ネット上の解説記事・解説動画が玉石混淆で、何が何だが分からない、謎多きEQとコンプレッサー(コンプ)を、主に動画編集者向けに紹介するよ!!音楽作成で、シンセサイザーの音作りをするとか、生のボーカル音源を電子的にかっこよくしたいとかはまた別だからそれはよろしくな!
まず!いきなりだけど、音声は、何もしない録ったままの録音が一番自然なので、そのままが一番よい。 **目的がなければEQもコンプもかけないべき。**今は昔と比べてみんなの再生環境がすごく良くなっているので、音声にいろいろ手を加えると不自然さが目立ちやすいからなおさらだ。
と断ったうえで、EQとコンプの理解は次が大事だ!
順にみていこう。
##EQとコンプの目的
###EQの目的
- 不要な音(部屋の騒音、摩擦音、空気の擦れる音など)を削る、弱める
- 音色を微調整する(※音色にはいろいろな要素があるので、EQでできる調整には限度がある)
- 音の距離感、軽さを変える
- 音楽で、他の楽器や歌と干渉しにくい音色に変化させる
コンプの目的:
- 音量のばらつきを減らして聞き疲れしにくくする
- 「音圧を上げる」
##デメリット
- 音色が意図しない方向に変わってしまう。音が不自然になる。
- 音の解像感がさがり、なんだかぼんやりした音になってしまう。
詳しく見てみよう。
##音色の変化について
倍音とは
- 一つの音が鳴るとき、周波数の低い音と、周波数の高い音が同時に鳴っている。
- 音の束で一番低い音を基底音、それ以外の音を倍音と呼ぶ。
- 同時になっている音の束全体で、一つの音として聞こえる。
- 束の一部を消したり、音の強さを変更すると、全体の音色が変わってしまう。
EQによる音色の変化
EQは周波数で音の強さを変えるので、音の束の一部だけ消してしまい、音色が変わってしまう。
極端に音を削った場合、以下のようになる。
- 高音を削る
-
こもった音(部屋の外から聞いているような音)、マイクから離れた音になる。
音の束が3~4本までしか残らないくらい削ると、「あいうえお」が「おおおおお」に聞こえる。楽器の音は、ギターもバイオリンも全部、オルガンみたいな音に聞こえる。 - 低音を削る
- 基底音を中心に低い音をEQで削ると、人の声は、電話越しの声やケロケロ声になる。軽い音、**地に足がついていない音**になる。音色は変わってしまうが何の音かは割と分かる。
- 中音を削る
- 基底音を残して、すぐ上の倍音を大きく削ると、違う楽器の音みたいになる。音にまとまりがなくなる。
※逆に高音を上げたらクリアな音になるかというと、カサカサシャーのノイズが強調されるだけだったり、低音を上げて芯の強さが得られるかというと、ゴ~という部屋鳴りが強調されるだけだったりする。EQでは、有る音は消せるが、ゼロからはなにも作れない。
###コンプによる音色の変化
シンバルなどは叩いた直後の明るい音色が弱くなる。
###結論
音色ができるだけ変わらないように必要最低限の設定にするか、音色の変化もそれはそれでありと思えるチョイスを選ぶ。
##解像感の変化
EQ
- 倍音(高音)を大きく削ると、空間的解像度が下がる。特にバイノーラル仕様にする場合は顕著。
(どこから音が鳴っているかがもやーとして分からなくなり、他の音と融合しやすくなる。) - 特に低音部で、EQカーブを断崖絶壁みたいに極端な設定にすると、時間的なキレが減り、残響音や共鳴音のようなものが聞こえることがある(リンギング現象、エコー現象)。使っているEQの種類により出方は異なる。
###コンプ
- 音楽では、リズム感が減って時間的にのっぺりとしてメリハリのない印象になる。
結論
極端な設定、目的のない設定は避けよう
##周波数帯ごとに鳴っている音(トーク素材の場合)
どの辺の周波数をいじると、どの音が影響を受けるか把握しておこう。
- 20-60Hz
- エアコンの騒音
- 吐きそうなときに腹の底からでる一番低い音(50Hzくらい)
- 70-150Hz
- 男性の声(基底音)
- 150Hz-240Hz
- 女性の声(基底音)
- 80-3000Hz
- 母音
- 明るい母音「あ」は倍音が大きい、暗い母音「う」は倍音が小さい。5000Hzから10kHzにも少し音がある。
- 300-6000Hz
- だいたいの子音
- 8000-12kHz
- サ行の音
- 引き笑い
- 環境の摩擦音
- 歌声の倍音
- 1000-15kHz
- 息を吸ったり吐いたりの音(2000Hz-5000Hz, 6000Hz-10kHzの成分が多い)
###人間の耳の特性について
- 人間の耳は、耳から離れた場所で鳴っている6000Hz-10kHzの音は聞こえずらいようにできている。
- 不快なカサカサ音、シュシュ音はこの帯域の音が多い
###これらを踏まえたEQの設定例
- 部屋のノイズを消す
- ⇒ 70Hz以下をがっつり落とす
- 言葉が自然に聞こえるようにしたい
- ⇒ 80Hz~6000Hzは触らない(平坦にする)
- 明るい母音をもっと明るく聞こえるようにしたい
- ⇒ 母音の領域の上のほう(800Hz~2000Hzくらい)を少し上げる(調整に自信がなかったら触らないほうが良い)
- 全体的にまろやかな音にしたい
- ⇒ 母音の領域を子音の領域より少し上げる (やりすぎると何を言っているのか聞き取りずらくなる)
- 息継ぎの音を軽減したい
- ⇒ 8000Hz近辺を鋭く少し下げる。ただし歌声のときはいじらないほうが良い。
###スピーカーかイヤホンか
EQで調整するとき、低音と高音(6000Hz-10kHz)は特に聞こえ方が違うので、リスナーがどちらで聞くのか考えてどちらで調整するか選ぶ。
そもそも性質の違う装置に同じ信号を送るってのがどうなのよ?と個人的には思うが。
#####スピーカー
- スピーカーは低音が物理的に鳴りにくい(特に小型、内臓スピーカー。)
- 人間の耳の性質上、6000Hz-10kHzの音は聞こえずらくなる。それより高い音もやや聞こえずらい。
- 耳だけでなく体全体を通して鳴るので音が自然に聞こえる(特に低音、超高音)
- どうやっても、ある程度の距離からの音に聞こえる
#####イヤホン/ヘッドフォン
- 低音も割と鳴る(重低音の鳴り方はモノによる。カナル型・密閉型は鳴りやすい)
- 耳元に音源がある都合上、6000Hz-10kHzの音も聞こえやすい。
- 耳元で鳴る音や、頭の中から鳴る音も出せる
- リスナーが立体音響機能をONにしているとスピーカーっぽい音に近づく。
- (今の技術では)立体音響機能とバイノーラル音声はかみ合わせが悪い(バイノーラル音声を鳴らしているスピーカーを聴いているみたいになる)
妥協してどちらでもそれなりに聞こえるようにするか、それともどちらかを切り捨てるか。
EQの種類
グラフィックEQとパラメトリックEQの二種類がある。これらは操作方法の違いだと思ってよい。
###グラフィックEQ
グラフィックEQはスライダーがたくさん並んだ見た目をしている。スライダーがたくさんあって操作しにくいわりに、周波数の刻みが粗くて微調整しにくいのであまりおすすめできない。ライブ会場などで、スピーカーの調整用としてはいいのかもしれない。
###パラメトリックEQ
↓ こういうやつ
パラメトリックEQは、周波数の山や谷を一つ一つ加えることで周波数を調整する。山や谷のオンオフや、中心周波数(freq.)、鋭さ(Q)を自由に調整できるので、微調整しやすい。(基本的に全部オフにしておいて、山・谷をつくるために必要なところだけオンにする。)また、HPF(High-pass, HP)やLPF(Low-pass, LP)といった、低域や高域をバッサリ削る要素も用意されている。これらは、シンプルでちょうど良い設定になっているので、低域や高域を単純にカットしたいときは積極的に使おう。
EQ / コンプを使わない方法
###マルチバンドコンプ / ダイナミックEQ とは
- EQとコンプレッサーが合体した便利屋
- 特定の周波数帯にだけコンプレッサーをかけられる
- たとえば、耳につくサ行の音が、うるさい音量で鳴ったときにだけ弱められる。(これに特化したソフトがデエッサーと呼ばれている。エスが消えるからデエッサー。)
- 必要な時以外には悪影響を及ぼさないEQだともいえるし、特定の音だけに反応できるコンプレッサーだとも言える
- 息継ぎなどもこちらで処理するほうが音質がよいと思われる
空間化とは
- 複数の音源が別の場所からなっているように聞こえるように配置する
- 音楽では、空間化でそれぞれの楽器の音が混ざらず楽しめる(EQで帯域による楽器の分離をする前に、まず空間化を試すべき)
- 基本的にはパンニング(左右の振り分け)で実現する。
- 複数人が喋るときにすごく聞きやすい。なのでClubhouseはこれに力をいれていたらしい。
- TeamSpeak4 や SonoBus といった通話アプリも対応している。なおDiscordとTwitter スペースは…
- バイノーラルパンニングというのができるプラグインをつかうと特にイヤホン・ヘッドフォンのときの自然が増す
(聞きやすくなる) - 適度なリバーブ(反響音)の追加でより自然になる(これもバイノーラル対応があったりするが…)
###マイキングとは
「いらない音はそもそも録音しなければよい」
- マイクの位置・向きの設定、関連アイテム(ポップガード・風防・吸音マットとか)の設置などをマイキングという
- マイクが近いと、声が大きくなり、騒音や要らない反響音が相対的に小さくなる。
- 喋る向きの真正面にマイクがあると、息の音、サ行、クチャ音などを拾いやすくなる
(これらが不快なときは、マイクの位置・向きを上下に少しずらすとよい) - 騒音源や反響源がマイクの正反対の位置になるように配置すると、ノイズはかなり軽減する。
- マイクとの距離を一定に保つことができれば、距離の違いによる音量のばらつきを抑えられ、コンプの出番が減る。
##コンプによる音圧上げとは
- 音圧=リスナーのボリューム設定が同じときの、音の大きさ
-
コンプで音圧を上げる=大きい音を自動で小さくする機能をつかうことで、
録音・配信側で音量を大きく設定しても音割れしないようにする - 音圧を上げなくてもリスナーがボリュームを上げれば音は大きくなる
#####なぜ音圧をあげるのか
- うるさいほうが目立つし良い音に聞こえる
- リスナーに音量ボタンをいちいち押させない
- 音量を上げて聞いているときに、いきなりうるさい広告・次の音楽が流れると困る
- 元の音量があまりに小さいと、リスナーが最大ボリュームにしても音が小さい(ここはリスナーの機材の性能次第でもある)
音圧上げのデメリット
- 普段から大きめの音を鳴らしているので、突然絶叫してもほとんど大きな音にできない。
- 逆に小さい音も大きく鳴るので、ふとした呟きの親密感が薄れる。
- 破裂音(バとかダとか)のような勢いのある音が鈍ってしまって、不自然な音になる。
- 音楽では、アーティキュレーションやフォルティッシモでそれほど大きな音にできない。ピアニッシモでも以下略。
- 打楽器が鈍る。
- 音圧を上げすぎるとYouTubeの規制に引っかかって音量をYouTube側から下げられる(ラウドネス・ノーマライゼーション)
- みんな目立ちたいので、ラウドネスメーターという測定ソフトを使って規制ギリギリまで上げている人が多い。でもデメリットも考えてどこまで上げるかを選ぼう。
音圧上げの副次的メリット
- つい絶叫してもリスナーの耳をつんざかないし、小声だったりマイクが遠くなってもそれなりに聞こえやすくなる
- 音楽では、打楽器が目立って欲しくないときに目立たなくできる。また、バン!という刺激を抑えて、ボ~ンシャラシャラといった音が目立ってほしいときにも良い。
####コンプレッサーとは
- 閾値 (Threshold, しきいち) と***レシオ*** (Ratio, 圧縮比) がコンプの大事なパラメーター
- 閾値を超える音量を検知したらコンプが作動し、少しの間、閾値を超えた音量を自動的に絞る。本来の音量の何割まで絞るかがレシオ。
####これらを加味した設定例
- 音圧上げ効果を大きくするには、閾値を下げるか、レシオを上げる。
- **閾値**を下げるとコンプが発動するタイミングが多くなる
- **レシオ**を上げるとコンプが発動したときの不自然さが増す。大きくても 4:1 くらいにしておくのが無難。小さくするときは、逆に1.4:1くらいには上げないと違いがよくわからないだろう。
-
小声を聞きやすくすることを重視するなら、コンプレッサーを複数回かける。
小声と普通の声の中間に閾値を設定したコンプを追加で置く。
(それ用の「アップワードコンプ」を使ったほうが良いかもしれないが、普通のコンプでも目的は果たせる) - パーン!とかダーン!とかを大きめの声で言っても、自然に(勢いよく)聞こえるように調整する(できるだけ)。
- 動画内で一番叫んだときに音割れしない程度に**レシオ**を設定する(音割れが芸の場合は除く)
- 音楽では、コンプが掛かってほしくない音(ずっと鳴っているリズムとか、弦楽器の鳴り始めとか)の音量**より大きい閾値**を設定する。(できるだけ)
- 通常コンプの後でリミッターをかける。(音割れが芸の場合は除く)これは保険で、コンプで抑えきれなかった爆音の音量を強制的に抑える。通常、コンプと比べて短い一瞬だけ作動するが、その分歪みが大きい。コンプが控えめなのに音圧を上げた場合、リミッターで処理する場面が増える。コンプによる不自然さとどっちがマシかを比べよう。
- リスナーが音量ボタンを押してくれるなら音圧上げで悩む必要はない。音量ボタンはすべてを解決する。