読書メモ 『世界「倒産」図鑑』
- 世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由
- 日経BP
- 2019/12/5
- 荒木博行
- https://www.amazon.co.jp/dp/4822289974/
メモ
- 2020/02
index
- 戦略上の問題 編
- 「過去の亡霊」型
- 「脆弱シナリオ」型
- マネジメントの問題 編
- 「焦りからの逸脱」型
- 「大雑把」型
- 「機能不全」型
戦略上の問題 編
「過去の亡霊」型
- 成功体験が強すぎて変われない
そごう − 「勝利の方程式」が逆回転して倒産
原因
- ビジネスモデルの強固さ
- モデルの実行に意識が集中
- 疑うよりやったほうが楽
- 間違った意思決定も無条件で受け入れる
- 経営を妄信
対策
- 現状を疑い建設的に議論する力を培う
- 主体的に考える現場に変える
学びのポイント
- ビジネスの前提について考える
- 前提とのズレを確認する
- 強固なビジネスモデルにより持続的に成長している事業ほど危険
ポラロイド − 「分析体質」が行き過ぎて倒産
原因
- 経営学者クリステンセン − 「イノベーションのジレンマ」
- 存在しない市場は分析できない
- デジタル市場という存在しない市場を既存の価値観により否決
- 失敗を前提とした学習に向かえなかった
対策
- 既存の仕組みにおける分析気質と、未知なものへの学習気質が同時に必要
- 分析できないことにはチャンスがある
- 失敗を通じて学習する
学びのポイント
- 既存事業と同じ尺度で新規事業を測らない
- 市場にない新しいビジネスは分析できない
- 新しいビジネスは実践を通じて学習する姿勢が大切
MGローバー − 非効率体質を改善できずに倒産
原因
- イギリス製造業の混迷
- 従業員はランチにビール、4時半に退社
- 低生産効率 年20台/人
- 量産車の採算ラインは一般に年40台/人
- 政府、世論の介入、政権与党からの援助
- グローバルレベルで本質的に勝負できないにもかかわらず継続
対策
- グローバル市場のマーケットルールで見定める
- 決めるべきタイミングで正しい意思決定をする
学びのポイント
- 業界ルール、成功要件について理解する
- ルール、要件を踏まえて戦い方の意思決定をする
- 意思決定はタイミングが重要
ゼネラルモーターズ − 政府頼みの末に倒産
原因
- 日本車輸出規制や為替介入など米政治力依存の解決
- 課題が潜在化し企業自体の改革が進まなかった
- 米最大企業という認識から生じる甘さ
学びのポイント
- 分権状態は変革の阻害要因になる
- 甘えの意識は修羅場に悪影響を生じる
- 過去を捨て今を正しく見る
ブロックバスター − 重要なタイミングを逃して倒産
原因
- 環境変化による敗北
- バイアコムグループにおけるブロックバスター事業の優先度の低さ
- 親会社に振り回される期間のネットフリックスの圧倒的なリード
対策
- いかなるしがらみがあろうと勝負のタイミングで正しい意思決定を行う
学びのポイント
- 業界のルール変更タイミングを見極める
- 市場の評価はルール変更を感じ取る目安になる
- 適切なタイミングに遅れると致命傷
コダック − 希望的観測を抑え込めず倒産
原因
- 「レーザーブレード戦略」における成功体験による統合型事業へのこだわり
- デジタル化の「アンバンドル化」により統合型の崩壊
- 銀塩ビジネス関係者の「変わらなくてもなんとかなる」という希望的観測
- 希望的観測からくる危機意識の麻痺による冷静な分析の阻害
対策
- 都合の良い希望的観測に正しく向き合う
- 新しいルールでは旧来の価値の崩壊に備える
学びのポイント
- デジタル化はビジネスモデルをアンバンドル化する
- デジタル化において旧来のビジネスモデルにこだわり続けると競争力を失う
- 根拠のない希望的観測に惑わされない合理的な意思決定を行う
トイザラス − 新規事業の入り方を間違えて倒産
原因
- ECの新ルールを認識できず既存のルールで対応
- ルール変更に気づいた後、他人任せで対応
- とどめに冷静さを欠く意思決定
対策
- 体力のあるうちにオンラインへのシフトに重点を置く意思決定をする
- ルールの変更に気づく
- 3年後の世界から、異業種から、過去事例から、のような複数の視点で俯瞰する
学びのポイント
- ルール変更前の正しさにこだわらない
- ルール変更に対して中途半端な対応は傷口を広げる
- 時間や立場を変えて考えるトレーニングをする
ウェスチングハウス − 技術を過信して倒産
原因
- 技術力を過信しリスクファクターを軽視
- 技術力依存により環境変化に対応できなかった
- 技術過信から生じる孤高主義体質による独善的な意思決定
学びのポイント
- 自身の技術のみを信じる姿勢は不測の事態への対応を遅らせる
- 技術の限界を理解する
- 他者との協力関係が重要
「脆弱シナリオ」型
- 脆弱なシナリオに依存し、何かがあったら終わる
鈴木商店 − 事業意欲が先行し過ぎて倒産
原因
- 貿易業に依存しすぎた不安定なポートフォリオ(事業構成)
- グループ銀行設立も株式化も実施しなかった脆弱なファイナンス(資金調達)
- イノベーターながら蓋を開けてみれば常に自転車操業
対策
- 経営ではヒト・モノ・カネのリテラシーが重要
- さまざまなファイナンススキームにアンテナを立て、適切な調達手段を選択する
学びのポイント
- 安定的にキャッシュを生み出すビジネスを確保する
- 安定的な資金調達が生命線
- 人材のパイプラインを整える
ベアリングス銀行 − 不正取引にとどめを刺されて倒産
原因
- ケイパビリティと競争環境のミスマッチ
- 保守気質の英国企業と、金融工学を駆使した米投資銀行の戦い自体に無理があった
- 自己資本規模から許容できるリスクを上回る挑戦を行った
- 競争する土俵の選択を誤った
対策
- 自身の特性にあった居場所を見つけること
- 現在の戦略オプションは過去の土俵選択の意思決定に依存している
学びのポイント
- 戦う土俵の定義がすべてを決める
- 安易にいま儲かっているという理由で選ぶべきではない
- 外部環境変化と内部能力から冷静に土俵を定義する
エンロン − 「不正のトライアングル」に陥り倒産
原因
- 役職に限らず全社員に対して毎半期評価下位15%の社員追放など、成果に対して過剰なプレッシャーをかけたこと
- 不正やミス隠し、損失隠しが実行できる管理体制
- 自由化を推進する先進企業という大義
- D.R.クレッシー「不正のトライアングル」
- 不正できる機会
- 不正で直近の問題を解決できるという動機
- 不正をも正当化してしまう理由
- 不正のトライアングルの要素がそろったこと
対策
- 不正のトライアングル「機会」「動機」「正当化」の要素の排除
- 人間は弱いものと位置づけ、一線を超えない仕組みをつくる
学びのポイント
- 人間は弱いものと考え不正の機会をなくす努力をする
- 不正の動機になりえる過度なプレッシャーを与えない
- 悪いことを正当化するロジックの横行を察知する
ワールドコム − 自転車操業の果てに倒産
原因
- 買収による株価向上に依存する経営戦略
- 企業の本質と無関係な継続的なバブル状態であり壮大な自転車操業であること
- 外部影響によるアンコントローラブルな要素もある株価への過度な依存
学びのポイント
- 経営がアンコントローラブルな外部要因に依存していないこと
- アンコントローラブルな要素をムリにコントロールしないこと
- バブル状態から抜け出す方法を考える
三光汽船 − ギャンブルに勝ち続けられず倒産
原因
- 環境変化やグローバルの需給バランスなどに大きく影響を受ける海運業の特性
- 為替レート、原油価格、人件費なども影響
- 守りの体制を欠いたギャンブル体質
対策
- 長期契約による安定
- ポートフォリオのバリエーションによるリスクヘッジ
- 将来を 不確実性の高さ ✕ 起きた時のインパクトの大きさ の2軸で整理する
- 有事を想定した万が一の備え
学びのポイント
- 不確実性が高くインパクトが大きいイベントの洗い出し
- そのイベントに対する具体的な守り
- 攻め一辺倒ではいつか負ける
エルピーダメモリ − 「業界のイス取りゲーム」に負けて倒産
原因
- 規模の経済における敗北
- 投資 → シェア獲得 → コスト減 → 再投資 のサイクルに必要な資金調達オプションの不足
- メインバンクをもたなかった
対策
- 業界のゲームのルール、 KSF(Key Success Factors)を熟知する
- 資金調達オプションを十分に持っておく
学びのポイント
- 業界のKSFを考える
- KSFと現状のギャップを見つける
- そのギャップを埋める
マネジメントの問題 編
※ マネジメント編は、仕組みの課題として扱えるものだけピックアップして「学びのポイント」をメモします
「焦りからの逸脱」型
- 焦りによる許容範囲からの逸脱
山一證券 − プロセスを軽視し過ぎて倒産
学びのポイント
- 結果よりも重要視されている仕事のプロセスがあるか確認する
- 逸脱したプロセスは隠せない
- あいつだつから新たな嘘が積み重ならないよう防波堤をつくる
北海道拓殖銀行 − 焦りに追い立てられて倒産
学びのポイント
- 審査の独立性の確保
- 審査機能の重要性を認める
- 焦りを具体的に言語化する
千代田生命保険 − 見たいものしか見ずに倒産
学びのポイント
- 前提は何か考える
- 前提の正しさと期限を考える
- 見たくない事実から目をそむけない
リーマン・ブラザーズ − リスクの正体をつかめず倒産
学びのポイント
- 習慣に従って妄信的に続けていることをやめる
- 自分のリスクの仕組みを調べる
- だれかが考えてくれているだろうと判断を人任せにしない
「大雑把」型
- 雑、アバウトなマネジメン
マイカル − 風呂敷を畳み切れず倒産
学びのポイント
- 大きな企画の細部まで具体的なアクションを描き切る
- 顧客の反応を踏まえて柔軟にアップデートする
- 構想を立てた人だけでなく具体化してやり切った人を評価する
NOVA − 規律が効かな過ぎて倒産
学びのポイント
- 資金の出し手を意識する
- 顧客の不満に反応できる規律を組織内にもつ
- 堕落のサインを見つけて解消する
林原 − 雑な経営管理により倒産
※ とくになし
スカイマーク − 攻め一辺倒が裏目で倒産
学びのポイント
- 業界に攻めと守りの比重を知る
- 必要な守りを怠ると一発アウトになる
- 攻めと守りの比重に応じて人材配備も変える
「機能不全」型
- 経営と現場の距離感が遠くて組織として機能しない
コンチネンタル航空 − 経営を単純化し過ぎて倒産
学びのポイント
- 複雑な事象を単純化しすぎない
- 経営は複雑である
タカタ − 経営者が現場を知らずに倒産
学びのポイント
- チャレンジにおいてメンバーの状況を把握する
- リーダーとメンバーは状況を伝え合える距離にいること
- 現場に行くこと
シアーズ − 現場不在の経営により倒産
※ とくになし
気付き
- 先進的で偉大な功績を残した企業が年月を経て保守に変容する事例が多くある
- 企業文化を受け継ぐことの困難さを実感した
- 同様の外部要因において同時代に同業で倒産してない企業と比較しながら読み進めることによって、陥ってはならないミスがより明確にイメージできると感じた
ToDo
- 各「学びのポイント」において現業で活かせる項目を実践する
- ミスや不正が発生しない仕組みづくりを平時から整備しておく
感想
- 後半の 「マネジメントの問題 編」 は人論も多く反面教師的に役立てたい
- 前半の 「戦略上の問題 編」 は、程度の差はあれ周辺に思い当たる事象が散見されるため、チェックポイントとして役立てたい
ひとりごと
- 企業史に触れると近現代史の勉強になる
- 25例の倒産を立て続けに疑似体験するとさすがにメンタルに来る