この記事はtuat-sysbiolab advent calendarの8日目です。
はじめに
はじめまして。
私達の研究室ではMS-DIALという質量分析データの解析ソフトウェアを作成しています。世界的にも広く使っていただいているこのソフトウェアですが、詳細な機能を説明するようなドキュメントがない時間と人手がないので、Advent calendarという機会にかこつけて紹介しようと思います。
このソフトウェアは、さまざまな用途で利用されるため、初心者にもわかりやすい情報を提供する必要性を感じていますが、時間的な制約から詳細なガイドラインを作成するのは難しい状況です。そこで、今回はその一部を簡単に紹介し、皆さんの研究や作業の役に立てればと思います。
質量分析とMS-DIAL
そもそも質量分析とはなんぞや?という方のために少し紹介すると、質量分析とは試料中に特定の質量のイオンが存在するのか?存在するならどのくらいあるのか?を調べる技術です。
質量分析という字面を見ると、秤の延長上のなにかと思うかもしれません(以前の私はそう思いました)が、注目するのは試料の質量ではなく、試料中にどのような(質量の)分子が含まれているかになります。質量を測定するのではなく、質量で分離するのです。
この質量分析は広く使われており、食品や医薬品、農業などさまざまな分野で活用される分析法となっております。例えば、食品業界では品質管理や異物検出に、医薬品分野では薬物の構造解析や代謝物の研究に活用されています。
さて、ではMS-DIALというソフトウェアは、質量分析に対してどのような立ち位置にいるのかというと、主にメタボロミクス研究において、質量分析の計測データを解析するためのソフトウェアとなっています。
質量分析で得られるデータは大雑把に言えば、ある質量の分子がどのくらい検出されたのかだけです。しかし、時間軸での試料の分離や、分子の断片化によって、人手で測定結果を解釈するには膨大すぎるデータを取得することになります。
そこからどんな分子が検出されているのか、試料によってそれらの検出量はどのように変動しているのか、そういった情報を抽出していく必要があります。生体に含まれる数千、数万の分子を同定し、変動をみて、どのように影響しあっているのかを解き明かしていく…、これを人手で行うにはとても現実的ではありません。そこで、これを解決するためにMS-DIALはメタボロミクス解析のためのワークベンチとして開発されました。
このように、MS-DIALは膨大な質量分析データを効率よく処理し、ユーザーにわかりやすい形で結果を提供するためのツールです。その使い勝手の良さが評価され、現在では世界中の研究者に利用されています。
MS-DIAL機能紹介
ここからは質量分析について大まかに知っている方向けに、簡単に機能紹介をしていきます。
まず、こちらが公式サイトになっております。こちらから、ソフトウェアのダウンロード、デモファイル等がダウンロードできます。
MS-DIALでは質量分析の生データから、以下のような解析を行うことが可能となっています。
- ピークの検出
- ライブラリを用いたMS/MSシミラリティでのアノテーション
- 複数サンプル間でのピークアライメント
- 結果の確認とアノテーションや、定量値の修正
- (簡単な)多変量解析
以下はLC-MS/MSを解析した、MS-DIALの基本の画面になります。上に書いた機能で言うと、1~3までを実行した後です。
画面要素を簡単に紹介すると、画面中央下1に表示されているのが、生データの解析によって得られたピークスポットになります。横軸がRetention time (RT)、 縦軸が m/z になります。この画面からピークスポットを選択すると、このピークスポットに対応する各種ピーク情報が2から5に表示されるというものになっています。
2から5はそれぞれ、基本ピーク情報、MSスペクトル、MS/MSスペクトル、各サンプルにおける定量値となっており、解析時に確認したい情報を一画面で表示しきるような構成になっています。
これ以外にも、ピーク情報のテーブル表示や、EIC (XIC)、化合物検索などの機能がそろったソフトウェアになっております。
さらに、MS-DIALは私たちの研究に実際に利用していることもあり、機能拡張も積極的にしており、例えばメタボロミクス以外の用途や、GC-MS、IM-MSなどの分析手法に適用するためのカスタマイズも可能となっています。
最後に
簡単ではありますが、MS-DIALの紹介でした。このアドベントカレンダーの今後の私の投稿では、MS-DIALのtips的なものを少し紹介していこうと考えています。
危うくアドベントカレンダーを言い出した当人が、投稿しそこなうところでしたが、当日中に投稿したということで許してください!
MS-DIALをまだ使ったことがない方や、使い方に悩んでいる方は、ぜひ公式サイトやこの投稿を参考にしてみてください。また、皆さんのフィードバックをいただけると大変励みになります。