3
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

More than 1 year has passed since last update.

Landau-Lifshitzの行間を埋める(3) 『流体力学』§15 【粘性流体の運動方程式の導出】

Last updated at Posted at 2023-01-28

はじめに

この記事は

の続きである.

Landau-Lifshitz『流体力学』§15は,粘性流体の運動方程式の導出に充てられている.

粘性応力テンソルの形(後述の式(2))を決めるとき,「空間の等方性より」で済ませる本が多いと思う.
これは文字通り「空間のどの方向も対等です」という意味である.
しかし,この表現はやや抽象的であり,流体力学的に何を意味するのか,今ひとつピンと来ない気がする.
一方でLandau-Lifshitzでは,

「流体が一様な角速度で剛体回転しても内部摩擦(粘性)が生じない」

と,物理的要請を明確に記述している.
私はこの点に好感を持った.
とはいえ,Landau-Lifshitzの本文には,上記の要請と式(2)の間に微妙な行間がある.
そこで,この行間を埋めつつ,Landau-Lifshitz流の粘性応力テンソルの決め方についてまとめる.

(大した内容ではないので,気軽に読んで頂ければと思う)

粘性応力テンソル

流体の運動中に生じるエネルギーの散逸が,流体の運動にどのような影響を及ぼすか考えよう.
エネルギーの散逸過程は,熱力学的に不可逆な運動;内部摩擦(粘性)や熱伝導によって生じる.
よって,これらの効果を無視しているEuler方程式(理想流体の運動方程式)は書き改めなければならない1

Euler方程式は,運動量フラックス密度テンソルを$\varPi_{ij}$として
$$
\frac{\partial}{\partial t} (\rho v_i) = - \frac{\partial \varPi_{ij}}{\partial x_j}
$$
と書ける.
理想流体での運動量フラックスの表式
$$
\varPi_{ij} = p \delta_{ij} + \rho v_iv_j
$$
は,流体粒子の運動と圧力による,運動量の可逆な輸送を表している.
粘性流体の運動方程式を得るためには,不可逆な運動量の輸送を表す項$-\sigma'_{ij}$を加えなければならない.
すなわち,粘性流体の運動量フラックス密度テンソルは
$$
\varPi_{ij} = p \delta_{ij} + \rho v_iv_j -\sigma'_{ij}
= -\sigma_{ij} + \rho v_iv_j
$$
と表される.
テンソル
$$
\sigma_{ij} = -p \delta_{ij} + \sigma'_{ij}
$$
応力テンソル,$\sigma'_{ij}$は粘性応力テンソルと呼ばれる.
$\sigma_{ij}$は,運動する流体によって直接運ばれる運動量($\rho v_iv_j$)以外の運動量フラックスを表している.

$\sigma'_{ij}$の一般的な形を導こう.
内部摩擦は,流体粒子の速度が異なるために,流体の各部分の間に相対運動が起こる場合にのみ生じる.
つまり$\sigma'_{ij}$は速度の空間微分の関数でなければならない.
ここでは,速度勾配が小さく,$\sigma'_{ij}$が速度の1階微分の線型結合で表される流体(ニュートン流体)を考えることにしよう.
この条件を満たすテンソルの一般的な形は
$$
\sigma'_{ij} = a \frac{\partial v_i}{\partial x_j} + a' \frac{\partial v_j}{\partial x_i} + b \frac{\partial v_k}{\partial x_k} \delta_{ij}
\tag{1}
$$
である.

流体が一様な角速度で回転している場合,内部摩擦は生じず$\sigma'_{ij}=0$でなければならない.
このことから,係数についての制約条件を得ることができる.
角速度ベクトルを$\vec{\Omega}$とすると,速度は
$$\vec{v} = \vec{\Omega}\times\vec{r}$$
または
$$v_i = \varepsilon_{ilm}\Omega_lx_m$$
となる($\varepsilon_{ilm}$はEddingtonのイプシロン).
これを(1)に代入し

\begin{align*}
    \sigma'_{ij} &= a \frac{\partial}{\partial x_j}(\varepsilon_{ilm}\Omega_lx_m) + a' \frac{\partial}{\partial x_i}(\varepsilon_{jlm}\Omega_lx_m) + b \frac{\partial}{\partial x_k}(\varepsilon_{klm}\Omega_lx_m) \delta_{ij} \\
    &= a \varepsilon_{ilm}\Omega_l\delta_{jm} + a' \varepsilon_{jlm}\Omega_l\delta_{im} + b \varepsilon_{klm}\Omega_l\delta_{km}\delta_{ij} \\
    &= ( a \varepsilon_{ilj} + a' \varepsilon_{jli} + b \varepsilon_{klk}\delta_{ij} ) \Omega_l .
\end{align*}

Eddingtonのイプシロンは添字を1組交換すると符号が反転するから$\varepsilon_{jli} = -\varepsilon_{ilj}$であり,
添字に重複があると0になるから$\varepsilon_{klk}=0$である.よって
$$
\sigma'_{ij} = (a-a') \varepsilon_{ilj} \Omega_l = 0
\qquad\therefore\quad a = a' .
$$

以上より,$\sigma'_{ij}$の一般的な形は
$$
\sigma'_{ij} = a \left( \frac{\partial v_i}{\partial x_j} + \frac{\partial v_j}{\partial x_i} \right) + b \frac{\partial v_k}{\partial x_k} \delta_{ij}
\tag{2}
$$
となる.
こうして,速度の空間微分が対称的な形($ \partial v_i / \partial x_j + \partial v_j / \partial x_i $)で現れる理由がはっきりした.

式(2)よりも,$a,b$を他の定数で表した次の形が便利である.
$$
\sigma'_{ij} = \eta \left( \frac{\partial v_i}{\partial x_j} + \frac{\partial v_j}{\partial x_i} - \frac{2}{3}\frac{\partial v_k}{\partial x_k} \delta_{ij} \right) + \zeta \frac{\partial v_k}{\partial x_k} \delta_{ij}
\tag{3}
$$
前半の$( \; )$内は$i,j$について縮約すると0になる.
つまり,前半は非対角成分,後半は対角成分を表している.
$\eta,\zeta$は速度に無関係の定数で,$\eta$は粘性率,$\zeta$は第2粘性率と呼ばれる.
§16, §49で見るように,これらは正である.
$$
\eta > 0, \quad \zeta > 0.
$$

粘性流体の運動方程式

さて,粘性流体の運動方程式を得よう.
$\varPi_{ij}$に$-\sigma'_{ij}$を加えたことに対応して,Euler方程式に$\dfrac{\partial\sigma'_{ij}}{\partial x_j}$を加えればよいことがわかる.
よって

\begin{align}
    \rho \left( \frac{\partial v_i}{\partial t} + v_j \frac{\partial v_i}{\partial x_j} \right) &= - \frac{\partial p}{\partial x_i} + \frac{\partial \sigma'_{ij}}{\partial x_j} \\
    &= - \frac{\partial p}{\partial x_i} + \frac{\partial}{\partial x_j} \left[ \eta \left( \frac{\partial v_i}{\partial x_j} + \frac{\partial v_j}{\partial x_i} - \frac{2}{3}\frac{\partial v_k}{\partial x_k} \delta_{ij} \right) \right] + \frac{\partial}{\partial x_i} \left( \zeta \frac{\partial v_k}{\partial x_k} \right).
\end{align}

これは粘性流体の運動方程式の最も一般的な形である.
$\eta,\zeta$は一般に温度と圧力の関数であり,流体中で一様とは限らないから,微分の外に出すことはできない.
しかし多くの場合には,$\eta,\zeta$は定数とみなしてよい.その場合には

\begin{align*}
    \frac{\partial \sigma'_{ij}}{\partial x_j} &= \eta \left[ \frac{\partial^2 v_i}{\partial x_j \partial x_j} + \frac{\partial}{\partial x_i} \left( \frac{\partial v_j}{\partial x_j} \right) - \frac{2}{3}\frac{\partial}{\partial x_i} \left( \frac{\partial v_k}{\partial x_k} \right) \right] + \zeta \frac{\partial}{\partial x_i} \left( \frac{\partial v_k}{\partial x_k} \right) \\
    &= \eta \triangle v_i + \left( \zeta+\frac{1}{3}\eta \right) \frac{\partial}{\partial x_i} (\mathrm{div}\,\vec{v}) .
\end{align*}

よって粘性流体の運動方程式をベクトル形式で表すと
$$
\rho \left( \frac{\partial \vec{v}}{\partial t} + (\vec{v}\cdot\mathrm{grad})\vec{v} \right) = -\mathrm{grad}\; p + \eta\triangle\vec{v} + \left( \zeta+\frac{1}{3}\eta \right) \mathrm{grad}\;\mathrm{div}\;\vec{v} .
$$
この式はNavier-Stokes方程式と呼ばれている.

粘性流体を論じる際,ほとんどの場合非圧縮であると仮定してよい.
その場合$\mathrm{div}\;\vec{v}=0$であるから
$$
\frac{\partial \vec{v}}{\partial t} + (\vec{v}\cdot\mathrm{grad})\vec{v} = - \frac{1}{\rho}\mathrm{grad}\; p + \frac{\eta}{\rho} \triangle\vec{v}
$$
を得る.

式(3)で$\mathrm{div}\;\vec{v}=0$とおくことにより,非圧縮性流体での応力テンソルは
$$
\sigma_{ij} = -p \delta_{ij} + \eta \left( \frac{\partial v_i}{\partial x_j} + \frac{\partial v_j}{\partial x_i} \right)
$$
と簡単な形に書ける.

非圧縮性流体では,粘性はただ1つの係数$\eta$で表される.
このため,粘性率といえばふつう$\eta$のことを指す.
また,
$$
\nu = \frac{\eta}{\rho}
$$
動粘性率と呼ばれる.

  1. もちろんエネルギー方程式も書き改めなければならないが,これについては§49で議論されている.
    導き方から明らかなように,連続の式はどのような流体に対しても成立する.

3
0
1

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
3
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?