LoginSignup
0
0

More than 1 year has passed since last update.

オミクロン株の重症化についてのインペリアルカレッジ論文の問題点

Last updated at Posted at 2021-12-20

はじめに

先にインペリアルカレッジから公開されたオミクロン株についてのレポート

We find no evidence (for both risk of hospitalisation attendance and symptom status) of Omicron having different severity from Delta, though data on hospitalisations are still very limited

という一文がありこれが「オミクロン株とデルタ株の重症化の程度は同じくらいだという報告が出た」という誤った解釈が流布しているのでこれを正すためにこの文章を書きました。

問題点1:重症化データの欠落

そもそもこのレポートには重症化のデータは一切含まれていません。扱われているのは症状のあるなしと入院のデータだけです。症状のあるなしや入院のしやすさは重症化と関係はしているかもしれませんが、同じではありません。まして、症状の有無や入院のしやすさに「差がなかったこと」をもってして重症化の程度が同程度だと類推などできないのは明らかだと思います。

問題点2:正確にオミクロン株を同定していない

レポート内にも触れられていますが

SGTF had over 60% specificity for Omicron over the date range analysed in the SGTF analysis (and close to 100% by 10th December).

とあるようにこのレポートで「オミクロン株感染した」と扱われている人たちは本当にオミクロン株に感染した確認がどれていません。結果が「感染の有無や入院しやすさにデルタ株とオミクロン株で差がない」というものであるなら、そもそも、デルタ株とオミクロン株の区別が十分な精度でできていないことを疑ってしかるべきでしょう。さらにこの論文には

A total of 208,947 S+ and 15,087 S- cases with complete data were included in the SGTF analysis, and 142,340 Delta and 6,184 Omicron cases were included in the genotype analysis.

という記述があり、数が少ないもののオミクロン株に感染したことがちゃんとわかっている集団があるのにわざわざ不確かな集団を使って解析しています。おそらくオミクロン株に感染したことがちゃんとわかっている集団は個体数が少なく統計的に有意な結果が出なかったものと思われます。この点からもこの解析は信用することが難しいように思います。

問題点3:なぜロジスティック回帰をつかうのか?

ここで問題にしているのは「デルタ株感染者」と「オミクロン株感染者」という2群と「無症状対有症状」という2群や「入院対非入院」という2群の重なり具合です。このような場合は2×2の表を使ってフィッシャーの正確確率検定を行うのが常道です。

S+ S-
有症状 119284 8171
無症状 89663 6916
S+ S-
非入院 207555 15063
入院 1392 24

ここでS-がオミクロン株、S+がデルタ株としてレポート内で扱われているものです。これを普通にRを使ってフィッシャーの正確確率検定を行ってみました。

Fisher.R
y <- data.frame(a=c(rep(1,119284+8171),rep(0,89663+6916)),b=c(rep(0,119284),rep(1,8171),rep(0,89663),rep(1,6916)))

fisher.test(table(y[,1],y[,2]))

Fisher s Exact Test for Count Data

data:  table(y[, 2], y[, 1])
p-value = 2.597e-12
alternative hypothesis: true odds ratio is not equal to 1
95 percent confidence interval:
 0.8589658 0.9181627
sample estimates:
odds ratio 
 0.8880803 

y <- data.frame(a=c(rep(0,207555+1392),rep(1,15063+24)),b=c(rep(0,207555),rep(1,1392),rep(0,15063),rep(1,24)))

fisher.test(table(y[,2],y[,1]))

Fisher s Exact Test for Count Data

data:  table(y[, 2], y[, 1])
p-value < 2.2e-16
alternative hypothesis: true odds ratio is not equal to 1
95 percent confidence interval:
 0.1516330 0.3550949
sample estimates:
odds ratio 
  0.237572 



みたいになりますこの結果を言葉でいうと

  • 無症状の割合はデルタ株の方がオミクロン株の88.8%(95%信頼区間は85.8%以上、91.8%以下)と少ない
  • 入院する割合はオミクロン株の方がデルタ株の23.8%(95%信頼区間は15.1%以上、35.5%以下)と少ない

ということになります。いずれも統計的に有意にオミクロン株の方が軽症だということを示唆します。

一般に2つの検定があり、一方が有意差がなく一方がある場合には無い方は「検定力が不足していた」と判断されるのであり、有意差がないことをもってして「同じだ」といってはいけないことになっています。なのでこのデータからもし、なにか結論をだすならむしろ「オミクロン株の方が有意に軽症」であるべきでしょう。

おわりに

そもそも、有意差がないのですから「オミクロン株の方が軽症だという証拠がなかった」と言っても「オミクロン株の方が重症だという証拠がなかった」と言ってもよかったはずです。それをこのレポートではあえて前者の表記を使いました。なんか偏向しているのではないでしょうか?

0
0
4

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0