0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

【GEE入門】MODISの蒸発散量(ET)データを使って時系列分析のグラフ作成

Last updated at Posted at 2025-07-16

はじめに

蒸発散量(ET: Evapotranspiration)は、地表面からの蒸発と植物からの蒸散を合わせた水分の大気への移動量を表す重要な指標です。干ばつ監視、農業管理、水資源評価など、幅広い分野で活用されています。

本記事では、MODIS MOD16A2データセットを用いて、エチオピアにおける蒸発散量の季節変動パターンをDOY(Day of Year)時系列プロットとして可視化する手法を詳しく解説します。

複数年分のデータを年度ごとに可視化することで、年ごとの蒸発散量変動パターンを直感的に比較・分析できるようになります。

この記事で学べること

  • MODIS MOD16A2データセットの基本概念と特徴
  • 蒸発散量(ET)の概念と干ばつ監視での活用方法
  • DOY時系列プロットの作成技術
  • ui.Chart.image.doySeriesByYear()関数の詳細な使い方
  • MOD16A2MOD11A2の違いと使い分け

chart_modis_et_doy_timeseries_2015-2019_ethiopia

対象読者

  • Google Earth Engineの基本操作を理解している方
  • 衛星データを使った環境監視に興味がある方
  • 干ばつ監視や農業分野での応用を考えている方

本記事は、Udemy講座「Google Earth Engine Mega Course」の内容を参考に、筆者自身の学習過程で得た知見を補足しながら作成しています。

蒸発散量(ET)の基礎知識

蒸発散量(ET)とは

蒸発散量(Evapotranspiration)は、以下の2つの過程を合わせた水分移動量を表します:

  • 蒸発(Evaporation):土壌や水面からの直接的な水分蒸発
  • 蒸散(Transpiration):植物が根から吸収した水分を葉から放出する過程

ETデータの活用分野
ETは干ばつ監視において重要な指標となります。干ばつ時には土壌水分の減少や植物ストレスにより、ETが大幅に減少するためです。

  1. 干ばつ監視:ETの減少パターンから干ばつの早期検出
  2. 農業管理:作物の水ストレス評価と灌漑計画
  3. 水資源評価:流域の水収支計算と水資源管理

MODISについて

MODIS(Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer、モディス)はNASAが開発した地球観測センサーで、1999年打ち上げのTerra衛星と2002年打ち上げのAqua衛星に搭載されています。Google Earth Engine(GEE)で最もよく使われる衛星データの1つです。

主なMODISデータの種類

MODISにはさまざまなデータ種類があります。分析目的や用途によって、最適なデータセットを使用します。

データID データ種類 解像度 観測間隔
MOD11A2 地表面温度 1km 8日間隔
MOD13A1 植生指数 500m 6日間隔
MCD12Q1 土地被覆 500m 年1回
MOD10A1 積雪 500m 日次
MOD16A2 蒸発散量 500m 8日間隔

例えば、以下の記事ではMOD11A2データセットを使って、地表面温度(LST)データの時系列分析を行っています。

MODIS MOD16A2データセットについて

MOD16A2は、Terra衛星に搭載されたMODISセンサーによる蒸発散量データセットです。水分の移動量を推定し、植生と水分の相互作用を評価することができます。

MOD16A2の基本情報

項目 内容
正式名称 MOD16A2.006 Terra Net Evapotranspiration 8-Day Global 500m
データID MODIS/006/MOD16A2
主な用途 蒸発散量の時系列分析、干ばつ監視
空間解像度 500m
時間解像度 8日間隔
単位 mm/8日 × 10(スケールファクター適用済み)

今回使用するデータセット

本記事では以下のデータセットを使用します:

蒸発散量データ: MOD16A2.006 Terra Net Evapotranspiration 8-Day Global 500m

項目 内容
データID MODIS/006/MOD16A2
対象期間 2015〜2019年
使用バンド ET(蒸発散量)
空間解像度 500m
対象地域 エチオピア

実装手順

スクリプト全体像

まず、Google Earth EngineのCode Editorに記述するスクリプトの全体像をご紹介します。

このスクリプトをCode Editorにコピー&ペーストすれば実行可能です。

// MODIS MOD16A2を使用したET(蒸発散量)のDOY時系列プロット

// 1. 簡略化された国境データセットを読み込み
var countries = ee.FeatureCollection("USDOS/LSIB_SIMPLE/2017");
var Ethiopia = countries.filter(ee.Filter.eq("country_na", "Ethiopia"));

// 2. MODIS ETデータを読み込み(MOD16A2: 8日間隔500m ETプロダクト)
var ET = ee.ImageCollection("MODIS/006/MOD16A2")
  .filter(ee.Filter.date("2015-01-01", "2019-12-31"))  // 2015-2019年の期間でフィルタリング
  .select("ET");  // 蒸発散量バンドを選択

// 3. エチオピア全体の年別平均ETのDOY時系列プロットを作成
var chart = ui.Chart.image.doySeriesByYear(
  ET,                // 画像コレクション
  "ET",              // バンド名
  Ethiopia,          // 対象地域
  ee.Reducer.mean(), // リデューサー関数(平均値)
  500                // 空間解像度(メートル)
);

print(chart);

コードのステップ別解説

ここからは、上記のスクリプトをブロックごとに詳しく解説していきます。

1. 国境データの読み込みと地域設定

このブロックでは、国境データセットを読み込み、分析対象地域(エチオピア)を定義します。

var countries = ee.FeatureCollection("USDOS/LSIB_SIMPLE/2017");
var Ethiopia = countries.filter(ee.Filter.eq("country_na", "Ethiopia"));
スクリプト抜粋 意味・目的
ee.FeatureCollection("USDOS/LSIB_SIMPLE/2017") ImageCollection IDを使って世界の国境データセットを読み込み
.filter(ee.Filter.eq("country_na", "Ethiopia")) 国名が"Ethiopia"と一致する地域のみを抽出

今回使用した、Google Earth Engine(GEE)の公式カタログに登録されている国際境界データセット「LSIB 2017:Large Scale International Boundary Polygons, Simplified」のImageCollection ID等の情報は、Earth Engine Data Catalog上で確認できます。

USDOS/LSIB_SIMPLE/2017.png

2. MODIS ETデータの読み込み

このブロックでは、MODIS MOD16A2データセットに含まれる蒸発散のデータについて、期間を指定して読み込んでいます。

var ET = ee.ImageCollection("MODIS/006/MOD16A2")
  .filter(ee.Filter.date("2015-01-01", "2019-12-31"))
  .select("ET");
スクリプト抜粋 意味・目的
ee.ImageCollection("MODIS/006/MOD16A2") MODIS MOD16A2データセットを読み込み
.filter(ee.Filter.date("2015-01-01", "2019-12-31")) 2015年〜2019年の期間でデータをフィルタリング
.select("ET") 蒸発散量バンドのみを選択

データセットの読み込みに使用するImageCollection IDや、データセットに含まれるバンド名の情報(今回は蒸発散量バンドET)は、Earth Engine Data Catalog上で確認できます。

MOD16A2.png

3. DOY時系列チャートの作成

このブロックでは、前処理を終えた蒸発散量データを用いて、年ごとのDOY(Day of Year)時系列チャートを作成します。

var chart = ui.Chart.image.doySeriesByYear(
  ET,                // 画像コレクション
  "ET",              // バンド名
  Ethiopia,          // 対象地域
  ee.Reducer.mean(), // リデューサー関数(平均値)
  500                // 空間解像度(メートル)
);

print(chart);
スクリプト抜粋 意味・目的
ui.Chart.image.doySeriesByYear() DOY(1〜366)ごとの年別時系列チャートを作成する専用関数
ET 変換済みの蒸発散量データを第1引数として指定
"ET" 対象バンド名を第2引数として指定
Ethiopia 統計計算を行う地理的範囲を第3引数として指定
ee.Reducer.mean() 地域内のピクセル値の平均を計算する統計手法を第4引数として指定
500 MOD16A2データの本来の解像度(500m)と一致させることで正確な統計値を取得

ui.Chart.image.doySeriesByYear()の引数構成

ui.Chart.image.doySeriesByYear(
  imageCollection,  // 第1引数:画像コレクション
  bandName,         // 第2引数:対象バンド名(文字列)
  region,           // 第3引数:統計計算の対象領域
  reducer,          // 第4引数:統計手法(平均、最大、最小など)
  scale             // 第5引数:空間解像度(メートル)
)

この関数により、X軸にDOY(1〜366)、Y軸に蒸発散量を持つ線グラフが生成され、各年のデータが異なる色の線で表示されます。

実行結果

スクリプトを実行すると、以下のような時系列チャートがGEEのコンソールに表示されます:

chart_modis_et_doy_timeseries_2015-2019_ethiopia

このチャートから以下のことが読み取れます:

  • 季節変動パターン:年初(DOY 1-100)は低く、雨季(DOY 150-250頃)に高くなる典型的な熱帯気候の蒸発散パターン
  • 年間変動:2015年と2019年は他の年と比較してETが高い傾向
  • 干ばつ指標:ETの低下は干ばつの兆候として活用可能

まとめ

本記事では、Google Earth EngineとMODIS MOD16A2データを使用して、蒸発散量のDOY時系列プロットを作成する手法を詳しく解説しました。

重要なポイント

1. 蒸発散量データの理解

  • MOD16A2は干ばつ監視や農業管理において重要なデータセットです。

2. 応用可能性

この手法は以下のような応用が可能です:

  • 他の地域や期間での蒸発散量分析
  • 降水量データとの組み合わせによる水収支評価
  • 農業分野での作物の水ストレス監視
  • 気候変動影響評価への活用

参考資料

教材

データセット

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?