開催概要
- 日時:2019/09/05 19:00 ~ 21:00
- 会場:EBISU SHOW ROOM
- 登壇者:及川卓也さん、海部美知さん、文分邦彦さん
- タイトル:人のDxを笑うな エンジニアのためのDx論
はじめに
「人のDxを笑うな エンジニアのためのDx論」と題したトークセッションに行ってきました。その報告レポートです。
コンテンツとしては、大きく以下の3つでした。
- 海部美知さんのDXに関するプレゼンテーション
- 株式会社GNUSに関する説明
- 及川卓也さん、海部美知さんのDXに関する対談
自分が話を聞いて気になったこと、感じたことを中心に書いていこうと思います。誰かの役に立つようなものであれば幸いです。
海部美知さんのDXに関するプレゼンテーション
概略
アメリカ在住のコンサルタントの方です。プレゼンテーションの内容としては、Dxってどういうものか、どうあるべきか、ということを分かりやすく説明されていた印象でした。
海部さんのシリコンバレーのコンサルタント仲間などからの現地情報なども交えて、アメリカの事例を題材としてDxについてお話されていました。
Dxは3段階ある。
印象的だった図は、企業のDxの状態を3段階に分けたものです。大まかに
- アナログな作業をデジタルに単純に置き換える段階。
- デジタルを活用することで、その企業のビジネスを効率化・変化させる段階。
- その企業のビジネスそのものがデジタルによって成り立つ段階。
といった形で定義されていました。
2.の例として、WalmartやGoldmanSachs、3.の例としてGAFAをあげていました。Dxというか、デジタル活用のレベル感を表現するものとして面白い整理のされ方をしているなと思いました。
Walmartについてはあまりデジタル化のイメージはありませんでしたが、GoldmanSachsはかつていたトレーダーが今やほとんどいなくなり、システムトレードが中心だということは知識としてありました。
2017/09頃のデータによれば、GoldmanSachsの半数近くがエンジニアとなっているそうです。実際、グラフで見せられると割と衝撃的でした。
Computer engineers now make up a quarter of Goldman Sachs’ workforce
この記事だと APR 30 2018
で quarter
= 25%なので半数近くというのは、ちょっと盛ってる気がしますが、それでも割合の大きさは確かです。
他にもMarcusブランドでリテール進出したり、最近ではApple Cardのバックとして動いている部分も事例として挙げられていました。
Walmartについては、その子会社であるWalmartLabsについて紹介がありました。Walmartが2010年代前半にベンチャーを買収したのが始まりのようです。
AMAZONに対抗してeコマースをやっていたけど、検索エンジンがダメダメだったところをWalmartLabsが改善を繰り返していって、今ではWalmartのデジタル戦略を担う会社になっているようです。Mediumのtechblogを見ると、割と投稿頻度も高く活動的な様子が伺えます。
ここら辺の話からもやはり自社、もしくは自グループでエンジニアを抱えて内製化がDxのポイントになる印象を受けます。
Dxで重要なのは何なのか。
「Dxの70%は目的を達成できない by マッキンゼー」の話が後半出てきましたが、結局のところDxの目的を達成しようとすると、何かを犠牲にすることになる。
究極的には、今まであった仕事がなくなるし、人がいらなくなる。それは社内だけに止まらず、販売店だったり、周辺の関わりのある取引先にもなる。
経営者は、そこまで腹くくって覚悟してDxを進めないと成功しない。逆を言えば、そこができないのであれば成功しようがない。
そういったことをお話されていました。話を聞きながら、自動車業界が今まさにそうだなということを思いました。
電気自動車が主流になれば、部品点数もグッと少なくなるし、メンテも頻度も下がる。そうなると、完成車メーカーに部品を納入していた会社は減らざるをないし、メンテで儲けていたディーラーもどんどん不要になる。
日本の自動車メーカーに限らず、持ちつ持たれつで一大経済圏を築いていた業界がそんなドライに変革できるように思えませんし、実際動きは鈍いように思います。
だからこそ、テスラのようなしがらみがない企業が業界を変革できるのかもしれません。逆を言えば、しがらみがある大企業にDx=変革が出来るのか、というところだと思います。
株式会社GNUSに関する説明
概略
元電通マンの文分さんがアメリカのGigsterの説明から、自社のGNUSの説明もされていました。
Gigster
Gigsterは、現在約600人の審査に合格したフリーランススタッフを要するアメリカ西海岸初のソフトウェア開発スタートアップです。
- Product Manager
- Developer
- Designer
- Program Manager
などの多様な職種のソフトウェア開発メンバーをプロジェクトに最適化した形で編成し、顧客企業のソフトウェア開発を支援するビジネスとのことです。
何となく日本のSIerと似たような印象を受けたのですが、おそらく違いが大きいのは、
- GAFAなど錚々たるバックグランドのメンバーがいる。
- リモートでの仕事が普通で客先常駐といったことはしない。
というところでしょうか。
印象的だったのは、メンバーによってはあるときはロンドンから、あるときはまた別の国からリモートで仕事をしているという話でした。スターエンジニアが少数精鋭でチームを組んでミッションをこなす、といった雰囲気を感じました。
GNUSは、同様のビジネスモデルを日本で展開する想定のようです。Gigsterの話自体は聞いていて面白いなと思ったのですが、果たして日本の企業文化に馴染むのか。
結局、フリーランスを集めたSIer集団になるのではという気がしましたが、今後に注目かと思いました。
及川卓也さん、海部美知さんのDXに関する対談
概略
どちらかというと、Dxをネタに周辺の話をフリートークしていくといった対談に感じました。後半は、対談から離れて会場からのQAコーナーになり、kubernetesなどのコンテナ技術、アジャイルのプラクティスをやる上でのアナログ・デジタルツールの話など多岐に及びました。
マイクロサービス
海部さんが最初のプレゼンでDxに絡めて、マイクロサービスについて話していたので違和感を感じていたのですが、及川さんがマイクロサービスのメリット、デメリットについてお話されていました。
マイクロサービスは、いい面もあるけど、その分、設計の複雑性も増す。組織が100人超えるような大規模なサービスならデメリットを補って余りあるメリットを享受出来るだろう。そういったお話をされていました。
数年前からマイクロサービスについては、バズワードとして流行り始めて、実際に実践した結果なども世の中には転がっています。そういったものを見聞きすると、マイクロサービスは大規模開発における1つの手法でしかなくて、銀の弾丸でも何でもないと感じています。
コンテナ技術
及川さんが、会場からのQAに答える形でkubernetesなどのコンテナ技術の優位性に言及されていたのが印象的でした。
そんなに詳しく話をされていた訳ではないので、真意を計りかねるところがあるのですが、マイクロサービスのように1つの選択肢として検討されるものではなく、ある程度既存技術に対する優位性があるものという認識をされているようでした。
内製化
一貫して及川さんは、いろんなところでDxのカギは内製化にあるとお話されています。この対談でも同様のお話を展開されていました。関連してDXが上手くいく会社を見分けるには、エンジニアを採用しているかがポイントになる。
ただし、求人内容も見てベンダーマネジメントが中心だとダメだろうという話でした。
ここまでは以前、他の場所でも聞いた話だったのですが、100%の内製化が必要かという部分は初めてでした。たとえば、Googleは、オープンソース使っていて、これはアウトソースしていることにもなる、という話です。
他にもオープンソースの例として、webkitの例をあげていましたが、内製化といっても100%プライベートな内製化を意図しているわけではなく、戦略的なオープンソース活用もアウトソースになる。
オープンソースへのコントリビュート活動をすることで、ある程度自社にとってコントロール可能なものとして扱いつつも、外部の力も生かすエンジニアリングの視点はなるほどなと思いました。
まとめ
全体的にQAも活発でAWS Summitだったり、Decodeだったり大手のイベントよりも参加されている方の熱気が感じられるイベントでした。結構鋭い意見だったりも飛んでいて、そういったQAを聞いているだけでも刺激がありました。