この記事はIngress Advent Calendar 2017の12/17の記事ですが、2018年12月になった今も更新しています。
2018年12月にAegis ShieldのStickiness値が修正されたため、記事を修正しました。
事前に記事を執筆していたため、AXA Shieldと残っている部分があった場合はすみません。パラメータまで変更になっていたら、計算を全部やり直さないといけないところでした。大体NIAのせいです。
数字を推定するにあたり数式が入っていますが、どれも高校数学のレベルを上回るものではないはずです。
概要
Niantic社が展開している位置情報ゲームIngressにおいて、拠点となるポータルの防御力を向上させるポータルシールドと呼ばれるアイテムがある。その中でも最も強度が高いとされているAXA Shield Aegis Shieldがどの程度強いものであるかを確認したい。Aegis Shieldはとても気まぐれで、攻撃を与えるとすぐ壊れたり、何発攻撃を打ち込んでも壊れなかったりするため、確率統計の手法を用いて実際のところどうなのかを説明できないか試みる。
ポータルに配置されたModの破壊確率を定義する
Modの破壊確率Pについては公式の計算式がないと思っていたが「Ingressを一生遊ぶ!」本[1]に全部書いてあった。闘会議2016での河合氏へのインタビュー[2]でも同様のことが言われていたため、ここでModが破壊される確率Pについて整理する。
- 武器にはそれぞれクリティカル率が設定されている。
- 武器がModに当たった際にクリティカルが出るとModが破壊される。
- Rare以上のシールドにはStickiness値が設定されており、クリティカル判定後に破壊が無効化される確率(パーセント)を示している。
- Modのクリティカルは画面に表示されないが、レゾのクリティカル表示を見る限り、Mod1つ1つに対して個別に判定されると考えられる。
上記を考慮してModの破壊確率 Pは、武器のクリティカル率 cとStickiness値 sを用いて以下のように表現できる。
P(c,s) = c(1-\frac{s}{100})
また、闘会議でのインタビューでは、長押しの20%ボーナスはそのままクリティカル率に加算されるとあるため、ボーナス値 bを用いて上式を以下のように修正する。
P(c,s,b) = (c+\frac{b}{100})(1-\frac{s}{100})
これで、Modの破壊確率 Pが明確になった。
クリティカル率 cについては、X8は0.20, US8は0.71、Stickiness値 sは、Rare Shieldは15、Very Rare Shieldは45である。Aegis Shieldは80から55になってしまった。P(c,s,b)を使ってシールドが壊れる確率をまとめたものが下表である。
Common Shield(s=0) | X8 | US8 |
---|---|---|
b=0 | 20% | 71% |
b=20 | 40% | 91% |
Rare Shield(s=15) | X8 | US8 |
---|---|---|
b=0 | 17% | 60.35% |
b=20 | 34% | 77.35% |
Very Rare Shield(s=45) | X8 | US8 |
---|---|---|
b=0 | 11% | 39.05% |
b=20 | 22% | 50.05% |
Aegis Shield(s=80) | X8 | US8 |
---|---|---|
b=0 | 4% | 14.2% |
b=20 | 8% | 18.2% |
Aegis Shield(s=55) | X8 | US8 |
---|---|---|
b=0 | 9% | 31.95% |
b=20 | 18% | 40.95% |
Aegis ShieldがX8で割れる確率は9%、ボーナス込みで最大18%。US8で割れる確率は31.95%、ボーナス込みで最大40.95%であることが分かった。大分弱くなってしまったように見えるが、これでは実際の感覚と合う数値か分からないため、次章以降ではこの確率Pを用いてもう少し詳しく数字を出していこうと思う。
Aegis Shieldを割るのに必要な武器の量を推定する
次にポータルに設置されている1つのAegis Shieldを武器 n発以内で破壊できる確率 Qを求めて必要な武器の量を推定し、実際の感覚と合うか確認する。武器を n発打ち込んでもAegis Shieldが破壊できない確率からQを考える。Aegis Shieldが破壊できない確率は $$1 - P(c,s,b)$$ であるから、n発試行した際の確率はこれにn乗することで算出できる。Qはここで求めた確率を1から引けば求められるため、以下のとおりとなる。
Q(n) = 1-(1-P(c,s,b))^n
ここで、Q(n) >= p となる攻撃回数 nを算出する。p=0.98の場合を例に考えると、ポータルに設置されている1つのAegis Shieldを98%破壊できる武器の数 nとなる。つまり、Aegis Shieldが1個入ったポータルに対してn発武器を使うと50回中49回はAegis Shieldが破壊されることを示す。必要な武器数と確率の関係を見るため、pの数値を変化させて攻撃回数 nを出してみたのが下の表である。
p | 0.98 | 0.95 | 0.9 | 0.8 | 0.7 | 0.6 | 0.5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
X8 b=0 | 42 | 32 | 25 | 18 | 13 | 10 | 8 |
X8 b=15 | 23 | 18 | 14 | 10 | 8 | 6 | 5 |
X8 b=20 | 20 | 16 | 12 | 9 | 7 | 5 | 4 |
US8 b=0 | 11 | 8 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 |
US8 b=15 | 8 | 7 | 5 | 4 | 3 | 2 | 2 |
US8 b=20 | 8 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 2 |
X8 b=0の場合、8発撃った時点で半分のAegis Shieldは破壊されるが、この状態から9割破壊の状態に持っていくためには追加で17発必要な計算となる。Aegis Shieldにはダメージが蓄積されないため、どんなシチュエーションであってもX8 b=0の場合は91%の確率で破壊できず、このようなことが起こる。理論上は破壊できないように見えるAegis Shieldが実現不可能と思われるほど低い確率で存在する。
そのほかこの表から分かることは、特にX8を打つ場合はボーナスをアテにした方が良い。ボーナス20%を連発できれば、武器の消費量はボーナスなしの場合のおよそ半分になる計算である。US8の場合は、誤差程度なので、どちらでも良いだろう。また、ボーナスなしの場合、US8はX8のおよそ1/4の量でAegis Shieldを破壊できる。
Common Shieldは脆い
前章でAegis Shieldの場合のQ(n) >= pからnを算出したが、ここでCommon Shield(s=0)の場合の表を以下に示す。
p | 0.98 | 0.95 | 0.9 | 0.8 | 0.7 | 0.6 | 0.5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
X8 b=0 | 17 | 13 | 10 | 7 | 6 | 5 | 4 |
X8 b=15 | 10 | 7 | 6 | 4 | 3 | 3 | 2 |
X8 b=20 | 8 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 2 |
US8 b=0 | 4 | 3 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 |
US8 b=15 | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 |
US8 b=20 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
傾向はAegis Shieldの場合と同様であるが、数を比較するとやはりAegis Shieldの頑丈さが際立つ。US8の数字を見ているとちょっと少なすぎる気もするが、距離0でない限りは確率が減衰すると考えると納得がいくかもしれない。取り急ぎは参考値として見ておいたほうが良いだろう。
ここまででおおよその数字が見えてきたものの、結局武器を何発持っていけば良いのかが見えにくいため、次章では武器数の期待値について考える。
期待値の計算
Aegis Shieldを破壊するために必要な武器の数の期待値 Eは、以下の式で表現できる。なお、Q(0)=0である。
E=\sum_{n=1}^{\infty}n(Q(n)-Q(n-1))
ここで、Q(n)-Q(n-1)に着目するとその極限は0に収束する。
\lim_{n\to\infty}Q(n)-Q(n-1)=\lim_{n\to\infty}1-(1-P(c,s,b))^n-(1-(1-P(c,s,b))^{n-1})=1-0-(1-0)=0
つまり、期待値 Eはどこかで収束すると考えられる。
実際の数値計算は面倒なので計算機に任せた。結果は以下のとおりである。
E | |
---|---|
X8 b=0 | 11.1 |
X8 b=15 | 6.3 |
X8 b=20 | 5.6 |
US8 b=0 | 3.1 |
US8 b=15 | 2.6 |
US8 b=20 | 2.4 |
X8ため撃ちなしの場合の期待値が11.1、US8は3.1と出た。ため撃ちはボーナス20%狙いですっぽ抜けて0%になる場合があるので、実際のところはb=15のラインを攻めるのも意外と難しいのかもしれない。
なお、この数値を前章までの表と照らし合わせた場合、Aegis Shieldが実際に破壊できる確率は90%前後である。なんてこった、ほとんどのAegis Shieldが飛んでしまうというのか。
Aegis Shieldが2枚ある場合
ここまでですでに食傷気味かもしれないが、これまではAegis Shieldが複数枚入っているポータルのことを全く無視して考えていた。ここからは、Aegis Shieldが2枚入っている場合はどうなるかを検証する。Aegis Shieldが2枚あるポータルについて、それぞれのAegis Shieldが壊れる事象は独立して発生することから、攻撃を1回行った際は以下のように場合分けを行ってそれぞれの確率について考える必要がある。
- Aegis Shieldが2枚入っていて、Aegis Shieldが割れない。
- Aegis Shieldが2枚入っていて、Aegis Shieldがどちらか1枚割れる
- Aegis Shieldが2枚入っていて、Aegis Shieldが2枚割れる
- Aegis Shieldが1枚入っていて、Aegis Shieldが割れない
- Aegis Shieldが1枚入っていて、Aegis Shieldが割れる
これを考慮してAegis Shieldが全て割れる確率Q(n)>=pとnの関係の表を作成すると以下のとおりとなる。
p | 0.98 | 0.95 | 0.9 | 0.8 | 0.7 | 0.6 | 0.5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
X8 b=0 | 49 | 39 | 32 | 24 | 20 | 16 | 14 |
X8 b=15 | 27 | 22 | 18 | 14 | 11 | 9 | 8 |
X8 b=20 | 24 | 19 | 15 | 12 | 10 | 8 | 7 |
US8 b=0 | 12 | 10 | 8 | 6 | 5 | 4 | 4 |
US8 b=15 | 10 | 8 | 7 | 5 | 5 | 4 | 3 |
US8 b=20 | 9 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 3 |
Aegis Shieldが1枚の場合よりは武器の消費量は増えるが、何とも言えない結果になった。期待値Eを比較してみた方が良いだろう。
Aegis Shieldが4枚ある場合
前章のとおり場合分けを行って考えるが、10パターン以上になるため詳細は割愛する。シミュレータは作ったので、数字だけ公開するにとどめる。
p | 0.98 | 0.95 | 0.9 | 0.8 | 0.7 | 0.6 | 0.5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
X8 b=0 | 56 | 46 | 38 | 30 | 26 | 22 | 19 |
X8 b=15 | 30 | 25 | 21 | 17 | 14 | 12 | 11 |
X8 b=20 | 26 | 22 | 18 | 14 | 12 | 10 | 9 |
US8 b=0 | 14 | 11 | 9 | 7 | 6 | 5 | 5 |
US8 b=15 | 11 | 9 | 7 | 6 | 5 | 4 | 4 |
US8 b=20 | 10 | 8 | 7 | 5 | 5 | 4 | 3 |
Aegis Shieldが2枚の場合と比較するとほとんど増えたように見えないため、4枚入れることは気休めでしかないかもしれない。いかがだろうか。
結論
この記事ではAegis Shieldが破壊される確率を定義し、そこから実際の強度を推定した。Common Shieldと比較することで、Aegis Shieldを破壊するためには倍程度の武器が必要であることが分かった。
Aegis Shieldの破壊にあたっては、少ない武器で破壊できる場合もあれば攻撃を延々と繰り返しても破壊できない場合もあることが分かった。また、ため撃ちはシールドを破壊するという観点においては重要である。最後に、2枚であっても4枚であっても大して効果は上がらなさそうであるという結果が得らえれた。
このたびの検証が今後の活動の参考になれば幸いです。
参考文献
[1] 岡安 学(著), Inc. Niantic(監修), 宝島社, INGRESSを一生遊ぶ!, 2016/3/9
[2] miu2d4r ミウツー, 闘会議2016 NIA製品本部長河合敬一氏インタビュー 速報版 INGRESS都市伝説に挑む, 2016/01/31, https://plus.google.com/u/0/113720436339222158827/posts/15JMZPuJYUY