はじめまして!ちゅらデータでエンジニアをしている栁です。
今年の4月に新卒で入社し、現在は沖縄でリモートワークをしながら、データ分析基盤の開発に携わっています。
実は私、社会人として働きながら、博士号の取得を目指して、都内の大学で研究を続けてきました。博士課程ではAIによる偽情報の自動検出を行う研究をしています。例えば、SNS上に投稿されたニュース記事に対して、ユーザの反響やこれまでの事例の傾向から信憑性をAIが自動的に判断し、ユーザーに注意喚起を促すようなシステムを開発しています。本来は今年3月に博士号取得をするはずでしたが、諸事情により就職後も研究を続けることになりました。そして先日、ようやく博士号を取得できる見込みとなりました!
この9ヶ月間は、仕事と研究の両立に苦労しましたが、多くの学びと気づきを得ることができました。この記事では、私の経験を共有することで、同じような境遇の人を励ましたり、これから博士課程に進む人の参考になれば幸いです。
そもそもなぜこんなことに
博士課程卒で就職を目指して複数の会社から内定を得ていたものの、卒業要件で必要な学術雑誌の掲載が不透明な状況でした。去年の10月に内定式を控えているなか、既に条件付き採録を得たいたため「大丈夫だろう」と今の会社の内定を承諾しました。
しかし、その後雑誌から不採録を通知されました。
急遽別の雑誌に応募しましたが、4月の博士号獲得は間に合いません。
よって、ここで「単位取得後退学」のルールを使いました。
満期退学/単位取得後退学
大学院の場合では、大学院の課程の修了要件のうち、当該課程に在学中に、論文の審査及び試験に合格することのみ満たすことが出来ず、当該課程を退学することをいう。
なお、大学院の博士課程を満期退学又は単位取得後退学後、当該大学院に博士論文を提出し、大学院の博士論文の審査に合格した者は、学位規則第4条第2項に規定する者(いわゆる「論文博士」)として扱うこととなる。
3月をもって大学の籍から外れますが、要件を満たして審査を受ければ博士号を取得できるルールです。幸いにも3月までに代わりの雑誌に掲載されることが決まったので、就職後は審査への準備に充てる計画を立てました。
入社後は沖縄へ移住しますが、週次のゼミはZOOMで参加して研究室の先生と連絡を取ることにしました。
仕事しながら研究できるなんてナイーブな考えは捨てろ
春以降は以下のスケジュールで進めました。
月 | 会社 | 研究 |
---|---|---|
3月 | 引っ越し(下旬) | 論文大筋完成 |
4月 | 研修 | 発表準備/予備審査 |
5月 | 研修 | 論文修正 |
6〜10月 | 勤務/PyConAPAC発表 | 論文修正/発表準備 |
11月 | 勤務 | 本審査(公聴会) |
12月 | 勤務 | 卒業🎓️ |
社会人になると、当然ながら仕事が最優先になります。平日は勤務があるため、研究に充てられる時間は限られています。私の場合は、平日は仕事に専念し、週末や祝日を研究に充てるという生活を送っていました。しかし、仕事の繁忙期やPyCon APACでの発表などで、予定通りに研究を進められないこともありました。また、仕事と研究の切り替えがうまくできず、どちらも中途半端になってしまうこともありました。
博士号の審査は2段階に分かれています。
- 予備審査
- 審査における最大の山場
- 研究内容について1時間発表+1時間質疑のフォーマットで行う
- 身内の教授と他所の教授が4−5人程度参加する
- 当然ながら質疑は以前の比にならないレベルで厳しい
- 勿論悪意ではなく知的好奇心がむき出しであるが故なのだけども
-
自分の研究の成果は良くないと認めるんですね?
- と聞かれる様はさながら裁判所の被告人質問(本当に言われた)
- 何をツッコまれても冷静に自分の研究の貢献を説明しなくてはならない
- 指摘を受けた事項は審査後に修正や(場合によっては)追加調査の必要がある
- 本審査
- 大学によっては公聴会とも
- フォーマットは予備審査と同一
- 目的は予備審査で言われた点が改善できているかのチェック
- ゆえに質疑は予備審査ほど厳しくはない(大学によるかもしれない)
- ここでOKを貰えれば事実上博士号取得確定である
予備審査が最大の山場であるため、3月末までにできる限り準備を終わらせた状態で4月を迎え、審査当日までは微調整に徹することとしました。審査はGW手前だったため、少し早めに東京入りして現地発表をしました。想像以上にかなり厳しい質問を受け、正直NGも覚悟しましたがOKを貰えてホッとしました。
指摘事項が多かったですが、『時間はかかっても良い』というお言葉をいただき最短の6月卒業ではなく、遅くとも25年3月までの卒業を目指すことにしました。
幸い想定よりも早く修正に目処が立ったため、24年12月卒業を目指して11月に本審査をすることにしました。
ただ、仕事の合間に送ったPyConAPACのプロポーザルが採録され(てしまっ)たため、直前の準備はかなり慌ただしいものになってしまいました。帰国後、本審査まで2週間あったので、その期間で集中して準備を進め、無事に審査を通過することができました。
社会人で博士課程やってる人凄い
私の研究室には、社会人として働きながら博士課程を続ける仲間が多くいます。例えば、警察庁で勤務しながら、SNS上での新たな隠語を自動で検出する研究をしている方は、限られた時間の中で効率的に研究を進めるために、研究を行う時間帯を常に固定するといった工夫をされています。また、某国内大企業に勤務しつつ、スパムメール自動検出の研究を行い、将来的な独立起業を目指している方は、仕事内容と研究の内容が常に近しい内容にしていることで両者から知見を多く得られるようにしています。
彼らと情報交換をしたり、励まし合ったりすることで、私も最後までやり抜くことができました。社会人で博士課程を続けることは、決して簡単なことではありませんが、強い意志と周囲の支えがあれば、必ず実現できると信じています。
当初自分は「社会人でも研究はやれるもんなんだな」と思ってはいたものの、春に自分が社会人になったことで時間管理の難しさを痛感しました。
社会人として働きながら博士号を取得することは、決して楽な道のりではありません。しかし、この経験を通して、時間管理能力や問題解決能力、そして精神的なタフさなど、多くのことを学ぶことができました。また、素晴らしい研究仲間や指導教員にも恵まれ、人間的にも大きく成長できたと感じています。
私も、彼らのように、限られた時間を有効に使うための工夫をしています。具体的には、以下のような方法で時間管理を行っています。
- タスク管理ツール「Trello」の活用:
- 研究関連のタスクを全てTrelloに書き出し、優先順位と期限を設定して管理しています
- ジムの活用:
- 警察庁から研究をしている方はベンチプレス120kg(RM)を挙げられる程のツワモノで、これも両立できている原動力だろうなと思い、自分も定期的に筋トレをすることにしました。体調を崩さないためにも研究ではなく運動をする時間を作るのが目的です。
彼らと情報交換をしたり、励まし合ったりすることで、私も最後までやり抜くことができました。社会人で博士課程を続けることは、決して簡単なことではありませんが、強い意志と周囲の支え(これが一番重要かも…)があれば、必ず実現できると信じています。
もし、この記事を読んでいる方の中で、社会人として博士課程を続けることに興味を持つ方がいれば、ぜひチャレンジしてみてほしいと思います。もちろん、簡単なことではありませんが、必ず得るものは大きいはずです。
おまけ: PyCon APAC報告会のお知らせ
10月末に参加したPyConAPAC in インドネシアの報告会を12月11日にHENNGE様のスペースを借りて行います!
PyCon APACでは、アジア太平洋のPythonエンジニアと交流し、最新の技術動向や、様々な分野での活用事例について学ぶことができました。
今回の報告会では、PyCon APACで得られた学びや、インドネシア事情(例えば、現地のエンジニアの働き方や、日本との違いなど)などについて、詳しくお話しする予定です。また、海外カンファレンスに参加するメリットや、参加するためのTipsなども紹介しますので、海外での活躍を目指しているエンジニアの方にも、ぜひ参加していただきたいです。
イベントの詳細・申し込みはこちら
https://churadata.connpass.com/event/333786/
ぜひ参加してください!