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Landau-Lifshitzの行間を埋める(1) 『流体力学』§10 問題7-8【気泡の崩壊】

Last updated at Posted at 2022-11-01

はじめに

『理論物理学教程』(通称"Landau-Lifshitz")は,LandauとLifshitzらによる理論物理学の教科書である.
記述が明快である反面,余分なことを削ぎ落としているため,所々に大きな行間が存在する.
その多くは

  • 面倒だが簡単な計算のため省略されているもの
  • 特殊関数,複素解析などの技巧を使うもの

であり,これは読む側の腕力でなんとかすることもできるが,時には

  • 大きな仮定が抜け落ちているもの

があり,この場合は行間を埋めるのに苦労する.

この記事(もし続けば,このシリーズ)は,筆者がそういった行間を埋めたノートを文字に起こしたものである.

したがって,

  • 正確さを保証することはできない
  • 「ここの行間を埋めてください」という要望には応じられない
  • Landau-Lifshitzのうち,これまで筆者が計算を追ったのは
    • 『弾性理論』の60%程度
    • 『流体力学』の15%程度
      であるから,比較的知名度のある『力学』『場の古典論』を読む際の助けにはならない

ことを,あらかじめご了承願いたい.

『流体力学』 §10 問題7

本題に移る.表題の『流体力学』の§10 問題7は

無限に広い領域を占める非圧縮性流体中に,半径$a$の球状の穴が開いた.
この穴を流体が埋めるのにかかる時間を求めよ(Besant 1859, Rayleigh 1917).

というものであり,液体中の気泡の最も簡単なモデルになっている.
(詳しくはRayleigh-Plesset方程式を見よ)
Landau-Lifshitzの行間としては易しい方だが,最初ということでこれを取り上げることにした.

基礎方程式

穴が開いたあとの流れは中心へ向かい,かつ球対称であるから,非ゼロの速度成分は$v_r \equiv v(r,t)\;(<0)$のみであり,球座標系でのEuler方程式は
$$
\frac{\partial v}{\partial t} + v\frac{\partial v}{\partial r} = -\frac{1}{\rho} \frac{\partial p}{\partial r} .
\tag{1}
$$
連続の式(質量保存則)は,時刻$t$から$t+\varDelta t$までの間に半径$r$の球面を通って内側に流れ込む流体の体積$4\pi r^2 v \varDelta t$が半径によらず時間だけの関数となることで
$$
r^2v = F(t) .
\tag{2}
$$

この説明に納得できなければ,次のように考えてもよい;球座標系での連続の式はこの場合
$$
\frac{\partial v}{\partial r} + \frac{2v}{r} = 0
$$
であり,これを$r$について積分すれば直ちに(2)が得られる.

この後の方針

時刻$t$の穴の半径を$R(t) \; (\leq a)$,その時間変化率を$V(t) \equiv \frac{dR}{dt} \; (<0)$とすると,穴が消滅するまでの時間$\tau$は
$$
\tau = \int_0^\tau dt = \int_{R=a}^{R=0} \left(\frac{dR}{dt}\right)^{-1} dR
$$
で計算できる.
したがって,(1)(2)を積分して$V(t) = \frac{dR}{dt}$を$R$だけの関数として表せばよい.


(2)を$v=\frac{F(t)}{r^2}$と書いて,(1)の左辺第1項に代入する.
$$
\frac{1}{r^2} \frac{dF}{dt} + v\frac{\partial v}{\partial r} = -\frac{1}{\rho} \frac{\partial p}{\partial r}
$$
$r \to \infty$では$v=0$かつ$p=p_0$(一定値),$r=R$では$v=V$かつ$p=0$であることに注意して,$R \leq r < \infty$で積分すると
$$
\left[ -\frac{1}{r} \frac{dF}{dt} \right]_{r=R}^{r=\infty}
+ \left[ \frac{1}{2} v^2 \right]_{r=R}^{r=\infty}
= \left[ -\frac{1}{\rho} p \right]_{r=R}^{r=\infty} .
$$
よって
$$
\frac{1}{R} \frac{dF}{dt} - \frac{1}{2} V^2 = -\frac{p_0}{\rho} .
\tag{3}
$$
最終的に$R,V$だけの式を得たいので,$F$を消去する.
穴の表面を考えると,(2)は$F(t)=R^2(t)V(t)$となるから,(3)は
$$
\frac{1}{R} \left( 2R \frac{dR}{dt} V + R^2 \frac{dV}{dt} \right) - \frac{1}{2} V^2 = -\frac{p_0}{\rho} .
$$
ここで,( )内第1項に$V = \frac{dR}{dt}$を用い,第2項には
$$
\frac{1}{2}R \frac{dV^2}{dR} = \frac{1}{2}R \cdot 2V \frac{dV}{dR} = RV \frac{dV/dt}{dR/dt} = R \frac{dV}{dt}
$$
を代入すると
$$
\frac{3}{2}V^2 + \frac{1}{2} R \frac{dV^2}{dR} = -\frac{p_0}{\rho} ,
\tag{4}
$$
$$
V^2 + \frac{1}{3}R \frac{dV^2}{dR} = - \frac{2p_0}{3\rho} .
$$
これは$V^2(R)$に関する非斉次の常微分方程式であり,斉次解$V^2=\frac{C}{R^3}$と特解$V^2 = - \frac{2p_0}{3\rho}$を重ね合わせて
$$
V^2(R) = \frac{C}{R^3} - \frac{2p_0}{3\rho}
$$
を得る.
$R=a$のとき$V(R)=0$である(穴が開いた瞬間,流体は静止している)から$C=\frac{2p_0}{3\rho}a^3$となり
$$
V(R) = - \sqrt{ \frac{2p_0}{3\rho} \left( \frac{a^3}{R^3} -1 \right) } \; \left( = \frac{dR}{dt} \right) .
$$


よって穴が満たされるまでの時間は
$$
\tau = \int_{a}^{0} \left(\frac{dR}{dt}\right)^{-1} dR
= \sqrt{\frac{3\rho}{2p_0}} \int_0^a \frac{dR}{ \sqrt{(a/R)^3-1} }
$$
で与えられる.
$\left(\frac{R}{a}\right)^3 = x$とおくと$R=ax^{1/3}, \; dR = \frac{1}{3} a x^{-2/3} dx$であるから

\begin{align*}
    \int_0^a \frac{dR}{ \sqrt{(a/R)^3-1} } &= \frac{a}{3} \int_0^1 \sqrt{\frac{x}{1-x}} x^{-2/3} dx \\
    &= \frac{a}{3} \int_0^1 x^{-1/6} (1-x)^{-1/2} dx \\
    & \quad \color{green}{←\displaystyle B(p,q)\equiv\int_0^1 x^{p-1} (1-x)^{q-1} \, dx=\dfrac{\varGamma(p)\varGamma(q)}{\varGamma(p+q)} } \\
    &= \frac{a}{3} B \left(\frac{5}{6}, \frac{1}{2}\right) = \frac{a}{3} \frac{\varGamma(5/6)\varGamma(1/2)}{\varGamma(4/3)} \\[7pt]
    & \quad \color{green}{←\varGamma(4/3)=\varGamma(1/3)/3, \; \varGamma(1/2)=\sqrt{\pi} } \\[7pt]
    &= \frac{a}{3} \frac{ \varGamma(5/6)\sqrt{\pi} }{\varGamma(1/3)/3} = a\sqrt{\pi} \frac{\varGamma(5/6)}{\varGamma(1/3)} .
\end{align*}

ゆえに
$$
\tau = \frac{\varGamma(5/6)}{\varGamma(1/3)} a \sqrt{\frac{3\pi\rho}{2p_0}}
\simeq 0.915 a \sqrt{\frac{\rho}{p_0}}
$$
を得る.

おまけ(§10 問題8)

§10の問題8は,本問の類題で

非圧縮性流体中を球が半径$R=R(t)$で膨張するとき,球表面での圧力$P(t)$を求めよ.

というものである.
$R(t)$が与えられた関数であることと,$r=R$での圧力が$P(t)$であること以外は問題7と同じであるから,答えを出しておこう.

この場合(3)は
$$
\frac{1}{R} \frac{dF}{dt} - \frac{1}{2} V^2 = \frac{P(t)-p_0}{\rho} ,
$$
(4)は
$$
\frac{P(t)-p_0}{\rho} = \frac{3}{2} V^2 + R\frac{dV}{dt}
$$
となる(この式は,Rayleigh-Plesset方程式で粘性と表面張力を無視したものに一致する).

ここで
$$
\frac{d^2(R^2)}{dt^2} = \frac{d}{dt} \left( 2R\frac{dR}{dt} \right)
= 2 \left( \frac{dR}{dt} \right)^2 + 2R \frac{d^2R}{dt^2}
= 2 \left( \frac{dR}{dt} \right)^2 + 2R \frac{dV}{dt}
$$
であるから
$$
\frac{3}{2} V^2 + R\frac{dV}{dt}
= \frac{3}{2} \left( \frac{dR}{dt} \right)^2 + \frac{1}{2}\frac{d^2(R^2)}{dt^2} - \left( \frac{dR}{dt} \right)^2
= \frac{1}{2} \left[ \left( \frac{dR}{dt} \right)^2 + \frac{d^2(R^2)}{dt^2} \right] .
$$
よって
$$
P(t) = p_0 + \frac{\rho}{2} \left[ \left( \frac{dR}{dt} \right)^2 + \frac{d^2(R^2)}{dt^2} \right] .
$$

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