はじめに
Qiita株式会社様 主催の『Qiita Engineer Festa 2024 後夜祭 ~アウトプットの祭典!~』で登壇させてもらえることになったので、私が書いた記事の内容をベースに、アウトプットを出すための個人的な考えを話してきました。
今回の記事は、テックブログ感の薄い内容ではありますが、Qiita関連イベントの延長線上だと思って見逃してください。
登壇のきっかけになった記事:
発表スライド:
もくじ
- アウトプットを出したいなら具体的に困るところから
- " WILL " を持つことで、具体的な困りごとを増やせる
- 『 実際、そんなWILLは持ち合わせてねーよ!』
- " WILL " に対する拡大解釈をしていないか?
- " WILL " なんてのは「ちょっとやってみるか」でよい
- 具体的に困ループで運がよくなる
- おわりに
アウトプットを出したいなら具体的に困るところから
まず、アウトプットが出ないときは多くの場合、具体的に困ることができていません。
例えば、「コーディングがうまくいかないなぁ」という抽象的な困りごとに対してどうアクション出来るでしょうか。「とりあえずプログラミング原理原則の勉強をしてみよう」「とりあえず毎日なにか書いてみよう」という、課題に対してふわっとした解決策しか考えることができません。
また、先輩やマネージャーに対して『けっこう勉強してるんですけどコーディングができるようにならないんですよね、どうしたらいいですか?』と助けを求めても、『いっぱい書いてみたらいいんじゃない?』『コーディングの機会を増やせる案件アサインしようか?』くらいのふわっとしたフィードバックしか得ることができなさそうですよね。
そんな状態では、課題の解消どころか課題に対する打ち手が全然的を得ていなかったり、アクションがふわっとしすぎてそもそも行動に移せなかったりで、アウトプットに結びつく活動ができません。幸運にも成果と呼べるようなアウトプットが生まれるかもしれませんが、課題の解消にクリティカルヒットするものであるとは限らないし、再現性もありません。
一方で、アウトプットを出せるときは多くの場合、具体的に困ることができています。
アウトプットの出るロジックを考えれば単純で、以下のようであると考えます。
1. 具体的なアクションには具体的な課題(困りごと)が必要
具体的に行動するためには、課題に対して具体的に困る必要があります。
例:『なんか新人のプルリクエストのマージまでのリードタイムがどうしても長いんだよな。コーディングの観点漏れとかは少なそうだけど、なんでだ?』
2. 具体的なフィードバックを得るためには具体的なアクションが必要
仕事を進捗させる意思決定をするためには確かな根拠が必要で、それらを得るためには具体的に行動してみることが必須です。自身の仮説を検証するためのアクション、あるいは仮説を構築するためのアクションですね。
例:『プルリクエストの1次レビューを全て引き受けてみよう。プルリクつくったらレビューさせて~!』
3. 具体的な課題解消には具体的なフィードバックが必要
(特に若手は)自力で課題を解消できないことも多いかと思います。具体的に課題を解消するためには具体的なフィードバックが必要です。それは有識者からのアドバイスかもしれないし、お客様からの声かもしれないし、エラーログかもしれません。
例:『あーなるほどやってみて分かった、レビュワーになる経験が少ないからレビュワーのことを考えたプルリクエストの作り方が分からないんだ。なのでレビュワーはレビューするのに腰を据える必要があって、あとまわしにされがちなのかも。』
4. 具体的なアウトプットには具体的な課題解消が必要
例えば、既存の不具合を修正しました、機能を新規追加しました、などは分かりやすく課題を解消している例かと思います。マイナスからプラスへ、ゼロからプラスへ、の差分を生み出すためには具体的な課題の設定、ゴールの設定、それらの差分を埋めるアクションが必要ですよね。
例:『ちょっと新人の皆さん、記事書いたので時間あるとき読んでください。これからこの観点を含めてプルリクエストのレビューしますね。きっとこれでレビューされるスピード上がるぞ~!』
5. 具体的なアウトプットは対自己と対他がある
アウトプットはなんらかのアクションや活動によって生まれた直接的な結果です。大きく分けると、内的なものと外的なものがあるかと思います。
- 内的アウトプット:経験による自身の成長や視座の変化、気づきなど、具体的な成長実感
- 外的アウトプット:成果(アウトカム)を見込める、具体的な作成物
例:『自分自身は記事を書いたことで、体系的で再現性のある知識を得ることができた。新人のみんなはプルリクエストがすごくきれいになってマージまでのリードタイムが短くなった!』
そんな感じで、具体的に困って具体的に課題の解消を続ければアウトプットは大小問わずどんどん出るはずです。なので ファーストステップとして「具体的に困る」状況を作れるとよい と思います。
" WILL " を持つことで、具体的な困りごとを増やせる
「具体的に困る」状況は、社会人やってたらいくらでもあります。雑に言えばビジネスは顧客の課題解決であり、課題解決は具体的な困りごとの連続ですからね。
なのですが、アウトプットに付加価値を加え、差分を生む要素があります。それが " WILL " です。
「何かにモチベートされて主体的に行動した結果」と「上から降ってきたやらされ仕事の結果」に差分が生まれるのは、想像に難くないと思います。
" WILL " のいいところは、すべてが自分事化されることかなと思います。全部自分で!前のめりで!の姿勢で何でも手を出したくなっちゃうじゃないですか。やりたくてやってるので、細かいところまで手を伸ばしたくなっちゃうじゃないですか。
自分がやりたくてやってることなので、周りからの批判も称賛もすべて自分の責任です。なので自然と『まぁいっか』の妥協はぐっと減りますよね。当然、「やらされ仕事」と比べたら、自身の成長スピードもアウトプットの量・質も大きくなります。
ここまでの話が結論で、記事のメインメッセージとしては以下になります。
- 具体的なアウトプットを出すためには、まずは具体的に困ることが必要
- WILLを持つことで具体的な困りごとの数も、アウトプットの量・質も向上する
『 実際、そんなWILLは持ち合わせてねーよ!』
分かります、落ち着いてください。
『 WILLを持つべき 』の話は分かるけど、そのWILLを見つけることが一番難しいんだよって話ですよね、分かってます。
一般的には強いWILLを持って行動している人の方が稀で、WILLを探し出すためのいろんな書籍や記事、動画、セミナーなどたくさん存在します。そのくらい『WILLがない』で困っている人がいることも知ってます。私もそう思っていました。
さて、ここで1つ問いかけたいことがあります。
$$問. '' WILL '' は立派なものであるべきか?$$
" WILL " に対する拡大解釈をしていないか?
もちろん強めのWILLがあるに越したことはないのですが、私の意見としては「別にそんな立派なWILLがなくてもよい」と思う派です。
何が言いたいかというと、『 WILLを持て! 』というのは、『少年よ!大志を抱け!!的な、壮大で燃え上がっててゆるぎない信念を持てる、そんな「目的地」を思い描くべきだ!』ではない ということです。(そういう文脈で語られることは多いと思いますが)
そもそも " WILL " とはつまり意思に関する概念で、言い換えれば、行動までのハードルの高さを決定するための変数かなと思います。
$$WILL = 「やりたい(動機づけ)」 × 「できそう(自己効力感)」$$
WILL ( やりたい * できそう) が強いとすぐ行動できるし、逆に、WILL ( やりたい * できそう ) が弱いと行動しようと思えない、それだけ。「向かいたい目的地」が魅力的でかつ明確であればあるほどより強い WILL を持つことはできると思いますが、WILL それ自体はただの意思のことです。
「 WILL を持つ」を「魅力的な目的地を思い描くこと」と拡大解釈してしまうと、『視えてない目的地に向かうことはできねーよ!』となるのは当然です。
目的地が見えていないので、
- やりたいと思えない(動機づけが生まれない)
- できそうと思えない(そもそも目的地がないので判断できない)
ので、そこに WILL が存在する余地はありません。そりゃ立ち止まってしまいますよね、WILLなんてねーよ、と思いますよね。
" WILL " なんてのは「ちょっとやってみるか」でよい
そんなWILLですが、実は身近にたくさん転がってます。「魅力的で実現したい目的地」から逆算した目的地ベースで考えるのではなく、「現時点での目の前の興味・関心(小さなモチベーション)」という現在地をベースで考えてみてください。 つまり、身近で手軽な、その辺に転がっている小さな『ちょっとやってみるか』に目を向けるわけです。
例えば、不具合修正の途中で見かけた「今回の修正範囲とは関係ないクラス」の変数名を改善するために新しくチケットを切ってそれ用のプルリクをあげてみる。
例えば、社内ドキュメントで自身が詰まったポイントを今後誰もつまずかないように編集したうえで、ドキュメントの担当者(作成者)にフィードバックしてみる。
例えば、タスクを進める過程で誰かの記事を参考にして、自身のプロダクトで使えるように加工した内容を、記事として投稿してみる。
こういった目の前の小さくて具体的な「やってみるか」は小さなゴールが明確に見えているし、それに対してだったら「やれそう」だし「できそう」じゃないですか。つまり、『ちょっとやってみるか』ですぐ行動できるし、このアクションは間違いなく「自身のWILL」が出発点です。 経験上、『ちょっとやってみるか』の結果、具体的に困ることも意外と多かったです。なので、都度あるべきを考えたり、頼れる人にフィードバックをもらっているうちに、具体的な小さなアウトプット(あるいは成果)が生まれるし、周りから " WILL " を持っているようにも見えるわけです。
具体的に困ループで運がよくなる
ちょっとしたモチベーションに駆動された『ちょっとやってみるか』で生まれる成果としては、やっぱり「ちょっとした」ものである場合が多いです。
しかし、具体的に困って具体的にアクションをする、具体的なアクションについて具体的にフィードバックやアドバイスをもらって具体的な課題解消をしていると、内容としてはどんなに小さなものでも運がどんどん良くなるのでこの積み重ねは全然バカにできません。
理由は2つあります。
理由1:「ちょっとこれやってみたいな」が分かってくる
主体的なWILLをもとにちょっとやってみた結果、経験という具体的なフィードバックが得られます。「ちょっとやってみる」のモチベーションが内的・外的であることに関わらず、そこで得た様々な情報の中には自身の興味・関心を磨くものがあるはずです。
例えば、あるタスクをきっかけにGitHubの RestAPI
を触ってみた結果、プロジェクトに関する情報を1発で取得できることの手軽さと便利さに気づいたとします。そのとき『そういやマネージャーがリポジトリの最新のイシューを一覧で表示したいとか言ってたな...。』という具体的な需要から、実際のデータを引っ張ってくる所まで「ちょっとやってみる」が生まれるかもしれません。その後、チームメンバーのいろいろなアクティビティを活用したデータドリブンな組織改革のムーヴメントを起こすことを志すかもしれません。
ちょっとやってみた結果として新たな「ちょっとやってみるか」が生まれ、それを繰り返していくうちに、経験や周りからのアドバイスなど具体的なフィードバックをより多く得ることができます。自身の興味関心は自身の経験の中での相対的なものであるので、経験値が増えていけば当然、より確からしい自身のワクワクを「ちょっとやってみる」ことができます。
モチベーションというものはかなり多様なので、最も燃えられる1つのモチベーションに従うのではなく、細分化された「小さなモチベーション」に意図的に従うことを意識すると、意外と多くの「ちょっとやってみるか」があることに気が付けるはずです。 いろいろちょっとやってみて、持っている情報が増えていけば意思決定の幅が広がり、そのうち「ちょっとやってみるか」は「やりたい」に変わります。つまり、自身の現時点でのワクワクが見つかります。
『なんか見つかったかも、ラッキー!☆』てなりますよね。
理由2:やっぱり見てくれている人は見てくれている
具体的なものに取り組んでいると、周りからの見え方はやっぱり具体的になります。フィードバックを求める際も、課題の解消についても、1つの具体に取り組んでいるからです。
例えば、GitHubの RestAPI
を活用して自チームのアクティビティを可視化しようとするとき、いろんな人にフィードバックをもらいに行くはずです。『どんなデータ活用してますか?』『このデータの見せ方で各個人の改善活動につながりそうですかね?』みたいな。そうこうしてると周りからは、「なんかデータ利活用したい人?」という感じに認知してもらえます。
そうやっていると、自身がちょっと興味関心がある仕事にアサインされたりします。『最近こういうことやってるみたいだけど、一緒にやらない?』『ほかのチームを巻き込んで今度こういうことやろうと考えてるけど、ミーティングくる?』みたいな。
こんな感じで、思いがけず自分のちょっとした興味関心に都合のいい何かが降ってきます。イメージでいくと、自分の進みたい道を自分の足でちょっとずつ歩いていると、歩いている姿を見た誰かが声をかけて車に乗せてくれる、みたいなことが起きます。
シンプルに『え、ラッキー!☆』てなりますよね。
まとめると、以下のような感じです。
- 「ちょっとやってみる」と、具体的に困るときがくる
- 具体的に困ると、なにか具体的なアクションが必要になる
- 具体的なアクションを起こすことで、また具体的な課題に直面する
- 具体的な課題を解消するための、具体的な相談ができる
- 具体的なフィードバックやアドバイス、具体的な人の紹介をしてもらえる
- 積み重なる経験という具体的なフィードバックで、自身の興味・関心が磨かれる
- 上記をやっている過程で、周りからの見え方も具体的になる
- 自身のワクワクと周りからの認知の乖離が少ないので、ワクワクに沿う案件が降ってくる
- そのうち「ちょっとやってみるか」は「やりたい」へと変わっていく
これが「ちょっとやってみる」と運がよくなる具体的に困ループの正体ですね。
9割くらいは自身の小さなモチベーションに駆動されたワクワク駆動開発(Heart-Driven Development: HDD
)でよいと思いますが、残りの1割は会社の方向性です。自身の興味関心と会社の方向性が結びつかないと、生み出したアウトプットは評価されない可能性が高いので、そこだけは注意です。
おわりに
本記事において、私自身のアウトプットの質・量については棚上げしてます!
また、登壇に際して、マネージャーや先輩、同僚、人事部や広報、採用担当の方など多くの人に協力いただきました!ありがとうございました!!!!
参考
今回、弊社最強人事の うえむらさん に壁打ちしてもらい、下記を紹介してもらいました。私の考えてたことがいい感じに言語化されていて、楽しい本でした!