概要
- 応用情報技術者試験の午後問題の空欄補充問題における読解法
- ITEC 応用情報技術者 午後問題の重点対策を、大学受験で学んだ読解法をもとにより詳細に解説したイメージです。現代文の受験テクニックの紹介に近いです。
- 解説においては、意識の動かし方に特に注目しています。
- 筆者は文系未経験から3年目で、2024年度の春試験に合格(午後試験点数:79点)。読解法は普段の業務でドキュメントを読んだり調べ物をする際にも役立つ気がしたので、自分用の備忘録もかねて記載することにしました。
想定読者
読解力や地頭に自信がないけど応用情報技術者試験は合格したい人
(自分の目線で書くとそういう想定読者になりました。)
例題
応用情報技術者試験 平成29年 秋 問1 情報セキュリティ
その中の設問1を題材として自分がオススメの解き方を説明します。
読解力に自信がない人のための午後問題の解き方
前提
- 午後問題の構成要素は2つ。問題文と設問です。そして、それらの構造は以下の通りです。
これらは読解法を理解する前提となります。- 問題文
- 導入部
- セクション
- 見出し
- 本文
- 図
- 表
- 設問
- 大問の設問文
- 小問の設問文
- 選択肢
- 小問の設問文
- 大問の設問文
- 問題文
読解法
- 思考の基礎について
- 問題文をスキミング
- 大問の設問文を読む
- 小問の設問文を読む
- 問題文をスキャニング
- 回答の制約条件を考慮する
- 回答を作成する
1.思考の基礎について
- 問いを立てる。問いを立てると、そちらに意識をいくぶん強制的に向けることができます。問いを立てることで、様々な部分に注意が向き、思考が進むと経験則上思います。
2.問題文をスキミング
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スキミングとは、読解法の1つです。大まかに要点を把握する読み方です。午後問題においては、導入部、見出しと図を読むのが良いでしょう。
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なぜスキミングがよいかというと、トピックをつかむことでなんとなく問いを予想でき、それが問いの理解しやすさにつながります。(※この現象を"先行オーガナイザー"と呼びます)例題では、セキュリティがテーマであるということを意識しつつ、黄色で囲まれた部分を読んでいきます。
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スキミング時、問題文の構造、つまりセクション同士の関連性を把握していくことを意識します。どうやって把握するかというと、システム開発の展開についての自分の既有知識に問題文をリンクさせることです。感覚ですが、応用情報の問題は、目的/課題ー施策という構造が多いと思われます。構造を把握することで、要点を把握するスピードが上がります。経験豊富な人ならば、「個人情報保護の強化ね、あったなあ」と展開を予測できるかもしれません。経験が浅い人は参照できる知識が少ないので、読解法を駆使しましょう。
例題では、赤い部分のような内言をしながら、セクション同士を有機的にリンクさせていきましょう。
3.大問の設問文を読む
「個人情報保護の強化」についての施策が聞かれているのだな、と腹落ちさせましょう。
文章を読むのが苦手な人のためのコツ
2つ紹介します。
- まず、文章は単語に区切ることを意識する。
例題でやってみますと、個人情報/保護/の/強化→個人情報→腹落ち→保護→「個人情報を保護するんだな」→強化→「個人情報の保護を強化するのか」。
このようにボトムアップで理解することで、もれなく確実に文意を掴めます。さらに、すごく苦手な人(自分です)は、文章にスラッシュを入れることを反復練習し、頭の動かし方を染み込まるのがおすすめです。 - 次に、分かっていることの中で分かっていないことは何か?を意識する。
具体的には、大問の設問を読んだ段階では具体的な内容がさっぱり分からないことも自分に言い聞かせておきます。そうすることで、「具体的には何だろうか?」などという情報不足の点について問いを立てることにつながります。
問いを立てることは重要です。というのも、応用情報技術者試験では、大問の見出しのその具体的な中身こそが、小問で問われている部分になりがちだからです。したがって、小問で何が問われるかを大まかに予測できます。その結果、小問の意図を理解するまでの時間が短縮され、回答を作るスピードも上がることが期待されます。
4.小問の設問文を読む
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読む際には、自分の中の既有情報とどんどん紐づけていきます。
具体的には、2.を踏まえ、個人情報保護の強化に関連することが聞かれているという予測を持ちます。
そのうえで空欄aに入れる字句を考えることを把握します。
- さらに、セクションの定型的な構造も意識して読みます。先述したとおり、セクション内で冒頭には目的や課題、リスクが記載され、そのあとに施策が記述されるという構造が頻出パターンの1つです。小問において、施策について問われていると思ったら、セクションの冒頭にある目的や課題を読み込むのが良いでしょう。そうすることで、施策について問われている時に探すべき場所を絞り込みやすくなります。ここでは、「人的ミスによる漏洩のリスク」があり、そのために個人情報保護を強化しようと記載されています。
5.問題文をスキャニング
- スキャニングとは。ほしい情報を見つけるために、ターゲットとする単語を設定し、そのターゲットを文章や情報源から探します。そして、発見したターゲット語の周囲にほしい情報があるかを確認します。もしもほしい情報がなければ、再度ターゲット語を設定するところから始めます。このプロセスを、スキャニングと呼びます(Aebersold & Field, 2006)
ターゲット語の設定
ここでは、空欄aが文章のどこにあるかを特定します。なぜなら、空欄aの解を導くために必要な情報の一部は、その前後の文脈にあるからです。ですのでまずは、空欄aをターゲット語として、問題文の中を探します。
ターゲット語の前後の精読
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空欄aを見つけたら、2段階の精読を行います。
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第一段階は、空欄の前後からaの解を特定する手がかりを探すことです。さらに、空欄の前後内で不明確な点を特定します。不明確な点の例は、指示語や旧情報です。旧情報とは、既に登場済みの情報です。ここでは、旧情報として「同じ方法で」という語が相当します。
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第二段階は、空欄の前後の意味をより明確にしていきます。そのために指示語の元の情報や旧情報が新出した部分を探しに行きます。 ここでは、「同じ方法で」という語の意味を明確にすることが目標です。
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2回目のスキャニングです。ここでのスキャニングの際のターゲット語は、「会員番号の仮IDへの変換」です。そのもとで問題文を探索すると、(3)に記述がありました。これで、「同じ方法」の意味が明らかになりました。しかし、まだ答えは分かりません。
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3回目のスキャニングを行います。次のターゲット語は「〇〇情報」です。このもとで問題文を探索すると、「販売情報」「加工個人情報」が候補として見つかりました。この中のどれかが「同じ方法」で仮IDに変換されているのだな、と既知の情報とリンクさせます。しかし、まだ答えは分かりません。
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4回目のスキャニングです。今度は「販売情報」「加工個人情報」「仮ID変換」をターゲット語とします。そして、問題文を探索します。すると、個人情報保護の強化の上の段落にターゲット語が発見されました。
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それぞれの語が空欄に入った時に空欄前後と整合するかを、1単語ずつ着実に検討しましょう。ここで顧客情報が新規に登場します。まずは顧客情報を空欄に当てはめてみます。が、提供されないという点が「提供される」点で不整合なので間違いです。次に、加工個人情報の整合性を検証します。これは「メールで送付される」という点が「web販売管理システムにログインした際に」に不整合なので間違いです。空欄aは販売情報でも問題なさそうなので、回答は販売情報となります。
文章を読むのが苦手な人向けのコツ
スキャニングやスキミングする際に、キーワードに印をつけるのがおすすめです。
というのも、キーワードに意識が向いて意味を把握しやすくなる上、忘れても該当箇所を見て思い出すことが期待されます。本番の問題冊子は紙である限り、冊子に書き込むことを前提とした戦術を組み立てても問題ないと思われます。(2024年春現在)
6. 回答の制約条件を考慮する
最後に文字数が適合しているかを確認します。
今回は4字以内なので、販売情報で問題なさそうです。
7. 回答を作成する
販売、と空欄aに当てはまるように書きます。
おまけ:問題を解く際の落とし穴
自分がはまった落とし穴をご紹介します。
しくじりエンジニア!私みたいになるな!というテーマに関連する部分として無理やりねじ込んだわけではありません。
自分勝手な連想
- 連想により論理的な思考の道筋から外れてしまう。例題だと、過去に顧客情報の中のIDを仮IDに変換した経験があるから、きっと顧客IDだ!などと連想することです。問題文で示されたストーリーの情報について、根拠は自分の経験ではなく問題文の中に持っておかねばなりません。
- このように連想で即断したら、(たしかに偶発的に正解することはあれど)誤答となることが多いでしょう。このような短絡を減らし、推論の精度を高める方が正答率が高まるはずです。応用情報の試験は論理に従って着実に思考を進めれば回答は9割方1つに定まるようになっていると感じます。
問いを立てるのが苦手
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問いを立てる際は内言という形をとるでしょう。内言とは、心の中の独り言です。あるいは自分自身との会話です。これは当たり前の人には当たり前でしょうが、人口の5~10%はこの内言がないという研究結果があるそうです。(私もない人間です)内言がないと、問いを立てるのがやや難しいかもしれません。ですので内言に自信がない人はどんなものかを知り、意識的にトライしてもよいかもしれません。
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内言について参考資料はこちら。
内言の有無に関する研究
インプットだけでなくアウトプットとPDCAを
注意点は、方法論を学ぶだけではほしい結果をつかみ取れないということです。
たとえると、野球でバットの振り方を言語を通じて学んでも、上手く球を打てるようになるわけではないのと似ています。方法論を無意識レベルで行えるまで地道な練習が必要だと思います。すなわち、方法論を暗記し、やってみて、答え合わせをして実行できなかった部分を特定し、同じ問題を解きなおして穴を埋める。そのPDCAサイクルを回すのが1つのやり方だと思います。いわゆるアウトプットの重要性です。
まずは無意識下で二つの事をやれるように
それが終わればまた一つ増やしていく
どれ程強く激しい力であろうと礎となるのは地道な積み重ねだ
ー『僕のヒーローアカデミア』 エンデヴァー
読解力に自信がない人が応用情報技術者試験の午後を攻略する一助となれば幸いです。
参考資料
- 先行オーガナイザーとは何かについて
- セクションの構造を意識しようという話のソース
『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく東大読書』
- スキャニングについてのAebersold & Field, 2006の原著
- 分からない点を意識しながら読む、などの体系的な読解法を知りたい方は
こちらの本がオススメ