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オーディオプログラミング言語Advent Calendar 2020

Day 7

SuperColliderによるオーディオプログラミング例

Last updated at Posted at 2020-12-06

SuperCollider

オーディオプログラミング言語 Advent Calendar 2020

概要

サウンドを扱うミュージシャン、アーティスト、研究者のための、オーディオ合成とアルゴリズム作曲用プラットフォーム。ライセンスはGPL v3。

1996年James McCartneyにより開発。James McCartneyは2002年にアップル社に入りCore Audio開発の初期メンバーとなる。また、その年にSuperColliderはGPLライセンスのオープンソースとなり、現在はコミュニティにより管理されている。

解説

SuperColliderはあまり他の言語に似ていないので少し解説します。SuperColliderの関数やメッセージの概念はSmalltalkに近く、文法はLisp的な部分とC言語的な部分が混在しています。

関数定義は中括弧です。

{ 2 + 2 } // => a Function

基本は無名関数で、f = { 2 + 2 }のように変数に割り当てることで名前のついた関数になります。

関数にvalueメッセージを与えると評価して値を返します。

{ 2 + 2 }.value // => 4

四則演算の演算子の優先順位は一般的なプログラミング言語や数学と異なり常に左側の演算子が優先されます。これはSmalltalk系言語の特徴でもあります。

{ 1 + 2 * 3 }.value // => 9

C++のようなオブジェクト指向言語でいうと、関数はオブジェクト、メッセージはメソッドに相当します。正確に言うと、Smalltalk的オブジェクト指向ではメソッドそのものというより「指定した名前のメソッドを実行しろ」というメッセージを意味するらしいです。

{ 2 + 2 }.postln // 画面に4を出力し、戻り値として4を返す

引数を定義するにはargを使います。

{ arg x; x + 2 }.value(2) // => 4

argの代わりに|で囲んでも同じ意味になります。Ruby的な書き方です。

{ |x| x + 2 }.value(2) // => 4

メッセージをチェーンすることもできます。

// 関数評価結果を複製して[4,4]という配列を作り、次にそれを画面出力する、戻り値も[4,4]
{ 2 + 2 }.dup.postln

SuperColliderでもオブジェクトという用語を使います。関数だけでなく数値や文字列もオブジェクトです。

"Hello".postln // 画面にHelloと出力し、戻り値として"Hello"を返す

4.value // => 4

4.dup // => [ 4, 4 ]

すべてがオブジェクトというのはSmalltalk的であり、Rubyなどとも共通する設計です。

実装例

サイン波生成

SuperColliderでのオーディオ処理は、UGen(ユニットジェネレーター)と呼ばれるそれぞれ単機能のオーディオユニットを組み合わせておこないます。UGenは、ar、krといったメッセージを受け取ると信号を出力し続けます。arはAudio Rate、krはControl Rateを意味し、サンプルレート精度の信号と制御用の粗いレートの信号の違いがあります。

SinOsc UGenでサイン波生成です。第2引数は位相、第3引数は音量です。SinOscの出力は1chのためPan2 UGenを使ってステレオ2chにして鳴らしています。

実行は対象の行にカーソルをあててCtrl+Enter、終了はCtrl+.です。

{ Pan2.ar(SinOsc.ar(440, 0, 0.3), 0) }.play;

Delayエフェクト

SuperColliderのローカル変数はvarで定義します。
変数に関してはいくつか特殊なルールがあります。変数名が~からはじまるものはグローバル変数です。1文字の変数は宣言なしに使えます。1文字変数のうちsはサーバを意味する値が設定されているため、それ以外の目的では使用できません。

UGenにはDelayNというものもありますが、DelayNはシングルディレイでありフィードバックディレイはCombNを使います。DelayやCombにはNの他にDelayL、DelayCなどもあります。フランジャーのようにディレイタイムをモジュレーションする場合の補間アルゴリズムの違いなので、モジュレーションしない場合はシンプルなNを使います。CombNの第4引数は時間に対するフィードバックの減衰率を指定するパラメータなので、delayTimeを掛けることで一般的なフィードバック回数に対する減衰率に近い意味になります。

関数の最終行でPan2を使ってステレオ2chにしています。

関数の外側の小括弧はコードブロックを意味します。Ctrl+Enterを押したときにカーソル位置が含まれるコードブロックが実行対象となるので、実行したい単位をコードブロックで囲んでおくと便利です。

(
{
	var delayTime = 0.4;
	var feedback = 0.5;
	var wetLevel = 0.5;

	var voice = PlayBuf.ar(1,
		Buffer.read(s, Document.current.dir ++ "/../voice.wav"));

	var delay = CombN.ar(voice, delayTime, delayTime, feedback * delayTime * 10, wetLevel);

	Pan2.ar(voice + delay);
}.play
)

感想

SuperColliderは、初版が90年代に公開されたオーディオプログラミング言語としては設計の筋の良さや完成度が驚異的に高く、後続の言語に多くの影響を与えています。オーディオエンジンは音の良さと機能の豊富さが高いレベルで実現されているだけでなく、言語(sclang)とエンジン(scserver)が疎結合であり、それらの通信に汎用的なOSCプロトコルを使っていることで再利用性が高いのも大きな特徴です。そのためSuperColliderのオーディオエンジンは、Sonic Pi、Overtone、TidalCylesなどからも利用されています。

UGenはもともとMUSIC-N(直系はCsound)由来のものですが、これを採用したことでオーディオ処理の自由度の高さを実現したのも良いデザインです。

一方で言語自体があまりにもユニークであるため、敷居の高さは否めません。言語の設計思想としてはとても美しい簡潔さと整合性があり、SuperColliderの責任とは言い切れませんが、他の言語の知識が生かせないため、普及しているオーディオプログラミング言語としてはトップクラスに学習コストが高いと思います。音を鳴らしたいだけならSonic Piなどのインタフェース経由でSuperColliderエンジンを使う方が手軽です。

とはいえ、歴史の長い言語だけあって利用者も多く、良質のドキュメントが大量にあるのは良い点です。統合環境も非常に安定していて使いやすいので、時間をかけて学習するだけの価値はあると思います。

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