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Revitで簡易積算をしてみよう

Last updated at Posted at 2022-01-12

#目次
1. はじめに
2. 記事に出てくる用語
3. BIM積算とは?
4. 全体のワークフロー
5. モデリング
6. 積算
7. 見積
8. 総工事費算出
9. 事例紹介-落水荘
10. おわりに
11. 参考資料

はじめに

3年後期のゼミでBIM積算を扱ったので、その振り返りも兼ねて簡易的な積算・見積について記事を書きます。学生が設計課題で作るようなRevitモデル(LOD200~300相当)を想定し、総工費を算出することを目標とします。
積算は国交省営繕部の基準に沿って行います。

具体的な作業は 全体のワークフロー 以降に、見積の事例は 事例紹介-落水荘 に記載しています。

注1:この記事で扱う積算は簡易的なものであり、設備等が含まれないため正確な値にはなりません。
注2:正確に計算したい場合は Vico OfficeBexel Manager など5DBIMソフトウェアを使用してください。
注3:Revitユーザーの建築学生(2年生~3年生)向けの記事ですが、Revit未経験でも分かるように用語を説明しています。

記事に出てくる用語

  • BIM:建物の様々な情報を3Dモデルに紐付けて操作するデータベース・ソフトウェアおよびその関連技術 ※パースや図面をつくる便利ツールではない

  • Dynamo:ノーコードでプログラミングに近いことができるRevitのアドイン、いわゆるVPL

  • LOD:モデルの密度、数字が大きいほど詳細なモデルになる(数字の大小がゲーム業界と逆)

  • インスタンス:実際にモデル空間に配置される一つ一つのファミリ(オブジェクト指向におけるクラス→インスタンスのようなかんじ)

  • パラメータ:形状や材料、価格などファミリを定義する情報、ユーザが新しい項目を付加できる(グローバル_・タイプ_・インスタンス_など種類がある)

  • 積算:建材の数量(個数・長さ・面積・体積など)や状態(位置・塗装・性能など)を集計する作業

  • 見積:数量に単価を掛ける、もしくは算定式を用いて金額を計算する作業

  • 単価:単位数量あたりの金額(材料費・雑材料費・労務費・運搬費など)

BIM積算とは?

その名の通り、BIMを使って積算を効率化しようという試みです。BIM自体は10年ほど前から普及していますが、BIM積算は大手ゼネコンでは運用段階、それ以外の企業では検証段階かと思われます。

BIM積算の導入には以下のようなメリットが挙げられます。

  • 作業時間の短縮:図面の計測・数量拾い作業から抽出作業への転換
  • 品質向上:人間の作業をコンピュータが代行することでヒューマンエラー(見落とし・計算間違い・図面解釈の誤り)を防止
  • 作業のシステム化:幅広い知識が必要な従来の手法から脱却し、社内で標準化された作業手順により作業者の経験不足を補う
  • 合意形成の円滑化:複雑な収まりを3Dで検討でき、関係者とのスムーズな合意形成が可能

全体のワークフロー

工事費の構成と全体のワークフローについて説明します。各作業の具体的な内容については次項に記します。

工事費の構成

工事費は、以下の図ように構成されています。
大まかに 直接工事費 は建物の各要素を作るのに必要なお金、共通費 は工事全体で必要なお金と捉えてください。

この区分に沿って直接工事費から順に費用を計算していきます。

作業内容 必要な時間
1. モデリング Revitを用いてBIMモデルを作成します。
ArchiCADなど別ソフトでも良いかと思います。
設計課題などで既にモデルを作成している場合は必要ありません。
(修正のみ)
(全て)
2. 積算 Dynamoや集計表を用いて 部材数量 を拾いExcelに書き出します。
3. 見積 Excelで数量に単価を掛けて 直接工事費 を算出し、見積書を作成します。
4. 総工事費算出 共通仮設費管理費 などを順に計算し、最後に 総工事費 を求めます。

データフロー

REXJについては 積算 で、建設コスト情報・建設物価については 見積 で説明しています。

モデリング

基本的には、BIM積算のために追加でモデリング作業をする必要はありません。LOD200相当のモデルにパラメータを付加することで充分対応できます。

その代わりに、モデルは正確に入力されている必要があります。天井を床ファミリでつくる、壁を2重に入力している、安易にインプレイスファミリを使うなどの不具合があると、正しく数量を拾うことができません。

人間の作業において必ずミスは起こり得るため、ヒューマンエラーが発生しにくい・確認修正がしやすい作業方針 を考えるべきでしょう。
具体的には、下記のような作業の簡略化・自動化が挙げられます

  • 可能な限りモデルのLODを下げる
  • 必要なファミリは入力作業の前に一通り作成しておく
  • 複合壁機能などを使ってインスタンスの数を減らしたりグループ化する
  • グローバルパラメータでインスタンスを一括管理する
  • Dynamoや市販の自動化アドインを用いて入力作業を自動化する

積算

積算には法律化されたルールはありません。各企業ごとに基準を定めている場合が多いですが、今回は国交省営繕部が定める 「建築工事内訳書標準書式」 に沿って積算を行います。

まずはRevitモデルから数量を拾って建物の 細目別内訳 を完成させ、そこから21項目の 科目別内訳 へとまとめていきます。

分類 科目 備考
Ⅰ. 建物 1.直接仮設 遣方・墨出し・養生・足場などの雑費
2.土 工 掘削や土砂運搬など土地成形
3.地 業 捨コンや杭などの地下構造物
4.鉄 筋 ※RCの体積からおおよその重量を算出可能
5.コンクリ-ト
6.型 枠 ※RCの体積からおおよその面積を算出可能
7.鉄 骨
9.防 水
10.石
11. タ イ ル
12.木 工
13.屋 根 及 び と い
14.金 属
15.左 官 RC表面の仕上、モルタルなど
16.建 具
17.カーテンウォール
18.塗 装
19.内 外 装
20.ユニット及びその他
21.発生材処分 工事により発生したゴミの処分
Ⅱ. 囲 障
Ⅲ. 構内舗装 敷地内の道路舗装や縁石など
Ⅳ. 屋外排水
Ⅴ. 植 栽 1. 植栽
2. 屋上緑化

REX J

REX J はRUG(Revitユーザーグループ)が作成している日本向けのRevitアドインです。このアドインの機能を用いて、Revitの集計表を自動的にExcelへ書き出すことができます。使い方についてはシェルパさんのブログで詳しく説明されています。

地盤面集計

計画地が傾斜地の場合、手計算で掘削土量を求めることは不可能です。そのため地盤面を集計して体積の差分を算出します。地盤面集計については髙取さんのブログに詳しい説明があります。

川などの地形を舗装ファミリで作成している場合、この体積も集計されてしまいます。そのため集計表のフィルタを使って必要な要素のみ集計します。

マテリアル集計

構造と仕上など複数の要素を1つファミリとして入力していると集計に手間がかかります。
そこで壁や床の集計にはマテリアル集計表を利用します。
こちらもシェルパさんのブログで詳しく説明されています。

下記の例では、大引・板敷き・モルタル・仕上タイルからなる床ファミリと、RC・モルタル・石張り・巾木からなる複合壁ファミリの2つのインスタンスを集計しています。

Dynamoで集計

マテリアル集計表は便利ですが、部屋ごとには集計できません。部屋ごとにマテリアル集計をする場合はDynamoで集計し直接Excelへ書き出します。
下記の例では、シートを分けて各部屋ごとの仕上集計表(ファミリ名・マテリアル・面積)と 部屋集計表(面積・高さ・周長)を出力しています。

鉄筋重量・型枠面積の推定

型枠や鉄筋のモデルはDynamoで自動生成することも可能ですが、作業効率化やデータ軽量化の点では好ましくありません。そのため下記のような階区分別歩掛表を利用してRCの体積から鉄筋重量と型枠面積を推定します。

区分 鉄筋(kg/㎥) 型枠(㎡/㎥)
基礎 ベタ基礎 44.582 1.454
基礎柱 530.235 1.824
基礎大梁 139.038 2.447
基礎小梁 99.978 3.603
外壁 152.897 7.251
地下 181.530 2.966
大梁 188.329 2.659
小梁 125.441 5.086
スラブ 113.842 3.574
外壁 147.409 3.807
地上 182.242 3.762
大梁 204.709 3.501
小梁 132.578 5.756
スラブ 119.940 4.032
外壁 149.238 8.904

:表は住宅工事における最小値を一部抜粋したものです。

見積

本記事の単価は建設物価調査会が発行する「建築コスト情報」と「建設物価」を参考にします。

建築コスト情報は3か月ごと、建設物価は毎月発行されています。大学や研究室が電子版を購入している場合もあるので学科に問い合わせてみましょう。

複合単価

複合単価 とは、材料費・雑材料費・労務費・運搬費などの単価を合算したものです。また設備系では、実際に工事をする際に必要な余裕量(補給数量)も含まれています。

「建築コスト情報」 には複合単価と、その単価に含まれる要素が記載されています。建築コスト情報に単価がない場合は、「建設物価」 で各単価を調査して自分で複合単価をつくります。

総工事費算出

学生が共通仮設や管理費について考えることは難しいため、直接工事費と工期からおおよその値を算出します。国交省営繕部が定める 公共建築工事の工事費積算における共通費の算定方法及び算定例 に沿って行います。

共通費・総工事費の算定式

算定式はPythonで以下のように表せます。もちろんExcelで計算しても構いません。

共通費算出
def 共通仮設費率(T, P)
	Kr = 7.56 * P^(-0.1105) * T^(0.2389)
	KrMax = 5.78 * P^(-0.0313)
	KrMin = 4.34 * P^(-0.0313)
	Kr =  KrMax if KrMax < Kr else KrMin if Kr < KrMin else Kr
	return Kr

def 現場管理費率(T, Np)
	Jo = =151.08 * Np^(-0.3396) * T^(0.586)
	JoMax = 75.97 * Jo^(-0.1442)
	JoMin = 37.76 * Jo^(-0.1442)
	Jo =  JoMax if JoMax < Jo else JoMin if Jo < JoMin else Jo
	return Jo

def 一般管理費率(Cp)
	Gp = 28.978-3.173 * math.log10(Cp)
	return Gp

# 条件設定
工期 = 5 #(ヶ月)
直接工事費 = 121352940 #(円)
#直接工事費が1000万円以下の場合は1000万円として計算
直接工事費 = 10000000 if 10000000 >= 直接工事費 else 直接工事費

# 共通費算出
共通仮設費 = 直接工事費 * 共通仮設費率(工期,直接工事費/1000)
純工事費 = 直接工事費 + 共通仮設費
一般管理費 = 直接工事費 * 現場管理費率(工期,純工事費/1000)
工事原価 = 純工事費 + 一般管理費
現場管理費 = 直接工事費 * 一般管理費率(工事原価/1000)

# 総工事費算出
総工事費 = (直接工事費 + 共通仮設費 + 一般管理費 + 現場管理費) * 1.1

事例紹介-落水荘

積算・見積の事例としてライトの落水荘を扱います。
計画地や時期によって単価が上下するので、あらかじめ条件を設定します。

今回の積算の条件

  • 計画地は北海道札幌近郊の森林地帯とする
  • 工事車両の車両重量は最大4tに制限する
  • 仮設のレンタル期間は5ヶ月とする
  • 設備は含まない
  • 舗装は建物と接する40m分のみとする
  • 川を無視して通常のクサビ式足場を組む

Revit標準のファミリを用いて作成したLOD200程度のモデルを使用します。地形はRhinocerosで作成し、Revitの地盤面に変換しています。

この3Dデータは下記リンクから確認・ダウンロードできます。

また、Twinmotinで作成したCGアニメーションをYouTubeにアップロードしています。

### 積算
全ての作業を紹介することは難しいので、ここでは躯体工事の積算のみを取り上げます。

はじめにRC躯体を基礎~屋根までのフェーズに分類し、マテリアル集計表でRC体積を集計します。同時にフェーズごとの合計と、区分ごとの合計を算出します。

フェーズ 捨てコン 布基礎
基礎 45.7 19.72 0.8 66.22
フェーズ 外壁 内壁 階段 大梁 小梁
地下 13.5 121.65 3.61 3.93 142.69
1階 33.14 90.62 4.15 1.23 10.51 7.68 147.33
2階 62.01 67.66 9.51 2 2.4 3.15 4.39 151.12
3階 23.4 30.81 1.58 55.79
屋根 8.35 12.83 21.18
140.4 323.57 11.09 9.76 7.56 13.66 12.07

積算 で紹介した階区分別歩掛表を用いて、上記のRC体積から型枠面積と鉄筋重量を算出します。

型枠面積(㎡) 鉄筋重量(kg)
基礎 30.13208 1303.34504
地下 561.24812 20530.45236
1階 966.96924 18403.84303
2階 965.8524 19608.96146
3階 382.74936 7640.41482
屋根 147.90552 2916.22254
3054.85672 70403.23925

Revitで設定した各フェーズを打設の1サイクルとして、ポンプ圧送回数・運搬回数を算出します。
この際、各フェーズのコンクリート量が__ポンプ工法の1日あたりの打設量150㎥__を超えていないか確認し、超えている場合はフェーズ内を複数の工区に分割します。また、コンクリートの運搬時間は1.5時間以下品質検査頻度は150㎥/回 とJISで定められていることに注意します。
その他季節や外気温によっても条件が変化しますが今回は考慮しません。

### 見積

積算で求めたRC躯体の数量と各単価を 細目別内訳 の4番~6番に整理し、金額を求めます。

名称 摘要 数量 単位 単価 金額 備考
4. 鉄筋
異形鉄筋 SD345 D13 70.4 100000 ¥7,040,323.93 所要数量
鉄筋スクラップ控除 ▲1 (別紙明細)
鉄筋加工組立 壁式RC 70.4 63000 ¥4,435,404.07 設計数量
鉄筋ガス圧接 継手30箇所/tとする 2112.1 か所 550 ¥1,161,653.45
(鉄筋運搬) 加工場~現場 70.4 4500 ¥316,814.58 4t車を使用
梁貫通孔補強 加工・組立 運搬共 (別紙明細)
¥12,954,196.02
5. コンクリート
普通コンクリート 運搬共 538.6 m3 14800 ¥7,971,724.00
コンクリ-ト打設手間 基礎部 20.5 m3 880 ¥18,057.60
コンクリ-ト打設手間 地下部 142.7 m3 1000 ¥142,690.00
コンクリ-ト打設手間 地上部 375.4 m3 900 ¥337,878.00
ポンプ圧送 340.0 65000 ¥22,100,000.00
ポンプ圧送 296.9 650 ¥193,004.50
(打継ぎ処理) (別紙明細)
¥30,763,354.10
6. 型枠
普通合板型枠 基礎部 30.1 5300 ¥159,700.02
普通合板型枠 構造 地上軸部 2463.5 4750 ¥11,701,513.47
普通合板型枠 地下軸部 561.2 5100 ¥2,862,365.41
型枠運搬 3054.9 300 ¥916,457.02 4t車を使用
目地棒 寸法 型枠に含む
¥15,640,035.92

RC躯体と同様にして、他の部材数量も算出していきます。

全体の見積結果を下記の__科目別内訳__に示します。必要のない項目(11・13・14)は省いています。

分類 科目 金額
Ⅰ. 建物 1.直接仮設 ¥3,882,697
2.土 工 ¥701,215
3.地 業 ¥957,728
4.鉄 筋 ¥12,954,196
5.コンクリ-ト ¥30,763,354
6.型 枠 ¥15,640,036
7.鉄 骨 ¥1,119,656
9.防 水 ¥1,288,778
10.石 ¥38,341,075
12.木 工 ¥5,069,075
15.左 官 ¥1,039,079
16.建 具 ¥713,320
17.カーテンウォール ¥5,948,404
18.塗 装 ¥1,201,206
19.内 外 装 ¥250,414
20.ユニット及びその他 ¥1,200,000
21.発生材処分 ¥282,708
Ⅲ. 構内舗装 舗装・縁石 ¥980,825
¥121,832,940

外壁を安山岩張り、床を花崗岩張りとしたため、10.石工事 が約32%と大きな割合を占めています。また、壁厚が大きいため 4.鉄筋5.コンクリート6.型枠 の割合も大きくなっています。
12.木工 にはアメリカスギの大引やベニヤ板の他に、クルミ材の造作家具・照明装飾を含んでいます。対象箇所は情報収集できた1階リビングのみとし、材料費・製作費・設置工事費・諸経費を算出しています。
大きな窓は 17.カーテンウォール として計上し、フレーム本体・塗装・フロートガラス・シーリングをそれぞれ算出しています。
基本的に発生材処分費は各部材の複合単価に含まれていますが、発生土処分費のみ 21.発生材処分 に計上しています。

総工事費算出

過去のゼミの研究発表資料を参考に、タクト工程を採用するとして 工期5ヶ月 に設定します。
総工事費算出 の算定式を用いて共通費を算出し、直接工事費・消費税を足し合わせると、総工事費は 約1.7億円 になりました。

記号 数量 単位
直接工事費 P 121,832,940
工期 T 5 ヶ月
共通仮設費率 Kr 3.045 %
共通仮設費 3,709,313
純工事費 Np 125,542,253
現場管理費率 Jo 7.199 %
現場管理費 9,037,416
工事原価 Cp 134,579,669
一般管理費率 Gp 12.704 %
一般管理費 17,096,662
総工事費 167,922,871

ちなみに1936年当時の落水荘と離れの工事費は 142.5 K.USD(設計費用・家具費用を除く)であり、これは現代価値で 3億円弱 です。

おわりに

設計課題の提出期限に追われる多くの建築学生にとって、わざわざ時間をかけて積算・見積をするメリットが分からないかと思います。大学の設計課題では実現可能性より空間の豊かさやコンセプトが重視される傾向にありますし、たしかに建設コストが分かること自体にメリットはありません。しかしながら、積算を通して建材の種類や納まりについて学ぶことで、素材の質感や細部の納まりまでこだわって設計できるようになるでしょう。また、何にどれだけコストがかかるのか知ることで計画の「ムダ」を削ぎ落とし、より洗練された作品を生み出せるのではないでしょうか。

参考資料

記事中で紹介した資料も含めて参考資料のリンクを貼っておきます

積算

BIM

図面など

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