はじめに
エンジニア歴10年の私が、最近体験した衝撃的な出来事をお話ししたいと思います。
「最近、配信のデータ分析ツール作ったんだよね」
マーケティング部門で働く友人からのこの一言で、私の中の常識が音を立てて崩れ落ちました。
彼がプログラミングをするところなど一度も見たことがなく、「エクセルの関数でちょっと困ったら相談してくる人」という認識だったからです。
しかし、詳しく話を聞いてみると、そこには現代のAI技術がもたらす「開発の民主化」という、
私たちエンジニアにとって看過できない現実がありました。
普通のマーケティング担当者が直面した課題
友人(仮にAさんとします)は、企業でカルチャー発信を担当するマーケティング職です。
仕事の傍ら、1年ほど前からTwitchで配信を始め、
現在2000フォロワーを抱える小規模ながらも熱心なコミュニティを築いています。
配信を続ける中で、Aさんは一つの課題に直面しました。
「配信の効果を数値で把握したいけれど、Twitchの標準アナリティクスだけでは物足りない。視聴者の行動パターンやエンゲージメントの推移を、もっと詳細に分析したい」
マーケティング職らしい課題意識です。しかし、この時点でAさんの技術スキルは:
- エクセルの基本的な関数(SUM、AVERAGE程度)
- PowerPointでの資料作成
- 基本的なWebツールの操作
つまり、一般的なビジネスパーソンと何ら変わりない状況でした。
ChatGPT × ReplitAgent で起きた「魔法」
従来であれば、Aさんの選択肢は限られていました:
- 既存のツールで妥協する
- エンジニアに開発を依頼する(時間とコストがかかる)
- 諦める
しかし、Aさんが選んだのは第4の選択肢でした。
「自分で作る」
使用したツールは:
- ChatGPT: 要件整理、技術選択、コード生成の相談相手
- ReplitAgent: 実際の開発とデプロイ環境
- Python: 実装言語(ChatGPTが提案)
1週間という驚異的なスピード開発
Aさんの開発プロセスは、従来の常識を覆すものでした:
Day 1-2: 要件定義と技術選択
ChatGPTとの対話を通じて:
- 「Twitchのアナリティクスデータを取得したい」
- 「KPI分析ができるダッシュボードが欲しい」
- 「データをグラフで可視化したい」
という要件を整理し、PythonとTwitch APIを使用する方向性を決定。
Day 3-4: 実装開始
ReplitAgent上で、ChatGPTが生成したコードを基に実装を開始。
- Twitch API連携
- データ取得機能
- 基本的な分析ロジック
Day 5-7: 機能拡張と調整
- データの可視化機能追加
- KPI計算ロジックの改善
- ユーザーインターフェースの調整
結果として、1週間で実用的なTwitchデータ解析ツールが完成しました。
完成したツールの機能
Aさんが作成したツールには、以下の機能が実装されていました:
- リアルタイムデータ取得: Twitch APIを通じたアナリティクス情報の自動取得
- KPI分析: 視聴者数推移、エンゲージメント率、配信時間別分析
- データ可視化: グラフやチャートでの直感的な表示
- レポート生成: 分析結果の自動レポート作成
これらは、専門のエンジニアが開発しても数週間は要するレベルの機能です。
開発の敷居が消失した瞬間
この出来事を通じて、私は「開発の敷居」というものが根本的に変化していることを実感しました。
従来の開発プロセス
- プログラミング言語の学習(数ヶ月〜数年)
- 開発環境の構築(数日〜数週間)
- API仕様の理解(数日〜数週間)
- 実装とデバッグ(数週間〜数ヶ月)
- デプロイと運用(数日〜数週間)
AI時代の開発プロセス
- やりたいことの明確化(数時間)
- AIとの対話による技術選択(数時間)
- AI支援による実装(数日)
- 調整と改善(数日)
技術的な壁が、ほぼ消失している状況です。
プログラマー/SEという仕事の存在意義
エンジニアとして10年働いてきた私にとって、この現実は複雑な感情を呼び起こします。
変化する価値
従来のエンジニアの価値は主に:
- 技術的知識: プログラミング言語、フレームワークの習得
- 実装能力: 複雑なロジックを効率的にコード化する能力
- 問題解決能力: バグの特定と修正、パフォーマンス最適化
しかし、AIが台頭する現在:
- 基本的な実装は誰でも可能に
- 技術的な壁は大幅に低下
- 単純な開発タスクの価値は減少
新たに求められる価値
一方で、新たに重要になっているのは:
- アーキテクチャ設計: システム全体の設計と最適化
- 品質保証: セキュリティ、パフォーマンス、保守性の確保
- 技術戦略: ビジネス要件と技術的制約のバランス
- チーム育成: 非エンジニアの開発支援とメンタリング
AI時代のエンジニアリング
Aさんの成功事例は、エンジニアリングの未来を示唆しています:
開発の民主化
- アイデアを持つ人が直接実装できる時代
- 技術的な専門知識の重要性が相対的に低下
- ビジネス理解と課題発見能力の価値が向上
エンジニアの新たな役割
- 技術的アドバイザー: 最適な技術選択の支援
- 品質の番人: セキュリティや保守性の確保
- システムアーキテクト: 複雑なシステムの設計
- イノベーター: 新技術の研究と活用
課題と限界
しかし、この変化には課題もあります:
技術的な課題
- セキュリティ意識の不足
- コード品質の問題
- スケーラビリティへの配慮不足
- 保守性の欠如
ビジネス的な課題
- 開発コストの錯覚(「簡単だから安く済む」という誤解)
- 品質基準の曖昧さ
- 責任の所在の不明確さ
今後の展望
この変化は始まったばかりです。今後予想される展開:
短期的(1-2年)
- ノーコード/ローコードツールの更なる進化
- AI支援開発の一般化
- 非エンジニアによる小規模開発の増加
中期的(3-5年)
- 開発プロセスの完全自動化(一部領域)
- エンジニアの役割の明確な分化
- 新たな技術教育体系の確立
長期的(5-10年)
- プログラミングスキルの必要性の再定義
- 人間とAIの協働による開発手法の確立
- 技術者の価値創造領域の拡大
まとめ:変化を恐れず、価値を見つめ直す
友人Aさんの体験は、私たちエンジニアにとって警鐘であり、同時に大きな機会でもあります。
技術の民主化により、確かに従来型のエンジニアリングの価値は変化しています。しかし、これは技術者が不要になることを意味するわけではありません。
むしろ、私たちエンジニアは:
- より高次の問題解決に集中できる
- ビジネスサイドとの距離を縮められる
- 技術の可能性を最大限に活用できる
そんな時代が到来しているのです。
大切なのは、変化を恐れることではなく、新たな価値を見つけ、提供し続けること。
Aさんのように、「作りたいものがある人」が直接作れる時代だからこそ、私たちエンジニアは「より良く作る方法」「より安全に作る方法」「より継続可能に作る方法」を提案できる存在として、新たな価値を創造していけるはずです。
技術の進歩は止まりません。私たちも、立ち止まることなく、進化し続けましょう。
この記事は、実際の体験を基に執筆していますが、プライバシー保護の観点から一部の詳細は変更・匿名化しています。