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社内でミニ・デザインスプリントを実施してみた話

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はじめに

弊社(for Startups, Inc.)についこの間UXデザイナーがジョインしました。
それまで少人数のエンジニアでスピードや機能を優先して開発を進めていたのですが、
プロダクトが巨大化する前に、一度立ち止まってデザインスプリントを行うことにしました。

デザインシンキングをエンジニアが取り入れることで、

  • プロダクトの目指すべきゴールを再度確認すること
  • 一つ一つの開発がきちんとゴールに向かっていると確信を持ちながら実装できる状態にすること

を達成したいと考えました。

デザインスプリントとは

デザインスプリントは一言でいえば「ビジネス課題に答える5つのプロセス」です。
デザインシンキングを取り入れて目的を達成しようとするアプローチのためこの名前がついています。

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GV(Google Ventures)が開発したプロセスであり、UXデザイン・プロトタイピング・ユーザーテストをアウトプットとして、学びという新たなインプットを得る流れになります。プログラミングコードは1行も書きません
デザインスプリントは一般的に、5日間、つまり丸一週間分をかけて行います。その概要は大まかに

Day1: 意識合わせ・課題マップの作成・取り組む課題の選択
Day2: ソリューション出し(知の探索)・スケッチ・最終日にインタビューするユーザの選定
Day3: ソリューションを絞る(午前)・うまくいった姿までの過程をイラストに並べる(午後)
Day4: プロトタイプ作成
Day5: プロトタイプを用いたユーザーインタビュー・学び

となっています。

プロセス(フェーズ)が用意されていれば当然ながら各フェーズごとに道具(ツール・フレームワーク)もあります。
デザインシンキングの文脈で有名なEmpathy Map(Say, Think, Feel, Doの4象限で顧客を分析するフレームワーク)もその一つです。
実際に行うときは、個別の事例に沿ってアレンジを加えると良いでしょう。アジャイル開発と同じですね。

何がいいのか

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元々の発達経緯からすれば、その目的にもあるように課題選定から実際にユーザーにぶつけてみて反応を見るのに最適ともいえるプロセスです。ただし僕たちはそれに限られない良さがあると考えています。

それは、デザイナーさんの言葉をそのままお借りすると

第1にプロジェクトの目標の共有
メンバー同士の相互理解、「この人はこういう思考回路なんだなぁ」というのも分かるかもしれません。
プロジェクトのブラッシュアップだけでなく、スタートアップなどの組織づくりにも有用と思っています。

後述しますがこれはその通りだと僕も思います。

いつやるべきか

最もふさわしいのは新たなプロダクトを実際にエンジニアが開発する「前」になります。
これは、デザインスプリントが開発をせずにビジネスの問題とアイデアの検証サイクルを高速で回すためです。
アイデアを最初に高速で検証して、それから開発しようね、ということでしょうか。

とはいいつつも、実際にはどのようなタイミングで実施しても効果はあると思います。
すでにプロダクトがあるという場合でも、例えば以下のような時に実施してみてはいかがでしょうか?

  • プロダクトが目標とする1年後の状態をすぐに言えない
  • (技術的に)できることばかりを優先して開発している
  • 開発工数が小さい事項ばかり実装していることが2ヶ月続いたとき
  • 優先度付けを行った結果のバックログが、プロダクトOKRのKRに貢献するものに見えない
  • ユーザーのペルソナを聞くとメンバーによって回答がバラバラ。またはすぐ答えが出てこない
  • ユーザーの課題を「それはまるで○○のよう」と身近な行為で例えてもらったときに回答がバラけてしまう。またはすぐ答えが出てこない
  • とりあえずユーザーヒアリングを終えた
  • チームメンバーが急激に増えてきたとき

など

ミニ・デザインスプリント

今回実際に行ったのは、このミニ版のようなもので
事前に行ったユーザーヒアリングの内容をもとに
まずはUXデザイナーが「一人デザインスプリント」を実施して叩き台となるレポーティング資料・ディスカッション資料を作り、
エンジニアを含めてみんなで資料をもとに中身を議論し、発散して、収束させ、お互いの認識を"同期"させました。

Screen Shot 2019-11-07 at 23.18.26.png

フレームワークにのっとってレポーティングまで作ってくれたデザイナーさんに感謝です!
People don't know what they want until you show it to them. ということを聞いた人は多いと思いますが、デザインシンキングとかデザインとかって意外と何をどの順序ですればいいのかわからないので、こうして最初に資料にしてくれる人がいると「あ〜これこれ!こんなの欲しかった」となって良いかも知れません。

ミニ・デザインスプリント実施

さて、弊社ではヒューマンキャピタリストという仕事のCRM的なサービスを社内向けにも開発しています(社内での愛称もありますよっ)。

このサービス(プロダクト)を対象にミニ・デザインスプリントを実施しました。

ゴール

最初にデザイナーが示したゴールはこちら:

メンバー全員がこれらを共通認識として持つこと。
誰に聞いても同じ答えが返ってくることで、新規メンバーとも課題や目的を共有出来る

ちなみにこのゴールはとても重要で、起業家バーでもあるCTOに「まずはとにかくユーザーを知ること。徹底的に足を運び、エンジニアの誰に聞いても全く同じペルソナが返ってくるような状態にしなさい」と言われました。

雰囲気作り

見落としがちですが、雰囲気作りはとても重要です。
ゴールを達成するためには参加者に対してどのような姿勢で望んで欲しいのか、どのような行動を望むのかを最初に共有するとすごく良いです。
また、それをサポートするような小物を用意することも大事だったりします。

今回ゴールは「共通認識を持つこと」なので、ちょっとでも意見が違ったり違和感があったら遠慮せず発言することが望まれます。
本心で腹落ちしていないまま終えてしまっては本当の意味で「認識を共有した」とは言えませんからね :)
そしてそのためには(1)意見を言える気楽さ(2)柔軟な発想ができる環境を用意した方が良いと考えました。

そのために私たちがやったのは次のようなことです

  • ちょっと息抜きをしたくなるおやつ時に実施した(15時からスタート)
  • お菓子を事前に持ち寄って(一人で食べきれない結婚式の引出物とかも笑)テーブルに並べた
  • もぐもぐしながらでOK
  • もちろんコーヒーも準備
  • 地べたに座ったり、机に座ったり、立ったりして参加してOK
  • 発言をとにかく褒める
  • ジョークもいれてみんなで笑う、面白いトピックもいれる
  • 大きな画面を使う

フレームワーク・ツール

ざっくりとこんなフレームワークや資料を使用しました。デザイナーさんが叩き台を作ってくれました

  • User pains
  • シンプルに言い表す
  • Feel/Think, Say/Do マトリクス(Empathy Map)
  • Persona
  • Story Board
  • Hills

User pains

今回はミニ・デザインスプリントなので最初にユーザーヒアリング結果をUXデザイナーへ渡しました。
こんな感じで機能要望がざっと40個ほどカテゴリー分けされて並んでいました。

Screen Shot 2019-11-08 at 1.04.30.png

デザイナーはこれをもとに事前に自分で「一人スプリント」を実施してくれています。感謝感謝

シンプルに言い表す

  • What we do?(それを5歳児にわかるように)
  • Who is the users?
  • What is their pain?
  • What is our business for?

この辺りを言語化します。
この部分はどのくらい先まで見据えるかによっても書く内容が異なってきますが(ビジネスの展望や新たなステークホルダーをユーザーにする長期戦略など)、目先1年くらいにするといいと思います。

もちろん、全社の長期戦略からバックキャストしてプロダクトの長期ロードマップを作って認識共有することも大事なのでそれは別途行いましょう。

意外と盛り上がるのが「5歳児にも説明できるように”何をするのか”」だったりします。余分なところが削げ落ちて動詞や名詞が研ぎ澄まされていくのがわかると思います。

Pain(課題)を考える時も、「それはまるで○○のようだ」と表現することを意識しました。
ここは実際の議論をそのままお伝えできますが、私たちでは
- 「それはまるでパズルのピースを埋めるような状態だ」
- 「それはまるで料理を30個同時に作っているような状態だ」
などの意見が出て、結局
- 「それはまるでパズルを10個同時に作っているような状態だ」
となりました。

Persona

ペルソナを設定します。
家庭環境・育ち・趣味・仕事への姿勢や性格などを具体例を含めながらその人のイメージが湧くまで書いていきましょう。
箇条書きで大丈夫です。
その人の名前もつけておくとその後何かと便利ですよ(僕たちは山崎翔大さんと飯山美咲さんというペルソナを作り上げました)。

実際には、この部分が最も大事です。
プロダクトによっては複数タイプのユーザーを抱えることがあると思います(プラットフォームがその典型)。その場合はそれぞれについてペルソナを立てて進めましょう。

Empathy Map

次に、山崎さんや飯山さん(=ペルソナ)が”言いそうなこと”、”やりそうなこと”、”考えそうなこと”、”感じていそうなこと”を書き表していきましょう。

特にThinkとFeelの部分は、なぜそれらが表に出てこない(口に出したり、行動にならない)のかを深く考えてみることが大切です。

Story Board

今のペルソナユーザーの状態(課題を抱えた状態とします)から、ユーザーが為したいことに至るまで、プロダクトがどんなふうに関与していくかを4コマ漫画的に絵と端的な言葉で書き表していきます。
僕たちは6コマを用いて(現状とゴールの間に4コマを用意した)、今のユーザーが”こうしてこうしてこうなってこうなってゴールの姿になる”、という過程を描きました(デザイナーさんが書いてきてくれた)。

Hills

私たちが作ろうとしているプロダクトとは、「誰が(Who)、どんな感じに(Wow!)、何を(What)達成してる」のかを改めて考えます。
最も大事なのはWow!です。Howではありません。
方法論から考えるのではなく、状態から考える。僕たちが描いた理想像では、ユーザーがどんな気持ちを持って・どんな感情でコトを達成しているのだろうか?そういった観点が求められます。

例)30分かかるMRIでじっとしていられない子供に、MRIを受けてもらうには?
→ 鎮静剤を打つ(How)のではなく、MRI室を海賊船のようにして楽しみながら受けてもらおう(Wow)

例)ハロウィンの渋谷からゴミを出さないためには?
→ 警察や自警団でゴミ回収と取締りを行う(How)のではなく、ゴミから超かっこいいアートを一夜で作るイベントを開催する(Wow)ことで街からゴミをなくそう

ちなみにWowを考えるというのは、GrowthHackでも出てくるアドバイスです。
Aha!となる瞬間を探り(この発見≒PMF達成)、それが見つかってからようやくAARRRをハックすべし、というのが定石の一つと言われます。(このあたりは名著『グロースハック完全読本』を読んでみてください)

アイデアリストの順位付け

今回のミニ・デザインスプリントでは以上を元にして、ペルソナとしたユーザーが、StoryBoardに出てくるゴールの姿になるよう、そのインパクトを縦軸に、効果の不確実性を横軸に据えてアイデアリストをマッピングしました。

当然ながら「インパクト大・確実性が高い」というゾーンが優先的な開発事項ということになります。
これらを見つめ直したところで、スプリントを終了しちょっとした振り返りを行いました。

やってみてわかったこと

シンプルな本質を見つめる

今回4時間をかけて実際にやってみて、最初に感じたのは自分たちが何を作っているのかをちゃんと言語化できていないということです。何となくでは説明できたけれど、「それって何?」のように1つ突っ込んで質問されるとスラスラと答えられなかったり、参加したエンジニア4人の認識や想いが完全に一致しているわけではなかったり。。

”誰に聞いても同じ答えが返ってくること”という状態を実現するには膝を付き合わせる時間と議論のフレームワーク(=デザインスプリント)がとても有効だと感じました。

Vision Driven

また、みんなで話すと自分の考えやチームとしての見解がどんどん研ぎ澄まされるというのも全員で実感しました。

この過程で最も重要な役割を果たしたのがMission, Vision, Valueです。
何度も何度も
「でもそれはMissionにある○○に添わないよね」とか
「僕らのMissionは○○だから、5歳児に説明すると○○な感じかな?」とか
「あの時CEOが○○って言ってたのを踏まえて○○の方がフィットする」とか、
会社として実現したい世界や数年先のゴールを意識して目の前に落とし込むことができました。

この会社では2週間に1回はオールMTGでCEOにフリートーク時間が用意されて熱意や今の想いを共有しますし、
毎週Slackでも欠かさず”今オレが考えてること”を共有してくれます。

そういうカルチャーにもとても助けられました。

for Startups, Inc.のMVV (出所:会社HP
Screen Shot 2019-11-08 at 0.04.30.png

The Team

最後に、デザインスプリントはチームそのものを強くすると感じました。
僕らは普段からコミュニケーションがとても活発なチームだと思ってはいますが、プロダクトの本質やゴールを4時間を使ってみんなで議論するとお互いをもっともっと深く理解することができます。部活の合宿のような感覚で、長時間すぐそばで過ごしてチームとして強くなるイメージかも知れません。

中には意見が相違したり考え方が異なる部分もありますが、「同意」できなくてもいいのです。「理解」することがとても重要です。(この辺りはぜひアカツキ塩田さんの書いた『ハートドリブン』読んでみてください)

お互いを知り、理解し、その上で一つの方向を向く。仲間を信頼する。
そのためにもデザインスプリントはいい時間になるはずです。

最後に

というわけで途中から結構エモくなってしまいましたが
ヒューマンキャピタリストという新たな業務を支える・デザインするサービスについてデザインスプリントを行った感想でした。(やってみて見えた課題や難しさもあるので個別にご質問いただければ喜んで共有します)

試行錯誤しながら、日本から世界で勝つスタートアップ支援を支えていきたいと思います

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