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試合に勝って勝負に負ける

Last updated at Posted at 2022-12-17

今回はフリーランスになりたての頃の話をしようと思う。
長ったらしいポエムなので、心と時間に余裕がある時に読んで欲しい。


ITエンジニア畑一筋のキャリアを歩んできた私だが、一時期、コンサルティングを行うような企業に勤務していた。
社員は私のみで、残りの数名はみな業務委託だった。

営業から開発・マネジメントに至るまで、ほぼ全ての業務を私が担当している状況だった。
社長はミーティングに出て方針を決めることはしても、施策の実行は一切してくれないので、1日48時間働いても時間が足りないぐらいワンオペだった。
その上、会社として大した利益は出ておらず、私の労働時間を時給に換算するとベトナムのオフショア会社も裸足で逃げ出す金額である(私は取締役で、給与は役員報酬ということだったので、労働基準法的にアウトではないと思う)

そもそもコンサルティングフィーじたい利益が出るような価格設定になっておらず、顧客が増えれば増えるほど赤字で、それなのに社長に値上げを上申しても聞く耳を持たない状況だった。
今思えば、社長は自分の承認欲求のためだけに会社をやっていたのだろう。

私は徐々に頭がおかしくなってきて、30歳代中盤にも関わらず部分白髪になり、その面積は徐々に増えていった。
このままでは文字通り真っ白になって燃え尽きてしまう。

秋も深まるころ、独立することを決意した。

今までやってきた業務は引き続き業務委託なり受託開発なりするので、私に発注して欲しいということだ。
私が見積もった金額が見合わなければ、他に頼めばいい。

11月末をもって退職した。
まだ大手企業に勤務していた若かりしころ、妻から誕生日プレゼントにもらったポールスミスの財布は木枯らしに舞う木の葉のように軽く、不安しか無いが、前に進むしかない。
まさか、取締役を退任するにあたっての役員変更の登記や健康保険組合脱退の申請を、自分ですることになるとは思わなかったが。

12月中旬、少し前に見積もりを出しておいた案件の依頼が来た。

あるエンドユーザ(この場合、コンサルティングのクライアントと言うべきか)の業務管理に関するシステムを、オンプレからPaaSに移行しつつ正規化するという内容だ。

技術的なハードルは高くない。

ちょうど、私が新卒で入社した会社の後輩がフリーランスのITエンジニアをしており、声をかけた。
要件定義と基本設計までを私が担当し、詳細設計と実装(といってもデータ構造を設計するのが主な仕事だが)を彼がするという役割分担で、お互いの取り分も話し合って決めた。

年明け、エンドユーザからGOサインが出たと社長から連絡があった。

さっそく、その後輩とミーティングを重ね、仕様を確定させていく。
途中、エンドユーザの業界や業務に関わる深い部分を正しく理解しておいたほうがよさそうな内容が出てきたため、エンドユーザと直接連絡をとっていいか社長に聞いた。

エンドユーザと密にやり取りして進めてくれということで、許可を得た。
そして、連絡をする。

「篠原と申します。◯◯の件の仕様でお伺いしたいのですが。」

「お世話になります。ところで、◯◯の件って何のことでしょう?」

「???・・・いや、◯◯の件で発注いただいたという連絡が△△社からあり、実装に入っていたのですが。」

「???・・・あの件はやりませんよ?」

「!?」

「見積もりはしてもらいましたが発注はしていません。もちろん発注書も発行していません。」

新年早々、なんて悪い冗談だろう。
一瞬思考が停止したが、我に返って社長に連絡する。

「◯◯の件、□□社はやらないと言っていますが、どういうことですか?」

「いや、□□社はやると言っていた・・・確認するからちょっと待って欲しい。」

すぐに連絡が来た。

「やはり、やらないらしい。」

やらかしてくれる。

「もう着手しています。これは業務委託の契約なので、動いたぶんの費用は当然請求しますね?」

「・・・」

この人の頭の中は満開なのだろうか。
まだ梅すら咲き始めていない時期なのだが。

この社長の会社に金が無いことを私は知っている。
辞める直前まで資金繰りを把握し、何なら資金繰りのプランの作成にも協力していたのだから当然だ。
この仕事の売上で何とかプラスになるはずだった。
仮に裁判を起こして勝ったとしても、支払い能力が無いことは明白である。

泣き寝入り

試合に勝って勝負に負けるとはこういうことか。
この歳にしてまた一つ世間というものを知ってしまった。

どういう行き違いからこうなったのか、連絡が途絶えた今では知りようがない。
一つ言えるのは、彼は人を軽視しているということだ。

まだ私が彼の会社にいた頃、

「世の中はギブアンドテイク。バランスを大事にしている。」

と彼が言っていたのを思い出す。
冗談だろ。テイクアンドテイクじゃないか。
意図せずにやっていたとしたら、更にたちが悪い。

こうなった理由や状況の説明を求めたが、まともに取り合ってもらえず、半ば諦め気味に送りつけた請求書についても当然のごとく音沙汰なしだった。

・・・

ありがたいことに他の案件で手一杯になっていた春先、突然彼が請求額を払うと言い出した。
請求書の期限はとっくに過ぎているが、そんなことはもうどうでもいい。

正直もう関わりたくなかった。
今さら連絡してこられても困る。
これで終わりにしたい。

請求額が振り込まれたことを伝える際、フリーランスの後輩にも対価を払っておくようにと、強く伝えておいた(私と後輩は、それぞれ個別に社長の会社と契約している状態だった)
それ以来、彼とは連絡を取っていない。
SNSでたまに見かけるが、他の誰かとよろしくやっているようだ。
新たな被害者が出ないことを祈るのみである。

・・・

一年後、別件で後輩と会うことがあり、支払いがあったかどうか聞いてみた。

予想通り、無かった。
有耶無耶にされたのち、連絡が途絶えたようである。

「強く言い出さなかった自分も悪い。」

と後輩は言っていたが、そういう問題ではない。

・・・

世の中には悪意(あるいは悪意なき悪)が紛れ込んでいる。
制度や法律で武装しても「試合に勝って勝負に負ける」状況になることがある。
今後、今回のような状況に出くわす確率はゼロではない。
嗅覚を鍛え、察知するしかないのだろうか。
せめて、この記事を読んだ人たちだけでも、ひどい目にあってほしくないと願うばかりである。

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