マテリアルズインフォマティクス(MI)とは
1. 記事作成の背景
記事作成者は、過去に材料開発に携わっており、
現在はデータサイエンティスト(DS)にシフトするために日々勉強しています。
今回、MIに対して興味を持ったため、記事を作成しました。
記事作成の際に多くの資料を参照しながら作成していますが、
間違っている可能性もあります。
その際にはご指摘いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
2. マテリアルズインフォマティクス(MI)とは
株式会社 日立ハイテクソリューションズではこのように定義しています。
マテリアルズインフォマティクス(以下「MI」と記載)は、
「情報科学技術(機械学習、データマイニング等)や統計分析の手法により材料開発を高効率化する取り組みです。 参考1)
簡単に言いますと、材料開発を効率化するAIです。
実験や論文を解析して素材の分子構造や製造方法を予測するなど、デジタル化の進展で膨大なデータをスーパーコンピューターなどの高性能な情報処理装置で操れるようになり、近年、素材分野での応用が広がりつつあります。
これまでの材料探索は、ひとりの研究者が知識と経験に基づいて化合物を選定・設計し、多くの合成をし、特性を評価するということが広く行われてきました。
物質特性をコンピューター上で高精度に計算された材料データベースやAIなどを活用するマテリアルズ・インフォマティクスによって、
研究者の知識と直観をデータで支え、時間とコストを大幅に削減することが期待されています。 参考1)
いい材料を作成するには、
温度、時間、圧力、材料投入タイミング、方法、触媒の有無など実験パラメーターがたくさんあり、
それを過去のデータ、経験、勘をもとに最適化しなければならなく、
実験の条件出しだけでも非常に時間がかかり、面倒です。
それをMIなどで自動で条件出しがされれば、
その分科学者はクリエイティブなことに頭と時間を使うことができ、開発効率化にもなるといわれています。
MIの開発が進むことで、
今まで、人の経験と勘で行っていたところをデータに基づいて評価を行うことができるようになり、開発スピードが加速するとされています。
3. なぜ注目されているのか
経済産業省の世界の開発費の推移を確認すると
米国、中国は2006年から2015年の10年間で開発費が急激に高くなっているが、日本はほぼ横ばいである。
三井化学株式会社(化学メーカー)の有価証券報告書を確認しても
研究開発費はほぼ横ばいです。
1社では断定できないですが、
材料開発における開発費もあまり増加していないと考えられます。
経済産業省の発表資料によると、
日本は、今後の材料開発期間を従来の1/20に短縮して進めていこうとしています。
開発期間を1/20にするには、
現状の予算や研究者の経験と勘で開発している今の開発手法では不可能であるため、AIなど徹底的に活用することが求められています。
そのため、材料開発の高効率化に向けてMIの開発が進められています。
4. なぜMIが進んでいないのか
資料を参考にしながら記事作成者の考えを記載する。
①材料開発は目的もルールも不明確
例えば、ボードゲームなどはルールが明確に決められており、目的も相手に勝つ(将棋の場合王将をとる)とはっきり決まっているので、AIに任せやすいところもある。
しかし、材料開発の場合、ルールも目的も決まっていなく、どのような材料開発をするかは自由です。
なので、人間が物理、化学、材料学などの専門知識を上手に使って、材料開発における問題設計(ルールや目的の設定)をし、その問題を解くのに適した機械学習を使いこなしながら材料開発を進めていく必要がある。 参考3)
しかし、問題設計をし、適した機械学習を選定できる人材が少ないのが現状である。
② 演繹的か帰納的かどちらで行うか
材料開発は、構造や組成から考える手法と、機能性、特性から考える手法がある。
CNF(セルロースナノファイバー)という新しい素材が発見されたときに
どのような材料特性があるのか、何かに応用できないかを考えながら
順問題を解くように材料開発を進めてきた。
最近の開発手法は、「強度がよい素材の開発をしたい」など明確な目的(材料の機能や特性)を達成するために、材料の構造・組成を探していく逆問題を解くように開発を進めていくことが多い。
目的によって、ルールの設定も違うため、その選定から難しい状況である。
③ 分野による違い
材料と一言で言っても幅広い分野です。(ほんの一例です)
有機物
- 低分子
- 医薬品関係
- アルコール類
- 高分子
- 固い樹脂(ケースなど)
- 軟らかい樹脂(フィルムなど)
- 電子部品(有機ELなど)
- 潤滑剤(エンジンオイルなど)
無機物
- 金属系
- 電池部品
- 車部品 - 非金属系
-陶器(茶碗など)
-ガラス
-電解質
上記のように材料と一言で言っても幅は非常に広く、
開発手法、進め方、評価方法が全然違い、
一つ一つの分野ではかなり深い知識まで必要です。
(自分も会社が変わるたびにいろいろな方にお伺いしながら、
専門書読んで業務行っていました)
どこかの分野でMIを作っても他分野で同様に使うのが難しく、
新たに作成しなければいけないと考えています。
④ データがそろっていない
成功例は論文などに乗っていることも多いが、
論文でも詳細な条件は記載されていなかったり、
全ての分析結果が記載されていないこともある。
失敗例については、実験ノートに記載してあるのみで
公表されていないことがある。
データが少ないので、
一つ一つ実験してデータをとっていくのもよいが、
一つの材料作成、評価に1週間かかったりすることもある。
データを集めるにしても人、お金、時間が多く必要になり
現在の日本の開発費では難しいところもある。
また、データの保存方法も研究者によってバラバラであるため、
機械学習できるための前処理にも非常に時間がかかる。
5. 今後のMIを進めていくには
今後MIを進めていくには下記2点が必要と考えている。
・材料開発の専門知識を持ちつつ、機械学習などデータサイエンスの知識を持った人材を増やしていくこと。
どの材料開発の時にどの機械学習モデルや統計学を当てはめていくか判断できる人材を増やしていくこと。
・経営者も含めて全員がMIのメリット理解をし、予算、人財を十分に確保できる状態にすること。
(DX促進するための話に近い)
6. 参考資料
(1)
近年注目の「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」
(株式会社 日立ハイテクソリューションズ)
https://www.hitachi-hightech.com/hsl/products/ict/cloud/ci/or_mi.html
(2)
素材産業におけるイノベーションの役割と期待
(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/chemistry/downloadfiles/180112materials-innovation.pdf
(3)
マテリアルズ・インフォマティクス-材料開発のための機械学習超入門-
出版社 : 日刊工業新聞社 (2019/7/20)
発売日 : 2019/7/20
ISBN-10 : 4526079863
https://a.r10.to/hDM6pz
(4)
マテリアルズ・インフォマティクスによる材料開発
(株式会社 三井住友銀行)
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport090.pdf
(5)
国立研究開発法人 化学技術振興機構
研究開発戦略センター (事例の紹介などしています)
https://www.jst.go.jp/crds/
MIを実際に作ってみるなら下記書籍があります。
実践 マテリアルズインフォマティクス―Pythonによる材料設計のための機械学習
サイズ B5判/ページ数 184p/高さ 24cm
商品コード 9784764906150
NDC分類 571.07
Cコード C3043
https://a.r10.to/hDxJjE
詳しく知りたい場合は下記書籍があります。
マテリアルズ・インフォマティクスによる材料開発と活用集
https://www.gijutu.co.jp/doc/b_1975.htm