H}^1(L/K,A)\overset{\varphi_\ast}{\to}\mathrm{H}^1(L/K,B)\overset{\psi_\ast}{\to}\mathrm{H}^1(L/K,C)$$は完全列である.
証明.
略.
Galoisコホモロジーに関する有名な定理として体の乗法群を$G$-加群とみなしたときのGaloisコホモロジー群の消滅を主張するHilbertの定理90があります:
定理(Hilbertの定理90)
Galois拡大$L/K$に対して$\mathrm{H}^1(L/K,L^\times)=1$が成立する.
ここでは証明はしません. 証明は[3]の4.13節等を参照してください.
###Galoisコホモロジーを使ってみる
$n$を固定した3以上の整数, $K$は1の$n$冪根を含む標数0の局所体, 即ち$\mathbb{Q}_p$の有限次拡大体とし, $L=K(\sqrt[n]{K})$とします. ここで$K(\sqrt[n]{K})$は$K$に
\{\sqrt[n]{a}\mid a\in K\}
を添加した体とします. これは無限次拡大になりそうに見えるかもしれませんが, 局所体の乗法群の構造定理([1] II章 命題5.7参照)より, ある整数$m$に対して
K^\times\simeq \mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\oplus{\mathbb{Z}_p}^{\oplus [K:\mathbb{Q}_p]}
となるのでこれは有限次拡大になります. ここで$\mu_n$を1の冪根がなす群として, 以下のような完全列を考えてみましょう:
1\to\mu_n \overset{\iota}{\hookrightarrow} L^\times \overset{\varphi}{\to} L^{\times n}\to 1
ここで
L^{\times n}=\{ a^n\mid a\in L^\times \}
であり, $$\varphi:a\mapsto a^n$$ とします. これのコホモロジー完全列を取ることを考えましょう. 簡単な計算により
\begin{align*}
\mu_n^G&=\mu_n\\
(L^\times)^G&=K^\times\\
(L^{\times n})^G&=K^\times
\end{align*}
がわかります. また, Hilbertの定理90より$$\mathrm{H}^1(L/K,L^\times)=1$$もわかります. よって上の完全列のコホモロジー完全列を取ると
1\to \mu_n\overset{\iota}{\to} K^\times\overset{\varphi_0}{\to} K^\times\overset{\delta}{\to}\mathrm{H}^1(L/K,\mu_n)\overset{\iota_\ast}{\to}1
となります. (最後の項は使わないので省略しています.) ここで見慣れないのは$\mu_n$のコホモロジーだけですが, これをなにかわかりやすいもので記述できないでしょうか? $Z^1(L/K,\mu_n),B^1(L/K,\mu_n)$を詳しく見てみましょう. $\mu_n$は$K$に含まれているので$L/K$のGalois群は自明に作用する, 即ち任意の$\sigma\in G=\mathrm{Gal}(L/K), \zeta\in \mu_n$に対して$$\sigma\zeta=\zeta$$が成り立つことと, $\mu_n$の群演算が乗法的に表されていることに注意すると
\begin{align*}
h:G\to\mu_n\in Z^1(L/K,\mu_n)&\Leftrightarrow \forall\sigma,\tau\in G, h(\sigma\tau)=h(\sigma)\sigma h(\tau)=h(\sigma)h(\tau)\\
h:G\to\mu_n\in B^1(L/K,\mu_n)&\Leftrightarrow \exists \zeta\in\mu_n\mathrm{s.t.} h(\sigma)=\frac{\sigma\zeta}{\zeta}=1
\end{align*}
となります. 即ち, 1-cocycleであることは$G$から$\mu_n$への群準同型であることと, また1-coboundaryであることは自明な準同型であることと同値なのです. これにより
\mathrm{H}^1(L/K,\mu_n)\simeq \mathrm{Hom}_{\mathrm{Grp}}(G,\mu_n)
がわかります. ここで上の完全列に戻って, $\delta$に対して伝家の宝刀「準同型定理」を使ってみましょう. すると
\mathrm{Hom}_{\mathrm{Grp}}(G,\mu_n)\simeq K^\times/\mathrm{Ker}\delta=K^\times/\mathrm{Im}\varphi_0\simeq K^\times/K^{\times n}
が得られます. ここで$\mu_n\simeq\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$より以下の定理が得られます:
定理
$G:=\mathrm{Gal}(K(\sqrt[n]{K^\times})/K)$とすると
$$\mathrm{Hom}_{\mathrm{Grp}}(G,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})\simeq K^\times/K^{\times n}$$が成立する.
また, 以下のようにして$G$はAbel群であることがわかります. $K$は$\sqrt[n]{K^\times}$で生成されているので, $G$の$L=K(\sqrt[n]{K^\times})$への作用は各$a\in\sqrt[n]{K^\times}$への作用によって定まります. ここで各$\sigma\in G,a\in\sqrt[n]{K^\times}$に対して$a^n\in K$なので
\left(\frac{\sigma a}{a}\right)^n=\frac{\sigma a^n}{a^n}=1
であることから$\zeta_{\sigma,a}\in\mu_n$が一意に定まって
\sigma a=\zeta_{\sigma,a} a
となります. また, $\sigma,\tau\in G$に対して, $\zeta_{\tau,a}\in\mu_n\subseteq K$より
\zeta_{\sigma\tau,a}=\frac{\sigma\tau a}{a}=\frac{\sigma\tau a}{\sigma a}\frac{\sigma a}{a}=\sigma(\zeta_{\tau,a})\zeta_{\sigma,a}=\zeta_{\tau,a}\zeta_{\sigma,a}
であるので
\sigma\tau a=\zeta_{\sigma\tau,a}a=\zeta_{\sigma,a}\zeta_{\tau,a}a=\zeta_{\tau,a}\zeta_{\sigma,a}a=\zeta_{\tau\sigma,a}a=\tau\sigma a
となり, これが任意の$a\in\sqrt[n]{K^\times}$に対して成立するので可換性が示せます. また任意の$\sigma\in G$に対して
\sigma^n a=\zeta_{\sigma,a}^n a=a
より$\sigma^n=1$であることより
\mathrm{Hom}_{\mathrm{Grp}}(G,\mathbb{R}/\mathbb{Z})=\mathrm{Hom}_{\mathrm{Grp}}(G,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})
であることがわかり, $G$は有限Abel群なのでPontryagin双対から, 次の定理が得られます:
定理
$G\simeq K^\times/K^{\times n}$
Kummer理論全体を展望するには不十分ですが, 我々の目的である高次冪剰余の相互法則のためにはこの程度で十分なので今回はこの程度で終わりとします.
#参考文献
[1] Jürgen Neukirch 『代数的整数論』, 丸善出版株式会社, 2012
[2] 加藤和也 黒川信重 斎藤毅 『数論I』, 岩波書店, 2005
[3] 雪江明彦 『代数学2』, 日本評論社, 2010
[4] 志甫淳 『層とホモロジー代数』, 共立出版, 2016
[5] Grégory Berhuy "An Introduction to Galois Cohomology and its Applications", Cambridge University Press, 2010