アジャイルを組織に浸透させるには
IPAが発行しているDX白書2023によると、IT部門においてアジャイルの原則とアプローチに取り込んでいる企業は米国においては、78.8%(取り入れている・一部取り入れている)に対して、日本では49%らしいです。また、前回のDX白書2021時点では日本が42.7%だったので徐々に広まっているということかと思います。
とはいえ、まだ半数の企業が取り入れられていないのには、もちろん理由があるでしょう。
日本のプロダクトではアジャイルは適さない?
という仮説にははっきりとNOと言いたいです。
そもそもDX白書を出しているIPA(情報処理推進機構)は経済産業省の機関ですし、そのIPAがアジャイルソフトウェア開発宣言の読みとき方なんてのも出しているのをみても、国を挙げて広めていこうという流れは明らかですし、不確実性の高い現代において、多くのプロダクトでアジャイルなアプローチが有効であることは広く知られているところです。
カイゼンとカイカク
年に一度、半期に一度、月1度、週1度と頻度はどうあれ、振り返りを取り入れているチームは多いと思います。
トヨタから始まったカイゼンという取り組みはとても日本の企業文化には取り入れやすいものですね。
しかし、予測計画型のウォータフォールのプロセスでいくら振り返りをしてもウォータフォールがうまくなるだけで、そのカイゼンからアジャイルの原則を取り入れようとかScrumにしようとはなりません。
もっと予測をうまくやろう、計画をうまくやろうという方向には向かいますが、そもそも予測が難しい、そもそも計画がずれる前提でという話にはならないのです。
以下はすごくざっくり略していますが、学習する組織で紹介されている氷山モデルというものです。
起きている出来事は当然認識できるもので、ここは振り返りでカイゼンできるものです。しかし、そもそも予測が難しい、そもそも計画はずれやすいといった意識・無意識の前提については振り返りでは気が付かない部分になります。
書籍から学んだり、勉強会やITイベントなどからこのメンタルモデルに気が付き、組織やチームを変えたいとなったとき初めてメンタルモデルを認識するのです。
この組織やチームを変えたいとなったとき、振り返りではなんともならないので、やることはカイゼンではなく「改革」になります。
チェンジマネジメントで語られているADKARモデルやアジャイルを広めるためのパターン集であるFEARLESS CHANGEなども「改革」を前提にしたもです。
改革には抵抗が伴う
税制改革や政治改革、享保の改革や天保の改革を見てもわかるように改革には痛みが伴います。今までやってきた仕事の仕方が変わる、キャリアに影響があるかもしれない、組織構造も変わるかも知れない、そもそもうまくいくかどうかがわからないと考えれば当然です。
チェンジマネジメントにしても、FEARLESS CHANGEにしても抵抗があることを考慮して書かれているものですが、多分日本ってこの抵抗が米国に比べてより強いんじゃないかと思うのです。
少し別の言い方で言うと、日本人は対話が苦手なのではないか?と思うのです。
日本人は対話が苦手?
たとえば、ADKARモデルで言えば、認知をしてもらい(AWARENESS)→変えたいという欲求を持ってもらい(DESIRE)→知識を得(KNOWLEDGE)→能力として身につけて(ABLITY)→定着する(REINFORCEMENT)という流れを説明していますが、そもそも認知をしてもらうまでのハードルが高いんです。
そもそも変えようとすることに抵抗があるのだからいくら認知してもらっても変えようという気にはならない。
FEARLESS CHANGEにしても、小さくはじめるにも、仲間を見つけるにも何をするにしてもまずは抵抗を乗り越えなければいけない。
そうしたときに何よりも必要なのが「対話」というものです。
まず説得する、説明する、認知をしてもらうのではなく、相手には別のナラティブ(物語)の中で意味のあるものがあるという前提に立つ。相手の背後にある課題を知る。そのうえで相手にとって意味のある取り組みは何かを考える。それが変えたいと思っているものであれば変わっていこうと思える。
こういうことが必要になります。そして日本人ってこういうの苦手な人が多い気がします。
勇気を出して対話をしよう
こういう対話というのは、相手の内面を知るということでもあるので、ここに飛び込んでいくのはすごく勇気がいることだと思うんです。多くの日本人の苦手なところです。
しかし、ここに素晴らしい解決策はありません。まずは勇気を出すこと。認知(AWARENESS)でも情熱を持って伝えるエバンジェリストでもなく、対話と勇気。これをFEARLESS CHANGEのパターンの最初に付け加えたいです。
ひとつ勇気が出る材料があるとすれば、変えたいと思う側はさきほどの氷山モデルの埋まっている部分。メンタルモデルに気がついているということ。相手のナラティブや課題を知ってともに乗り越えようとしたときに、この部分の認知が非常に有効であるということです。
勇気を出してやっていきましょう!
※ 対話については他者と働く─「わかりあえなさ」から始める組織論という本を参考にしました。