ヨビノリで群論入門という講座を見て群論に興味を持った。講座は分かりやすくて良いものだったが、初歩的なところで終わっているのでもう少し踏み込んだところまで勉強してみることにした。そこでヨビノリおすすめの一冊目の教科書という群論入門(雪江明彦著)を購入して読み始めることになった。2020年11月のこと。
元々知っていることが多いという意味で単純に比較は出来ないが、有限要素法や、電気工学、機械工学を扱う工学書は2~4週間もあれば読み終えられていた。しかし数学書は理解に時間がかかる。難易度が段違い。自分のレベルでは読むだけではダメで、手を動かして定理や証明を内容を補足しながら書き写し、演習問題を解かないと理解出来ない。書いたノートは5冊以上に及んだ。
内容は洗練されており高密度。入門書なので導入はそれなりに詳細に解説しているが、その後は割と突き放した感じ。演習問題の多くを占める証明問題は答えが載っていないので、どうしてもわからない場合は他の書籍やWebを調査することになり、相当な時間を費やしてしまう。僅か140ページだが数学科出身でない社会人が読むには覚悟が必要。多少の誤字や誤記はあるが、比較的間違いは少ない。教科書としては素晴らしい良書。
概要
本書が前提とする知識はかなり少ない。中学数学程度が分かれば十分。線形代数の知識があると読み進めやすい個所もあるが、別になくても構わないと思う。行列演算の基礎をWebを使って調べる程度で十分。ただし本書には応用の具体例がほとんどないのでイメージしづらい。ゲーム、パズルやあみだくじや時計の針など、自分で想像力を働かせて応用をイメージする必要がある。
本書は4章に分かれている。第1章は集合論、第2章は群の初歩、第3章は休憩タイムで、第4章は群の少し発展的な内容。第1章と第3章はオマケのようなものでメインは第2章と第4章である。
第1章では集合や写像と言った考え方と、論理を学ぶ。一見余りにも当たり前すぎて何でこんなことを学ぶのだろうと思ってしまうが、この当たり前なことから当たり前でないことを導くのが数学のやり方。当たり前をちゃんと理解することが非常に重要。自分は途中で何度も当たり前が分からなくなってきて、何度も読み返した。実はこの章こそ多くの人が群論を学ぶことで得られる最も大事な知見ではないかと思う。群論そのものが役立つのではなく、群論を学ぶ過程で集合、写像、論理への理解を深められることが、他のあらゆる科学や技術を学ぶ上で大いに役立つ。この考え方は全ての科学の前提になっているからである。数学の仕事を目指すひとだけでなく、物理や工学やプログラミングの仕事を目指すひとも、群論を学ぶ価値があると自分が思うのはこの点にある。
第2章では群の定義からいくつかの群の例とその周辺の概念、そして準同型定理という重要な定理を学ぶ。こんなに少ない前提から色々なことが導けることに驚きを得ることが出来ればこの章はマスターしたと言えるのではないだろうか。ちなみにヨビノリの講座はこの第2章の一部を分かりやすく解説したしたものであり、初学者は本書を読む前に講座を見ることをオススメする。
第3章では群論というものが生まれるきっかけになった方程式の解の公式の話が触れられている。5次以上の方程式の解の公式は存在しないという有名な理論である。しかしこれを説明するためのガロア理論を知るにはもっと深くまで代数学を学ぶ必要がある。ここではあくまで触りを紹介しているだけである。
第4章では群の作用、シローの定理、生成元と関係式で定義された群、有限アーベル群の基本定理、交代群の性質という内容を学ぶ。前半よりも当たり前でない不思議な結論が得られて面白い内容ではあるが、内容を理解することはなかなか難しい。一部の難問や、筆者が読み飛ばしても良いとされている項目は自分には理解できず諦めた。
プログラミングによる解法
有限群の問題は、手で論理的に解くことが出来なくても、コンピュータで全パターン調べれば分かることがある。またそういう愚直なやり方も理解の助けになる。それ自体がプログラミングの練習にもなる。解答例のない問題に対して分からないままで放置するよりも、力技であっても解いておけばスッキリするものである。ということで一部の問題をプログラミングで解いた。
https://github.com/MhageGH/GroupTheory