これは何なの?
この記事は、ティム・オライリー(O'Reillyのボス)による書籍「WTF経済」の要約です.
情報が多くてどう捉えるべきかわからないテクノロジーと社会の変遷について, ある一定の見方のようなものが得られる(気がする)良い本なのですが, 全体として何を主張しているのか理解しきれなかったので, 改めて読み直しながら大雑把な要約を残しておこうと思い書きました.
興味をお持ちになりましたら, ぜひ原書も読んでいただければ幸いです.
なお扱われている内容はナマモノなので、読む場合は古くなりすぎる前の読んでおくと良いかと思います
(英語の原書が出たのは2017年なのでそろそろ内容と現実に齟齬が出てきているかも)
意図の読み違い, 要点の脱落, 誤字脱字等ありましたがご指摘お願いします.
ネタ元
WTF経済
WTF = "What's the Fuck" or "What's the Future"(未来は何だ?)
第一部 正しい地図を使う
第一章 未来を見通す
地図とは一般的に地理について描かれたものを指すが, 対象の根底にある現実を単純化した抽象表現はすべて地図と呼ぶことができる.
人はよく知らない場所へ行く場合, 目的地までの道のりが記された地図を使う.
同じように, 起業家は不鮮明な領域についての事業上の決定を下す際にテクノロジーやビジネスについて描かれた地図を使っている.
しかし地図は現実そのものではなく, 間違っていることもあればかつては正しかったものの古くなってしまい今となっては正確ではなくなってしまっていることもある.
地図だけを見て, それと目の前の風景との相違に気が付かないのであれば, 決して望む目的地につくことはできない.
未来について描かれた地図は更に難しい.
様々な人々の活動によってところどころ特徴的な地形は発見されているものの,
全体としてそれらがどのようにつながっているかをはっきりと知ることはできない.
発見者たちでさえ自分が本当に何を発見したのは理解していない場合もある.
1990年代の後半, マイクロソフトがコンピュータ業界を支配していたこの時代における未来地図で発見されていた地形は
「インターネット」「オープンソース」「Linux」「Perl」「Webアプリ」などといったものであったが, それらを発見した人々の活動はそれぞれ独自のものであり接続されてはいなかった.
テクノロジ関係の出版業を生業としている私(オライリー)の使命は, 彼らの活動を結びつけ, 未来地図を完成に近づけることであった.
では現代における未来地図にはどんな地形が描かれているのだろうか?
それを知るには, 使い慣れた地図から目を上げ, 目の前に広がる現在の姿を観察しなければならない.
第二章 グローバルブレインに向けて
製品がモジュール化してコモディティ化し、魅力的なバリューチェーンのある段階で消え去ると、
独占製品で魅力的な利潤を稼ぐ機会は、隣接した段階に発生するのが通例だ
これはクレイトン・クリステンセンによる魅力的利潤保存の法則と呼ばれるものだ
コンピュータ産業で最初に魅力的な利潤を生み出していた独占製品はコンピュータそのものであった.
しかしIBMのオープンアーキテクチャ戦略によりコンピュータがコモディティ化すると、
隣接した領域であるソフトウェア(OSや各種アプリケーション)が魅力的な利潤を生み出す領域となった.
その後の状況の変化は時の流れとともに少しずつ進んでゆき, Web2.0の頃にはははっきりとしたものとなっていた.
それまで独占的な立場にあったアプリケーション達は後続のフリーソフトウェア達によってコモデティ化してゆき, アプリケーションを実行するためのプラットフォームだったOSもまたその立場をインターネットそのものに取って代わられた.
その結果、新たに魅力的な利潤を生み出すようになったのはデータであった.
GoogleやAmazonは利用者からのデータ(検索結果に対する反応や商品に対するレビュー)を集め, 分析し, その結果を自らのシステムにフィードバックし続けることで, 新しい時代の主要プレイヤーとなった.
このことは同時に, 一番多くのデータを集めたプレイヤーが, その領域を独占しうることも意味していた.(MSが商用OSという領域を独占していたように)
2010年代に入り, データの利用はさらなる爆発を起こした.
Twitterが作り上げたアプリケーションの上で, 世界中の何億人もの人々がそれぞれの興味をつぶやき, それぞれの問題意識をつぶやき続けた結果, それはもはや群衆全体で共有している一つの知性, グローバルブレイン1と呼ぶべきものとなった.
Twitterのグローバルブレインは, あるときは軍事独裁政権が打ち倒し, またあるときは予想外の人物を大統領に選んだりもした.
もはやグローバルブレインはインターネットを飛び出して現実に影響を与えるようになっているのだ.
このような現象はFacebookやWikipediaにおいても発見することができた.
テクノロジーのトレンドには, はじめにパラダイムを示す企業や組織が通常存在する.
Web2.0から始まりグローバルブレインに至るトレンドにおいてその立場にいたのは, GoogleやAmazonであった.
現在進行中の次のトレンドにおいてその立場にある企業と考えられるのはUberとLyftである.
これらの企業がどのようなパラダイムを示しているかについては次の章で説明する.
3章 リフトとウーバーから学ぶ
現在作られつつある未来地図に特徴的な地形を描き出している企業の一団に, LyftやUber及び同種のオンデマンド自動車サービスがある.
Uberらと競合関係にある既存のタクシーのビジネスモデルについて考えてみる.
このビジネスモデルは, サービスを提供する企業側がすべての自動車と運転手を所有し, サービスの利用者はそれらの自動車を賃借りすることで成り立っている.
用意される自動車の量と質は企業の利益を最大化する目的で決定され, 利用者は満足いくサービスが得られない場合でも我慢する必要があった.
対してUberのビジネスモデルの中核は、サービス利用者に自動車を提供することそのものではない.
Uberのビジネスモデルには、配送サービスを提供したい利用者(運転手)と配送サービスを利用したい利用者(乗客)の2種類の利用者が存在する.
乗客が増えることは, それだけ仕事の機会が増えることを意味し, 運転手にとって利益となる.
運転手(特に良質な運転手)が増えることは, それだけ待ち時間の少ない快適なサービスが提供されることを意味し, 乗客にとって利益となる.
利用者の数こそがUberの強みなのであり, サービスをより多くの人にとって参加するだけの価値のあるもの育てていくこと2がウーバーにとってのビジネスなのである.
このことはFacebookなどのインターネットプラットフォームが, ユーザと彼らが作成したコンテンツの増大によって自身の価値を高めていった理屈と同じものである.
Uberとはインターネットから現実世界に飛び出してきたプラットフォームなのである.
もちろんUberを取り巻く現実は誰もが幸せなユートピアというわけではない.
たとえばUberの運転手は一般に既存のタクシー運転手よりも高い時給を得ることはできているという調査結果がある一方で, 彼らには福利厚生や労働者保護を提供されていないという問題がある.
一方的に料金を引き下げられたことで廃業した運転手もいる.
これらは放置できる問題ではない.
この問題を解決するために、柔軟で即応性を持つ社会セーフネットと規制の枠組みを開発する必要がある.
これについては7章で語る.
4章 未来はひとつではない
すべての発明が揃った現在から見ると, 過去の発明はすべて起こるべくして起こったことに見えてしまう.
しかし過去の発明は, 多くの場合その他発明のうちの一つでしかなく, 場合によっては確定した現在から振り返ってみて初めて発明であったと考えられようになったものすらある.
例えば, クレジットカードの番号を登録しておき, サービスを受けるたびに自動で支払いがされるような仕組みは, 現在ではごく自然に使われている.
しかしAmazonがワンクリック決済を実装するまで, そのようなやり方がありうるとは考えられていなかった.
当時, ワンクリック決済を実装するために必要な発明は全て揃っており, その機能の実装も極めて簡単なものであったのにも関わらず,
人々はワンクリックで買い物を済ませるという世界を考えることができなかったのだ.
Amazonはワンクリック決済を実装することで考えられないものを考えられるものに, 未来を現実に変えてみせたのだ.
また新しい発明が人々に受け入れられるために準備が必要な場合もある.
ワンクリック決済の場合は, ECサイトでクレジットカードを使用することや, 入力補完のためにクレジットの番号をサービスに保存しておくことに対する抵抗がなくなるまで実装を待たねばなかった.
私用の自動車を貸し出すという発想はWeb2.0時代にすでに考え出されていたが, 人々がそれを受け入れるだけの準備ができていなかったため事業が続くことはなかった.
Uberはそれを構築するために必要な地図アプリ/GPS/自動化された支払い/スマートフォンなどといった発明が揃い, 人々が私有の自動車を貸し出すという考えを受け入れる準備ができたことによって実現したサービスである.
Uberのサービスは既存のタクシーを置き換えるだけでなく, 人々の自動車の所有についての認識を変え, 人々の労働についての認識も変え, 社会の中で死蔵されている余剰のキャパシティを開放しようとしている.
その活動は, 社会を現実に合わせて最適化し直そうとしている言っても良い.
現在の発明たちから, 考えられないような未来を作り出し, 世界を再発明すること.
それこそが起業家の仕事なのだ.