この記事は物理学アドベントカレンダー20244日目の記事です。
約30年前に「砂時計の七不思議」という本を中公新書から出させてもらいました。これは光栄にも講談社出版文化賞科学出版賞(現在は講談社科学出版賞)を頂きました。ですが、すぐに絶版になってしまい、その後はずっと電子書籍だけで提供されていました。
今回、光栄にもその本を「砂時計の科学」というタイトルで講談社学術文庫から再度出版してもらえることになりました。内容は30年前そのままなのですが、今回、改めて内容紹介を書こうと思いました。
砂時計の七不思議は、内容的には粉粒体の動力学を物理学の観点から考察した一般向けの書物です。ただ、当時はいわゆる非線形非平衡多自由度系の研究が数値計算の発展も相まって非常に盛んだった時代でもあり、単に粉粒体の動力学にとどまらず、カオス、フラクタル、パターン形成などの入門にもなっています。最近遺伝研の所長に就任された近藤滋先生の熱帯魚の縞の研究なども紹介しています。そういう今の時代にも通じる、古びない内容が評価されたのかな、と思っています。講談社学術文庫っていうと往年の名著で絶版になってしまったものが収録されるというイメージだったので、拙著を選んで頂いたことはとても光栄に思っています。同時に、30年経っても価値があるような一般向けの本をこれからも書けたらいいな、とも思っています。
以下では目次と共に内容を簡単に紹介します。
はじめに
粉粒体の動力学とは砂とか米粒みたいな、粒々の集団運動を問題にするものです。この「はじめに」では、粉粒体は単に砂とかをモデル化するだけのものじゃなく人間集団を扱うこともできるみたいなことを書いてあります。要するに掴みです。
第一章 流れ落ちる
旧題の「砂時計の七不思議」は粉体工学の分野では「ホッパーの七不思議」として知られていました。ホッパーというのは漏斗みたいな装置のことでこれで粉粒体を容器に詰めたりするのです。この章の内容を読んだ編集者の方がタイトルを「砂時計の七不思議」とされました。賞を取るにはこの命名は大切だったと思います。
第二章 吹き飛ばされる
砂丘や風紋の運動を扱います。ここはパターン形成に関係ある章でこの章で上述の近藤先生の業績も触れさせて頂きました。
第三章 かき混ぜられる
ここは多分にカオスと関係する部分です。流体の混合と粉粒体の混合がいかに違うかを議論しました。
第四章 吹き上げられる
粉体の層に下から気体を勢いよく吹き込むと流動層と言って液体のような状態になります。その中で泳ぐこともできますよ。
第五章 ゆすられる
これはそもそもの僕の出世作の研究で、粉体層を上下に激しく揺すると対流が生じる現象がありこれをいち早く数値計算で出せたので一躍有名になれました。結果、粉粒体の他の分野のレビューなどもすることになってそのおかげで今の職があったようなものです。
第六章 粉粒体とは何か
かなり哲学的な内容です。
おわりに
さらに哲学的になって物理とは何か、みたいな話になってます
参考文献ガイド
当時の文献
学術文庫版へのあとがき
ある意味、30年経って、あとがきで書いたことは正しかったのかの答え合わせ。
おわりに
以上です。読んでくれたらうれしいかな。