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続 テストガールRINA(怒濤編)

Last updated at Posted at 2016-12-17

プロフィール

  • RINA:主人公(女性)。職歴10年の中堅テスター。前職はプログラマー。
  • まりまり:RINAの後輩(RINAのOJTを受けている)。入社1年目。仕事内容に色々と疑問を感じはじめている。以前RINAが「何でうちの会社に入ったの?」と訊いたら「友達が勝手に応募しちゃったから!」と答えたツワモノである。
  • YUMO先輩:RINAの先輩。職歴20年のテストエンジニア。前職で100名を超えるテストチームを統括した経験を持つ。
  • あだち部長:RINAの職場である評価部の部長。人当たりは柔らかいが、QCD必達の「伝説の開発者」だった過去を持つとのうわさあり。

※ 実在の人物からお名前をお借りしましたが「全てフィクション」です。

この物語について

宮木あや子氏が書いた「校閲ガール」という本が、今秋、石原さとみ主演で「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」 としてTVドラマ化されました。

11月初めにこの物語(テストガールRINA)のモデルとなったリナさん(@____rina____)が『校正憲章』について、ツイッターに、
  「やっぱり校正とテストは似てると思うの」
とつぶやきました。
そしたら、それに対して湯本剛さん(YUMOのモデル:@yumotsuyo)が
  「やっぱりドラマ化しないとね」
とリプライし「それでは!」ということで私が連ツイして『テストガールRINA』が生まれました。

書いていてとても楽しかったのですが、1ツイート140文字の制限が辛く、ほとんどのツイートは300文字とか500文字程度を書きなぐった後に推敲して140文字に収めたものでした。
そんなことがあり、いつか文字数の制約がゆるいところで続編を書きたいなと思っていたところ、「ソフトウェアテスト Advent Calendar 2016」の存在を知り、書こうと思ったしだいです。

シーン1. (いつもの朝)08:55

九州なので暖かいと思われがちだが、福岡の冬は寒い。
曇っている日はなおさらである。
RINAがロッカールームでオレンジ色のコートをハンガーに掛けていると、後輩の まりまり が白い息を吐きながらロッカールームの扉をバンッと開き入ってくる。

まりまり「RINA先輩! おはようございます!! 今日も寒いですね!!!」
(若い娘の語尾にはいつも『!』が余計についている)

RINA「そうね。今日は特に冷えるわね」

まりまりがコートを脱ぐと、ローズドクロエの良い香りがする。海外出張した彼氏のお土産だそうである。
でも、香りに敏感なRINAには、少し強く感じた。『もう少しふんわりした香りのほうが、まりまりには似合うのになあ』と残念に思う。
(ちなみにRINAの香りはロジェ・ガレである)

まりまり「うー。寒いよぉ」
(震えている)

RINA「『寒い寒い』って。 あれ? ミニスカにそんなに薄いストッキングはいてたら寒いに決まってるでしょ」

まりまり「先輩の黒タイツあったかそうですよね ヾ(๑╹◡╹)ノ"」

RINA「まりまりもタイツにしたらいいのに」

まりまり「そうはいきません。(。-`ω´-) ひとり身としては男子の目線が気になりますから」

RINA「男子の目線ねぇ。ところでそのストッキング何デニール?」

まりまり「15デニールです。先輩は?」

RINA「80デニールよ。15じゃ寒すぎるでしょ」

まりまり「はい。ブルブルしてます。でも男の子って薄いのがお好きなんでしょう? (o^^o)」
(ちょっとおどけてみせる仕草もなかなか可愛いらしい。ちょっとガッキーに似ていなくもない)

RINA「いいことを教えてあげるわ。20代の男子100人にアンケートをとった結果、冬場のタイツで最も好ましく思った厚さは」

まりまり「厚さは?」

RINA「平均86.6デニールでした」

まりまり「(ㆀ˘・з・˘)えー。なんでまた」

RINA「男子にとってストッキングもタイツもあまり関係無いそうよ。それより脚の形や合わせるブーツに目がいくんですって。脚線美が映えるのは40デニールという調査結果もあるし。薄けりゃいいってものじゃないのよ。ちなみに女性に同様のアンケートをとったら66.9デニールが一番美しく見えるってさ」

まりまり「あー。損したー。でもコヤマン先輩も『俺はニーハイ』って言ってたし。なんとなくですが『ひとの好みが多様』なのは分かります」

RINA「ところでストッキングとタイツの境界は知ってるよね?」

まりまり「ハイ! 薄くて寒いのがストッキングで、厚くて暖かいのがタイツです」

RINA「違いはだいたいそうだけど、境界値は?」

まりまり「境界値なんてあるんですか??」

RINA「いつも『数値で表されているものがあったら境界を探せ』っていってるでしょ。一般的には、さっきから話題になっている糸の太さの単位であるデニールの値が20以下だとストッキング、30以上はタイツよ」

まりまり「25は?」

RINA「┐(・_・;)┌ さあ?」

まりまり「30未満がストッキングで30以上がタイツなら良かったのに」

RINA「そうよねえ。それならプログラマーは困らないでしょうね」

まりまり「そうですよ。化学繊維の太さなんていくらでも作れるんだから。そういうときにプログラマーはどうするんですか?」

RINA「仕様を確認するわ」

まりまり「でも20以下だとストッキングで30以上だとタイツという仕様なんですよね」

RINA「それがね。会社によっては、
  7~19デニール:ストッキング
  20~39デニール:オペイクタイツ
  40デニール以上:タイツ
と呼んでいるところもあるの(福助株式会社)。
そもそも日本化学繊維協会では1999年にデニールではなく国際標準 ISO用語のデシテックスを使うっていう方針に決めたし」

まりまり「デシテックス! なにそれ、聞いたこと無い。それと、19.5デニールが気になる~」

RINA「そうよね~。1999年からかなり経っているのにね」

まりまり「そうですよ。タイツメーカーの怠慢ですよ Σ(-᷅_-᷄๑)」

RINA「でもね。国際規格に準拠するよりも、お客様が理解できることのほうが大切でしょ。まりまりだって、40デシテックスという表示があったら買うの迷わない」

まりまり「めっちゃ迷います。袋に入っていると濃く見えるし、タイツやストッキングって、はいてみて初めて自分の肌の色と合っているか分かるんですよね。私が買うようなのは試着するようなものじゃないし」

RINA「ところで、タイツの目的には脚線美だけでなく保温・保湿・耐久性(伝線しにくい)もあるわ」

まりまり「『品質特性ごとにテスト結果をエビデンスとして残す』んでしたよね?」

RINA「ええ。そうよ」
(この子、、、思ってた以上に優秀だわ……。)

シーン2. (仕様追加)13:00

RINAが勤務しているクラウディックは中堅のソフトウェアハウスである。いわゆるクラウドサービス中心のビジネスであり、月額利用料金を低く抑えているので、多くのお客様と良い関係を築き、末長くサービスを利用していただく必要がある。
今日(12月16日)は、年明けのリリースに向けて開発中の『出退勤管理システム』の最終段階のテストをしているところだ。年末年始の休み中にクライアント先のオンプレミスのシステムを新リリースのクラウドシステムに切り替える必要がある。まさに正念場である。

あだち部長「ちょっと話があるので、みんな集まってくださーい」
(みな席を立ってあだち部長の方を向く)

あだち部長「午前中にクライアントから電話がありました。派遣法の改正をにらみ、工数の集計機能を社員と派遣社員で分けてできるように変更して欲しいそうです。開発部長は了解したので次回のインテグにはその機能が盛り込まれることになりました。大変と思いますが、テストケースの追加をお願いします。以上です」
(みな自分の仕事に戻る)

まりまり「こんなギリギリの時期に仕様変更なんて、いったい何を考えてるんでしょうね。怒涛の年末進行になりますねっ。 (ノ ▽ο▽)ノ ゴゴゴ」
(文句を言いながらも、修羅場経験の無い彼女は燃えているようだ)

RINA「良くあることよ。いい、私たちはサービスを作っているの。『サービスは常にお客様の要求を取り込んで進化していくもの』よ。それが宿命なの」

まりまり「宿命ですか。でも先輩はいつも、『リリース直前のコード変更はリスクが高い。だからリリース直前にレポートしたバグが直らなくても文句言うなよ』って言いますよね。バグ修正はナシで、仕様の変更はアリなんですか?」

RINA「リリース直前の仕様の変更が良いわけないじゃない。でも、使えないシステムをリリースすることはもっとだめ。お客様に喜んで使っていただくのが私たちの仕事よ」

まりまり「でもねー。納得いかないっす。『開発部長がOKして新機能が搭載されるんだからテストは必要』、それは頭ではわかっているんです。でも、テストはいつも受身で、誰かのワガママを吸収することがあたりまえで、がんばってバグを見つけることもあたりまえで、見逃したら叱られて、、、。正直、辛いっす。 (>_<)」

RINA「そうよね」

そこにフラッっとYUMOがやってきた。YUMOはいつもふらふらと職場を巡回している。RINAは『YUMO先輩は、いったい、いつ仕事をしているのか?』といつもいぶかしく思っている。

YUMO「おやおや、2人とも沈んだ顔して。どうした?」

RINA「YUMO先輩。今回の機能追加どう思います? こんな時期に非常識ですよね。まりまりとそのことについて話しているうちにすっかり自信を失ってしまいました」

YUMO「そうだね。リリースは年明けといっても開発できるのは年末の28日まで。19日に新機能が入ったテストバージョンが上がってきたとして、テストできるのは20,21,22日の実質3日だろう。開発者だってバグが出たら直さないとならないからね」

RINA「できるんでしょうか」

YUMO「あだち部長は『RINAと まりまり なら出来る』って言ってたよ。『もし間に合わなかったら責任は俺が取る』とも仰っていたな。
僕らが守るのはバグゼロだけじゃないから。品質そしてなにより価値あるサービスをお届けするミッションがあることを忘れないで」

RINA「はい。わかりました」

まりまり「はい」
(そして、12月20日にテストは始まった)

シーン3. 12月22日 (テスト最終日)20:00

まりまり「あれ、派遣社員のAさんが集計されていない……」

まりまり「先輩。派遣社員のAさんの工数集計がされていません」

RINA「どれどれ。あれ? Aさんは社員の方に集計されているわね。Aさんのペルソナをみせて」

まりまり「Aさんは、とても仕事が出来る派遣社員のペルソナです」

RINA「工数と関係しそうな条件はある?」

まりまり「あっ! Aさんは月度の中で社員にジョブチェンジ(従業員区分変更)しています!!」

RINA「そうか。計算時の従業員種別で集計されるのね。本当は両方の表に現れないとならないのに」

まりまり「先輩! 見なかったことにしましょう!!」

RINA「だめよ」

まりまり「だってこのことを知っているのは先輩と私だけですよ。黙っていたらいいじゃないですか」

RINA「だめよ」

まりまり「明日から3連休ですよね。それじゃあ携帯でプログラマーのSekiさんを呼び出してとっちめましょう」

RINA「それもだめ」

まりまり「じゃあ、どうするんですか?」

RINA「こういう緊急事態のときほど【正式ルート】よ」

まりまり「えー。Redmineでチケット発行ですか? そんな悠長なことしてていいんですか??」

RINA「いいのよ。まりまり、正式ルートは確かに遅いけど、漏れなく関係者に情報の周知ができるの。逆にSekiさんを招集して直してもらっても、それは、この事象を見えにくくしてしまうだけなの。そっちのほうが怖いのよ」

まりまり「そんなもんですかねー?」

シーン4. 1月10日 (クライアント利用開始日)10:00

RINA「なんとか間に合ったわね」

まりまり「間に合ってないじゃないですか。結局、派遣社員の月度中の社員化条件の集計バグは直ってないし」

RINA「それはいいのよ」

まりまり「バグがあるのにいいんですか?」

RINA「うん。いいの。だってクライアントにあのバグの話はしてあるし、少なくとも1月中に発生しそうに無い条件ですって」

まりまり「使われなければそこにバグがあっても問題は起こりようが無いと」

RINA「そういうこと。
   『今月中にゆっくりと直してもらえれば十分』ですって。
   営業のMさんがお客様に上手く話してくださったわ」

まりまり「営業のMさんが動いてくださったのも【正式ルート】だったので組織を超えた問題の共有ができたからなんですね」

RINA「そのとおり」
(この子、、、本当に飲み込み早いわ……。)

RINA「ひとつ良い言葉を教えてあげる。これは小林陽太郎って人が言ったんだけど、

仕事は常に、人間によって行われ、人間のつながりによって進行していくことを忘れてはならない。人間関係の輪が大きくなれば、同時に仕事の輪も大きくなる。人間同士の信頼が深まれば、仕事の輪の内容は豊かに充実してくる。強い信頼で結ばれた人間関係こそ、すべての仕事の基盤である。

チームを信頼すること。自分も信頼されるように原則を守ること。お互いこれからも頑張ろうね」

まりまり「はい。ところで今晩はプロジェクトの打ち上げですね! たべるぞー!!」

YUMO 「おー。今日は2人とも元気そうだな。あだち部長もふたりの頑張りにとっても感謝してたぞ。さっき『ありがとうって伝えてくれ』と言ってた」

まりまり「じゃあ今日の打ち上げは、あだち部長とYUMO先輩の奢りってことで!!!」

おしまい

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