概要
コロナ禍の状況の中、ドイツでは対策として消費税に該当する税率を引き下げることを発表しました。
日本でもそんな話しがチラホラと聞こえてきますが、システムに携わる人間としては、減税であってもシステムにインパクトのある法律改正は避けて欲しいところ。。。
つい先日8%から10%に増税となって半年以上が経ちましたが、増税期間中で特例措置が施されていた総額表示義務という言葉を耳にしました。
この総額表示義務と、2023年までには対応しなければいけないインボイス制度について、その要件にうまくマッチしない気になるポイントがありましたので、情報を整理するためにQiitaに調査内容含めてメモを残します。
総額表示義務とは
「総額表示」とは、消費者に商品の販売やサービスの提供を行う課税事業者が、値札やチラシなどにおいて、あらかじめその取引価格を表示する際に、消費税額(地方消費税額を含みます。)を含めた価格を表示することをいいます。
つまり、消費者がその商品を取得するために必要な金額が、総額で表示され、それ以上請求されることが無いと自覚できるようにしなければならないという義務です。
現在(2020年6月現在)は、消費税が10%に増税されことで、多くの価格表示では、税抜価格+税というような表記となっているかと思います。
この点については、増税での混乱などを避けるために、特例措置が設けられています。
1 総額表示義務に関する特例の趣旨及び概要
「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(平成25年法律第41号。以下「本法」という。)第10条第1項は、二度にわたる消費税率の引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保及び事業者による値札の貼り替え等の事務負担に配慮する観点から、本法の施行日(平成25年10月1日)から、本法が失効する平成33年3月31日までの間、消費税法(昭和63年法律第108号)第63条に規定する総額表示義務の特例として、税込価格を表示することを要しないものとしているが、消費者の利便性にも配慮する観点から、本特例の適用を受けるための要件として、「現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置」(以下「誤認防止措置」という。)を講じることを求めている。
また、本法第10条第2項は、消費者の利便性に配慮する観点から、平成33年3月31日までの間であっても、本特例により税込価格を表示しない事業者は、できるだけ速やかに、税込価格を表示するよう努めなければならないと規定している。
引用:財務省 消費税転嫁対策特別措置法のガイドライン(総額表示義務の特例)について
特例措置の期限は平成33年3月31日までと定義されており、西暦になおすと2021年3月31日までという期限です。
(あと1年切っている。。。)
適格請求書等保存方式
適格請求書等保存方式の下では、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となります。
適格請求書とは
「売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるための書類」です。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)と総額表示義務の対応について考察
適格請求書の記載要件を掘り下げていくと、総額表示義務の内容とどうしても齟齬が発生する内容があり、
今回の考察をまとめました。
調査した内容がかなりの分量となってしまっているので、まずは端的に問題となる事柄をまとめます。
インボイスと総額表示義務の何が問題なのか?
- インボイス
- インボイスにおける、1つの請求書(適格請求書)の消費税額に対する端数処理は、1回にしなければいけない。
- 総額表示義務
- 商品の価格表示は税込表示(総額表示)でなければいけない。
この2つで何が問題になるのかというと、以下の3つの商品を請求書払いで取引する場合を考えてみます。
※消費税の計算を四捨五入で算出するルールの企業の場合
# | 商品 | 税抜き価格 | 消費税 | 税込み価格 |
---|---|---|---|---|
1 | 商品A | 104 | 10 | 114 |
2 | 商品B | 9,994 | 999 | 10,993 |
3 | 商品C | 198 | 20 | 218 |
合計 | 10,296 | 1,029 | 11,325 |
- 総額表示義務の指定通りに計算する場合
- 上表の
税込み価格
を縦に集計した11,325
円が消費者が支払う金額となる。
- 上表の
- インボイスのルールに基づいて、消費税額に対する端数処理を1回だけにすると
- 税抜き価格の
10,296
に消費税率10%を1回だけ計上するので11,325.6
となり、四捨五入して11,326
円が適格請求書に印字される請求金額となる。
- 税抜き価格の
通常は、企業間取引における月次での請求書には、上表のような3件だけの取引に収まらず、非常に大量の取引が想定されます。
インボイスのルールを読んで字の如く実践しようと思うと、総額で支払う必要がある金額が、毎月1回発行される請求書を見てみないと分からない。なんてことがあっていいんでしょうか????
という疑問点から、この対応について考察したいと思います。
適格請求書の記載要件
まずは適格請求書の記載要件6つについてです。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象となる場合はその旨)
- 税率ごとに合計した税抜又は税込対価の額及び税率
- 消費税額等
- 書類の交付を受ける者の氏名又は名称
ここまでの内容では特に問題はありません。
国税庁の適格請求書に関するQ&A資料
国税庁が出しているQ&A資料の問36に以下のような内容があります。
問 36 適格請求書には、税率ごとに区分した消費税額等の記載が必要となるそうですが、消費税
額等を計算する際の1円未満の端数処理はどのように行えばよいですか。【答】
適格請求書の記載事項である消費税額等については、一の適格請求書につき、税率ごとに1
回の端数処理を行います(新消令70の10、インボイス通達3-12)。
なお、切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすること
ができます。
(注) 一の適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し、1円未満の
端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することは認められません。
引用:国税庁 消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A
この内容を読むと、適格請求書1つにつき、税率ごとの消費税額算出の際に出る端数処理は、1度だけしか認めません。
という風に書いてあります。
括弧書きされているインボイス通達3-12に関しては
引用:国税庁 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達
に、以下の内容がありました。
(適格請求書に記載する消費税額等の計算に係る端数処理の単位)
3-12 適格請求書発行事業者が適格請求書に記載する消費税額等(法第 57 条の4第1項第5号
《適格請求書発行事業者の義務》に掲げる「消費税額等」をいう。)は、令第 70 条の 10《適格
請求書に記載すべき消費税額等の計算》に規定する方法により、課税資産の譲渡等に係る税抜
価額(法第 57 条の4第1項第4号に規定する「税抜価額」をいう。)又は税込価額(同号に規
定する「税込価額」をいう。)を税率の異なるごとに区分して合計した金額を基礎として算出し、
算出した消費税額等の1円未満の端数を処理することとなるのであるから、当該消費税額等の
1円未満の端数処理は、一の適格請求書につき、税率の異なるごとにそれぞれ1回となること
に留意する。
(注) 複数の商品の販売につき、一の適格請求書を交付する場合において、一の商品ごとに端
数処理をした上でこれを合計して消費税額等として記載することはできない。
やはり、1つの適格請求書に対しては、端数処理は1度だけという制限のようです。
国税庁 消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&Aの問37にも同様の内容があります。
総額表示義務と適格請求書等保存方式における消費税額の端数処理対応について結論(考察)
※あくまでも個人的に調査した結果として、その結論(考察)を記載しております。
** (自分自身の情報を整理する意味で公開情報としています。)**
** その点ご理解のうえ、本記事をご参照下さい。**
総額表示義務において、1点1点の商品に対して税込価格での総額表示を行い、適格請求書の印字において、消費税額の端数処理を一度にする対応を合わせる場合、次の2通りの対応方法しかないというのが結論です。
# | 対応方法 |
---|---|
対応① | ・1点1点の商品を税込価格で表示 ・消費税額の計算=税抜価格×数量×1.1で端数処理。(もちろん税率ごとに計算する必要あり。) ・当然この計算方法だと税込価格の商品の積み上げと異なる金額になる。 そのため、注意書きとして「消費税の計算上、レジでの精算の際に合計額が異なる場合がある」という内容を消費者に明示する。 |
対応② | ・1点1点の商品を税込価格で表示。 ・消費税額の計算=税込価格×数量÷1.1で端数処理。(逆算して消費税額を計算) |
この対応に至った根拠としては、
引用:電子政府の総合窓口 e-Gov 消費税法施行令 第七十条の十
第七十条の十 法第五十七条の四第一項第五号に規定する政令で定める方法は、次の各号に掲げるいずれかの方法とする。この場合において、当該各号に掲げる方法により算出した金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を処理するものとする。
一 法第五十七条の四第一項第四号に規定する課税資産の譲渡等に係る税抜価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に百分の十(当該合計した金額が軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百分の八)を乗じて算出する方法
二 法第五十七条の四第一項第四号に規定する課税資産の譲渡等に係る税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に百十分の十(当該合計した金額が軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出する方法
分かりづらいかもしれませんが、ポイントとなるのは
一 ・・・税抜価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に百分の十・・・を乗じて算出する方法
と
二 ・・・税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に百十分の十・・・を乗じて算出する方法
の2つの方法のどちらかによって消費税額の端数処理を行いなさいよ。ということが述べられています。
この内容が、消費税額の端数処理対応における、2つの対応方法の根拠情報です。
補足情報:月次で請求書を出すケースにおいての端数処理について
取引先とは1ヶ月分の取引をまとめて請求書を提出して精算しているケースを考えます。
1ヶ月で取引が1度だけというのは考えづらく、複数の取引が存在します。
複数の取引のたびに、納品書という形で取引内容や取引の金額(税抜価格、数量、消費税額、税込み金額など)を印字しているものだとします。
この場合、例えば100取引あると、その納品書単位で100回は消費税の端数処理をおこなっていることになります。
でも、請求書はこの100取引をまとめて1つとして取引先に提出し、精算します。
こうなると、最終的に1つの請求書(100回の取引をまとめた請求書)では、1度だけしか消費税の端数処理をできないルールを厳密に守ろうとすると、結局月に一度の請求書をみないと、支払額が分からないことになってしまいます。
こんな疑問を解消するQ&Aがありました。
消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(平成30年6月)(令和元年7月改訂)(令和元年8月掲載)
問45
当社は、これまで(軽減税率制度の実施前)、商品の納品の都度、取引先に納品書を交付
しており、そこには、当社の名称、商品名、納品書ごとの合計金額を記載しています。
当社は、令和5年 10 月から、納品書に、税率ごとに区分して合計した税込価額、適用税
率と納品書ごとに計算した消費税額等の記載を追加するとともに、請求書に登録番号の記載
を追加すれば、納品書と請求書を合わせて適格請求書の記載事項を満たすことになります
か。また、その場合、端数処理はどのように行えばよいでしょうか。【平成 30 年 11 月追加】
【答】
適格請求書とは、必要な事項が記載された請求書、納品書等の書類をいいますが、一の書類
のみで全ての記載事項を満たす必要はなく、交付された複数の書類相互の関連が明確であり、
適格請求書の交付対象となる取引内容を正確に認識できる方法(例えば、請求書に納品書番号
を記載する方法など)で交付されていれば、これら複数の書類に記載された事項により適格請
求書の記載事項を満たすことができます(インボイス通達3-1)。
このため、ご質問のように納品書に商品名等の「課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内
容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産
の譲渡等である旨)」、「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計
した金額及び適用税率」及び「税率ごとに区分した消費税額等」の記載を追加するとともに、
「登録番号」を請求書に記載した場合は、納品書と請求書を合わせて適格請求書の記載事項を
満たすこととなります。
この場合、納品書に「税率ごとに区分した消費税額等」を記載するため、納品書につき税率
ごとに1回の端数処理を行うこととなります。
つまり、複数取引をひとまとめにする請求書によって精算処理をする場合、その請求書だけで適格請求書の要件を満たす必要はなく、請求書とその内訳となる納品書を合わせて適格請求書とすることができるようです。
なので、この例では、納品書単位で税率ごとに1度の消費税端数処理を行うことが許容されます。
参考情報まとめ
記事内で参照している参考情報については、以下にまとめておきます。