はじめに
自分について
株式会社Hajimariにてスクラムマスター兼開発者として色々なチームのふりかえりをファシリテーションさせていただいてます。
色々なチームをファシリテーションさせていただいている中で(母数は少ないですが)今回とても良いプロダクトを使い、効果的で楽しいふりかえり会が行えたな、と感じることができました。
スクラムマスターとしての視点からの感想も交えつつ、今回は「問い・解い・トイ」というふりかえりボードゲームを使用したふりかえりについてお伝えできればなと思っています。
ふりかえり、楽しくできていますか?
ふりかえり、できていますか?ふりかえり、楽しくできていますか?
自分がファシリテーションをする時はびばさんのセッションから学んだ「ふりかえりは楽しいもの」という価値観をできる限り伝えられるようにしています。
そんなふりかえりで、楽しい雰囲気はできているなと感じている中、もっともっと熱狂的に楽しいふりかえりが出来るのではないかと常に感じていました。
もし、普段のふりかえりが「反省会」になってしまっているチームや、「もうちょっと楽しくやりたい・・・」と思っている方はご一読していただけると嬉しいです。
「問い・解い・トイ」とは?
ふりかえりボードゲーム
株式会社RayArc・新規事業ユニットさんが制作しているフカボリ「ふりかえり」ゲームです。プレイ人数は1〜6人で、小さいチームなら十分なプレイ規模です。1on1に使用できたり、自分自身の内省に使うこともできます。
先日開催されたゲームマーケット2023秋にて新しく出品されていたこともあり、購入させていただきました。
noteの方で発信をしているため、詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
楽しく、誰でも、簡単に
「問い・解い・トイ」はボードゲームなため、オフラインで集まる必要があります。逆にその条件さえクリアしてしまえば、カードとゲームルールに則ることで「ふりかえり」会を進めることができます。
ふりかえり会のファシリテーションは気張るものではないですが、何かと経験がないと戸惑ってしまうのは確かです。
そういった場合でも今回この製品があれば「ふりかえり」会を進めることが容易になり、なおかつ楽しく進めることができます。
ゲームの概要
このゲームは「提起者」と「傾聴者」という役割があり、以下の3つのフェーズを進めます。
- 問いを立てる(といかけフェーズ)
- 解きほぐす(ときほぐフェーズ)
- アクションプラン(ひらめきフェーズ)
- toi toi toi!(おまじないフェーズ)
といかけフェーズ
問いかけフェーズでは「問い(といかけカード)」を引き、チーム(や個人)に対して「問い」を投げ、そこから問題提起をしたい人を見つけ、「ときほぐフェーズ」に進みます。
ときほぐフェーズ
「といかけフェーズ」で提起された問題に対してより深く理解をするために「解いカード」を使い、問題を解きほぐしていきます。
ひらめきフェーズ
「ときほぐフェーズ」で課題に対して理解が深まったら、今度は「トイカード」を使って「ネクストアクション」をチーム全員で決めます。そして最終的に1つにネクストアクションを決めます。
おまじないフェーズ
おまじないフェーズでは、「ひらめきフェーズ」で決めたネクストアクションに対して「おまじない」をかけます。この「おまじない」がネクストアクションの実行を促進させるトリガーにもなります。
実際に使用してふりかえってみて
1on1での「問い・解い・トイ」
この「問い・解い・トイ」ですが、1on1にも使用することができます。
1on1では2人でのプレイになるため、盛り上がるか少し不安だったのですが、実際にプレイしてみて「よかった!」「楽しかった!」というポジティブな意見を貰いました。
「いまどんなキブン?」から始まる問い
「問いカード」で「いまどんなキブン?」という問いカードがあります。この「問い」はなかなかオープンでなおかつ、ここから問題提起に繋げていくのは難しい気がしていたのですが、意外と問題提起に繋がります。
「キブン」はかなり感情的で問題の本質から遠いように感じる人もいると思います。ただ、その「キブン」は何かの不協和や問題から引き起こされている可能性が高く、その「キブン」が重大なフックポイントの可能性があります。
この「いまどんなキブン?」から問いを立て、「もやもやしている」ならその「もやもや」はどこから来ているのかを聴き、話者の「もやもや」の出処と傾聴している中で感じた「もやもや」していそうな部分を伝えることでメタ的に「もやもや」を認知することができます。
この「問いカード」から引き出された問題をベースに「解いカード」を使って更に問題をフカボリ、解きほぐしていきます。
問題を解きほぐす
この「解いカード」が数多く種類があり、問題提起者に対する良い「問い」となっています。
例えば「そもそもたいせつなことってなに?」というカードがあるのですが、このカードはWhyを解います。 ふりかえりは立ち止まり、前を向くことですがこのカードは足元しか見えていなかった所から原点まで立ち戻らせてくれる問いです。
また、「このさきどうなりそうかな?」というカードもあるのですが、こちらは逆に「今の問題がこのまま放置されるとどうなるか」を解くカードになります。ふりかえり手法である「像、腐った魚、嘔吐」でいう「腐った魚」に近い問いであり、問題が放置されることによるリスクをベースにした解いが行なえます。
「どうしてそう思ったの?」というカードもあります。このカードは自分の問題提起に自分なりの解釈が含まれていないかどうかや、問題を判断したポイントの言語化を進め、より本質的な課題を発掘するための解いになっています。
「ときほぐフェーズ」ではこれらの「解い」カードを選択して問題提起者に対して問うため、より本質的な課題へと向き合いやすくなっています。
ただ逆に、1on1でプレイする際はこの「解い」カードを選ぶ必要があるため、「傾聴者」は「今一番効果的な解い」を選ぶ必要があります。選択肢があるだけでも正直嬉しいものではありますが、「どの解いが一番刺さるか」を相手の話を傾聴しつつ、より本質的な課題に近づくために取捨選択する必要があるため、チームでやるよりは少し難易度が高まるなと感じました。
しかし、この「解いカード」があるので1on1における「解い」が固定化せずに多様性を持った状態で1on1が行える良さも感じました。
アクションを決める
ネクストアクションを決めることは正直言って容易なことではありません。チームによってはネクストアクションが出てこなかったり、ネクストアクションを決めすぎて逆に何も行われない状態のふりかえりが行われることもあります。
ここでは「トイカード」を使用してネクストアクションを決めていきます。この「トイカード」がネクストアクションを考えるキッカケになり、0から考えるよりもアクションが出やすい状態を作ります。
「あっとおどろくジョーシキはずれなアクションプラン」や「わすれていたキホンにたちかえるアクションプラン」などと書かれたカードがあり、このカードをベースにアクションを考えることができるため、連想して考えやすく、思いもよらないアクションが思い浮かぶこともありました。
「しないアクション」とはおさらば
「toi toi toiカード」というものがあり、このカードは「おまじない」の役目を果たします。
このカードには「アイコトバを決めてみよう」や「テーマカラーをきめてみよう」と言った内容が書いてあり、この助言に従いながら 「ネクストアクションを思い出すおまじない」 を決めます。
ふりかえりをしていて一番むずかしいのがこのネクストアクションで、「せっかくネクストアクションを決めても実行されない・・・」ということが多々あります。
でもここでこの「おまじない」があることでネクストアクションを思い出すタッチポイントを増やし、よりアクションへ目を向けやすい構造となっています。
これらの設計から「問い・解い・トイ」を使用した1on1ではより本質的な課題へと問いかけながらも、一緒にアクションプランを考え現状を打破するためのおまじないを考えて幕を閉じます。
この設計が非常に素晴らしく、楽しく短い時間でふりかえられるためすごく強力なツールだと感じました。
余談ですが、「カードがあると話しやすい」という声もあり人間ゼロから考えるのも良いですが、何かしら指針があった上で考えられるとよりスムーズに思考ができるのだと再認識しました。
チームでの「問い・解い・トイ」
チームで「ふりかえる」
チームで「問い・解い・トイ」をやると、1on1よりもチームの問題にフォーカスしたふりかえりが行なえました。
基本的な流れは変わりませんが、人数は増えた分解きほぐし方のバリエーションが増え、1つの問いに対して数多くお解きほぐし方があり、チームの多様性を持った視点からの解きほぐし方になるため、思考がロックされることはありません。
そして1on1では「その人の課題」について話すことが中心だったのに対して、チームでやる場合は「その人の課題」のように感じるものであっても「チームの課題」に主語を置いて話すことができるようになるため、チームでカイゼンに向かっているふりかえりを行うことができます。
アクションを決める際にもカードをベースにアクションを考え、それぞれがアクションを考えてから提案をするため「アクションどうする・・・?」という雰囲気になりにくいのもすごく良いポイントだと感じました。
そして、「toi!toi!toi」のおまじないがやはり強力で、「テーマカラーを決めてみよう!」というカードで「オペレーションブルー」といった名前とアクションを紐づけ、チームが確実にアクションできるところまで結びつけることができました。これは一見簡単そうに見えるのですが、難易度が高く(ふりかえりをやったことがある方は分かりますが・・・)結局アクションを行わずに終わってしまうチームが多くあるからです。
そして、そのアクションが行われないとチームとしての「このチームでやれる」という組織効力感は高まっていきません。
組織効力感のないチームになってしまうと、どんどんチームとしてのチャレンジはなくなってしまい、次第にチャレンジを避けるチームになってしまいます。しかし、この「問い・解い・トイ」は「おまじない」によってこの現象を回避できるのです。
ホワイトボードがあるといいかも
チームで問いを解きほぐしていると、「そもそも問いってなんだっけ?」という状況になりやすいように感じました。人数が増えるとその分解きほぐす時間が増えるのと、対話していくと情報が増えるためだと思います。
そこでこの「問い・解い・トイ」を使用する際はホワイトボード(オンラインホワイトボードでも可)に、全員が見える形で提起された問いを書いておくと良いと感じました。
白紙にでもいいです。全員が目に見える場所においておくことで、他の人が解きほぐしている間に考えることができ、無意識に集中が行くのでより対話が活発化しやすいです。
複数の問いもいいけど、1つの問いに
説明書には複数の問いをローテーションする遊び方でしたが、個人的に1週間スプリント程度であれば、問いは1つで良いと感じました。
この問いの解きほぐし方にもよるのですが、コミュニケーションが活発なチームであればより解きほぐすことができますし、この解きほぐし方から生まれるアクションはかなり実行性が高く、よりチームの組織効力感を高めるのに役立ってくれます。
複数の問いと複数のアクションを立ててしまうよりは、まずは一点集中でアクションを1つだけの状態にするために、問いを1つで簡潔させると「作業感」も減り、よりチームが成長していくと思います。
「問い・解い・トイ」でふりかえってみて
Miroもいいけど・・・
普段はMiroを使用してふりかえりを行っていましたが、今回この「問い・解い・トイ」というボードゲームを通してふりかえり、オンラインホワイトボードでは得られない価値があるなと感じました。
オンラインホワイトボードツールはリモートでやる分には大変便利で、楽しいツールではあるのですが、パソコンと向き合うことになるため別の作業に割り込まれやすいです。
ふりかえりをしている最中はやはりふりかえりに集中していてほしいものの、ここを強制することはできません。(他人は変えられません)
冒頭にルールとしてPCを見ないというルールを決めるHowもありますが、組織として「忙しい」雰囲気がある場合は、そもそもルールとしてそのような案は上がってこず、もしルールとして決めてもあるタイミングで例外を出してしまった後は形骸化してしまうケースがあります。
ただ、このボードゲームの可能性として「楽しいからこっちに集中する」状況を創り出すことができると感じました。
人は楽しそうなものに対して興味を惹かれます。興味が惹かれれば、興味がある方に集中します。つまり、このボードゲームは「楽しい」のでふりかえりに参加しているメンバーの集中を惹きやすいです。それも、ルールなどを設定して半強制的に動かすのではなく、自発的に促します。とても自然な形で。
誰でもできる可能性がある
ふりかえり会のファシリテーションはふりかえりの内容にもよりますが、難易度は振れ幅があります。
そして、ふりかえりファシリテーション経験がないとやはり戸惑ってしまったり、何をどう引き出すか考えた結果、「頑張りすぎ」てしまって、逆に効果が低くなってしまう場合があります。また、淡々と進めすぎてしまっても「楽しさ」という側面が失われて「作業」という感覚が強まってしまうため、ポジティブに振る舞うロールも必要になります。
そして、この振る舞いを経験がないメンバーに求めるのは少々酷だと思っています。
しかし、この「問い・解い・トイ」はふりかえりのファシリテーション経験がなくても、ボードゲームのルールに沿って進めることによってレールに乗ることができます。ボードゲームがファシリテーションをしてくれるのです。
これがボードゲームでのふりかえりをする上で強力だと感じたポイントでもあります。
今までは「ふりかえり会をファシリテーションできる人」がいないとどうしても走り出しにくかった「ふりかえり」がこのツールがあれば簡単にふりかえれるようになったのです。これは属人化を防ぐ上でも有用ですし、最初の一歩を踏み出すのにもちょうどよいです。
これこそがこのツールの可能性だと思います。「誰でも簡単に」ふりかえることで、よりチームがカイゼンしていける可能性を大きく広げたのだと思います。
アフタートークが盛り上がる
「ときほぐカード」に書いてある解きほぐし方で、「これめっちゃ◯◯さんがいいそうw」や「この解きほぐし方は✗✗さんだよね」といった「解きほぐし方」から人物を想像するアフタートークで盛り上がりました。
このようなアフタートークも「ボードゲーム」という形があるものだからこその利点だと感じました。意外とこの「ただ話す」だけの時間が重要で、この会話で今まで接点がなかった人のイメージが形成される可能性があるため、大切にしています。
おわりに
シンプルだけど、奥深いボードゲーム
「問い・解い・トイ」はこれからも自分がふりかえり会をファシリテーションする際に重宝しそうなツールだと認識しました。
このシンプルだけど奥深いボードゲームを使い、チームの楽しい気持ちを引き出しながら、ポジティブにチームのカイゼンアクションを決めていく。
この流れを肌で実感してもらい、実感してもらった人伝手でもっとふりかえりが広まり、組織習慣になることで組織効力感を生み出し、組織自体もカイゼンに向かっていくことができるのではないでしょうか。
楽しいふりかえりツールをありがとうございます!
そして、自分がもし開発者であれば、実際にプロダクトを使ってみて「こう楽しめてよかった!」という記事が書かれることがとても嬉しいと思ったため、今回は記事を執筆いたしました。
ぜひ記事が開発者様に届くのと、「問い・解い・トイ」を使ったふりかえりが広がりますように。
【Appendix】ふりかえりをファシリテーションする上で参考になる資料
ふりかえりガイドブック
ふりかえりカタログ
ふりかえりナビ
Effective Retrospective ふりかえり - RGST 2023