「無電源ラジオ」プロジェクト中間報告
#「無電源ラジオ」プロジェクト中間報告
(Maker Faire Tokyo 2017 出展プロジェクト、 東京ビッグサイト8月5日-6日)
2017/8/9 清水 素釘武
May Storm Labs
ロボット部 (日本Androidの会 秋葉原支部)
##初めに
日頃からNHKラジオ第1放送をBGMにすることが多い。このため、NHKラジオをスピーカーで鳴らすことを目的として、「無電源ラジオ」プロジェクトを立ち上げた。本稿ではプロジェクト構想、現状、今後の予定等を記述する。
##基本構想
- 無電源で中波AM放送をスピーカで聞く
- 目的放送局 NHKラジオ第一 594kHz 波長505m
- 目的送信所 埼玉県久喜市菖蒲町ラジオ放送所 300kW 245m高 1/2波長モノポール(通常は1/4波長)
- 受信距離42km
- 理論面も考慮する アンテナ工学、受信電力、出力音圧、Spiceシュミレーション
- 電波のエネルギーハーベストも考慮する
##Web、書籍調査
「無電源で鳴るスピーカーラジオ」でWeb検索をすると1万件以上ヒットする。
Webページ等の調査により、次の点について検討することにした。
-
高性能なアンテナとアース
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コイルLのQ値を高くする [https://ja.wikipedia.org/wiki/Q値]
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LC同調回路の型
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基本型 LCを並列接続、両端より信号と得る
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タップ型 LCを並列接続、Lの中間タップより信号を得る
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トランス型 トランス一次側L1とCを並列接続、2次側L2より信号を得る
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その他 複同調回路、倍電圧回路等
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出力トランス(スピーカやイヤフォンインピーダンス8Ω等と整合をとる)
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高能率のスピーカー
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ループアンテナ、LANケーブル等による実装
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ループアンテナの寄生容量による自己共振周波数
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寄生容量C [https://ja.wikipedia.org/wiki/寄生容量]
寄生容量の値に影響を与える要素 -
ループアンテナ(ループ面積、巻数)
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配線
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ブレッドボードの隣接ラインの静電容量は約3.1pF
Radio Experimenter's Blog -
各種倍電圧回路
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検波
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検波ダイオードの型番による音量変化
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トランジスタによる検波 (トランジスタのダイオード接続 Ic=Hfe*Ib)
##LTSpiceでシミュレーション実験
- 並列同調回路
- 直列同調回路
- コイルのQ値
- AM変調の信号源
##製作、入手等
- ループアンテナ
- 2つの円ループアンテナ(直径1mと1.5m) LANケーブルで実装
- 四角ループアンテナ(1辺2m) 10線フラットケーブルで実装
- 携帯型無電源ラジオ
- ループアンテナ(LANケーブル)をLAN端子(RJ-45)で接続
- ポリパリコン
- 小型出力トランス
- ダイナミックイヤフォン(スマフォ用)へ音声出力
- LANケーブル内の4組のツイストペアケーブル間の接続は、20ピンICソケット上で行った。このためICソケット交換によりLANケーブル内の結線を変更できる。これにより同調回路の型、巻数等を任意に設定できる。
- デモ、運用環境構築
- 高能率ホーンスピーカ、高能率ダイナミックイヤフォン
- テスト送信環境(AMワイヤレスマイク+スマフォ信号発生アプリ)
- 電波確認用のラジオ
- 実験用ブレッドボード環境構築
- エアーバリコン
- 電流計
- 各種ダイオード
- 3種類の出力トランスと各種スピーカの切替Box
##ブレッドボード上での各種の実験環境
- ループアンテナの巻き方、巻数によるインダクタンスと寄生容量と直流抵抗の測定
- ループアンテナによる各種同調回路(基本型、中間タップ型、トランス型)
- 検波後電流値(電流計使用)
- 各種検波ダイオード
- 倍電圧回路(トランス2次側中間タップ等)
- 3種類の出力トランスと各種スピーカによる音量
##現状の受信状況(NHKラジオ第一)
アンテナ種別 | 大きさ | 検波後電流(μA) | ホーンスピーカ距離 (注1) |
---|---|---|---|
円ループアンテナ | 直径1m | 4 | 5cm |
四角ループアンテナ | 1辺2m | 10 | 1m |
スマフォ用のダイナミック型イヤホンでは、両アンテナともよく聞こえる。
(注1):静かな部屋で耳をすまして聞こえる距離
##今後の作業予定、目標
- 固定高性能アンテナ(ワイヤーアンテナ等)とアースの設置
- ループアンテナの自己共振周波数により、使用できない巻線の利用方法検討
- ブースデモ用にAM変調ができるシグナル・ジェネレータの確保(できれば周波数カウンタ付)
- 無電源「トランジスタ」ラジオ(検波後に十分な電力を確保できた場合)
- Spiceシュミレーション
- 普通のオーディオスピーカを鳴らす
#付録1 必要なラジオ出力電力 (理論値)
[結論] 通常会話の大きさで鳴らすために 63μW の電力をホーンスピーカに供給する必要がある。
## 音圧の目標値 60dB SPL (通常会話のレベル)
音圧レベル(sound pressure level)は絶対値であることを明示するために[dB SPL]と表記する。
音圧レベルの例 | dB SPL | 備考 |
---|---|---|
空気動力ドリル(距離1m) | 100 | |
旅客鉄道(距離10m) | 60-80 | |
一般家庭でのテレビ(距離1m) | 60 | |
通常の会話(距離1m) | 40-60 | |
人が聞き取れる限界 | 0 | 20マイクロパスカル |
[https://ja.wikipedia.org/wiki/音]
## スピーカーの出力音圧レベル
秋月10Wホーンスピーカー M-02661 SPL(1W/1M) 102dB±3dB 8Ω
[http://akizukidenshi.com/catalog/g/gM-02661/]
出力音圧レベルは、音声信号が音響に変換される効率(能率)を表す。、
通常はスピーカーの中心から1メートルの距離において、1 Wの測定用信号を加えて測定される。
アンプの出力を倍にすると 3dB SPL 増え、距離が倍離れと 6dB SPL 下がる。
[https://ja.wikipedia.org/wiki/出力音圧レベル]
## イヤフォンの出力音圧レベル
1mW、1kHz入力時の音圧感度で、この値が大きいほど音量が大きい。(ただし、1mWではなく1Vでの値であったり、1kHzではなく100Hzでの値であったりとメーカーによって異なることがある)。
ゼンハイザー イヤホン MX375 122 dB 32Ω
122dB(1mW)と仮定し、1Wに換算すると+30dB で、152dB (1W)となる。
[http://www.sennheiser.co.jp/sen.user.Item/id/950.html]
## 音圧レベル 60dB SPLに必要な電力
|タイプ|型番|機器の dB SPL | 60dBとの音圧差 dB |必要電力W|負荷抵抗Ω|必要電圧V (RW=E*E)|
|:--|--:|:--:|:--:|:--:|:--:|:--:|:--:|
|ホーンスピーカ|M-02661|102 (1W/1M) |-42|63μ|8|22m|
|イヤホン|MX375|152 (1W) |-92 |630p|32|141μ|
## アナログ電流計の最大値指示に必要な電圧と電力
秋月 アナログ・超高感度電流計(50μADC)SD-50 内部抵抗:約4.5kΩ
最大指示時電圧: IR=50μA*4.5KΩ=0.225V
最大指示時電力: I ^{2} R=(50μA)^{2}*4.5KΩ=11μW
## LED点灯に必要な電力
LED 0.1mW あれば光るとの報告あり。
単純計算では順電圧VF 2V,3mA とすると V*I = 6mW。
放送局に近い等で電波が強いとLEDが光るとの報告有り。
付録2 ループアンテナ誘起電圧(理論値)
###ループアンテナに誘起する電圧
V=E\dfrac {2\pi AN} {\lambda }\cos \theta \tag{1.1}
V: ループアンテナに誘起する電圧(V) \\\
E: 電界強度 (V/m)
A: ループ面積 (m^{2})
N: 巻き数(回)
\lambda: 電波の波長(m)
θ: 電波の到来方向となす角度
アンテナの開放端に誘起する電圧は、ループ面積と巻数に比例する
###ループアンテナ誘起電圧(理論値)
NHKラジオ第1 594KHz 300kW 埼玉県久喜市菖蒲町三箇3047-1
受信場所 | 受信距離(Km) | 電界強度 (mV/m) | 誘起電圧(mV) |
---|---|---|---|
自宅 | 42 | 60 | 4.73 |
勉強会会場 | 34 | 100 | 7.89 |
東京ビッグサイト | 51 | 40 | 3.16 |
付録3 受信点で得られる電力 (理論値)
計算パラメータ
周波数 600kHz、波長 500m、周期 1.67μS
受信距離 42Km
電界強度
電界強度 1mV/m は実効長1mのアンテナで1mVの電圧が誘起される。
NHKでは、3mV/m以上でAMラジオがよく聞こえるとしている。 [http://www.nhk.or.jp/shobu-kuki/shoubu/index.html]
1μV = 0dBV が基準。1mV/m=60dBμV/m
AMラジオでは 1mV/m から 10mV/m で良好な受信ができるようです。
受信距離42Kmでは 60mV/m (表より)[http://crystal-set.com/report/t200.htm]
UHFデジタルテレビでは70dBμV/m程度が必要。3.16mv/m
計算式、理論
##仮定
- 送信アンテナは点アンテナ(Isotropic Antenna)
放射の強度が全ての方向で等しい仮想的なアンテナ
アンテナ種類 | 絶対利得(倍) | 絶対利得(dB) |
---|---|---|
点アンテナ | 1 | 0 |
微小ダイポール | 1.5 | 1.76 |
半波長ダイポール | 1.64 | 2.15 |
- 自由空間 (平面大地の反射波を考慮しない)
## 受信点電力密度
受信点電力密度 = 送信電力/球面の面積
P_{D}=\dfrac {P_{T}} {4\pi D^{2}} = \dfrac {300KW} {4\pi (42Km)^{2}}=1.35 μW/m^{2}
## 受信点電界強度 (実効値、尖頭値ではない)
E=\dfrac {\sqrt {30P_{T}}} {D}=\dfrac {\sqrt {30*300KW}} {42Km}=226mV/m
上式は自由空間の波動インピーダンス(電波インピーダンス、特性インピーダンス)が120π ≒ 377Ω であり、次の関係からEについて整理すると導出される。
Z_{0}={120π}={\sqrt{\dfrac {真空の透磁率} {真空の誘電率}}}
P_{D}=\dfrac {E^{2}} {Z_{0}} W/m^{2}
Eについて整理すると
E={\sqrt{120π\dfrac {P_{T}} {4\pi D^{2}}}}=\dfrac {\sqrt {30P_{T}}} {D}
## 受信地での点アンテナ実効面積
A_{R}=\dfrac {λ^{2}} {4\pi }=\dfrac {(500m)^{2}} {4\pi}= 1.94Km^{2}
## 受信電力(フリスの伝達公式より)
P_{R}=P_{D}A_{R}=1.35 μW/m^{2} * 1.94Km^{2} = 2.6mW
## 受信電力(受信点ポインチング電力より)
P_{V}=\dfrac {E^{2}} {120\pi }=\dfrac {(226mV/m)^{2}} {4\pi}= 4mW
プロフィール
May Storm Labs 清水 素釘武
電子工作、機械学習、脳、人工知能、哲学、ロボットなどをテーマに研究、Makeしています。ロボット部(日本Androidの会 秋葉原支部)に参加しています。
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