前置き
私が所属している空手団体では、コロナ禍に入ってからイベントをウェブで生配信するようになりました。予算があまりないので最低限の構成で配信したいのですが、スポーツ中継ですのでビデオにある程度の性能も求められます。本稿では私が素人なりに採用した構成を紹介します。
最終的には、低スペックのノートパソコン1台の段階から機材をそろえ始めて、初期投資2万円・イベントごと5000円程度のレンタル費用で配信を行なっています。ビデオカメラのレンタルが不要であれば、モバイル Wi-Fi ルータのレンタル代のみで配信可能です。
想定
以下の状況を前提とします。
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カメラ
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イベントの様子は中継だけでなく記録としても残す。そのため FullHD/60fps 程度の録画品質が必要。
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スポーツ中継なのでズーム機能のないカメラ、長時間録画に耐えられないカメラは避けたい。
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ウェブ中継の画質には多くを求めないが、HD くらいあれば嬉しい。
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画面構成・配信条件
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画面については、プロのテレビ中継のようなテロップは必要なく素の映像でよい。
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配信は完全公開にはせず、URL を知っている人だけが当日限定で視聴できるようにしたい。
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視聴者(門下生とその親御さん)専用の電子的な連絡手段はなく、紙での情報発信が基本となる。
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ネット環境
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貸し会場でのイベントが想定されているため、モバイル Wi-Fi が必要。
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常設の道場には固定回線があるので、そこから配信する場合は固定回線を有線接続で使用できる。
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いずれにしても、配信を行なうために一定以上の上り回線速度と、4GB 以上の通信残量が必要。
構成要素
典型的な構成は以下のようになります(その時々の状況により、部分的に変更することはあります)。以下順に見ていきます。
①カメラ
ビデオを扱う機器としては、スマホカメラ、ウェブカメラ、アクションカム、一眼レフの録画機能、ビデオカメラなどいくつかの選択肢がありますが、スポーツ映像を長時間記録するためにはビデオカメラが必須と考えます。
ウェブカメラは USB 接続できる製品が多い点が魅力です。画質としても FullHD/60fps を標榜する製品が多くあり、固定して使うには申し分ないのですが、ズーム機能や調光などの点で専用機に劣っており、スポーツ映像を取るのには向いていません。
スマホカメラは……どうなんでしょうか。性能はかなり進歩していますし、YouTube に直接配信することができますので、1 時間以内の短時間配信であればスマホでもいいかもしれません。ただ今回は数時間におよぶ長時間配信であり、かつ高画質録画を行ないつつ生配信も行なう必要がありますので、スマホでは厳しいと思われます。
アクションカムは単純に用途が違うので採用を見送りました。組手試合で選手につけたら面白い映像がとれるかもしれませんが、コート外から一般的な画角で映像を録るのにわざわざアクションカムを採用する理由はありません。
いい映像を録ろうと思ったら一眼レフかビデオカメラを使うことになります。
ビデオカメラ市場は縮小する一方であり新製品もあまりありませんが、今回の要件(FullHD/60fps)を満たすだけなら数年の型落ち品でも問題ありません。2014年~2016年製の FullHD カメラであれば、中古で 2 万円程度で調達できます。いいカメラを使いたい場合は、レンタルという手段があります。私がよく使用している パンダスタジオ では 4K モデルが 1,000円/日からレンタルできオススメです。最終的に FullHD で録画するにしても、4K 対応カメラで FullHD/60fps を録画するほうが品質がよいという話もあります1。イベントの頻度が高い場合は自前で持っておくといいし、逆に一年に数回しかないのであれば、レンタルで常にいい品質のカメラを利用すればよいでしょう。
また、当然ですが三脚も必須です。3,000 円程度の安い三脚でも十分ですが、後述するワイヤレス HDMI 機器などいろいろ拡張機器をつけたい場合は、雲台が分離できる高めのモデルを調達するとあとあとラクかもしれません。
②③④カメラとPCの接続
カメラに YouTube 配信機能がついている場合、あるいは LiveU Solo などの映像インプットを直接配信できるネットワーク機器を使用している場合は、PC を介在させるひつようがありません。ただいずれの選択肢も費用が大きくなるため、ここでは採用しません。
基本的に PC についている HDMI ポートは出力専用ですので、カメラから HDMI 出力したものを直接つないでも認識されません。キャプチャボードを挟んで USB 接続で取り込む方法が一般的です。キャプチャボードもピンキリなのですが、今回は要求されている水準が低いので、私は中国製の安価なキャプチャボードを使用しています。メルカリなどを利用すれば FullHD/60fps対応・ハードウェアエンコードのモデルが 2,000 円未満で入手できます。時間に余裕がある場合は AliExpress でさらにケチってもいいでしょう。念のため予備としてもう一つ買っておくと安心です。
また、会場の都合で PC とカメラを近くに置けなかったり、またカメラにある程度の機動性を持たせたい場合(開会式ではこの画角から撮りたいが、試合はこの画角から撮りたい……のような)は、延長ケーブルが必要です。あまり延長すると品質が劣化しますので、規格の指定以上に延長する場合はリピーターケーブルを使用すると安心です。私は 10m の USB リピーターケーブルを使用しています。
さらに機動性を高める方法として、ビデオカメラと PC をワイヤレス接続する方法が考えられます。ただ、ビデオカメラ内の映像を再生するときに Wi-Fi 接続できるモデルは多くあるのですが、録画しながらその映像を Wi-Fi で送信することのできる家庭用ビデオカメラはなさそうです。その場合はワイヤレス HDMI 機器の助けを借ります。このあいだ Hagibis のワイヤレス HDMI 機器を購入したので(1,0000 円程度)、使えるようならこれに切り替えるつもりです。
⑤⑧PCと配信先
今回は貸し会場からの配信を想定していますのでデスクトップ PC は使用できません(というか持ち運んでセッティングしたくありません)。高性能なゲーミングノートを所持している人も少数派でしょうから、ここでは一般的なノート PC を使用する想定ですが、そうすると OBS Studio などで映像加工して配信するにはスペックが足りない可能性があります。
そのため、この構成の中で PC はカメラから映像を入力して、ネット接続して、素の映像を配信するために使われています。
YouTube を使用しているのは単に私が慣れているからです。
また、今回は一般公開ではなく限定公開(チャンネルに表示されず、リンクを知っている人だけがアクセスできる)という制約がありますので、観客にリンクを伝える必要がありますが、観客に電子メール等を用いて情報伝達できない都合上、ライブ配信のリンクを直接お渡しするのは非現実的です。ランダムな英数字列を入力してもらうのも大きな負担ですし、事前にライブ配信枠を設定する必要もありますし、当日に配信枠を取り直すことができなくなります。
そのため、配信専用の特設サイトを作成しました。視聴者はこのサイトだけ知っていればよく、配信側としては埋め込まれている YouTube Live のアドレスを変更するだけでよくなります。Firebase Realtime Database を採用しているので、編集画面でアドレスを差し替えればすぐに視聴者側に変更が反映されるようになっています(YouTube で埋込許可にする必要あり)。PC スペックの都合上映像加工をしていないので、テロップやイベントプログラムについても表示できるようにしています。
Vue.js + Firebase Hosting で 2 日くらいで突貫で作りましたが、長く使っているので費用対効果は抜群です。
⑥⑦ネット接続
貸し会場での配信を想定しているので、モバイル Wi-Fi ルータをレンタルして使用しています。当団体は東京を拠点にしているので、建物の中で局所的に電波が悪くなることはありますが、エリア的に接続が悪くなることはありません。
唯一の問題は上り速度です。配信機器の専門サイトで上下無制限の機器をレンタルするのが割と安心ですが(例: パンダスタジオ )、一般的な Wi-Fi レンタルサービスでも可です。以前急遽配信をすることになり、 Wi-Fi チャンネル の店舗受取を利用しましたが、無事に数時間の配信に耐えてくれました。
最近は格安 SIM をスマホに入れている人も多いでしょうから、スマホからテザリングして配信することもできるかもしれません。
私の構成では 1~2GB/h くらい消費しますが、YouTube 配信は回線状況により画質を調整しますので、場合によってはより多く消費されてしまうかもしれません。ご注意ください。
備考
当たり前のことですが、機器固有の問題がありますので(MacBook だと Safari ではうまく配信できないなど)、必ず事前に予行練習を行なってください。
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中国製カメラの中には 4K/60fps を標榜して 1 万円台で販売しているものもあります。私自身は試したことがありませんが、いい噂を聞かない(実際には 4K 以下の解像度のものを引き延ばして 4K にしている等)ので、後述するキャプチャボードはともかく、カメラにはケチらないほうがいいでしょう。無難に Panasonic, Canon, Sony, Victor (JVC) などのメーカー品をオススメします。 ↩